世界的大流行は目前に迫っている。世界保健機関(WHO)が、豚由来のウイルスによる新型インフルエンザの警戒レベルを「フェーズ5」に引き上げた。
当初から予想されたことであり、突然、状況が変化したわけではない。じわじわと世界に感染が広がり続けているのが実情だ。
日本でもカナダからの帰国者が、新型インフルエンザに感染している疑いのあることが分かった。感染疑い例の確認は国内初で、詳細な検査をすることになる。現在の水際対策には国内への侵入を遅らせる意義はある。しかし、国内の流行を防ぐことはできないと覚悟した方がいい。
ウイルスが弱毒という情報はあるが、油断はできない。比較的症状が軽い方が感染が広がりやすいともいえる。今は、国内で感染が広がることを念頭に置き、具体的な行動を考える時だ。
まず、国民がどう行動すればいいか。政府がきちんとした情報を、わかりやすく、多様な手段で伝えることが大事だ。
メキシコなど流行地域に滞在していた人で、発熱などの症状がある人は、保健所などに設置されている発熱相談センターに電話で連絡する。国内で感染者が発生した後は、渡航歴がない人でも、疑わしい症状があれば、まず相談センターに連絡し、発熱外来の受診などについて助言を受けることになっている。
すぐに病院に行くと、感染を広げる恐れがあるためだが、こうした手順や、相談センターの連絡先が十分伝わっているとはいえない。
感染が疑われる人を診る発熱外来の設置も、都道府県によっては準備が進んでいない。早急に体制を整えなければ、流行に対応できない。企業なども、感染が広がった場合の事業継続計画を、この段階でよく検討する必要があるだろう。
国内で感染が確認された場合、現在の行動計画では、学校の閉鎖や外出の自粛といった行動制限がとられる。小さな子供がいる場合、働いている親にも影響が及ぶ。そうしたことを見越した準備も必要だ。
インフルエンザの症状によっては、行動制限の仕方が緩やかになったり、逆に厳しくなったりする場合もある。そうした判断がすみやかにできるよう、国や自治体の意思決定のあり方も再確認してほしい。
これまでの政府の対応をみていると、どう意思決定されているかがわかりにくく、国民への情報提供もばらばらの感がある。国民が状況を把握し、納得して行動できるよう、国としての見解を、自信と責任を持って、わかりやすく伝えることが欠かせない。
毎日新聞 2009年5月1日 東京朝刊