企業訪問 2004.4/vol.7-No.1

「女子十二楽坊」が売れる理由
 12人の中国美女によって結成された「女子十二楽坊」が、今、日本中に一大旋風を巻き起こしている。中国の民族楽器奏者のCDをミリオンセラーにしたプラティア・エンタテインメント 代表取締役社長 塔本一馬氏に話を聞いた。
塔本一馬氏 CDが売れなくなったといわれて久しい。日本レコード協会によると、オーディオレコードの生産量は1998年の6075億円をピークに減少を続け、2003年にはついに4000億円を割り込んだ。たった5年間で3分の1もの売り上げが蒸発した計算になる。
 100万枚以上売れた、いわゆるミリオンセラー作品数も、1998年の48から2003年には11にまで落ち込んだ。
 浜崎あゆみやSMAPなど、数少ない2003年のミリオンセラーの中で、一際異彩を放ったのが中国で結成された音楽ユニット「女子十二楽坊」だ。昨年7月24日にリリースされたファーストアルバム「女子十二楽坊〜Beautiful Energy〜」は売り上げ枚数200万枚を突破し、今年3月3日にリリースされた第2弾オリジナルアルバム「輝煌〜Shining Energy〜」もヒットチャート一位を記録。これもミリオンを狙う勢いだ。この女子十二楽坊を日本で仕掛け、社会現象化させたのがプラティア・エンタテインメントだ。

最初に確保する宣伝費

 同社は昨年3月に設立された社員数わずか14人のレコード会社だ。
 社長の塔本氏はCBS・ソニー(現SMEJ)販売促進部長からポニーキャニオン取締役宣伝部長、ワーナー・ミュージック・ジャパン取締役制作宣伝管理本部長など、大手レコード会社の宣伝畑で手腕を発揮してきた。古くはおにゃん子クラブで一世を風靡し、最近でもエンヤのベストアルバムを映画「冷静と情熱のあいだ」とのタイアップでミリオンセラーにさせるなど、業界でもヒット請負人としてつとに有名だ。
 そんな彼が新会社を興し、第1弾のアルバム「女子十二楽坊」でいきなり大勝負に出た。新人としては通常の10倍、イニシャル(初回出荷枚数)を3万枚に設定したのだ。
 「このアルバムを買う人はめったにレコード店に来ない人だろうと想定した。よって、店に入ってすぐ分かるところに置いてもらう必要がある。そのためにはいくらイニシャルが必要かと考えたところが3万枚だった」と語る。
 ただ、3万枚出荷しても、売るためには仕掛けが必要だ。同社は大量のテレビスポットと番組タイアップなどで女子十二楽坊をメディアに積極的に露出させる作戦に出た。当時、宣伝費だけで2億円がつぎ込まれたという。「おかげで、最低20万枚売れないと採算が取れないことになった」と笑うが、そもそも既存のレコード会社と宣伝費の考え方が根本的に違っている。
 「宣伝費をいかにして作るか、というのを大事にしている。他のレコード会社は宣伝費を制作費の残りから捻出するため、場合によっては使えないケースもある。うちは最初に宣伝費を確保する。宣伝費を作るために人を入れないし、リリース数も減らしている」

レンタルさせない価格設定

 同社のCDの特徴は、DVDが同梱されていることだ。CDとDVDの2枚組みでありながら価格はCD1枚分に据え置かれている。女子十二楽坊の「輝煌〜Shining Energy〜」も、十五曲入ったCDと1月2日に行われた日本武道館公演が完全収録されたDVDがセットになって税込み2980円。通常は5000円から6000円に設定される場合が多いだけに、お買い得感はかなり強い。
 「たくさんの人に買って欲しいからだ。レンタルする方が損だと気付いてくれるだろう」
 しかし、今回採算ラインはさらに上がり、40万枚売れて初めてペイすることになったという。多少売れ行きが悪くなっても、価格を上げる考えはなかったのだろうか。
 「確かに今の楽坊なら5000円でも売れるだろうが、そうすると買えなくなる人も出てくる。それよりも、価格を安くすることによって、より多くの人々に買ってもらいたい。今後5年間、彼女たちを日本で良い形で成功させるためにはマーケットを小さくしてはいけないのだ」

プラティアUSA設立へ

3月3日にリリースされた女子十二楽坊オリジナルアルバム第2弾「輝煌〜Shining Energy〜」
 日本で紅白出場、武道館コンサートを成功させた女子十二楽坊は、その余勢を駆って次の舞台をアメリカに求めようとしている。
 「女子十二楽坊にはオリジナリティーがある。今までのアメリカにはなかったサウンドだ。順調にいけば、夏にもCDリリースが可能だ」
 同時にプラティア・エンタテインメントのアメリカ進出も計画されているという。「ライセンス契約の話は来ているが、それでは面白くないのでプラティアUSAを作ろうかと思っている。流通のみどこかのレコード会社に任せるつもりだ」
 現在、同社は女子十二楽坊を含め4組の所属アーティストを抱えているが、これ以上増やすつもりはないと話す。「増やすと会社を大きくしなくてはならなくなる。そうすると、既存のメーカーと変わらなくなる」
 そのため、今後も正社員数は最大20人にとどめるという。1人当たり5億円、全体で100億円の売り上げが最終目標だ。「初年度も売り上げ50億円を超えたから、その数字も夢物語とは思っていない」
 5月末に同社4番目のアーティスト「大沢あかね」をアイドルとしてデビューさせる。アイドル不遇の時代にどのような仕掛けで売り出すか。今後も同社の動向から目が離せそうにない。

(佐藤)
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