【第1回】 2009年04月30日
日本の出版社を突如襲った
“想定外”の和解問題
グーグルはこの訴訟において被告でしたから、集団訴訟として扱われると、和解金についても訴訟に参加していなかった者に対しても払わなければなりません。普通に考えれば避けたい処理でしょう。しかし集団訴訟にしてしまえば、訴えてこなかった権利者に対しても和解の効力を押し付けることができます。金銭的負担さえ覚悟すれば獲得したい権利を短期間で全て獲得できるのですから、もしこの処理をグーグル側が求めたのであれば、技をかけてきた作家組合らに返し技をかけて一本とりにきた、という印象です。
こうして、集団訴訟によってすべての権利者にこの和解の効力が及ぶことになりましたが、これが海外の権利者にまで効力を及ぼすことになったのは、二つめのロジックである「ベルヌ条約」です。
「ベルヌ条約」は著作権に関する国際条約であり、ほとんどの国が加盟しています。著作権は本来創作された国の著作権法により保護されていますが、「ベルヌ条約」の加盟国間では自国の著作物と同等の保護が求められますので、日本の著作物でも、アメリカにおいてはアメリカの著作物と同じように保護されることになります。逆にアメリカの著作物に対して許されている使用方法は、日本の著作物に対しても許されることになります。このことにより、日本の著作物にもアメリカ国内においてこの和解の効力が及ぶことになったのです。
「和解以外は現実的でない」
出版業界の行く末とは
このように、日本の著作物であってもこの和解の効力が及ぶことになったため、権利者は和解に参加するのか、それとも離脱(オプト・アウト)するのかという選択肢を迫られることになりました。期限は今年の5月5日です。何の行動も起こさなければ和解に参加したことになり、離脱するならば、和解管理ウェブサイトを通してその旨を通知しなければなりません。
和解に参加した場合、すでにグーグルによってデジタル化されている書籍1冊あたり60ドルを和解金として受けとるほか、2011年4月5日までに通知することによって、グーグルのデータベースから書籍データを除去することを請求できます。また、データベースはいろいろな形で利用されることになっていますが、画面上で本文を読むことができるような使い方については、いつでも使用停止を請求することができます。データベースの利用方法についてはいくつか考えなければならない問題がありますので、回を改めてレポートしていきます。
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村瀬拓男
(弁護士)
1985年東京大学工学部卒。同年、新潮社へ入社。雑誌編集者から映像関連、電子メディア関連など幅広く経験をもつ。2005年同社を退社。06年より弁護士として独立。新潮社の法務業務を担当する傍ら、著作権関連問題に詳しい弁護士として知られる。
グーグルの書籍データベース化をめぐる著作権訴訟問題は、当事国の米に留まらず日本にも波及している。本連載では、このグーグル和解の本質と、デジタル化がもたらす活字ビジネスの変容を描いていく。