アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
新しいインフルエンザの世界的な大流行は、もはや避けられない状況になったといっていいだろう。
世界保健機関(WHO)は、新型の豚インフルエンザに対する警戒度をさらに一つ高めて「フェーズ5」を宣言し、各国政府に対策を強化するよう求めた。残る段階は、世界的な大流行を意味する「フェーズ6」だけで、それも十分あり得るという。
WHOを中心に国際社会が力を合わせ、新たな感染症の脅威に立ち向かうという地球規模の大作戦が始まる。
20世紀初めのスペイン風邪は、足かけ3年に及んだ。今後の展開次第で長期に及ぶことも考えておかなければならない。
メキシコで始まった新型インフルエンザへの感染はこれまでに、ヨーロッパを含めて10カ国以上で確認された。米国では、メキシコ旅行をした人からうつる例が続き、メキシコからの旅行者の中から初の死者も出た。
水際作戦を強めても、いずれは日本に入ってくると覚悟すべきだろう。
症状は今のところ、欧米などでは比較的軽い人が多い。タミフルなどの薬も効くという。ウイルスは変化が速いので楽観は禁物だが、想定されてきた強毒性の鳥インフルエンザとはずいぶん違う。恐れなければならないが、恐れすぎることはない。
感染を広げないための方策を再点検するとともに、感染が心配な人からの相談を受け、必要な場合に確実に診療が受けられる態勢づくりがなによりも急がれる。
そうしたことも含め、最新の情報や正確な知識を、ネットなどでいつでも得られるようにしてほしい。そうすれば、国民も心強いはずだ。
もう一つ忘れてならないのは、世界全体への目配りだ。
衛生状態や医療態勢が万全ではないアジアやアフリカの途上国に広がることが十分予想される。「インフルエンザは豊かな国では軽い病気でも、途上国では深刻な病気になる」と、WHOのチャン事務局長は警告している。
アジアを中心に猛威をふるう鳥インフルエンザのウイルスと混ざり合うおそれもある。途上国に広がれば、いっそう深刻な事態も招きかねない。手を差し伸べるのが先進国の務めだ。
心配な兆しもある。
香港で新型肺炎SARS対策の陣頭指揮をとった経験を持つチャン事務局長は「人や物の移動を制限しても、効果は薄い」として国境閉鎖や渡航制限などを「勧めない」としたのに、交通を制限しようとする動きがある。また、豚肉は加熱調理すれば問題ないのに輸入を止めた国もある。
過剰な制限は、そうでなくとも厳しい状況にある世界経済に、不必要な打撃を与えることにもなるだろう。
中国を初めて公式訪問した麻生首相は温家宝首相と予定を大幅に上回る2時間20分も話し込んだ。たしかに世界的な経済危機や新型の豚インフルエンザ、北朝鮮の核、ミサイルなど取り組まねばならない課題が山積している。
協議の基調は「戦略的互恵関係」だ。しかし今回、筋違いの問題も焦点に浮上した。
IT(情報技術)セキュリティー製品を中国で製造したり、販売したりする企業に、技術情報の開示を義務づけようという「中国強制認証制度」(CCC)の適用問題だ。ICカードリーダーなど13品目が対象だ。
この認証を得るためには、製品を制御する「ソースコード」と呼ばれるソフトの設計図の開示が求められる可能性が大きい。マイクロソフトが基本ソフト「ウィンドウズ」のソースコードを機密情報にしているように、企業にとって非常に重要な知的財産だ。
コンピューターウイルスの侵入などを防止するのが狙いだと、中国側は説明する。CCCは02年から家電製品やパソコンを対象にすでに実施されており、対象品目の追加だという。
しかし、情報セキュリティー製品に対してこの制度を導入している国はほかにない。麻生首相が「貿易の障害だ」と撤回を求めたのは当然だ。
規制対象となった製品はCCC認証を取得しなければ中国国内で販売できない。対象となる日本製品の中国での売上高は1兆円という試算もあるほどで、実施されれば影響は大きい。
この問題には、欧米諸国の反発も強く、中国政府は来年5月まで1年間実施を延期し、対象も政府調達の製品に限るとした。
だが、中国には国有企業が多い。「政府調達といっても中国の場合は範囲が広いのではないか」という麻生首相の指摘はもっともだ。日本政府は今後も欧米と連携して中国に再考を求めていかなければならない。
中国が強気な態度に出た背景には、世界経済危機のなかで唯一といっていいほどの成長市場であると自覚していることがあるに違いない。
先進諸国がマイナス成長にあえぐなか、中国はまもなく日本を抜いて米国に次ぐ経済大国になる勢いだ。国防費も、ついに日本を上回った。
サルコジ仏大統領が、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と会談したあと、中国は経済的な「フランス外し」を徹底させた。結局は仏側が中国に屈するかたちで、「チベット独立を支持しない」という共同声明を発表することになった。
日中の力関係も大きく変わりつつある。中国は厳しい指し手を突きつけてくるだろう。受け身に回るのでなく、先を読み、国際連携で先手を打つ外交がこれまで以上に必要になる。