東京女子医大(東京都新宿区)で01年に心臓手術を受けた平柳明香(あきか)さん(当時12歳)が死亡した事故で、業務上過失致死罪に問われた元助手の医師、佐藤一樹被告(45)を無罪とした東京高裁判決(3月27日)について、東京高検は上告期限の10日、上告の断念を発表した。佐藤医師の無罪が確定した。
高検は「重大な事実誤認など明確な上告理由がなかった。裁判所の判断を支えている専門家の意見があるなか、覆すのは容易ではない」と説明した。
佐藤医師は「女子医大が(起訴の判断材料の一つとされた)内部調査報告書の誤りを認めていれば、遺族も私も長期にわたり苦しむことはなかった。大学が報告書のずさんさを認め、遺族と私、国民に謝罪しない限り、この事件は終わりません」とするコメントを出した。【安高晋】
明香さんの両親は10日、佐藤医師の無罪確定を受け、刑事裁判に代わる真相究明の場として、第三者による医療事故調査機関の早期設立を求める要望書を厚生労働省に提出した。厚労省で会見した父利明さん(58)は「有罪にできない悔しさはあるが、刑事裁判で組織の責任追及はできず、医療事故を裁くには限界があると感じた」と語った。
利明さんは、約6年半続いた裁判を「『予見可能性』など難しい議論が続き(現実感のない)芝居を見ている気分だった。判決も一つの考え方に過ぎず、疑いの余地なく有罪という結論は裁判では出ないと思った」と振り返った。母むつ美さん(49)は「一人の医師としての謝罪の言葉が最後まで聞けなかったのは残念」と話した。
一方で、今回の事故について両親は「業務上過失致死罪には問えなくても、手術チームとしてミスをした責任はある」と指摘。カルテ改ざんで証拠隠ぺいを図った病院側を「真相究明を阻む非常に悪質な行為だ」と批判し、手術のビデオ撮影など記録保存の必要性を訴えた。【清水健二】
毎日新聞 2009年4月11日 1時42分