きょうの社説 2009年5月2日

◎「熱狂の日」金沢 都心部に音楽あふれてこそ
 モーツァルトをテーマに開催されている「ラ・フォル・ジュルネ金沢『熱狂の日』音楽 祭2009」が佳境を迎えた。昨年は大成功を収めただけに、今年は早くから「音楽漬け」の大型連休を過ごす計画を立てていた人も多いだろう。あの熱狂の再現が期待される。

 ただ、音楽祭のクライマックスとも言うべき、三日間の本公演が、昨年と同じように県 立音楽堂などJR金沢駅周辺に集中しており、都心部での日程がほとんど組まれていないのは、残念な気がする。まちなかにも音楽があふれ、それに誘われて人も回遊するような仕掛けがもっといるのではないか。

 今年は、会期前半にはまちなかにもモーツァルトが響いた。北國新聞赤羽(あかばね) ホールの「ガラコンサート」を皮切りに、近江町いちば館や石川四高記念文化交流館、金沢21世紀美術館でもコンサートや関連イベントが催され、熱狂の一端をまちなかにも伝えた。ほぼすべてが駅周辺で完結していた昨年と比べれば前進だろうが、あくまでプレイベントの位置づけであり、物足りない。

 昨年の音楽祭には、目標の五万人を大幅に上回る八万四千人が詰めかけた。あれだけの にぎわいを駅周辺に囲い込んでしまうのはもったいない。良質な音楽の余韻に浸りながら買い物や飲食を楽しむ姿が、駅周辺だけではなく、まちなかでも見られるようになれば、まち全体が活気づくに違いない。金沢ほどの規模の都市ならば、会場を多少分散させたとしても、歩ける範囲内にあり、「たくさんのコンサートをはしごして楽しむ」という醍醐味は保てよう。音楽祭を大型連休の定番行事として、まちの活性化につなげていく上で、考えなければならない課題だろう。

 まちなかには、音楽を楽しむ場として使える施設がいくつもある。旧県庁舎を改修して 来春オープンする「しいのき迎賓館」も、会場に活用できそうだ。まち全体を舞台に見立て、こうした個性的な「器」も上手に生かせば、音楽祭の魅力はさらに増すだろう。きょうから三日間、優雅な旋律に耳を傾けながら、そんな音楽祭の将来像にも思いをめぐらせたい。

◎外国人介護士の求人 受け入れ施設任せに限界
 経済連携協定(EPA)に基づくインドネシアからの介護福祉士、看護師候補の受け入 れ事業は、インドネシア側の就労希望者の多さに対して、日本側の介護施設や病院の求人が低調なため、半数近くが来日できない恐れがあるという。

 人手不足のはずの施設からの求人が少ない一因は、日本語教育やサポート態勢の整備な ど施設側の負担が大きいためとみられ、施設任せの受け入れ事業の限界が表面化したとも言える。政府は介護、医療分野の外国人労働者の受け入れ態勢や支援の在り方を考え直す必要があるのではないか。

 インドネシアとのEPAでは、最大で介護福祉士六百人、看護師四百人の計千人を二年 間で受け入れることに合意しており、昨年度は二百八人の候補者が就労した。今年度は計六百十人の候補者に対して、日本側の求人は締め切り日の四月二十日現在で三百六十人にとどまっている。

 人数が見込みより大幅に少ない背景には、日本政府の中途半端な姿勢もある。政府は原 則として外国の単純労働者を受け入れていない。インドネシアとフィリピンからの介護福祉士、看護師の受け入れはあくまでEPAに基づく例外措置であり、人手不足解消のためではないという立場である。

 受け入れの判断と指導は施設側にゆだねられており、採用に熱心な施設は、インドネシ ア人通訳による相談態勢を敷くなど自力で手厚い支援を行っている。しかし、受け入れの負担に応じる余力の乏しさから、求人を控える施設も少なくないとみられる。

 欧米では外国人が医療の重要な担い手になっており、人材の獲得競争が激しい。今回、 日本が受け入れる候補者が働き続けるには、一定期間内に日本の国家試験に合格しなければならない。現在の施設任せの態勢で、そのハードルを越えられる人が少ないとなれば、今後、日本での就労を希望する外国の介護・看護人材が出てこなくなる心配もある。EPAという経済政策だけでなく医療・福祉政策の面から外国人労働者の位置づけを根本的に考えてもらいたい。