放送倫理・番組向上機構(BPO)の「放送倫理検証委員会」(委員長・川端和治(よしはる)弁護士)は28日、旧日本軍の従軍慰安婦問題を取り上げたNHKの特集番組に放送倫理上の問題があったと認定した。番組制作部門の幹部が番組内容を政治家に説明したことなどが「公共放送にとってもっとも重要な自主・自律を危うくし、NHKに期待と信頼を寄せる視聴者に重大な疑念を抱かせる行為」とする意見を公表した。(27面に解説と関連記事)
問題の番組は「ETV2001・シリーズ戦争をどう裁くか『問われる戦時性暴力』」(01年1月放送)。放送前日に安倍晋三元首相(当時は官房副長官)がNHK幹部と面会し「公平、公正に報道してほしい」と要請したことが05年1月に発覚。政治圧力の有無を巡って社会問題化した。
放送倫理検証委は松尾武・放送総局長ら当時の番組制作部門のトップが、放送前後に国会対策担当の野島直樹・総合企画室担当局長(当時)とともに与党政治家を訪ね、番組内容を説明したことについて、面談自体が「視聴者がNHKに寄せる自主・自律への期待と信頼に対する疑念を起こさせる」と判断した。
放送前日、野島担当局長が内容を修正、削除する方針を番組制作者らに指示したことも批判。国会対策と制作部門の間に任務分担と組織的な分離を求めた。視聴者に改めて説明するよう要求したが、NHKは検証番組を制作しない方針だ。
8年前の番組について決定を出すのは異例。川端委員長は「NHKは放送・制作部門の責任者が政治家に放送前の番組の説明をする可能性を今も排除していない」と説明した。
NHK広報局は「『番組は完成度を欠き散漫』などと評価されたのは残念」とコメントした。【佐々本浩材】
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■ことば
NHKと日本民間放送連盟が03年7月に結成。倫理、人権、青少年に関する3委員会がある。放送倫理検証委のメンバーは有識者10人。倫理上の問題の程度に応じて、放送局に「勧告」「見解」「意見」を出す。
毎日新聞 2009年4月29日 東京朝刊