社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

社説:日中首脳会談 トップ交流は大切だが

 北京で行われた日中首脳会談で、双方は経済や環境、国民交流の分野で「戦略的互恵関係」を進めていくことを確認した。しかし、核軍縮や歴史問題などでは認識の違いが改めて浮き彫りになった。真の互恵関係を目指すなら、まず双方に根ざす不信感を取り除くことが必要だ。

 日中の首脳交流は昨年5月の福田康夫首相(当時)と胡錦濤国家主席の会談を皮切りに昨年中に6回実現した。今年に入ってからは顔を合わせる機会がさらに増え、今回が3回目の首脳会談となった。首相の靖国神社参拝で関係が冷却化した小泉純一郎元首相の時代とは様変わりだ。

 麻生太郎首相と温家宝首相は、主要閣僚が参加するハイレベル経済対話を1年半ぶりに再開することを申し合わせ、保護主義防止に協力することを確認した。中国の大気汚染や廃棄物対策への技術導入、人材育成を日本が支援する環境・省エネルギー総合協力プランを開始することでも合意した。羽田-北京間の定期チャーター便開設や中国人への個人観光ビザ発給開始の合意は、国民レベルの交流を後押しするのに役立つ。

 しかし、日中間の不信を増幅しかねない懸念材料は残ったままである。麻生首相が核軍縮への協力を求めたのに対し温首相は「中国は一貫して核兵器全面禁止を唱えている」などと従来通りの姿勢を示し、議論はすれ違いに終わった。

 中国に対し日本政府は「核近代化を進めながら、情報開示は行っていない」(中曽根弘文外相)と懸念を示している。21年連続で2けたの伸びを示している軍事費の問題もあり、日本の国民にとっても不安を消せない。中国に透明性や核軍縮を求めるのは当然だろう。

 ただ、他国の軍事政策に注文をつけるにも、米国の核のカサに依存する日本として、安全保障政策の中に世界の核軍縮をどう位置づけるのか、しっかりした戦略を描けないままでは説得力を欠く。

 北朝鮮問題では6カ国協議の早期再開へ協力することで一致したが、日中の立場は国連安保理の対応決定の際に明らかになったように対立しがちだ。再度の核実験に言及して危機感をあおる北朝鮮への今後の対処でも日本側の不安は消えない。

 一方、温首相は麻生首相が靖国神社に真榊(まさかき)を奉納したことに不快感を表明した。歴史問題に敏感な中国の国民感情を意識したものだろう。

 オバマ政権の誕生で米中の距離が縮まる中で日中関係が滞っていては、「戦略的互恵」も掛け声倒れになってしまう。日中のトップは首脳会談の回数を誇るだけでなく、「永遠の隣人」(麻生首相)としての信頼関係構築へ努力を続けるべきだ。

毎日新聞 2009年5月1日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報