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エストロゲンが記憶改善、脳機能改善薬の開発に期待
【バイオ】発信:2009/04/24(金) 17:24:27
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女性ホルモン「エストロゲン」に脳のアストロサイトを縮小させ、記憶障害を改善する効果があることが分かった。理化学研究所脳科学総合研究センターの山田真久ユニットリーダー、北村尚士テクニカルスタッフらが、慢性脳循環障害を引き起こすアセチルコリン受容体遺伝子欠損マウスを使った実験で明らかにした。米オンライン科学誌PLoS ONEに4月10日付けで掲載された。
アセチルコリンの受容体には、ニコチン性とムスカリン性の受容体があり、生体内のそれぞれの組織で受容体機能が異なっている。研究グループではこれまで、M5ムスカリン性受容体遺伝子欠損マウスでは、アセチルコリンによる動脈の拡張能力が脳底動脈で完全に消失していることを明らかにしている。
この遺伝子欠損マウス、オスの場合は、恒常的な脳血管の収縮により、脳底動脈や中大動脈などの動脈で、脳血流量が野生型マウスに比べ約20〜30%減少しており、それにともなってアストロサイトが膨張、脳神経突起が萎縮している。「血の巡りが悪い」ため、短期記憶学習試験でも野生型と比べて成績が落ちていた。研究グループはこれらを実験で明らかにした。
また、この時に神経細胞死は起こっておらず、ちょうど80歳以上の高齢者でアルツハイマー病などによる神経細胞死を伴う記憶障害ではなく、高齢化によるグリア細胞の膨張によって起こる記憶障害と同じような状態になっている。
一方、メスにはそうした異常がないが、卵巣を摘出した遺伝子欠損マウスでは同様の異常が現れることから、研究グループでは卵巣から放出される女性ホルモンのエストロゲンに着目した。
エストロゲンは、Gタンパク質共役型受容体で、膜貫通型エストロゲン受容体GPR30を介して、血管拡張作用を持つ一酸化窒素を産生することが末梢血管内皮細胞を使った実験で報告されている。今回、研究グループは初めて、脳由来のマウスの不死化脳毛細血管内皮細胞株(TM―BBB細胞)を用いて、エストロゲンとアセチルコリンのNO酸性能力を調べた。その結果、エストロゲンとアセチルコリンは、同様のシグナル経路を活性化してNOの放出を促進していることが分かった。
またオスの遺伝子欠損マウスの皮下に一定量のエストロゲンを放出し続けるエストロゲンタブレットを埋め込んだところ、脳血管の拡張能の回復、膨張したアストロサイトの細胞容積の回復、神経突起萎縮の回復、シナプス数の回復が、磁気共鳴血管画像(MRA)で確認された。短期記憶学習試験でも、脳循環障害による海馬依存の空間学習能力低下の回復が確認された。シナプス形成の回復が記憶学習能力の回復を促したのだという。
今回の成果は、脳循環と脳アストロサイトの細胞容積との関係が、脳環境が神経細胞へ与える影響を解明する鍵となる可能性を示した。また、これまで神経細胞萎縮は細胞死へのステップだと考えられていたが、脳内では、脳循環の回復により可逆的に細胞の状態を変えることが可能だと言うことが分かった。
山田ユニットリーダーは「今後、アストロサイトの細胞容積の膨張がシナプス形成の与える分子メカニズムを解明していく」と話しており、将来的には、エストロゲン投与による女性化や乳ガンリスクを伴わない、新たな脳機能改善薬の開発にもつながるものと期待される。(科学、4月17日号1面)
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