世界保健機関(WHO)が豚インフルエンザから変異した新型インフルエンザの警戒レベルをさらに1段階上げた。レベルは世界的大流行(パンデミック)の一歩手前。日本人でも初の感染疑い例が出てよそ事ではなくなった。ただ、発生は相次ぐとみて、うろたえぬ対応が重要だ。
警戒レベルを1週間足らずで2段階も上げざるを得ないほど、新型ウイルスの感染力は強い。発生地と目されるメキシコ以外では重症例が少なく、弱毒性とみられているが、自然治癒にまかせていればいい病気ではない。感染を重ねるうちに強毒性に変異する可能性もあり、新型ウイルスを侮ることはできない。
政府は検疫強化など水際対策に力を入れている。初の感染疑い例はこの努力が実って捕捉できた。だが、大事なのは検疫でつかめずに発生した場合の初動だ。患者隔離や周辺への二次感染防止の対応が遅れると、感染拡大の防止は難しくなる。感染の世界的広がりを考えれば検疫での発見はますます困難になり、発生時対応の重要性が増してこよう。
WHOは封じ込めは困難として警戒レベルを上げても渡航制限や国境閉鎖を求めていない。世界的不況のなかでモノや人の移動制限は経済回復を妨げかねない。弱毒性という点も加味し発生地域での封じ込めをあきらめ、各国に発生時の抑え込みを委ねたと言えるだろう。
これは世界的まん延の覚悟も迫っている。感染が検査や隔離治療の能力のある先進国にとどまれば収束の可能性があるが、対策が不十分な発展途上国に感染が飛び火すれば手に負えない状況になる。収束できても各国に散った病原ウイルスが後で息を吹き返す恐れもある。
その意味で新型ウイルスとの戦いは短期戦で終わらない。長期化し発生国が増えれば国内侵入の可能性は高まる。感染者は初期に治療薬を投与すれば重症化を防げるが、本人が医療機関に行かなかったり、連絡や隔離が遅れたりすれば感染の広がりは止められないだろう。
疑わしい症状の帰国者、入国者を収容する施設の確保や病院の診察体制強化は急がなければならない。と同時に、旅行者、帰国者に感染防止の責任を自覚させることも重要だ。不要不急の渡航は極力避けるのが望ましい。疑わしい症状が出たら周辺に感染を拡大しないよう、素早い対応を求めておくべきだろう。
発生国が増え、渡航制限も緩いままなら感染の機会は増える。国内発生の頻発は不可避とみて、機動性ある態勢づくりを急ぐ必要がある。