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クライスラー―オバマ流の「静かな破綻」

 就任から100日たったオバマ米大統領が、大きな決断に出た。米自動車3位のクライスラーに連邦破産法11条を適用すると、自ら発表した。

 長く米国産業の屋台骨を支えてきた大手自動車3社(ビッグ3)体制。その幕引きは、思いのほか冷静に受け止められた。クライスラーは伊大手フィアットの傘下で再起を図る。

 最大手のゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーの危機は、年明けに就任したオバマ氏にとって、金融問題と並ぶ最大の懸案事項だった。

 3月末、米政府はクライスラーに30日の猶予を与え、フィアットとの提携や、債権者、労組との債務削減交渉を強く迫った。大口債権者や労組とは妥協できたが、一部の債権者と調整がつかず、破産法の申請となった。

 ただ、これまでの交渉で大半の利害関係者から譲歩を引き出しており、法的処理に伴う混乱はかなり抑えられそうだ。しかも、度重なる金融対策で米国経済はやや小康を得ており、「クライスラー破綻(はたん)」を落ち着いて受け止める素地が生まれていたようだ。

 裏を返せば、クライスラーの「静かな破綻」は、オバマ政権が打ってきたさまざまな経済対策の総合的な成果と評価できるだろう。

 とはいえ、今後を楽観できるわけではない。破産法申請でリストラが進むとしても、クライスラー再生の切り札は、フィアットが得意とする小型車や環境対応車の技術導入だ。これまでも日本の技術などを参考に小型車づくりに挑戦してきたが、果たせていない。克服すべきハードルは高い。

 オバマ政権は今回、政府による産業支援について「けじめ」を示した。この意味は大きい。自動車大手については「大きすぎてつぶせない」と考えているのではないか、支持基盤の全米自動車労組(UAW)に甘いのではないか、といった疑念から、政府への批判が高まった。政府資金による巨額の融資が、世界中に「産業と雇用の保護のためなら何でもあり」というムードを広げた面も否定できない。

 それだけに、オバマ大統領が今回の処理で「利害関係者のゴネ得は許さない」という態度を貫いたことは前進だ。1カ月後に期限が来るGMの再建交渉にも影響を与えるだろう。

 政権発足後のハネムーン期を過ぎても、世論調査でのオバマ政権の支持率は6割超の水準を維持している。ただし、大統領個人の人気にくらべ、矢継ぎ早に打ち出した経済危機対策に対しては評価が割れるものも目立つ。

 オバマ大統領は記者会見で「(イラクとアフガニスタンでの)二つの戦争で手いっぱいだ。銀行や自動車会社の経営には携わりたくない」と述べた。しかし、正念場が続く米国経済はまだまだそれを許さないだろう。

危機とメーデー―労働組合をもっと使おう

 深刻な経済危機のなか、今年も恒例のメーデーが開かれた。「労働者の使い捨ては許さない」「雇用破壊を許さない」……。会場には普段よりずっと切実なメッセージがあふれた。

 昨年10月から6月までに職を失う非正規の労働者は推計約20万人にのぼる。3月中に事業所から届けがあった正社員の失職者は約2万2千人。1日発表された3月の完全失業率は4.8%と急激に悪化した。

 そんななか、労働組合の組織率は18.1%まで落ち込んでいる。働く人の3人に1人を占める非正規労働者の組織化も進んでいない。

 労働者をとりまく環境はかつてなく厳しい。それだけに、いまほど労働組合の役割が問われている時はない。

 大分キヤノンの減産で職を失った請負社員数百人に対し、請負会社が解決金を払うことになった。一部は直接雇用関係のない大分キヤノン側が負担するという。当事者たちが組合をつくり、交渉を続けた成果だ。

 中途解約や雇い止めに遭った非正規労働者らが労組の門をたたき、あるいは自ら組合をつくり、一部で解雇撤回や補償金をかちとりつつある。受け皿になっているのは主に個人加入型の「ユニオン」と呼ばれる組織だ。労働運動の新しい潮流といえる。

 ひと足早く開かれた連合のメーデー中央大会では、高木剛会長が「正規・非正規労働者の連帯を」と訴えた。

 非正規の増加に対応して、連合は2年前に非正規労働センターをつくり、組織化を呼びかけるなどしてきた。

 もともと連合の主流は正社員が中心の企業別組合だ。「正社員のため非正規の人に我慢してもらうのは仕方がない」との考えも強かった。

 ところが「働く貧困層」が広がった結果、労働市場は劣化し、働く人全体の処遇切り下げやリストラの形になって跳ね返ってきている。非正規の雇用を守れなければ、正社員も守れないとの危機感が広がっているのだ。

 企業が利益などから人件費に回した割合を示す「労働分配率」は下がり続けている。職や住まいを失う人が増えれば、社会的コストも増え続ける。

 正規、非正規を問わず、労働市場全体の底上げを経営者に求めることが必要だ。場合によっては、賃上げより雇用安定を優先する選択もあるだろう。足腰の強い指導力と交渉力を、労働組合は取り戻さなければならない。

 メーデー会場では、失業者のための就労・生活相談に応じるコーナーも目についた。「反貧困」などの社会運動への幅広い取り組みは、沈滞気味だった労働運動に新たな活力をもたらすことにもつながる。

 労働組合は、働く人、働きたい人すべてのための安全網(セーフティーネット)だ。もっともっと使いたい。

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