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電子スピンの状態を、光パルスで完全制御
【IT】発信:2008/12/03(水) 16:26:29
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〜量子コンピュータ実現へ一歩前進〜
国立情報学研究所の山本喜久・教授らは、半導体ナノ構造に閉じこめられた電子スピンの状態を、光パルスを用いて完全に制御することに成功した。11月25〜28日まで奈良県新公会堂で開催される国際シンポジウム「量子技術に関する物理」で発表された。
量子コンピュータを実現するためには、量子情報を納めているスピン状態を完全に制御することが必要だ。このスピン制御技術には、スピン状態の初期化(古い情報の消去)、スピンの回転(新しい情報の書き込み)、スピン状態の検出(情報の読み出し)という3つの要素がある。
従来、このスピンの制御には、2つのスピン準位間(基底状態と励起状態)のエネルギー差に対応した1〜10ギガヘルツのマイクロ波のパルスを用いた電子スピン共鳴法と呼ばれる手法が用いられてきた。この方法では、スピン制御に要する時間が数ナノ秒〜数十ナノ秒以上にもなる。このため、スピンに納められている量子情報が消失してしまう前に行える最大の演算回数が1000回以下に制限されてしまう。このことが量子コンピュータを実現する上で大きな障害になっていた。
山本教授らは、マイクロ波の代わりに周波数が5桁も高い光波のパルスを用いることで、1ピコ秒〜10ピコ秒という短い時間でスピンを制御することに成功した。
具体的には、GaAs結晶中に埋め込まれたInGaAs量子ドットに、電子を1つだけトラップする。この素子を7テスラの直流磁場中におくと、ゼーマン効果により、電子スピンのエネルギー状態(準位)はエネルギー差が26ギガヘルツとなる基底状態と励起状態に分裂する。この系には、電子スピンの基底状態からおよそ300テラヘルツ(1.5電子ボルト)だけ高いエネルギー側に第3のエネルギー状態(電子2個とホール1個からなる複合体)が存在する。
実験では、まずこの電子スピンの励起状態と励起子状態に共鳴した3ナノ秒程度の光パルスを照射し、電子スピンを基底状態に初期化することに92%の確率で成功した。次に、電子スピンの基底状態と励起子状態間のエネルギー差よりも1テラヘルツほど小さいエネルギーの光子からなる1ピコ秒程度の時間幅を持った光パルスを照射して、電子スピンを回転させたところ、電子スピンを90度、180度回転させるπ/2パルス、πパルスの実現に、それぞれ94%、91%の確率で成功した。検証実験でも正しく動作していることが確認できた。
今回の研究成果により、電子スピンの状態は、極短光パルスを用いて1ピコ秒から10ピコ秒程度のゲート時間で自由に制御できることが検証できた。一方、電子スピンのデコヒーレンス時間(スピン緩和時間)の測定値は、これまで1〜10マイクロ秒程度の値が報告されているが、研究グループは最近、デコヒーレンス時間は理論的には10ミリ秒程度と非常に長いことを発見している。
今回開発したスピン制御技術を用いれば、デコヒーレンス時間の理論限界値を達成できる可能性がある。これが実現されるとすれば、デコヒーレンス時間内に10億回もの演算を行うことができ、量子コンピュータ実現の上での大きな障害が取り除かれることになる。(科学、11月21日号4面)
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