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ナノサイズの穴を通る分子の動き、TEM使って観察成功
【ナノテク】発信:2008/10/02(木) 14:33:50
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東京大学大学院理学系研究科の中村栄一教授、JST・ERATO中村活性炭素クラスタープロジェクトナノ構造解析グループの越野雅至グループリーダーらの研究グループは、ナノサイズの穴を通過する有機分子の動きを高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)を使って観察することに成功した。ネイチャー・ナノテクノロジー電子版に9月14日(英国時間)掲載された。
分子の膜透過は、細胞膜の分子の移動や膜による物質分離、多孔質固体への分子の吸蔵など、様々な場面で起きている。そうした膜透過の様子を1分子単位で観察することは難しいため、これまで多数の分子の挙動を平均化して研究が行われてきた。
研究グループでは昨年、カーボンナノチューブ(CNT)の中に有機分子を閉じこめてTEMで観察し、1分子の構造や前後に動く様子を捉えることに成功。今回、直径1.4nm程のCNTの中に、目印にフラーレンを付けた紐状の炭化水素分子の鎖を閉じこめ、その動きを室温(20度C)で観察したところ、分子が様々な形に折れ曲がったりする様子や、CNTの壁に開いた穴(欠陥)を紐状の分子が通過する様子を捉えることに成功した。
さらに、分子の動きのエネルギー源を探るため、マイナス269度Cの環境下で観察したところ、同様の動きを確認。分子運動の速度は、室温でも極低温でもあまり変わらなかった。また炭化水素鎖は、CNTの外側に出ても動きが変わらないだけでなく、強い電子線をあてててもダメージを受けてバラバラになることもなかった。
これまで、室温下での分子は、熱エネルギーで高速に動くため観察が非常に困難であると考えられてきが、今回の実験などから分子の運動は秒単位で予想よりもはるかに遅いことがわかった。炭化水素鎖の分子運動の速度は、室温でも極低温でもほぼ変わらなかったことから、その運動のエネルギー源は、顕微鏡から出る電子ビームと考えられるという。
今回、CNTの外側の真空空間でも有機分子を安定に観察できたことから、CNT内での実験では分子のサイズや種類が限定されるというこれまでの問題を解決することができた。
今後、CNTの外側にタンパク質やDNAなど様々な分子を付けて1分子単位で観察できる可能性が見えてきた。CNTの内外などナノ空間を利用した動く有機分子の構造解析は、化学反応や生体分子の相互作用などに関する研究の新たな手法として広く応用されることが期待される。(科学、9月19日号4面)
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