【絵文録ことのは】HOME > [宗教・民俗学] > 「小悪魔ageha」バックナンバー全コンプリート!!
キャバ嬢のバイブルとして読まれている雑誌『小悪魔ageha』。GAL系のファッションで巻き髪を盛り上げるキャバ嬢スタイルを好む女のコたちが「age嬢」と呼ばれるようになるなど、agehaの独特なブランドは確立しているといっていい。
小悪魔agehaは、単なるファッション雑誌という枠にとどまらない。age嬢スタイルは確かに「巻き髪・デカ目・デコデコ」という言葉に象徴されるファッションスタイルではあるが、トップageモ(ageha専属モデル)桃華恵理(ももえり)が「バツイチ子持ちのシンママ」であることをまったく隠すことなく、むしろその経歴なるがゆえに支持されていることからもわかるように、「お水だろうと何だろうと、自分が自分らしく生きていくために、自分で選んだ生き方を貫いていく」というメッセージが発信されている。「age嬢」というのはライフスタイルとして扱われている。
「小悪魔ageha」という雑誌は、今の日本の一つの側面である。そして、age嬢的な生き方や発想、考え方に共感する女性たちは多い。その「文化」が異なるからといってバカにするのはたやすいが、それで見えなくなるものも多いだろう。わたしはagehaを定点観測してみたいと考えた。そして、今回ようやく、バックナンバーをすべてコンプリートできたのだった。
2005年11月1日、『nuts』の増刊ムックとして『小悪魔&nuts』が発行された。2006年6月1日発売のvol.3から『小悪魔ageha』に改称し、この号から「age嬢」という呼称が使われている。同年10月1日発売の11月号から月刊化し、雑誌として創刊された。
雑誌のコンセプトとしてキャバクラ嬢の教科書を目指しているが、必ずしも対象はキャバ嬢のみとは限らない。フリーターやニューハーフのモデルもいる。ギャル系から派生したキャバ嬢型のライフスタイルやファッションを肯定する人たちのための雑誌である。しかし、いたずらに美化するだけではなく、キャバ嬢やシンママ(シングルマザー)のマイナス面、ダーク面も受け入れ、ときにはそれを前面に打ち出すところが、ファッション・ライフスタイル誌としても非常に異色であるといえる。
専属モデルである「ageモ」と、それ以外の常連モデル(キャバ嬢その他)がいる。ageモの代表ともいえる桃華絵里(ももえり)はシングルマザーであり、しかも20代後半であるが、ageha読者から絶大な支持を受けている。
なお、Wikipediaの記載には誤りもあるので、こちらで情報をまとめる予定である。→小悪魔ageha - 閾ペディアことのは
agehaモデルの経歴を示すものとして、最も典型的なのが『COMIC ageha (INFOREST MOOK)』だろう。コミックではモデルたちの経歴がマンガ化されている。一人あたり8ページ+コメントページで分量は少ないが、それを列挙してみると傾向がかいま見られて興味深い。以下、2007年末の発売時点での情報をそのまま載せてみる。
ここに登場していないageモも多いが、ageモの全体的な傾向を知るにはこれでも充分だと思われる。ここでいくつかのポイントをまとめてみる。
一般のファッション雑誌が「きれいな部分」しか見せないのに対して、agehaモデルは「どん底時代」や「失意」を決して隠そうとはしない。そして、それがおそらくageha読者に受け入れられる要因となっている。
小悪魔agehaの表紙は、白とピンク、そしてスワロフスキーデコレーション風の色彩が目立つ。これぞまさにage嬢の本領発揮の色であろう。
その白+ピンク+デコの色遣いの中で、表紙に大きく「病」や「闇」といった言葉が踊ることがある。
Amazy |
2008年6月号
病んだっていいじゃん
私たちは人間だから病んでいる――age嬢24人の心の奥のほんの少しの本当の物語
- 荒木さやか(ageモ):寝る寝る寝る...そんでお金だけ減ってく。あたしのひきこもり時代。
- 桜井莉菜(ageモ):無視されるって地獄やな シャワー浴びながら毎日泣いとった
- 武藤静香(ageモ):あたし裏切られてる?裏切られてたとしても認めない。認めたら、あたしが壊れちゃうから
- ねむ(ageモ):泣きたいときは知らない町の土手でひとり大声出して歌うの
- りん(歌舞伎町レヴュー):あの頃人間の中であたしが一番不幸だと思ってた
- 桃華絵里(ageモ):死んだら楽になれる。だから死にたい。
- 姫崎クレア(北新地club Bank):ずっと一緒だったのにもう二度と戻らない―
- 早川沙世(六本木R):右側からの顔しか他人には見せたくない。(※「昔からずっと非対称な顔が嫌いだった」)
- 鮎川りな(ageモ):「もうテレビ出ないんですかぁ?」そう言われんの、めっちゃ嫌やった
- 山口幸乃(銀座クラブ):スランブだからってこの仕事を辞めるわけにはいかない。
- 純恋(仙台国分町クラブAI):居場所がなかった。家出もできなかった。私にとって18歳が人生のスタート地点。
- 奈々子(ラ♥パフェ店員):私は脳みそが幼稚園からずっと同じなの
- 椿姫彩菜(ニューハーフ):結婚してない私の未来。一生ひとりぼっちなの?
- 神子島みか(レーサー):別にひとりでも併記。ただ、「ひとり」を思い知らされるのは嫌だった。
- 家村マリエ(北新地ビゼ):水商売を恨んだこともあった。ママを憎んだこともあった。でも、私も同じ道を選んだ。
- 愛川もも(プリンセスドールデザイナー):愛して欲しかった 迎えにきてほしかった お父さんに。
- 西山りほ(ageモ):人に期待すんのも約束すんのも恐い。うまくできる自信がないねん。
- 黒瀧まりあ(フリーター):あたしが好きな「一人」は「独り」じゃなかった。
- 一条ありさ(新宿昼キャバZERO):毎日毎日毎日毎日お金のことを考えて、休みの日でもお金のことを考えてた
- 川出美里(通販会社):「幸せ」がわからないんですよ。必要とされる人間になりたい。生きてくために、夢が欲しい。
- きんきらきん(デコ屋L'avisme店長):出勤すると頭が痛くなる。電車に乗ると涙が出る。
- なみ(フリーター):大声を出さないで。子供部屋を思い出すから。
- 神河ひかり(六本木R):お金のためだけに夜にしがみつきたくない
- 春菜まり(歌舞伎町プラウディア):週の半分以上蹴られてた それが普通だったから
2009年2月号
漆黒でも暗黒でもない 私たちの黒い闇
服を脱いだら 皮膚をはいだら 私たちは決して白くない
age嬢26人それぞれのSTORY・私たちは人間だから病んでいる――すべての怒りと悲しみと後悔と諦めを...病みから闇へ
- 生きてる意味がわからない 西山りほ(ageモ):人がかわいいって言った物がかわいく見える。やりたいことも意思もなくて、あたしはただ漂流してる。私は私として生まれたのに、私は私じゃなくなった。そして毎日生きている。
- 自分の顔が醜い 武藤静香(ageモ):「コンプレックスも好きになろう」そんなのキレイごとじゃん あたしは一生自分の顔が嫌い
- 人より特別でいたい 桃華絵里(ageモ):同じモノグラムだったら私は日本未入荷を持つ。「それどこで買ったの?」って突っ込まれるのわかってて買うの
- 親に嘘をつく りん(新宿某店):agehaに出てることもキャバクラで働いてることも全部隠して実家に住んでる
- ボロ雑巾みたい 上ノ宮絵理沙(ブランドプロデューサー):セフレ以上恋人未満だったけどあなたにとって私以上の女はいない そう思ってる私おかしいですか?
- 幸せのハードル 山上紗和(六本木ミュゼルバ):人生に期待するのを捨てた。私はゴミくず程度の価値しかない人間だから。
- 教室のいじめ 愛川もも(プリンセスドールデザイナー):修学旅行の部屋決めでも班分けでもいらないって言われるコだった
- ドンキの友情 貴咲愛鈴(広島某店):店のコとマックとかドンキは行く。そこまでしか、行けない。
- 自己中 ねむ(ageモ):あたしは人を怒らせる天才 このままじゃ友達いなくなる
- いつも後悔 神子島みか(レーサー):私の人生と恋愛は、後悔だけが繰り返されてるんだよ
- 無駄 夢月姫乃(山梨Club AQUA):これだけ買えるってことはこれだけがんばったってこと ショップ袋の数だけが私の価値
- 疫病神 一条京香(歌舞伎町ディアレスト):母さんに叩かれたあとは必ず壁に死ね死ね死ねって書いた
- 私は必ず嫌われる ありす(ミナミG's garden NINGYO):嫌われ過ぎて店も辞めさせられた 女のコはいつか私を嫌いになんねん
- 人の幸せを喜べない きんきら☆きん(デコ屋L'avisme店長):今は人の幸せを素直に喜べない。あのコにできてなんであたしにできないの?あたしだけ不幸なんて耐えられない
- すべり止め 南真琴(ヘアスタイリスト):都会は疲れた。私に必要なのは、彼氏より友達よりお母さん...
- サイトで叩かれる 藤崎彩(長野シンデレラストーリー):書き込まないで...人の目が恐い なのに5分に1度は携帯を開くの
- 男なんてそんなもの ゆきいちご(バレエインストラクター):ひとりぼっちになっても平気。こたろーとぽこたと理想の家庭を作るから。
- 侮辱 飛鳥バネッサ(ショップ店員):「そのしゃべり方やめなよ」リーダー系の人には言われるけどそれは罠なんです タメ口利いたら嫌われるんです
- 酒乱 神河ひかり(六本木R):酒抜きに行ったラクーアで泥酔してる 毎日毎日毎日酒ばっかり
- 会話ができない 黒瀧まりあ(フリーター):2人っきりになると沈黙してすぐ携帯いじっちゃう
- もういいトシ 姫咲百音(横浜レッドシューズ):悩んだりもがいたり苦しんだりしたことがない。だから人間的に私はつまらない。
- 普通の結婚 姫崎クレア(ミナミClub Ambiente):指名より売上げより一途に愛される重さが欲しい。
- 客 姫乃美唯(横浜シーサイド):そんなにキャバクラって楽しいの? お客さんが怖くなる 自分がしてることも怖くなる
- じいちゃんばあちゃん 純恋(仙台国分町クラブAI):田舎過ぎて不良にもなれない やり場のない怒り そして私は引っ込み思案
- 積木くずし 内山みなみ(浜松Vogue):心からじゃなくていい。その場だけでもいい。必要とされる場所にいたい。
- 苛立ちに理由はない 新条絵理香(すすきのクラブエクセレント):私は弱い者に強いんだ。記憶がなくなるから詳細はわからないけど
読者の理想像として位置するべきagehaモデルも、人気店のキャバ嬢も、ネガティブな要素をまったく隠そうとしない。キャバの客に知られたら大変な人気ダウンにもなりかねない。しかし、それが逆にageha読者たちの共感を集めている。
「病」「闇」といっても必ずしも深刻なものばかりとは限らない。メンヘル的な要素もあるが、性格が悪いとか人間関係がうまくいかないといったレベルの「悩み」も、DV被害と並んで「病」「闇」として扱われている。
なお、念を押しておかねばならないが、小悪魔agehaでこのようなダークサイドが表に打ち出されるのは一部である。他のページ、他の号では基本的にメークや髪型やグッズを扱ったファッション情報がメインである。ただ、こういったダークサイド、あるいは「シンママ」や離婚歴や実年齢といったものがまったくタブー視されていないということは指摘されてよいだろう。
速水健朗『ケータイ小説的。』は、ケータイ小説を通じて現代の「ヤンキー文化」を解読した好著である。
(『恋空』とあゆの関係。(『ケータイ小説的。』の感想)[絵文録ことのは]2008/08/02も参照)
小悪魔agehaは、速水氏の分析に当てはめれば、まさにヤンキー文化に属している。agehaでの回想的モノローグは極めて「浜崎あゆみ」的だ(ageha表紙の文章も極めてあゆ的である)。夜職、妊娠・シンママ、家出、DV......等々のageha的キーワードはそのままそっくりケータイ小説のキーワードにもなる(有名なケータイ小説はハイティーンのスクール物語が多いが、実際にモバゲータウン等々で書かれているケータイ小説の書き手も読者ももう少し年齢層が高い。キャバ嬢のノンフィクションも少なくない)。『ティーンズロード』は読者投稿欄が不幸自慢だったが、基本的に読者投稿欄のないagehaでは特集記事で専属モデルや常連モデルが不幸自慢をする。
しかし、そのまま「ageha=ヤンキー文化」と結びつけることはできない。というのも、age嬢たちには「ギャル文化」を継承する部分も極めて多いからだ。『ケータイ小説的。』では、ヤンキーVSコギャルという対立軸が明確に述べられていたのだが、agehaはヤンキー的な要素だけでなく、コギャル/ギャル文化を継承する部分も強い。
「究極ギャル"age嬢" 女性から見てエロかわいい」:イザ!には「肌は白く、目は大きく、髪は巻いて盛り上げる-。そんな若い女性を最近、街でよく見かける。色が黒い、ちょっと前の「コギャル」とは大違い。進化したギャルたちのお手本は「age嬢」だ」とある。ここではギャルの延長上にage嬢があるとされており、ギャルの聖地109のage嬢人気ショップも紹介されている。
すでに触れたとおり、複数のage嬢が、高校生時代にギャルのバイブル雑誌「egg」に大きな影響を受けている。矢野涼子はegg読者モデル→Popteenモデル→キャバ→レースクイーン→ユニット「AZUR」で芸能界デビュー→横浜のキャバ&ageモという経歴をたどっている。ポップティーンはギャルとヤンキーの中間的雑誌で、鈴木謙介によればポップティーン投稿欄の体験談は極めてケータイ小説的であると指摘されている。
また、ねむは渋谷イベサー出身であるが、イベサーはまさにギャル文化の中核をなすものである。
では、矢野涼子やねむはギャルからヤンキーに転向したのか。あるいは年齢に応じて、ギャルからヤンキーに移行する人たちがいるのか。これについては現時点で結論を出すことは難しいのだが、わたしが推測するに、一見対立するように見えるギャルとヤンキーは、必ずしも対立するものではなく、一部重なっているところがあるのではないか。「ギャル ∩ ヤンキー」の重なる範囲に「age嬢」が存在するのではないか、とも思われる。
果たして「小悪魔ageha」はどういう文化なのか。それは、今後継続して購読して研究していきたいと思う。
Amazy |
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