海外の高速鉄道 Index
フランス
昭和56年9月に最初のLGV(Ligne à Grande Vitesse:高速新線)である南東線(Sud-Est)が開業して以来、TGV (Train à Grande Vitesse:高速列車)の路線は大西洋線(Atrantique)、北ヨーロッパ線(Nord-Europe)と範囲を拡げ、その技術はフランス国内のみならず、英仏海峡のEurostar、スペインのAVE、韓国新幹線等に展開されている。
東海道新幹線を徹底的に調査し、日本の新幹線ほど輸送需要の大きくないフランスでは、両端機関車のプッシュプル、連接車体構造で車体幅2.8m、高さ3.4mと日本の通勤電車よりやや小さいぐらいの車両断面で走行抵抗を減らし、高速走行性能を向上させた。後に、輸送需要の多い区間用として2階建て車両も投入している。
両端の機関車間に連接台車の客車を置くプッシュプル方式がTGVの基本思想だったが、平成13年3月に次世代となる動力分散方式のAGV(Automotrice à Grande Vitesse)試験車両を製作、試験を開始したが、実用化されたという報告はない。日本の新幹線と同じ動力分散になるが、連接構造は維持するなどのこだわり?を見せている。
フランスの軌間と電気方式は下表のとおりである。TGVは全て下表の2電気方式以上持っているのでそのまま在来線に乗り入れ、線形の良いところでは最高速度220km/hで運転している。
| 軌間 | 電気方式 |
高速新線 | 1435mm | 交流25kV 50Hz |
在来線 | 1435mm | 直流1.5kV |
平成元年に大西洋線で最高速度300km/h運転を世界で初めて実施し、日本の新幹線はその後スピード面で劣勢だったが、平成9年にJR西日本が500系「のぞみ」で300km/h運転を開始し、
速度面で並んだ。その後、平成19年6月10日にはTGVが東線で320km/h運転を開始し、世界最高速度の座を再び得たが、JR東日本はFASTEC360Sの営業車両であるE5編成で平成20年12月の新青森開業時に320km/h運転を行うことをを宣言、速度的に並ぶことになる。フランスは将来350klm/h運転を目指すと言っていたが、JR東の360km/h運転計画を知り、360km/h運転に改めたが、320km/hを超える安定した営業運転をどこが始めるか興味深い。
フランスの主な高速新線は下表のとおりである。
路線 | 南東線 (Sud-Est) | 大西洋線 (Atrantique) | 北ヨーロッパ線 (Nord-Europe) | 地中海線 (Méditerranée) | 東ヨーロッパ線 (Est) |
区間 | パリ〜リヨン〜バランス
| パリ〜ルマン・ツール | パリ〜リール〜カレー | バランス〜マルセーユ・ニーム | パリ〜ストラスブール |
距離(km) | 410(新線389) | 280 | 分岐含めて新線333 | 250 | 406 |
開業月日 | 1981/9/27 | 1989/9/24 | 1993/5/25 | 2001/6/10 |
2007/6/10(300km部分開業) |
最急勾配 | 35‰ | 15‰(一部25‰) | 25‰ | 35‰ |
25‰ |
最小曲線半径 | 3200m | 4000m | 4000m | 4000m | |
その他 | トンネルなし。バランス まで(122km)延伸済 | 郊外には1カ所 | | | |
パリから出るTGVの始発駅は、南東線がリヨン駅、大西洋線がモンパルナス駅、北ヨーロッパ線が北駅と分かれていいるが、平成6年に、パリを経由しないで北ヨーロッパ線と南東線を直通運転する
高速列車用の連絡新線(102km)が建設され、空港のあるシャルル・ド・ゴールTGV駅とユーロディズニーランドのあるマルヌ・ラ・ヴァーレ駅が設けられた。在来線を使って、太平洋線とも直通運転を行っている。
平成6年7月3日に南東線がバランスまで(ローヌーアルプ線)延伸され、平成13年6月10日には更に南下しアヴィニオンで分岐して西はニーム、東はマルセイユに向かう地中海線が開業した。
平成19年6月10日には東ヨーロッパ線が開業して320km/h運転とドイツICEとの相互乗り入れが実現した。
この東線ではV150型という高速走行仕様に設定された機関車2両+2階建て客車3両(中間客車の2台車はAGVの電動台車で客車には機器を搭載)編成の車両で平成19年4月3日に最高速度574.8kmを達成、TGVの最高速度を17年ぶりに更新した。将来的には2階建ての両端機関車+中間電動連接動車+連接客車でけん引力と定員増を狙った新しいTGVの登場を予感させる。
フランスの鉄道は平成9年以降上下分離方式をとっており、RFFが毎年新線建設や電化などの投資計画及び資金調達計画を策定、運輸大臣の認可を受け建設を行い、同時に路線の保有、整備も行い、列車の運行はフランス国鉄(SNCF)が行なう。
・TGV-POS
平成19年6月10日に開業したTGV東ヨーロッパ線(EST EUROPÉEN )に投入された。最高速度は320km/hで、POSとはParis(パリ)-Ostfrankreich(東フランス)-Suddeutschland(南ドイツ)の頭文字をとったもの。編成は連接客車8両の前後に機関車をつないだ10両編成の動力集中方式である。
東ヨーロッパ線はパリ東駅から東へ約20kmの地点で在来線から別れ、フランス東部のストラスブールを結ぶ406kmの路線で、今回ボードルクールジャンクションまでの300kmが開業した。開業時点で世界最高の320km/hであるが設計上の最高速度は350km/hとなっている。高速走行のため、軌道中心間隔は4.2mから4.5mへ、最急勾配は35‰から25‰へと改良されている。なお乗り入れ先の在来線では最高速度は160km/h程度となる。車内インテリアを世界的に知られたファッションデザイナーであるクリス
チャン・ラクロアが手がけているのも大きな話題です。
東ヨーロッパ線には、フランスのLGVとしては初めてドイツのICEが乗り入れる。このため保安装置はTGVの標準であるTVMのほか、ヨーロッパの標準であるETCSが併用されている。
東ヨーロッパ線を含め、フランスの高速新線は全て複線で、左側通行になっている。ただし、現時点での東側の終端であるボードルクールでは、在来線と接続しているが、この在来線は歴史的経緯から右側通行となっている(1871年〜1919年の間、アルザス・ロレーヌ地方がドイツ帝国の領土であり、この時期に鉄道の複線化が行われたため、ドイツ流の右側通行となった)。そのため、ボードルクールを境に、高速新線では左側通行、在来線では右側通行となる。そのため、TGVやICEの相互直通運転を行う車両の運転台は、国ごとに左側・右側通行が異なっていても問題がないように、中央に配置されている。
パリからアルザス、ロレーヌ、シャンパーニュ地方といったフランス東部や、ドイツ、スイス、ルクセンブルグといった国々へのアクセス が飛躍的に向上した。中でも、パリ〜ストラスブール間の所要時間は従来の約4時間から約2時間20分に短縮された。
・TGV-Atrantique
平成元年9月24日、大西洋線のパリ〜ルマン間207kmで300km/hの営業運転開始。翌年ツールへの分岐線73kmが開業。
鋼製車体で、機関車+連接方式客車10両+機関車の12両編成、列車長237.6m。定員485(1等:116 2等:369)人。空車重量484t。1100kWの3相交流同期電動機を編成で8個持っている。パンタグラフはシングルアーム1段式。
2電源。在来線のツール〜ボルドー間は220km/hで運転。パリ市に3カ所、ツール近くに1カ所のトンネルがあり、ツールのトンネルでは耳ツン対策として180km/hに減速しているという。
平成2年5月18日、大西洋線のツール分岐線建設期間中に試験線のバンドームで515.3km/hの粘着式鉄道世界最高速度記録達成。
| 長さ | 幅 | 高さ | 軸重 |
機関車 | 22.15m | 2.814m | 4.1m | 17t |
客車 | 18.7 (機関車の次は21.845)m | 2.904m | 3.48m | 17t |
・TGV-Duplex
ホーム長制限から列車長を変えないで南東線の輸送力を増強するため、平成8年秋から南東線に投入された2階建てTGV。最高速度300km/h。
機関車は鋼製、客車はアルミ合金車体で、機関車+連接方式客車8両+機関車。1100kWの3相交流同期電動機を編成で8個持っている。545人。列車長200m、空車重量380t。最大軸重17t。
・TGV-Réseau
平成6年に開業した北ヨーロッパ線(Nord-Europe)を中心に各線で使用される。最高速度300km/h。
鋼製車体で、機関車+連接方式客車8両+機関車の10両編成、列車長200.2m。最大軸重17t。1100kWの3相交流同期電動機を編成で8個持っている。定員377人(1等120,2等257)。空車重量386t。
2電源で、イタリアやベルギーに乗り入れるDC3000V対応の3電源編成もある。
トンネル走行時の気圧変動対策としてこの車両から気密構造化が図られている。
・ TGV-PSE(Paris-Sud-Est)
最初に登場したオレンジ色の車体のTGV車両。昭和56年9月27日、260km/hでパリ〜リヨン間開業(サンフロランタン〜リヨンのすぐ北のサトネ間273kmのみ新線)、
昭和58年9月に残る新線完成(パリ南のコムラビーユ〜サンフロランタン間116km)し、270km/hの運転開始。368人(1等:111 2等:275)。空車重量385t。
鋼製車体で、機関車+連接方式客車8両+機関車の10両編成、列車長200.2m。両端の機関車の次の客車にも2軸電動台車が1台あり、537.5kWの直流電動機を12個持っている。
パンタグラフはシングルアーム2段式で機関車に直流用と交流用の2つのパンタグラフをもち、交流区間では後ろのパンタのみを上げて走る。
一部スイス国内走行のためAC15000V 16 2/3Hzの3電源対応編成がある。
| 長さ | 幅 | 高さ |
軸重 |
機関車 | 22.157m | 2.814m | 3.42m |
19.5t |
客車 | 18.7(機関車の次は21.837)m | 2.814m | 3.42m |
t |
経年による更新工事を受けて、外部塗色が最初のオレンジ色から大西洋線と同じ配色になり、300km/h運転が可能になるなど、大西洋線と同じ性能に
改造されている。
・TGV-Pendulaire
平成9年にTGV-PSE1編成を運用から外し、翌年改造してP-01編成として試験を開始、平成12年まで試験を行なったが平成13年には車体傾斜機構を外して復元されたので試験のみで車両は存在しない。
イタリアのフィアット社からGECアルストーム社が技術導入したもので、機関車にジャイロと加速時計を設置し、客車台車の油圧シリンダーで車体を傾ける強制振り子で、機関車はアンチローリング装置を付加するのみで車体傾斜を行わない。振子角6.3度。
最高速度220km/h、交流25kV/直流1.5kV。機関車+連接方式客車8両+機関車の10両編成で、編成長200m、重量385t。直流電動機8個で4300kW(交流25kV)。
・AGV(automotrice à grande vitesse)
TGVの動力分散方式版。スペイン等に売り込むために先頭車1両と中間車1両の計2両のプロトタイプ車両をアルストム社が製作、平成13年末から走行試験を開始し、最高速度320km/hを達成し14年5月に終了した。
20m長アルミ合金製車体の基本3両固定編成(2M1T)で、追加の付随車を組み合わせて7、10、14両等の編成が可能。 10両編成AGVは10両編成のTGV-Réseau(定員377)と同じく編成長200mであるが、定員が411人となり9%の輸送力増が図られる。軸重17t。
目標最高速度は350km/hで、3両固定編成中に600kWの誘導電動機を持つ動力車が2両ある。VVVFインバータ制御(IGBT)。両端の電動機の付いていない車両にはレール渦電流ブレーキを搭載予定。
ドイツのICE3に続いてフランスも日本の新幹線と同じ動力分散方式を採用することになったが、脱線事故に強い連接構造は維持するなどのこだわり?を見せている。連接前提にすると
1両を2軸で支えるために軸重を17t以下に押さえるためには大幅な軽量化を行わなければならず、それが日本の新幹線とは違う開発要素であり実現できる見通しになったとしている。
動力分散は新幹線が最初から採用している方式なので、TGVの唯一残された独自性となる連接にこだわってどこまで構成出来るか興味深いところであるが、実際の営業に使用されたという情報はない。
フランス以外のTGV技術
フランスのTGVをベースに製作された代表的な車両。スペインのAVE等もこの範疇に含まれると思うが、国別に載せた。
・Eurostar(ユーロスター)
平成6年年5月6日に開通した長さ50kmの英仏海峡を通り、ロンドン〜パリ、ロンドン〜ブリュッセル間を中心に運転されている。運転開始は車両開発の遅れから開通より遅れて11月14日になった。
最高速度300km/hであるが、英仏トンネル内は160km/h、イギリス側では第三軌条と急曲線のために100mph(161Km/h)に制限された。
平成15年9月16日にイギリス内の高速新線1期区間フォークストン-フォーカム間74kmが開業し、300km/h運転を開始、残りの39kmが開業すると(平成19年)、ロンドン〜パリ間2時間 20分になる予定。このときの駅は現在のウオータールー駅の北方セントパンクラス駅になる。
機関車+連接方式客車18(14)両+機関車の編成で、ロンドンから先のマンチェスターやグラスゴーまで行く編成はホーム長の関係から客車14両編成となる。編成が長いため、両端の機関車の次の客車にも電動台車が1台あり、1020kWの誘導電動機を編成で12個持っている。
客車14両で、列車長393.72m、空車重量752.4t、定員794人。車体幅2.81m。車輪径920mm。
機関車には2個のパンタグラフがあり、フランス内交流25kVとベルギー内直流3kVで相互に切り替えて使用する。機関車間の高圧引き通しはない。
トンネル内での非常事態に備えて編成は車上からの操作で編成中間で左右対称に分離できるようになっている。従って中間の2両は中心側非連接。
電源は、フランスAC25kV 50Hz、ベルギーDC3kVとイギリス内のDC750V第三軌条の3電源方式で、第三軌条集電用に電動台車の両側に集電シューがあるが、バネ下重量軽減のため軸箱でなく台車枠に取り付けられている。
ホームの高さが国によってまちまちで、フランスは、55.0cm、ベルギーは、76.0cm、イギリスは、91.5cmとなっているので、電動ステップをつけて対応している。
・Thalys(タリス)
4カ国(フランス、ベルギー、オランダ、ドイツ)の協力のもとに国際列車の運転時間短縮を目的に計画された高速車両で、TGVを基本にベルギー、オランダの会社が主体にデザインを行った。Thalysに特別意味はなく、関係国で言い易く覚え易い言葉なので付けた名前。
機関車+連接方式客車8両+機関車の10両編成。最大軸重17t。最高速度300km/h(在来最高220km/h)。1100kWの3相交流同期電動機を編成で8個持っている。定員377人(1等:120 2等:257)。列車長200m、運転整備重量385t。
PBA(Paris-Brussels-Amsterdam)とPBkA(ドイツ Kölnを追加)の2系統がある。PBAは平成8年1月から営業開始され、6月2日にアムステルダムまで運行開始。PBKAは平成9年12月10日ケルン開業。
PBA:10編成がフランス国鉄の所有。TGV-Réseauをベース。3電源。
PBKA:最初の「インターオペラティブ」用編成で、6編成をフランス国鉄、7編成をベルギー国鉄、2編成をオランダ国鉄、2編成をドイツ鉄道が所有。TGV-Duplexをベースにしている。4電源、6種類の信号対応。
各国の電源及び信号方式は次のとおり。
フランス | 直流1.5kV、交流25kV 50Hz(高速新線) | TVM430及びkVB |
ベルギー | 直流3kV、交流25kV 50Hz(高速新線) | ATB(オランダ)とTBL(ベルギー)を統合したATBL |
オランダ | 直流1.5kV |
ドイツ | 交流15kV 16 2/3Hz | LZB及びIndusi |
ドイツ
平成2年10月3日統一されたドイツの高速鉄道ICE(Inter City Express)の走行区間のうち高速新線が完成しているのは、ハノーバ-ビュルツブルク間(327km)、マンハイム-シュツットガルト間(99km)、ハノーバ-ベルリン間(平成10年9月28日運転開始)、ケルン-フランクフルト間(平成14年8月1日暫定開業、12月15日本格開業)。
平成6年1月にDBとDRが統合され、ドイツ鉄道(DBAG)が誕生した。
ケルン-フランクフルト間は旅客専用線としてICE3による300km/h運転が可能だが、他の新線は旅客列車と貨物列車の両方の運転を考慮しているので全線複線、許容軸重23t、最急勾配12.5‰、最小曲線半径5100m、軌道中心間隔4.7mで、200km/h以上の列車の許容軸重は20t以下。
運用上、貨物列車の運転時間を夜間として、高速列車と貨物列車のすれ違いを避けている。
軌間、電気方式は在来線と同じなので新線から在来線にそのまま入れるため、その運行区間はドイツ北部のブレーメン、ハンブルグやベルリンから南部のバーゼルやミュンヘンを結ぶ幹線の外に、国内ネットワーク、一部はスイスまで運行範囲が広がっている。
| 軌間 | き電方式 |
高速新線 | 1435mm | 交流15kV、16 2/3Hz |
在来線 | 1435mm | 交流15kV、16 2/3Hz |
平成10年6月3日、ハノーバの北約62kmのエシェンデ駅構内でICE1が金属疲労などによる内部の亀裂により弾性車輪のタイヤが破損して脱線、死者100人、重軽傷者98人を出す惨事が発生した。
ドイツの主な高速新線は下表のとおりである。
区間 | ハノーバ〜ビュルツブルク | マンハイム〜シュツットガルト | ハノーバ〜ベルリン | ケルン〜フランクフルト |
距離(km) | 327 | 99 | 264(新線152) | 177(2004開業のボン・ケルン空港経由219) |
開業月日 | 1991年6月 | 1991年6月 | 1998/9/28 | 2002年12月15日(8月1日暫定開業) |
最急勾配 | 12.5‰ | | 40‰ |
最小曲線半径 | 7000m(例外5100m) | | 3350m |
軌間中心(m) | 4.7 | | 4.5 |
トンネル断面 | 82u | | 92u |
その他 | 貨物列車と共用 | | ICE3専用線 21.5%がトンネル 6kmが橋梁 |
・ICE1
ドイツの誇る初代の高速車両で、平成3年6月2日に営業運転をを開始した(ハンブルグ〜ミュンヘン、ハンブルグ〜バーゼル)。最高速度280km/hであるが、経済的な理由から250km/hに抑えられている。
機関車+客車8〜14両+機関車のプッシュプル編成で、客車12両の場合、定員は1等144人(2+2配置)、2等501人で合計645人。客車はフランスのTGVと違い幅は約3mあり、アルミ合金製。気密構造。編成には高屋根の食堂車が組み込まれている。
1台車1インバータ制御で2個の3相誘導電動機を制御する。機関車間が離れていて架線振動が悪影響を与えないので屋根上高圧引き通しはない。スイスに乗り入れる編成の機関車には2つのパンタグラフがあり、信号も両対応である。
| 機関車 | 客車 |
長さ | 20.56m | 26.4m |
幅 | 3.07m | 3.02m |
高さ | 3.84m | 3.84(食堂4.3)m |
軸重 | 19.5t | 13.2〜14.55t |
・ICE2
ICEの運転区間拡大に応じて平成9年に登場した軽量化、短編成化した第2世代のICEで、機関車+客車7両編成であるが、機関車と反対側の終端客車端には運転台がついている。
両端に機関車がくるように連結すると客車14両編成で最高速度280km/hで走行可能だが、2編成をどう連結するか(可能性として中央に機関車2両が集中する場合もある)等で許容最高速度が変わる。
1編成でも客車が先頭で走る場合には横風による脱線防止等の観点から最大で200km/hに速度が制限される。
| 長さ | 幅 | 高さ | 軸重 | 連続出力 |
機関車 | 20.56m | 3.07m | 3.84m | 19.5t | 4800kW |
客車幅 | 26.4m | 3.02m | 3.84m | 11.6〜13.2t | |
・ICE3
日本の新幹線と同様の電車列車となる第3世代のICEで、最高速度330km/h、最急勾配40‰に対応できる。
旅客専用の高速線であるケルン〜フランクフルト間は40‰を許容してトンネルと橋梁を少なくし、先の2線にあった高速すれ違い時の貨物列車への衝撃や速度の違う列車の混在による問題を少なくし、結果的に工事費を減らすことができた。
平成12年の冬からミュンヘン〜ハンブルク間等に暫定投入されていたが、平成14年8月1日の高速新線「ICEライン・マイン線」完成に伴い同線に、
更に12月15日の本開業にあわせて全53編成が運用に入り、ケルン(中央駅)-フランクフルト(空港駅、中央駅)間で昼間概ね20分に1本の運転になり、更にスイスやオランダまで足をのばすようになった。
1電源(403系:ドイツ、スイス、オーストリア用)と4電源対応(406系:交流15kV 16.7Hz、25kV50Hz、直流1.5kV、3kVで国際専用)車両があり、いずれもM+T+M+T+T+M+T+Mの8両(4M4T)編成。
1〜3号車:1等、4号車:食堂等、5〜8号車:2等で、それぞれ定員は141名、24名、248名(403系)である。
その後、2等車が混雑するため1等車1両を2等車に、2等車のシ-トピッチを97cmから92cmに、食堂車をビュッフェスタイルにして一部に2等座席にする改造が平成14年12月15日のダイヤ改正にあわせて実施され、定員は2等車342人、1等車98人になった。
4電源車はオランダ鉄道に提供しており、ドイツ以外に輸出した最初で Thalysとして登場する可能性がある。スペインの高速新線用にも採用される予定。
国際線規格に合わせるため、2編成併結でも400m以下とし、軸重も17tを越えない。0.55と0.76mのホーム高さに対応。UIC505の規格。当然き電、信号、通信で問題なくフランスやベルギーの高速線に入れる。
1台500kWの誘導電動機、水冷GTOインバータ、摩耗のない渦電流ブレーキ(ECB)、高効率発電ブレーキ、ディスクブレーキを使用。
主な仕様
| 車両長 | 車体幅 | 車体高さ | 空車重量 | 連続定格 | けん引力 | 最高速度 |
先頭車 | 25.835m | 2.95m | 3.85m | 409t | 8000kW | 300kN | 330(DC220)km/h |
中間車 | 24.775m | 435t | 8000kW(AC) 4300kW(DC) |
主な搭載機器
号車 | 403(国内用) | 406(国際線用) | 交流用パンタ:ドイツとオーストリア 狭い交流用パンタ:スイス、フランスと将来のベルギー 直流用パンタ:ドイツとオーストリア
交流区間では電圧が高いので前側の1両のみのパンタをあげ、直流区間では集電電流が大きくなるので2パンタ上げる。 |
1 | 1C4M | 1C4M |
2 | Pan(AC用),MTr | Pan(AC用),MTr |
3 | 1C4M | 1C4M,Pan(DC用) |
4 | Bat | 狭いPan(AC用),Bat |
5 | Bat,Comp | 狭いPan(AC用),Bat,Comp |
6 | 1C4M | 1C4M,Pan(DC用) |
7 | Pan(AC用),MTr | Pan(AC用),MTr |
8 | 1C4M | 1C4M |
・ICT
1999年3月から営業運転予定。7両編成、最大傾斜角度8度、最高速度230km/h、振り子
イギリス
平成6年に英国国鉄は分割民営化され、鉄道施設はレールトラック社、車両は3つの車両リース会社が保有、列車運行は25のブロックに分割され、フランチャイズ方式で運営されている。
今は高速列車ではフランスやドイツに遅れたイギリスであるが、かつてTGVやICEと競うように高速車両の開発を目指していた。
それは、APT(Advanced Passenger Train)という在来線を使って250km/h運転をめざしたもので、最初両端に電気式ガスタービン機関車を持つ4車体5連接台車編成の試験車APT-E(Experimental)を開発し、次に量産先行車ATP-P(Prototype)が製作された。
客車6両(先頭は運転台付)+機関車+機関車+客車6両(先頭は運転台付)という基本編成で、在来線での高速集電上の問題から電気機関車を中央に持ってきたもので、
車体床上電動機、パンタ偏奇防止強制振り子(9度)装置、連接台車、流体ブレーキ・渦電流レールブレーキ等の新しい技術が採用された。機関車が中央にあるので食堂車が前後に必要という弱点もあった。
昭和54年12月20日には最高速度259.5km/hを達成している。
昭和56年12月7日にロンドン〜グラスゴー間(西海岸線646km)で営業運転に入ったが、振り子装置のトラブル等の問題が発生し、すぐに運転をやめてしまった。
その後、昭和59年頃まで時々営業等に使われていたようだが、将来の見通しがたたず、製作された3編成のうち2編成はスクラップ、1編成も屋外に放置されたままになっているという。
APTの挫折は振り子や営業運転開始時の寒波によるトラブル、乗り物酔いというような問題とあわせ、国内の政治状況等にも原因があったといわれている。
APTの開発と平行して在来技術を発展させたディーゼル機関車と中間客車による高速列車HST(High Speed Train)の開発が進められたが、それが現在の中心になっている。
| 軌間 | き電方式 |
在来線 | 1435mm | 交流25kV 50Hz |
直流750V他 第三軌条 |
・Inter City125
昭和51年10月4日、ロンドン〜ブリストル間で営業運転開始。両端に電気式ディーゼル機関車、中間に23m長2.74m幅客車7両を持つ9両編成。125は125マイル/時の意味で、時速では200km/hである。機関車の出力は2,250PS(1,680kW)/両である。
昭和47年に登場した試作車が48年6月11日にディーゼルけん引列車の最高記録である230km/hを達成した。95編成が製作され、東海岸線やイングランド西部等広く使用されている。
・Inter City225
平成元年営業運転開始。サイリスタ位相制御の直流電動機を持つ6000PS(4350kW)の91形電気機関車1両とマークV形客車9両によるプッシュプル運転で、機関車と反対側の運転台付き客車は荷物車になっている。
225はそのまま時速を表す数字で、最高速度225kmであるが、使用線区である東海岸線の信号設備の改良が完成していないので当面200km/h運転を行っている。
・Inter City250
イタリアのフィアット社から購入して平成12年に東海岸線に投入予定の強制振り子車両。曲線通過速度を30%向上し、最高速度も250km/hにする。信号設備もそれにあわせ225km/h対応に改良する計画がある。
イタリア
ローマ-フィレンツェ間にディレッティシマ線という高速新線が平成4年に全線完成しており、その他の線区は工事中または計画段階である。
昭和63年からローマ〜ミラノ間でETR450が走っているが、最高速度200km/hで走るとトンネル耳つん現象が発生するので460形以降を投入している。
ETR450/460/480、ETR500をユーロスターイタリア(ES)と呼んでいる。
| 軌間 | き電方式 |
高速新線 | 1435mm | 直流3000V |
在来線 | 1435mm | 直流3000V |
・ ETR450「Pendolinoペンドリーノ」
昭和63年ローマ〜ミラノ間で営業開始した初代の強制振り子電車ペンドリーノ。最高速度250km/h、連続定格4700kW。基本9両(8M1T)編成に加えて5〜11両編成もある電車列車で、連続定格4700kW、最大11(10M1T)両編成。
先頭車の加速度計及びジャイロで検知し、油圧シリンダーで車体を最大10°強制傾斜させる振り子装置を持つ。振り子はフィアット社製。パンタは台車の動きに連動し離線を防止する。
車体傾斜の関係で車体幅2.7mと狭く、2+2座席配置とできないので全1等車とした。ディレッティシマ線では振り子は使わない。
アルミ車体、軸重12.5t。イタリアのFiatFerroviaria社製。サイリスタチョッパ制御。ローマ-アンコナ、バリ間等
・ ETR460/480「Pendolinoペンドリーノ」
平成6年営業運転開始した強制振り子電車。最高速度250km/h。9両編成(6M3T)の電車列車で、気密構造による耳ツン対策や振り子角を最大8°にして
定員増のため車体幅2.8m化。定員は1等139(3両)、2等341(5両)で、480名。
連続定格5880kW。アルミ車体、軸重13.5t。DC3000Vであるが、フランス(リヨン)に乗り入れるためAC25000/50Hzに対応する2電源方式編成もある。VVVFインバータ制御誘導電動機使用。
ETR450と同じ先頭車の加速度計及びジャイロで検知し、油圧シリンダーで車体を傾斜させる強制振り子制御。ローマ〜トリノ、ベネチア、バーリ、レッジョ・カラーブリア等間等で運転。
主なサービス等の特徴は、食堂車(23席)、各席配膳、カード式電話、イヤホン音楽(1、2等)、バーやミニバー、ウエルカムドリンク、新聞提供(1等)
・ ETR470「Cisalpinoチザルピーノ」
平成8年9月29日、ミラノ-ジュネーブ、ミラノ-バーゼル間で営業開始した強制振り子電車。イタリアとスイスの相互直通用に開発された。
最高速度250km/h、連続定格6000kW。9両編成(6M3T)の電車列車。9編成ある。VVVFインバータ制御誘導電動機使用。イタリアのDC3000VとスイスのAC15000V 16
2/3Hzの2電源対応。 ミラノ〜バーゼル、ジュネーブ(シンプロントンネル経由)、ミラノ〜チューリッヒ・シュトゥットガルト(ゴッタルドトンネル経由)を結ぶ。
・ ETR500
最高速度300km/hを誇る高速新線用車両であるが、平成8年末から在来線を含めてミラノ、ローマ、ナポリ間で営業運転を開始した。振り子なしのBo-Bo電気機関車+客車13(8〜14あり)+電気機関車という編成。
定員は1等182(4両)、2等408(6両)で590人。1998年には29編成が2000年までには60編成投入予定。
編成連続定格8800kW。DC3000V、AC25000/50Hzの交直流。VVVFインバータ制御誘導電動機駆動。機関車は長さ20.5m、幅3.02m、高さ4m、軸重17t、台車軸距3m、動輪径1.1m、客車はアルミ合金中空押出形材製で車体長26.1m、車体幅3.02の気密構造車体。客車軸重12t。
主なサービス等の特徴は、食堂車(30席)、各席配膳、個室(ビジネス、家族)、カード式電話、イヤホン音楽(1、2等)、電動調整機能付き1等シート、バーやミニバー、ウエルカムドリンク、新聞提供(1等)。フィレンツェ-ナポリ、ミラノ-ローマ、ミラノーヴェネチア間等で運転。
スペイン
国防上の理由から、スペインの鉄道の軌間は1,668mmであり、電気方式も直流3000Vであるが、バルセロナオリンピックとセビリア万国博覧会の開かれた平成4年にマドリッド-セビリア間(471km)に開業した高速新線は、標準軌、AC25kV、50Hz、両端一部直流3000Vで建設された。
高速新線は全線複線、許容軸重23t、最急勾配12.5‰、最小曲線半径4000mで、カント115mm、軌道中心間隔4.3m、許容軸重は300km/hの高速列車で17t、200Km/hの機関車22.5t、客車16tとなっている。
スペインと言えば軌間1,668mmと1435mmの異なるゲージ間を直通運転する「タルゴ」が有名で、機関車のみは交換するものの最高速度200km/hで運転されている。
国際列車の軌間変更はフランスとの国境に近いポルトボウ、イルン駅で行われるが、高速新線のコルドバ等にも標準軌の高速新線と国内の広軌間を直通運転するための軌間変更設備が設置されており、新線を200km/hで走る機関車を使ったTalgo200が運転されている。
タルゴは、Talgo(Tren articulado ligero Goicoechea-Oriol)で、 Goicoecheaは発明者、Oriolはスポンサーの名前とのこと。
| 軌間 | き電方式 |
高速新線 | 1435mm | 交流25kV 50Hz |
在来線 | 1688mm | 直流3000V |
・Talgo]]T
これまでの軌間変換タルゴは、客車のみ自動軌間変更で機関車はゲージに合わせて交換していたが、機関車にも軌間変換システムを採用した新タルゴ。現在走行試験中。最高速度200km/h、変換区間をそのまま15km/hで通り抜けることができる。
機関車は電気式ディーゼル機関車と電気機関車の2種類有り、両端の機関車の間に12両のタルゴ]]T客車を置く。
・Euromed(ユーロメッド)
AVEの軌間1668版で、車体を一回り大きくしゆったりさせた。平成9年6月16日、バルセロナ〜バレンシア、アリカンテ間開業。当初200(最高速度220)km/h運転。
両端に機関車、中間に連接構造の客車7両(3両は1等)、カフェテリア1両の10両編成。定員325人。
・AVE (Alta Velocidad Española)
セビリア万博の初日の平成4年4月20日、マドリット〜セビーリア間471kmの高速新線でAVE開業。フランスのTGVの技術を採用したもので、当初250km/h運転だったが現在270km/hに向上している。
両端に機関車、中間に連接構造の8両客車の10両編成。最高計画速度300km/h、標準軌のみで直流3000V、交流25000V対応。
・Talgo200
軌間変更客車で有名なタルゴ(TPI-200)の国内版で、AVEの高速専用線(最高速度200km/h)と在来線(最高速度160km/h)の広軌間を直通運転する。
・Talgo pendular
昭和56年パリ-マドリッド間で寝台列車として営業運転開始した歴史ある車両。最高速度は180Km/hであるが、自動軌間変更式1軸独立車輪付き自然振り子式列車で有名。
13両編成基本で倍にすることが可能。
・InterCity2000
平成9年営業運転開始。最高速度は220Km/h。Fiat製。3両(2M1T)の強制振り子電車。13両編成基本で倍にすることが可能。
スウェーデン
森と湖の国スウェーデンには曲線と勾配が多いため、X2000という最高速度200km/hの強制振り子列車を投入して在来線のスピードアップを行っている。
電気方式はAC15kV、16 2/3Hz。
・X2000系
在来線を主体としてストックホルム-エーテボリ(459km)等において平成2年9月営業開始。ABB製。ノルウェーでも運用。先頭車の加速度計で検知し、油圧シリンダーで車体を最大6.5°強制傾斜させる強制振り子(客車のみ)。各台車には操舵システムが装備されている。
全ステンレス製で、一方のみが動力車でもう一方は制御車となる先頭動力車方式の6両編成のプッシュプル運転。最高速度250km/hであるが、200Km/hで運転している。VVVFインバータ制御で815kW誘導電動機使用。
X2-2という4両と5両編成の2種類の地域姉妹列車がある。
韓国
日本と違い、在来線も標準軌。電化は近郊区間を中心にDC1500V。総人口4400万人で約1100万人がソウルに集中しており、地下鉄は8路線ある。京釜線の主力は8両基本編成の特急気動車「セマウル号」で、半室を機関室にした両端の車両で中間客車6両を挟んでおり、プッシュプル方式である。
韓国新幹線はフランスTGVの技術を導入して平成16年4月1日に開業した。
・「京釜(キョンプ)高速鉄道KTX(Korian Train Express)」
ソウル〜釜山(プサン)間412kmを1時間56分で結ぶ韓国版新幹線。総額約170億ドル(15兆3千億ウォン)ドルの大プロジェクトで、1990年代の初めに車両システムなどで日・独・仏3カ国が自国の方式採用を目指して競争したが、最終的にフランスのTGV方式に決定した。
平成16(2004)年4月1日には第1期区間の高速新線(ソウルの南から大邱(テグ)まで)が完成、全46編成を使用した京釜高速鉄道が営業を開業した。
日本と違い、在来線も標準軌なので電化すれば新線から在来線に入っていける。途中の中核都市である大田(テジョン)と大邱では在来線を交流電化して乗り入れており、駅は在来駅を改良して利用した。
同時に在来線を電化、改良することによって大田(テジョン)から湖南(ホナム)線に入り、そこから木浦(モクポ)、光州(クァンジュ)へ、東大邱(トンテグ)から京釜(キョンプ)線を経由して釜山への直通運転も同時に開始した。この線での最高速度は150km/hといわれている。
この高速新線は途中計画の見直し等紆余曲折があり、次のような経緯を経て建設された。工事費は当初の計画より大幅に増加していると言われている。
1989年5月 | 韓国政府が「京釜(キョンプ)高速鉄道建設方針」を決定。'98年完成目標。 |
1990年6月 | ソウル-天安(チョナン)-大田-大邱-慶州-釜山409kmを設計最高速度350km/hで結ぶ基本計画及び路線を確定。 |
1993年6月 | 事業費等を見直し、ソウル、大田、テグ駅は既存駅を改良して利用するよう修正。 |
1994年6月 | 日、独、仏の高速鉄道システムの中からフランスのTGVシステムを選択、車両導入契約を締結。
46編成中12編成はフランスで製作、残りは韓国で技術移転により韓国企業が製造することになる。 |
1997年 | フランス製作分として1997年中に試作2編成を、ソウル-大田間の部分開通に合わせて1999年中に10編成製作する予定だったが、土木工事のトラブル等から最初の船出しが1998年に延びた。 |
1998年7月 | 1997年末に起きたIMF危機等により2期に分割して開業する計画に変更 1期開業:ソウル-大田間 2003年12月 ソウル-釜山間 2004年4月開通 2期開業:2010年全線開通 |
1999年12月 | 16日から天安市近郊の試験運転区間(57.2km)で2003年12月のソウル-大田間部分開通を目指し、2編成を使って200km/h以上の試験運転を開始。速度向上試験等により営業300km/h運転を目指す。
2000年に入り、トンネル突入時の気圧変動によって車体に亀裂が入るなどのトラブル発生。 |
1999年12月 | 湖南線電車化推進計画決定。湖南線の交流電化と軌道改良、一部区間の複線化により大田から湖南線のへの直通乗り入れへ。 |
2003年3月 | 2006年に開港する釜山新港開港に合わせて2010年開通予定の2期区間を2年前倒しする計画が仏教、環境団体の反対等によって中断 |
2003年4月 | ソウル-釜山・木浦 2004年4月同時開業確定 |
2003年 | 8月からソウル-大田間で、11月からソウル-釜山間で走行試験開始 |
2004年4月1日 | kTX開業。京釜・湖南線同時開通 |
平成22年には大邱-釜山間に慶州(キョンジュ)経由の2期高速新線を完成させ、ソウル〜釜山(プサン)間全線が高速新線となる予定だが、反対が多く難航が予想されている。
京釜高速鉄道・下り | 湖南高速鉄道・下り |
列車番号 | 7 | 107 | 47 | 85 |
出発駅 | ソウル | ソウル | ソウル | ソウル |
目的駅 | 釜山 | 東大邱 | 釜山 | 釜山 |
ソウル | 900 | 915 | 930 | 945 |
龍山 | - | - | - | - |
光明 | - | - | 946 | - |
天安牙山 | 938 | 953 | - | - |
大田 | 1000 | 1015 | 1025 | 1035 |
東大邱 | 1050 | 1105 | 1114 | 1123 |
亀浦 | - | | - | - |
釜山 | 1158 | | 1219 | 1225 |
特記 | | | | (週末) |
|
列車番号 | 233 | 205 | 265 | 207 |
出発駅 | ソウル | 龍山 | 龍山 | ソウル |
目的駅 | 光州 | 木浦 | 益山 | 木浦 |
ソウル | 935 | - | | 1235 |
龍山 | 941 | 1035 | 1205 | 1240 |
光明 | - | 1049 | 1219 | - |
天安牙山 | - | - | 1242 | - |
西大田 | 1033 | 1130 | 1305 | 1330 |
論山 | - | 1201 | 1334 | - |
益山 | 1124 | 1224 | 1356 | 1420 |
| (途中省略) |
木浦 | - | 1352 | | 1538 |
光州 | 1228 | | | |
|
ソウル〜釜山間(408.5km)の所要時間は、従来のセマウル号4時間10分に対してkTXが2時間40分と、1時間30分短縮された。光州間(352.8km)はセマウル号3時間52分に対して2時間38分と、1時間14分短縮された。
ソウルの始発駅はソウル駅とその南方約3kmにある龍山(ヨンサン)駅(湖南系統)でソウル市内は在来線を利用しており、始興(シコン)駅を通過して新線に入る。すぐに新駅の光明(クアンミョン)駅があるが、1期の高速新線区間にはこの駅と高架2面4線の天安牙山(チョナンアサン)駅の2つの駅が新設された。
ソウル駅、釜山駅をはじめ停車する既存駅もこれを機に全面的に改装されている。
右の表は、京釜線、湖南線を使ったkTXのある時間帯の下り線の時刻表で、高速鉄道からそれぞれ東大邱、西大田駅で在来線に入っている。
kTXの車両基地はソウルの北の高陽(コヤン)と釜山にあり、それぞれ24、22編成を留置している。アルストム社が2006年まで車両保守の技術指導を行う。
項 目 | 諸 元 | 記 事 |
電気方式 | 交流2000V 60Hz | |
軌間 | 1435mm | 在来線と同じ |
最高(設計最高)速度 | 300(350)km/h | |
最急勾配 | 25‰ | |
最小曲線半径 | 7000m | |
軌道中心間隔 | 5m | |
軌道 | バラスト軌道 UIC60kgレール | 300m×n本のロングレール |
最大軸重 | 17t | |
トンネル断面積 | 107m2 | 延長189km(高架:112km) |
主な建設規格は右表のとおりである。
昼間行われる線路や架線等の保守、点検のために、約20km毎に上下線間に亘り線(1.2km程度 160km/hで通過)を設け、単線運転ができる単線並列運転方式を取り入れており、トラブル時等運行の自由度は高いが、
単線運転時片道で毎時3本しか運行できないと言われており、新幹線の12本に比較してかなり輸送力が小さくなるため、そのようなダイヤが組めるか疑問がある。
また、京釜線等への乗り入れはフランスと同じように直通運転による段階的な開業は高速性の効果を多線区に及ぼすことが可能である。
高速鉄道と既存の鉄道を安定的に統合、運営する鉄道運送総合情報システムとしてIRIS(Integrated Railroad Information System)を採用し、最適な列車、車両、乗務員の運用計画や車両検修計画の作成等を行うようになっている。
しかし、ソウル等大都市で在来線を使っているため新幹線のような新在完全分離による高速鉄道の高速化や輸送力の向上と在来線の特急廃止による通勤輸送力の向上を同時に図ることができず、輸送能力等の面で問題になる可能性がある。
運転保安や監視システムとしては、自動列車制御システム(ATC)、連動装置(IXL)、列車集中制御装置(CTC)、列車無線システム(TRS)、電力リモートコントロール設備(SCADA)、検修情報システム(MH)などがある。
また、電車線の氷や雪を解かし、安全にパンタグラフから架線に電気を供給することができる電車線解氷システムを採用している。
46編成のうち、最初の12編成はフランスのアルストム社がフランスで、残りは技術提携した韓国ロテム社が韓国内で組み立てた。
kTXは全20両編成で、2両の動力車と18両の客車で構成され、全長388mである。車体は全鋼製であり、客車の寸法は長さ18.7m、幅2.904m、高さ3.484mで、客車を2軸で支える連接台車構造なので制限軸重17tに抑える軽量化のため長さは新幹線の25mと比較してかなり短く、
併せて走行抵抗を減らすために幅も新幹線の3.38mより狭く、座席は一般車4列、特別車3列で、定員は合計935名である。
連接式客車計18両をけん引するのに両端に機関車を連結するだけではけん引力を発生する動軸数が足りず、機関車の隣の客車の非連接台車も動台車としている。電動機は1,100kWの同期電動機。
技術移転を受けた韓国が独自に開発した(株)ロテム社製車両「G7」(20両編成 定員879名)も完成しており、2007年から湖南線で運行される予定。なお、韓国はTGV方式を導入するにあたり、主要構成部品すべての技術移転を受けているようで、ヨーロッパを除いた全世界で韓国製車両を輸出する権利を保有しているという。
アジア向きに改良された「G7」をベースに仏・韓連合で中国、アメリカ等の市場を狙う環境が整いつつある。
今回投入された車両の編成は下図のとおり(一部想定、省略)。
特別車4両、一般車14両の客室構成で、17、18号車(112席)を除き全指定席となっている。食堂車やビュッフェ車はないが、飲物、菓子の自動販売機がある。座席配置は、特別車は進行方向によって椅子の転換が可能だが、一般車は固定式で中央を向いたいわゆる集団見合い形となっており、
評判が良くない。日本の新幹線200系も3列側が固定式(中央を境に反対を向く集団離反形)で登場したが、100系以降は3列でも転換可能な椅子になっている。
下表に、KTXの詳細仕様をまとめているが、サービス機器等を除いては基本的にTGVと同じ仕様になっており、固定式座席や狭さ、気密の不具合発生(170km/hに減速運転)などが開業後不評のようである。
項 目 | 諸元 |
構成と車種 | 全鋼製 動力車・動力客車・客車 2M+2*0.5M+16Tの20両編成 3M17T相当 |
電気方式・軌間 | 交流20000V 60Hz 軌間:1,435mm |
編成数 | 46編成 1編成長:387.9m |
編成定員 | 1等室:127名 2等室:808名 計935名 デッキの折畳み椅子30 |
積車質量 (t) | 771.2(空車701)) |
車体寸法(mm) | 動力車 | (L)22,607×(W)2,814×(H)4,100 |
動力客車 | (L)21,845×(W)2,904×(H)3,484 |
客車 | (L)18,700×(W)2,904×(H)3,484 |
座席配置等 | 車両中間から集団見合い形 1等室:3列(ピッチ:1,120mm 幅1,330mm)通路幅495mm 2等室:4列(ピッチ:930mm 幅1,070mm)通路幅480mm |
側扉 | プラグ式 1,835(H)×824(W)片側1箇所 |
貫通路 | 1,835(H)×700(W) |
電車性能 | 最高(設計最高)速度:300(330)km/h 加速性能:0〜300km/hまで6分8秒 ブレーキ性能:300km/h から停止まで6,400m(2分32秒) |
集電装置 | シングルアームパンタグラフ 動力車に各1台 2台/編成 運転中は後部パンタのみ上昇 |
台車 | 方式 | ボルスタレス空気バネ方式 Zリンクけん引装置 動台車:6台 従台車:17台 客車は全車連接台車 |
寸法 | 台車中心間距離:13,800mm、固定軸距:3,000mm、車輪径: 920/850mm(新製/磨耗限度) |
主電動機 | 3相交流同期電動機 1,130kW 車体装荷 |
ブレーキ方式 | 回生、発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ |
基礎ブレーキ装置 | 踏面ブレーキ(動台車) 1軸4ディスクブレーキ(付随台車) |
運転保安装置 | 車内信号ATC(TVM430) 300/270/230/170/0信号 閉塞区間1500m、 ブレーキ5ブロック7500m。最小時隔3分 |
横揺れ及び脱線防止 | 横揺れが3.5秒以上続くと減速 |
衝撃吸収装置 | 脱線防止と走行安全性確保のために車両の先頭部に蜂の巣模様の衝撃吸収装置を設置。300km/h走行時700kgの物体と直接衝突すると衝撃を吸収 |
機関士運転監視システム | 機関士が周期的にペダルを踏んだりスィッチを押したりするのを一定時間行わないと1次注意警報鳴動。それでも応じない場合、列車が自動非常停車、無線装置を通じて中央統制室でも自動非常警報音鳴動。 |
車内圧力変動対策 | 時速5km以上で出入り口の周囲のゴムが脹らみ、外部の空気を遮断。トンネル通過時は客室内の換気装置を自動遮断。 |
車両情報管理装置 | 列車命令制御機能、機関士運転支援及び列車故障時故障修理案内支援、保守用故障修理診断情報提供、乗務員列車運行準備支援及びデータ無線送信インタフェース提供(遠隔制御機能、サービス維持機能)、旅客サービス設備監視及び乗務員に故障事項文字現示 |
火災対策 | 車内の天井、床、椅子及び電線類などは有毒ガスがほとんど発生しない難燃性、無毒性資材を使用。車内に各種の火災感知及び警報設備を設置。 |
車内サービス | 特別室 | イヤホン、天井16インチビデオモニタ4台/両、電話2台、ファックス1台、自販機3個所 |
一般室 | 天井ビデオモニタ2台/両、電話4台、自販機7個所 |
車内設備 | 乗務員室:2号車 トイレ:1,2(身障者用),4,6,8,11,13,15,17,18号車 電話:2,5,7,8,11,12,13,16号車
身障者用座席:2席/編成 車椅子置場:2号車 荷物置場:3,4,5,8,9,10,11,12,13,14,16,17号車
飲物自販機:3,4,5,8,9,10,11,13,14,17号車 スナック自販機:7,12,16号車 |
台湾
在来の鉄道は日本と同じ狭軌で、中華民国行政院交通部に所属する台湾鉄路管理局が阿里山森林鉄路を除く国有鉄道を運営している。
台北には地下鉄(MRT)も走っている。車両は韓国、南ア、欧州等海外製が主体となっているが、日本製が採用されるケースが増えている。
新幹線は同じ交通部の高速鉄路工程局が許認可権を持っており、台湾新幹線は民間会社の台灣高速鐵路股份有限公司(台湾高鉄)がBOT方式での事業権を取得、建設・運営を行なっている。
在来の台鉄とは競争関係になる。
・「台湾南北高速鐡路」通称「台湾新幹線」(平成19年1月5日板橋駅-左榮駅間部分開業 )
台北-高雄間345kmを最高速度300km/hで運転して90分(在来線では最速の自強号で4時間)で結び、平成17年10月に開業するといっていたが、工事の遅れから平成19年1月5日に板橋駅(台北県板橋市)-左榮駅(高雄市、現高雄駅北方約6kmに新設)間332kmが計画から1年3ヶ月遅れの部分開業となった。
地下で在来線と併設となる台北駅-板橋駅間は更に工事が遅れたため、台北駅-左榮駅間339kmの全線開業は3月2日となった。台北-左榮間の普通運賃は1490台湾ドル(約5300円)。
日本の新幹線技術を導入し、東海道・山陽新幹線700系電車をベースとした700T電車で300km/h運転を行なっている。
本来の輸送計画では1日88往復の予定であったが、運転士を含む乗務員の育成が遅れているため開業当初は1日あたり19往復で、板橋〜左営間で90分(台中のみ停車、1日3本)と、120分(各駅停車、1時間に1本)の運転である。
全線複線で、日本と同じく列車は左側を走行する。路線の約73%が高架橋と橋梁、18%がトンネル、その他9%が盛土や切取りとなっており、南端の約3キロのバラスト軌道を除いて全て直結軌道となっている。
駅は下表のように12駅設けられるが、3駅は将来対応、南港駅は平成21年開業予定の駅となっている。路線計画上の0km地点は台北市東部の在来線松山駅付近で、各駅のキロ程は表のとおりとなっている(カッコ内は台北駅起点)。
駅名 | 距離(km) | 接続路線 | 所在地 |
南港駅 | -3.3 | 平成21年開業予定 | 台北市 | 南港区 |
台北駅(タイペイ) | 5.9(0) | 地下駅で、1階はロビーは乗車券販売、旅客サービスセンター、商業施設など、地下1階は旅客通路、改札口と待合室、地下2階に4面8線あり、高速鉄道はその半分を使う。 |
中正区 |
板橋駅(バンチャオ) | 13.1(7.5) | 地下駅で、1階ロビは旅客サービスと乗車券販売、地下1階に旅客改札、ならびに台湾鉄路、MRTとの連結通路、地下2階に南部方面ホーム、地下3階に北部方面ホームがある。 |
台北県 | 板橋市 |
桃園駅(タオユワン) | 42.3(36.4) | 地下駅 | 桃園県 | 中壢市 |
新竹駅(シンチュー) | 72.2(66.3) | 新設 | 新竹県 | 竹北市 |
苗栗駅 | 104.9(99.0) | (待避線・安全側線のみでプラットホーム設備はなし:平成22年開業予定) | 苗栗県 | 後龍鎮 |
台中駅(タイチュン) | 165.7(159.8) | 新設 | 台中県 | 烏日郷 |
彰化駅 | 194.1(188.2) | (待避線・安全側線のみでプラットホーム設備はなし:平成22年開業予定) | 彰化県 | 田中鎮 |
雲林駅 | 218.5(212.6) | (待避線・安全側線のみでプラットホーム設備はなし:平成22年開業予定) | 雲林県 | 虎尾鎮 |
嘉義駅(チヤイー) | 251.6(245.7) | 新設 | 嘉義県 | 太保市 |
台南駅(タイナン) | 313.9(308.0) | 新設 | 台南県 | 帰仁郷 |
左営駅(ソーイン) | 345.2(339.3) | 在来線ホーム横に3面6線の地平駅。将来は台湾鉄路高雄駅に移設計画あり。 | 高雄市 |
左営区 |
この高速鉄道は金融など鉄道になじみの無い台湾の有力民間企業が設立した台灣高速鐵路股份有限公司(台湾高鉄)がBOT方式での事業権を取得、建設・運営を行なっている。
台湾高鉄は、鉄道建設時に全体工区を下の図のように5つに分け、主に土木、軌道、駅、車両や電気設備の機械電気システム(コアシステム)、車両基地などの工事発注とプロジェクト管理のコンサル契約を行なった。
同社は機械電気システムについては独シーメンスと仏GECアルストムの支援を受けて平成9年に一旦ICE機関車+TGV客車という欧州混合方式を採用、日本連合7社の提案する新幹線方式を押す「中華高鉄」を打ち負かし、平成10年には交通部と事業権契約を締結したが、種々曲折があって平成12年に同システムに新幹線の技術を採用することに方針変更した(経緯等は後記)。三菱重工等7社の日本連合は台湾新幹線株式会社を設立し、同システムを受注したが、他の工事を含め全体の仕様は欧州方式のままで新幹線仕様に改定されなかったため、そのすり合わせに大変苦労することになった。
新幹線技術の始めての海外輸出となったが、
・ | 駅の前後と130km及び278kmの地点には2組のハ形の渡り線があり、特殊な状況下では部分的な区間で単線双方向運行が可能となっている。 |
・ | 車両と関係の深い軌道は日本のレール(JIS)とスラブ軌道を使用するのが普通だが、駅部の副本線との分岐器に33番や26番というような日本で実績の無い高番数の分岐器が使われるようになっていたため、ドイツ製分岐器が採用され、これとあわせて駅部はドイツのレール(UIC)と直結軌道であるレーダ軌道となりドイツ企業が施行した。従って、この区間は日本の「責任範囲」外となった。新幹線電車は加減速性能が優れているので副本線は短く、分岐器も18番が使用されている。 |
・ | 運転保安方式や無線方式が新幹線と異なっている。 |
など、欧州方式と無理やり組合わせた部分も多くあり、日本の「新幹線」とは同じでない。
下図に建設工区と配線略図を示す。
台湾高速鉄道用700T電車
700Tは東海道・山陽新幹線の700系をベースに台湾側の要求に合わせて一部仕様変更したもので、3M1Tの4両ユニットを3ユニット連結した全12両固定編成(9M3T)であり、普通車11両、グリーン車に相当するビジネスクラス車1両の構成で、定員は989名(普通:923 B:66)となっている。
外部塗色は会社のコーポレートカラーであるオレンジと黒の帯を窓下に配している。
主な仕様は次のとおりである。
電気方式 | 交流25Kv. 60Hz単相 |
編成 | 12両固定編成(9M3T:3M1Tで1ユニット) |
車体寸法 | 長さ:25,000(先頭車:27,000)mm 幅:3,380mm、高さ:3,650mm 編成長:304m |
車体 | アルミニウム押し出し合金製 |
定員 | 一般車両:923人ビジネス車両:66人 計989人 |
空車重量 | 1編成約503トン |
最高速度 | 300km/h |
起動加速度 | 2.0km/h/s |
編成定格出力 | 10,260kw(285×9×4) |
制御方式 | VVVFインバータ 誘導電動機駆動 1C4M IGBT ベクトル制御 |
ブレーキ方式 | 回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ、付随車は渦電流ブレーキ(ECB):2セット/軸 |
700系との違いは次のような点である。
<車体関係> |
| ・ | 先頭部長さを9.2mから8mとした。トンネルの断面が90m2と日本64m2より大きいため、微気圧波上有利。顔の印象が変わっている。 |
| ・ | 35km/h程度までの速度で衝突しても衝撃を6G以下に抑えるため、車端部に衝突エネルギー吸収装置を設けている。 |
<客室関係> |
| ・ | 各客室内には大形スーツケースを置くための荷物置場があるが、スペース確保のため専用洗面所は省略されている。 |
| ・ | 身障者対応として、7号車に車いす対応座席4席と車いすが中で180度回転できる広い洋式便所を設けている。 |
| ・ | 1、5、11号車に飲料用自動販売機、5号車にワゴン販売用基地、7号車にビジネスクラス用供食サービスを行うギャレー(調理室)を設けている。 |
| ・ | 2、4、6、7、10、12号車に公衆電話が、各車両の内妻仕切りに異常時に乗務員と通話のできる非常通話装置を設けている。 |
| ・ | 非常時にハンマーによって破壊、脱出するため、各車片側3窓はペアガラスの外側ガラスを合わせガラスから強化ガラスに変更した。 |
| ・ | 車両に使用する材料は、英国規格(BS6853)準拠を基本とすることになり、内装材料、電線等が変わった。内妻仕切り部分には15分間の防火機能を持たせている。 |
| ・ | 主要機器からの出火、客室内の発煙を検知する火災検知システムが設置され、煙を検知した場合に換気装置の運転を制御して煙の拡散、侵入を防ぐ運転モードに切換える。 |
<側扉関係> |
| ・ | 側扉の開・閉は各側出入台に設けたドア制御盤を使用する。ATCが駅の定位置(誤差1m以内)に停車したことを検知すると運転台に表示灯が点灯、運転士がそれを確認して運転台のホーム側ドアリリーススイッチを扱うとこの制御盤の表示灯が点灯し、操作可能となる。
車掌は近くのドア制御盤に操作キーを差込み、開スイッチを押すとホーム側の全扉を開くことができる。ホーム確認後閉スイッチを押すと、車掌が操作している扉を除き他の扉が一斉に閉まる。車掌が他の扉の安全を確認後乗車、キーを操作すると自分の扉も閉まる。
このシステムは台湾国鉄や欧州で採用されている1人乗務を念頭においた方式で、新幹線で行なわれている駅進入、出発時の車掌によるホーム監視は行なわれないため、先頭車の乗務員用出入り口は廃止されている。 |
| ・ | 扉が閉まる時に乗客や荷物が挟まると、ドア開閉シリンダの背圧低下を検知して、その扉を再び開ける戸はさみ検知、再開閉制御を行う。 |
<運転関係> |
| ・ | 単線双方向運転を採用しており、上下線どちらでも走れるようになっているため運転取扱方法が異なっている。 |
| ・ | 保安装置には1段ブレーキのデジタルATCシステムが採用されている。しかし、本線上で1分間何も運転操作をしない場合にアラームが鳴動し、さらに5秒間確認動作をしない場合には中央指令にその情報が通知されるようになっている。ただし、ATCにより保安は確保されているので非常ブレーキの動作はしない。基地内では、デッドマン装置によりハンドルリリース後1秒でアラームが鳴動開始し、更に3秒後には非常ブレーキが動作する。
ATC故障時のバックアップとしてSPAD(SignalPassed AtDanger)と呼ばれるシステムが設置され、停止に設定されたトラポン地上子を列車が通過すると緊急ブレーキが動作する。 |
| ・ | 保護接地装置(EGS)は保守時の感電防止のみに使用されることになり、名称もPGS(Protective Grounding Switch)となった。緊急時にEGSを動作させて架線を強制接地して変電所のブレーカを飛ばし、この停電を検知することで走行中の列車には非常ブレーキがかかる日本の方式を採用せず、危険を察知した運転士がGeneralAlarmを作動させると、この列車の近くを走る列車に対し無線を利用して指令所経由で警報が送られ、これを受信した運転士が自分の判断で列車の停止手配を行うことになっている。 |
| ・ | 定点停止装置(Programmed Station Stop System)が搭載されており、300km/hから駅の所定停止位置に自動的に停止させることができる。 |
<力行・ブレーキ> |
| ・ | 300km/h運転としたことから、主電動機の出力を275kWから285kWにアップしている。 |
| ・ | T車の渦電流ブレーキは、連続勾配および35‰急勾配対策のため各軸2セットとしてブレーキカの向上を図った。 |
| ・ | 車両留置時の転勤防止のため、両先頭台車にはMR圧によって動作するばね式の駐車ブレーキが設けられた。 |
<台車> |
| ・ | 台車は300km/h運転の実績を求められたことから、500系新幹線電車で用いられている軸はり式の台車とした。 |
| ・ | 台車の異常振動発生時に、これを検知して運転士に警報を出す台車異常動揺検知装置が採用され、台車上に振動加速度計を設置している。 |
<パンタグラフ> |
| ・ | 架線の異常や障害物に衝突してパンタグラフ異常な荷重がかかった場合、枠に仕込まれたWeak Pointが破損し、このパンタグラフをすぐに下降させるとともに3秒以内に後位パンタグラフも自動的に降下させ、被害拡大を防ぐようになっている。 |
<換気装置> |
| ・ | 車外の気圧を検知して給気ファンと排気ファンを別々に回転数制御させる方式を採用した。一方のファンが故障しても必要最小限の換気量を確保することができる。 |
| ・ | 停電時にバッテリによって駆動される非常換気装置が車両の両妻面(先頭部はボンネット内)に設けられ、常時はダンパを締切って気密を保持しているが、運転時にはダンパを開き、各車両の一端のファンを給気、他端のファンを排気として換気する。停電10分後から30分間稼働し、CO2濃度を5000ppm以上に抑えることができる設計になっている。 |
<車両情報管理> |
| ・ | モニタ装置と運転支援装置が一体となった車上コンピュータOBC(On-Board Computer)を搭載し、運転士への処置ガイダンス、出庫前自己診断等を行なう。表示言語は英語と中国語(繁体字)の選択式となっている。
なお運転士が携帯していたICカードは廃止され、ICカードからロードしていた列車番号等は無線により送られる。 |
<通信関係> |
| ・ | 新幹線の漏洩同軸ケーブル(LCX)を使用した方式(ARIB)でなく、TETRAという独特の空間波を使ったシステムになっている。
新幹線の運転台にある列車無線電話、構内無線電話、車内連絡電話、業務無線電話を統合したようなTETRA電話機が運転室と車掌室に設置されており、車掌は移動中は欧州などの携帯電話規格のDECT携帯端末を携行し、6号車のTETRA無線装置を経由して中央指令等のTETRA無線装置と交信できる。
通話は乗務員間、乗務員-中央指令間だけでなく、車掌、最寄り駅駅員の3者間や地上に降りた車掌と運転士・中央指令の3者間、客室非常通報器を通して乗客と乗務員との通話も可能なようになっている。 |
その他の特有なシステム |
| ・ | TETRA列車無線による時刻配信遅れが、時刻配信には適さないため、GPSによる時計配信を採用した。 |
・ | 列車無線のデータ伝送機能を使って、機器の故障情報等を走行中に地上に送出できる。 |
開業に至るまでの経緯
台湾政府は平成元年頃から事業化調査等を行い、平成2年7月に交通部に高速鉄路工程準備所を設置、当時、ドイツのICEは開業していなかったが、高速鉄道技術を持つ日本、フランス、ドイツからヒヤリングを行なった。日本はJR東海が最高速度270km/h運転の300系新幹線電車を開発中の頃で、既にTGV大西洋線で300km/h運転を開始していたフランス主導で計画がまとめられたと言われる。その後台湾側の事情で空白があり、平成5年には立法院で新線建設の予算が否決されたため、別な方法を模索した。平成8年10月に事業をBOT(build on Transfer:民間活用の1方式で、民間に建設、一定期間運営させ、資金回収後委譲を受ける方式。台湾新幹線の場合35年)方式で建設することを決定、BOT事業者を募集した。
その際、交通部高速鉄路工程局(BOTHSR)の提示した建設規格は
・ 曲線半径6250m、軌間1,435mm
・ 800座席以上
・ 台北-高雄間は台中での3分を含み90分以下
・ 15列車/時間の容量で、3分に1本の列車が発車できること
など基本的なもののみ決めて、他は事業車の計画を尊重するようにした。
その結果、土地を除き総事業費4,600億台湾元(約1兆6000億円)というこのビッグプロジェクトは、韓国新幹線に続いて日欧の競争になり、日本連合(三菱重工業、東芝、川崎重工業、三井物産、三菱商事、住友商事、丸紅の7社)が押す中華開発等の中華高速鉄路連盟と欧州連合(独:シーメンス、仏:GECアルストム)の押す大陸工程・東元電機・太平洋電線・長栄海運・富邦産物保険の台湾高速鉄路連盟の台湾企業2社の競争になった。
日本は既に実績の積んだ300系を基に計画を構築し、欧州勢は台北駅の制限から編成長300m以下という条件を満足させるために、ドイツICE機関車+TGV-Duplexの2階建て客車という変則的なものであった。日本の新幹線は問題ないが(16両400mで1320人なので300mで900人は可能)、1編成が200mの通常のTGV編成は両端の機関車以外の客車を増結すればよいが、4列座席のTGV-Réseauは10両編成200mの定員が377人(機関車は22.2m、連接客車は18.7m(機関車の隣は21.8m))で客車を増結しても定員が不足するため、TGV-Duplexの2階建て客車を12両使い、客車の全体重量が増加するため軸重17tのTGV機関車では牽引力が不足してしまうので軸重19.5tで出力も大きいドイツICE機関車を使うというハイブリッド編成とした。
各々技術提案、資金計画等を説明してその内容の優劣の競争となったが、平成9年9月に交通部はTGV機関車+ICE客車という欧州方式の台湾高鉄連盟側に優先交渉権を与えることを決定し、翌10年5月には連盟を母体に事業会社の台灣高速鐵路股份有限公司(台湾高鉄)が発足した。
日本は仕様的には圧倒的に有利と思われたが、作成した資料が個々の技術分野を合体したようなもので、システムとしての整合性が不十分、説明下手等が重なり採点は同点で、総工事費が20%程度大きく、政府負担の有無という融資条件でも不利だったため欧州勢に敗れたといわれている。
それでも日本側は巻き返しを図り、走行実績の無いハイブリッド編成の弱点を突くと欧州勢は平成10年5月にICE機関車+TGV-Duplexを使ったEUROTRAINのドイツ国内でプレゼンテーション走行を行うなど相互に応酬し合った。欧州勢は新幹線に対して座席が極端に狭いなど事実と異なる徹底的なネガティブキャンペーンを行なった。
台湾高鉄は、その後、全体工区を下の図のように5つに分け、主に土木、軌道、駅、車両や電気設備の機械電気アシステム、車両基地などの工事発注とプロジェクト管理のコンサル契約を行なうこととした。
交通部との事業権契約期限は7月1日だったが、欧州側や政府との融資等の条件で中々折り合いがつかず、更に6月3日にはドイツのエシェンデでICE1が脱線・転覆し98名が死亡するという大惨事が発生、営業運転実績の無い欧州方式に対する不安が芽生えるなどの情勢変化があり、7月23日の事業権締結の際には「欧州方式前提に提案書を作成したが決定したものではなく、今後1年をかけて技術面、安全性、価格の面から最適なシステムを受け入れる」という内容が盛り込まれた。
日本連合にも再挑戦の機会が与えられることになったわけで、これを機会に国交のない両政府の非公式的な接触や日本に理解のある李登輝総裁が動き、更に日本連合はメーカー主体の先の提案失敗を反省し、価格、融資、安全性の面で巻き返しを図るため、新幹線を運営するJR東海・西日本、鉄道のコンサルである日本鉄道技術協会(JARTS)、新幹線建設を行う鉄道公団の支援も受けて巻き返しを図ることになった。タイミング良く平成9年3月にはJR西日本の500系が300km/h営業運転を開始しており、平成9年10月1日の長野新幹線開業に合わせた急勾配対応E2系、300系の後継の700系の登場など高速新幹線車両が相次いで登場した。日本側は平成9年9月に量産先行車が落成した700系車両を基に新たな提案書を作成、11月以降台湾高鉄等に対するプレゼンテーションを行ったり、台湾マスコミを招待しての日本の新幹線の試乗会などを積極的に行なった。
平成11年9月12日には偶然にも台湾で2800人以上が犠牲となる大きな地震が発生し、これに対し、日本連合は欧州連合にはない日本の耐震技術や被災時の復旧対策等について説明を行うなどして、徐々に優位性を強めていった。
その結果、技術面のほか融資条件等からも巻き返しに成功し、台湾高鉄は平成11年12月28日に日本に優先交渉権を与えると発表した。翌12年6月13日には日本の車両システム受注の覚書に調印、7月には日本連合7社が特定投資目的会社「台湾新幹線(株)」を設立して体制を整えた。
欧州グループは契約違反として国際ビジネス紛争の仲裁期間である国際商業会議所(ICC)に提訴、平成16年11月に6500万ドルを支払うことで和解している。
平成12年12月12日に日本で台湾高鉄と台湾新幹線(株)の間で「台湾高速鉄道機電システム契約調印式」が行われ、日本連合7社が正式に受注することに決定、新幹線システムの最初の輸出となる。
プロジェクトの内容は、全体取りまとめが三菱重工で、幹事社は車両が川重(700系ベース360両:12両編成×30本)、電車線・信号・通信・防災が三菱重工、変電・車両用電気品・運行管理・列車無線・運転シミュレーター・旅客案内システムが東芝となり、総額は3,320億円(950億台湾ドル)となった。そのうち、2,200億程度は国際協力銀行と民間銀行の協調融資で賄うとともに通産省の貿易保険も確保した。
項 目 | 諸 元 |
電気方式 | 交流25000V 60Hz |
軌間 | 1,435mm |
最高(設計最高)速度 | 300(350)km/h |
最急勾配 | 25‰。特別な場合35‰ |
最小曲線半径 | 6250m。特別な場合5500m |
軌道中心間隔 | 4.5m |
軌道 | 60kgレール |
最大軸重 | 21.5t(UIC) [東海道:16t] |
トンネル断面積 | 90m2 [東海道:64m2] |
機電システムを日本が逆転受注したが、台湾高鉄の建設規格は先行していた欧州方式の仕様のままとなっており、右表のように、最大軸重21.5t、トンネル断面90m2などと新幹線と比較して大きなものになっていた。
土木工事は12工区に分割され、平成12年4月1日以降順次着工されてゆき、日本企業は地元企業と組み、5工区を受注しているが、韓国、ドイツ、オランダの企業なども一部参加している。
軌道工事は5工区に分割され、平成13年11月〜14年1月に工区毎に国際競争入札を実施、その後、技術・納期・価格などが審査されたが、日本連合は軌道は車両と一体不可分のものとして受注に積極的に取り組み、全5工区のうち、南側高雄寄りの4、5(先行試験区間)工区のスラブ、レール、締結装置などについて7社に日本の軌道会社等を加えた台湾新幹線軌道共同企業体(TSTJV)が約300億新台湾ドル(約1050億円)で受注に成功、平成14年7月23日に正式調印した。1工区(15.8km)はオーストラリアの建設大手レイトン・ホールディングスとを中心とするヨーロッパ・オーストラリア・台湾連合が1億8千万豪ドル(117億円)で8月に受注した。残りの2、3工区についても受注に向けた活動を続け、約1000億円でTSTJVが受注に成功、平成15年1月23日に日本で調印式を行った。平成15年1月23日に軌道工事に着手、7月17日からはレール敷設が開始された。
新設する6駅についても、平成14年5月以降着工され、全ての駅で日本の建設業者が地元企業と組んで受注している。
日本の新幹線技術をベースに進められると思われたが、仕様の変更は他の工事が進んでいたためか見直しが行われないまま欧州方式の規格がそのまま残ってしまい、更に台湾高鉄やそのコンサルタントには欧州方式しか知らないお雇い外国人技術者が多く残っていたため、新幹線の技術等について根拠等細部まで説明が求められ、更に欧州方式を押し付けられるなど契約したとはいえその後の考え方の違いを埋めるのに時間を要し、その承認も遅れ、平成13年4月から始められた電気工事を主体に工事の遅れが生じるようになる。
平成16年1月30日には川崎重工神戸工場で700Tの最初の編成が完成、5月19日神戸港を出港し、24日に高雄港に到着、翌日陸揚げされ、同港で殷h会長出席の元で歓迎式典が行なわれ、高雄港から燕巣総合機廠への運搬が開始された。29日には基地に仮入庫、ここでも盛大に式典が行なわれた(平成17年11月6日には30編成全てが高雄に到着)。
建設工事は仕様調整の遅れた電気工事を主体に遅れ気味ではあったが、試験線として先行建設された台南と高雄間58kmで平成16年10月に軌道、電気工事が、12月に土木工事が終了し、平成17年1月11日にはJR西寄贈の0系先頭車とJR東寄贈のDD16改による構造物の限界確認走行が行なわれ、27日には営業車による初の試運転(30km/h)が行なわれた。4月1日120km/h、8月30日200km/h、10月29日300km/h、10月30日に目標最高速度315km/hと順調に速度向上が行なわれたが、この間の9月8日には工期の遅れから、開業を平成18年10月に約1年延期すると発表している。
平成18年1月からは一般線区での走行試験も開始され、3月16日には台中駅まで到達したが、工事が遅れていたため、4月19日には10月の開業は板橋-高雄左榮間の暫定開業で台北までは翌年1月になると発表した。
平成18年10月5日からは台北〜板橋での走行試験が開始されたが、21日には10月暫定開業は再延期されてしまう。
10月31日には車両基地から本線に出場しようとした700T第6編成がCTCのミスによって脱線器に乗り上げて脱輪するという事故が発生する。
10月24日には台北駅が完成するなど各駅も順次完成し、走行試験も順調に推移したため、平成18年11月に具体的な開業日を公表しないまま12月7日に開業式典を開催することを決定、国内外関係要人に招待状を送付したが、11月24日には軌道確認用作業車が営業線内で脱線するという事故が発生してしまう。28日に開催された交通部の高鉄実地監査委員会の最終会議で監査には合格したが、開業可否を審査した結果、営業運転許可証発行のための6項目の決議と31の改善すべき項目が提出された。
決議の中には、
○ | 開業までにピーク時の列車運転本数による走行試験を連続2週間に亘り毎日90分、発車間隔10分以内での上下線運転を実施のこと。 |
○ | 確認車の事故が発生した11月24日から連続1ヶ月間無事故で走行試験を実施すること |
というような項目があり、正式開業日は早くて12月23日になるため、交通部の指摘事項をクリアするまでは開業式典も延期せざるを得ないと判断し、直前の29日に式典延期を発表した。開業日と開業式典は別のものと考えていたという台湾高鉄の説明であった。
その後順調に推移し、26日には営業運転許可をもらい、29日には翌19年1月5日に開業することに決定した。
26日には試験運転中にマグニチュード6.7の地震(2006年恆春地震)が発生、台南-左榮間で揺れを感知して自動的に停車したが、この地震による被害はなく、安全性が確認された。
1月5日7時に1番列車が発車し、工事の遅れた台北-板橋間約7kmを除く板橋-左営(高雄市)間ではあるが、1日19往復の運行で試験営業を開始した。最初の15日間は正規運賃1460元(約5300円)の半額とし、20日からは通常営業に入る予定であったが、駅務システム等にトラブルが続出したため、31日まで延伸させられた。2月6日には台北までの全線開業を3月2日にすると公表した。
台湾高鉄側との協議が具体化する中で、最初は協力していたJR東海も、新幹線は車両、地上設備、運行管理等のソフト等が1つのシステムとして高速大量輸送の安全性を確保しており、JRの主張を受け入れない混成システムでは開業後の安全な運行に責任をもてないとして、当初計画していた乗務員の養成、車両保守指導等を途中で断った(主要な技術スタッフは残して最後まで協力はしている)。そのためか、フランスから招聘した高速鉄道運転経験者による運転士教育が行なわれたが、指令や乗務員間は英語を使用するなど、その養成に時間がかかっており、運転手不足が課題となっている。
台湾高鉄は優れた技術を組み合わせた「ベストミックス」としているが、自国の鉄道の専門家がいないため海外の技術者の寄り合い所帯になっていること、コスト優先の契約の都合などから統一されたシステムになっていないことは否めず、最初は小さなトラブルで済むが中長期的に安定運行するためには運営しながらの台湾にあった改善や設備、車両保守技術者の育成などコストのかかる事柄をいかにBOT事業の中で実施できるかにかかっている。
中国
中国の鉄道は、平成17年初時点で全長75000km、複線率34%、電化率26%で、速度120km/h以上の路線延長は22,000km、160km/h以上は14,000km、200km/h以上は5,400kmに達しているといわれ、担当する鉄道部は建設工事の施工、車両の製作なども自前で行い、鉄道の大学も持っている。
胡錦涛体制で抜擢された劉志軍・鉄道部長は道路整備より遅れている鉄道部門の飛躍的発展を図るため、鉄道ネットワークの大幅な整備等の方針を打ち出し、平成18年度からの11次5カ年計画では、期間中に、9800kmの旅客専用線を建設、そのうちの5500kmでは300km/h運転を行なうとしている。
平成20年の北京オリンピック開催に向け、北京-上海間(約1300km)に高速新線(「京滬高速鉄道」)を建設する予定であったが、計画は大幅に遅れ、方針変更、平成19年4月から海外の代表的な高速鉄道の車両を先ず在来線に導入してその高速化を進め、そこで得られた技術をベースに高速車両を自主開発して高速新線に投入する計画となっている。北京-上海間は平成18年4月にあらためて上海万博が開催される平成22年春営業開始を発表したが、実現性は不明。
平成17年6月23日には「中長期鉄路網計画」に基づき、国務院が初めて承認した武漢-広州間の旅客鉄道新線の工事が湖南省長沙市の瀏陽河特大橋建設予定地で始まった。総延長995km、投資総額930億元で、平成22年までに全線開通し、時速200km/h以上での運転を目指す。完成すれば、武漢-広州間は高速列車で約4時間で結ばれる。中国がこれまでに建設した鉄道路線の中で総延長が最長であり、投資額、技術レベルとも最高の旅客鉄道になるという。
第11次5カ年計画期間中(平成18〜22年)に新たに建設する最高速度300km/hで以上走行可能な高速新線は、京滬(北京-上海)、京広(北京-広州)、瀋大(瀋陽-大連)、隴海(連雲港-蘭州)など、最高速度200km/h程度の都市間輸送用新線は京津(北京-天津)、滬寧(上海-南京)、滬杭(上海-杭州)、寧杭(南京-杭州)、広深(広州-深圳)、広珠(広州-珠海)などで、いずれも旅客専用線となる。
これら高速新線の建設に当っては、車両、信号等の技術は海外から導入することとしているが、韓国がTGVの技術を座席の向きまでそのまま採用したように1つの方式に限定せず、海外の実績のある高速鉄道の技術を導入、習得、経験を積み重ね、完全な自主技術を開発する方針としており、 高速鉄道を持つ国あるい会社の車両を中国仕様に一部変更させて中国の車両製作会社と合弁で製造させ、当面在来線に走らせて比較するとともに技術移転を図るもので、将来の高速車両の自主開発、製作を見据えていると思われる。
そのため、平成16年にカナダ、日本、ドイツ、フランスの高速車両メーカーと車両製作合弁事業を契約、平成19年度からの第6次在来線高速化プロジェクトに「CRH:China Railway High-speed)」とよぶ高速車両を主な在来線に投入した。
当面、200km/h以上の列車の技術を導入、技術習得をしたうえで、300km/hの旅客専用線の需要をにらんで、実際の車両開発を進めることとしており、北京-上海間で使用する資材と技術の国産化率は70%以上とし、速度は最低でも300km/hとして北京-上海間を5時間で結びたいとしている。
この平成19年度からの第6次在来線高速化のための車両は「中速車」と呼んでいるが、MT比や一部機器の変更によって300km/h運転が可能になるため、そのまま在来線の高速車両を高速車両に採用する可能性もある。
主な「中速車」の共通的な内容は、
・ | フランスのTGVのように両端に機関車のある動力集中方式(プッシュプル)でなく、新幹線のような電車(EMU)方式とする。動力集中か分散かという議論があったかどうか不明だが、高速大量輸送には新幹線方式が優れているという判断か。 |
・ | 最高速度は200km/h以上とする。日本の新幹線は「全国新幹線整備法」で「主たる区間を最高速度200km/h以上で走行できる幹線鉄道」と堅苦しく定義されているが、中国でも法的な裏付けは別として、時速200km/h以上の高速列車を「CRH」(China
Railway
High-speed)と呼ぶことにした。車体にもCRHのロゴが記されているが、弾丸を意味している「子弾頭」という愛称が付いている。 |
・ | 3編成は完成車をメーカーから購入し、6編成は部品の状態で中国側に引き渡して組み立てを中国で行い、残りは一部の高度な技術を要する部品をメーカー側から提供して中国の車両メーカーで製造、段階的に国産化率を高めて行く。 |
というものである。
これに対して、カナダはボンバルディア、日本は川崎重工、日立などの連合、フランスはアルストムが応じたが、ドイツのシーメンスは中国企業との交渉決裂で不参加になったと言われている。
電車方式で最も実績があるのが日本の新幹線で、次にドイツのICE3、アルストムはTGVに代表される機関車方式では世界をリードしたが電車方式は未知数、ボンバルディアはアスルトムとアムトラック-アセラを製作、技術導入したが電車方式は未知数というのが実態と思われ、新幹線は圧倒的に優位であるが、反日の国民感情が問題になる。
車両以外にも、信号、軌道についても技術導入を図ることとしているが、日本は車両・信号・運行管理が一体で高速鉄道の信頼性を確保するものであり、特に台湾新幹線で混合システムに苦労したJR各社はこの3点セットでなければ協力できないという立場をとっている。
信号は一般にレールを利用した軌道回路によって構成されるため、軌道構造との関係が大きいが、軌道については、中国で一般的なバラスト軌道でなく、高速新線では軌道の保守やバラスト飛散等の問題から、日本の新幹線の「スラブ」軌道のような直結軌道方式の技術導入も計画している。
現在、在来線区間での高速化に向けた走行試験が行われている遂渝鉄道(四川省・「遂寧-重慶」間)において、一部区間(全長13.16km)に日本の技術を導入した「スラブ」軌道を敷設して試験しているが、平成19年1月3日から総合テストが開始された。
独シーメンスは平成18年4月に「北京〜上海」高速鉄道の信号システムを受注したと公表しているが、フランスの方式を採用した区間もあるなど、車両・信号・運行管理を統一することは難しくなっており、中国鉄道部が良いとこ取りで車両、信号、軌道を個別にメーカーと契約して進めて行くと路線の多い中国では台湾新幹線よりも大きな問題が発生する可能性がある。
在来線の高速化に投入される車両の概要は次のようなものである。
CRH1型電車
カナダのボンバルディア社と合弁で導入する8両編成の電車。
ボンバルディア社はカナダに本社を置く重工業メーカーで、ダイムラー・ベンツグループの鉄道システム部門AEGとスウェーデンの総合電機メーカーアセア・ブラウン・ボベリ(ABB)の鉄道システム部門とが統合されてできた「アドトランツ」を平成13年に買収するなど小が大を飲むような積極的な事業展開を図り、世界第2位の鉄道車両メーカーとなった。
高速車両の独自のブランドは持っておらず、具体的なイメージは不明だが、アメリカのアムトラックが東部の北東回廊線ボストン-ニューヨーク-ワシントンD.C間に投入した「アセラ・エクスプレス」(平成12年開業)をフランスTGVの技術をベースにフランスのアルストム社と組んで製造した実績を持つ。
ボンバルディア社は日本連合と同じ山東省青島の南車四方機車車両と合弁を組む。
CRH2型電車
川崎重工などの日本企業連合と合弁で導入する8両編成(定員610人)の電車。
JR東日本の了解を得て、東北新幹線E2系1000番台(「はやて」)をベースに製造するもので、2編成を連結して16両編成とすることも可能。
日本企業連合は平成16年に60編成を受注したが、3編成は完成車を納入し、6編成は部品の状態で中国側に引き渡して組み立てを中国で行い、残りは一部の高度な技術を要する部品を日本側から提供して山東省青島にある南車四方機車車両股份有限公司で生産、段階的に国産化率を高めるということになっている。
最初の車両は平成18年3月8日に中国鉄道部に引き渡され、同11月には1編成ごとに済南、武漢、北京、鄭州、上海、および南昌(編成番号は順に001,002,011,012,016,017)の各鉄道局に配置され、12月21日には隴海線の「西安〜宝鶏」区間(全長173km)で時速200km/hの試験走行を実施していた。
「春節」(旧正月)前の平成19年1月28日にこのCRH2型高速旅客電車が営業線に登場、上海南駅−杭州駅(171km)間を5往復半、上海駅−南京駅(303km)間を2往復運転され、「CRH」の実用化第一号となった。運賃は普通車がそれぞれ44元(約690円)、72元(約1120円)。
この日は試運転も兼ねているため最高速度は在来列車と同じ160km/hだったが、4月18日のダイヤ改正以降在来線高速化のために本格的に投入され、最高速度200〜250km/hに向上する。
主電動機はE2系1000番台と同じだが、MT構成を8M2Tから4M4Tと変更しているため、営業最高速度はE2系1000番台の275km/hより低い250km/hとなっている。
なおこのCRH2をベースにして、MT比を6M2Tに上げ、最高速度を330km/hとしたものをCRH4とするという話があるが不明。
CRH3型電車
ドイツの高速車両ICE1〜3を製造したシーメンス社と合弁で導入する8両編成の電車。
平成17年に、電車方式のICE3をベースの最高速度200km/hの在来線高速化用と最高速度300km/hの高速鉄道用の計100編成を製造し、中速車の60編成について、3編成はドイツで製造、6編成は部品の状態で中国側に引き渡して中国で組み立て、残りは中国への技術移転によって現地企業との合弁で製造することになった。
2008年に営業運転が開始される見込みといわれているが、シーメンス・中国企業との交渉決裂で不参加とも言われている。
CRH5型電車
フランスの高速車両TGVを製造したアルストム社と合弁で導入する8両編成の電車。
電気機関車方式のTGVの技術をベースに動力分散方式の電車方式を採用するとしているが、アルストム自身は高速電車の実績は無い。製造はイタリアで行い、振子機能を持たせるということから、平成14年に買収したETR460などの高速振子電車を開発したイタリアのフィアット社鉄道車両部門で対応するものと思われる。
他と同様に、アルストムは60編成受注し、3編成はイタリアで製造して完成車を納入し、6編成は部品の状態で中国側に引き渡して組み立てを中国で行い、残りの51編成は中国への技術移転によって吉林省長春にある軌道客車廠が製造する。
平成18年12月11日にイタリアから長春へ船便で発送、翌年1月に到着し、中国組立分については平成19年春に鉄道部に納入。
アメリカ
・Acela Express
平成12年12月11日から営業運行を開始したアメリカ版新幹線。同年末、ワシントン・ニューヨーク・ボストン間のいわゆる北東回廊改良計画が完成したのを受けて、アメリカ鉄道旅客輸送公社(Amtrak:アムトラック)が同線に投入したもので、最高時速150マイル(約241km/h)。かつて、AmericanFlyerといっていた。
機関車+中間客車6両+機関車編成で、編成定格9,200kW、列車長200m、定員304名(ファースト:横3人掛け・シートピッチ42インチ(107cm)・44人、ビジネス:横4人掛け・シートピッチ42インチ(107cm)・260人)。全部で20編成ある。
TGV技術を採用した強制振り子車両で、カナダのBombardierとフランスのGEC Alsthomからなるコンソーシアムが製造した。
平成1211月16日に招待客を乗せた1番列車がワシントンのユニオン駅を出発、2時間26分でニューヨークに、更に3時間23分後にボストンに到着した。従来の列車よりワシントン〜ボストン間で約1時間15分の短縮になった。
アメリカのコロラド州にあるプエブロ試験線で日本の軌間可変電車と同様に高速走行試験を実施した。Acelaが先に走行試験をしていた関係で日本のGCT-01は夜間しか走行させてもらえず、1日8時間しか走れなかった。従って、試験は夜、視察・見学は早朝のみであったが、
(予定から遅れて)Acelaが出てからは走行時間を増やせたので走行試験の進捗が格段に進んだという。
営業開始後、トラブルが色々発生しており、機関車のヨーダンパブラケットの亀裂発見や高温によるレール張り出しのために脱線して100人以上の負傷者を出すなどで厳しい経営が続いている。
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