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「ナノ粒子は第4の病原物質か?」理科大の武田・菅又氏らが確認
【ナノテク】発信:2009/02/24(火) 10:23:00
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〜ディーゼル排ガス中のナノ粒子や酸化チタン、母マウス介して出生後の仔の脳に蓄積・影響〜
東京理科大学総合研究機構の武田健・ナノ粒子健康科学研究センター長(薬学部教授)と菅又昌雄・栃木臨床病理研究所長らは、ディーゼル排ガス中の超微小粒子である「ナノ粒子(ナノマテリアル)」が、母マウスから胎仔脳に移行し、出生後も仔の脳の特定な細胞の特定なオルガネラ(細胞小器官)に蓄積されて、周辺細胞に影響を及ぼすこと、また安全だとして化粧品や光触媒に汎用される酸化チタンナノ粒子が、同様に母マウスから仔の脳や精巣に移行して粒子が取り込まれていることを世界で初めて見出した。機能的にも脳や精巣に様々な異常が見出されており「ナノ粒子は第4の病原物質か?」と問題提起している。研究の一部を、日本薬学会英文誌の「Journal ofHealth Science」に発表した。
大気中に浮かぶ小さな粒子(浮遊粒子状物質:Suspended Particle Matter=SPM)が、肺胞への沈着と血流を介して、肺がんや喘息、花粉症などのアレルギー性疾患、不整脈の出現、血圧へ影響するという実験や調査の結果報告、またSPM濃度が、循環器疾患の死亡数増加に正の相関を示すという疫学調査が報告されるなど、SPMの人体への影響が危惧されている。
武田氏らは、意図的および非意図的に生産されるナノ粒子が、胎仔期曝露により引き起こす脳の組織と機能変化を解析し、近年急増しつつある脳疾患の発症との関連性を明らかにするため研究を進めている。
都市圏では、SPMの半分近くがディーゼル車由来とされるが、武田氏らはそのディーゼル車が排出するガス(DE)を妊娠中の母マウスに吸わせ、生まれてきた仔の生殖系、脳神経系などへの影響を検討してきた。その結果、排ガス由来と思われるナノサイズ(100ナノb以下)の黒い粒子状物質が、仔の脳血管周囲顆粒細胞内の消化顆粒に蓄積すること、脳内に様々な異変が認められることを発見した。
排ガス中のこのナノ粒子は、母体の胎盤を通過して胎仔に移行し、さらに血流に乗り未発達のBBB(血液脳関門) を通過して脳内に移行したものだと武田氏らは考えている。
菅又氏らによる脳の光学および電子顕微鏡所見においても、DE曝露群では、血管周囲に浮腫および小血管の閉塞が認められた。これらは、病理学的にび慢性・多発性微小梗塞と判定されるものである。また、神経伝達物質として働くモノアミンの代謝に変化が見られ、行動試験にも異常が認められた。脳神経系以外では、雄の生殖系に組織学的、機能的に様々な影響が現れることを観察した。
一方で、最近ナノテクノロジーの基盤材料であるナノマテリアルの毒性の有無とその程度が、国際的に議論され始めている。そのため武田氏らは、非意図的に産生されるディーゼル排ガス微粒子以外に、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化チタンなど意図的、工業的に生産される他の様々なタイプのナノマテリアルの健康への影響、特に次世代を担う子供たちへの影響などについても研究している。
その結果、影響を及ぼす臓器部位やその障害の程度に差はあるものの、基本的にはDEPと同様な所見を見出しつつある。酸化チタンを妊娠マウス皮下に投与すると、酸化チタンナノ粒子が産仔の脳に移行し、脳末梢血管周囲に異常が認められ、脳の特定の部位に集中的にアポトーシス像が認められた。モノアミン系の代謝異常も確認。網羅的遺伝子発現解析、選択的遺伝子発現解析の結果からも様々な異常が明らかになってきている。
これまで8年近くにわたる研究と国内外で蓄積されつつある研究報告から、武田氏らは「ナノ粒子はバクテリア、ウイルス、プリオンに続いて第4の病原物質と表現したくなるほど様々な病態を引き起こす」としている。
◇武田教授のコメント 「私達の研究の意義は、(1)理由はよくわからないが、最近増加しつつあるいくつかの重要な疾病の原因を明らかにできること (2)健康への影響の実態が明らかになれば、予防対策は立てやすくなり、また、治療法も考えられるようになること (3)日本が産業立国として、21世紀の新たな産業技術をリードしていくために、その基盤となるナノマテリアルの健康影響を明確にして、十分な対策を構築することができるということです。そのために全容を明らかにしたいと思っています。また、この研究に対する多くの共同研究者の協力に感謝します」。(科学、2月13日号1面)
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