オバマ米大統領は二十九日で就任百日を迎えた。議会もメディアも厳しい政権批判を控えることから「ハネムーン期間」と呼ばれる最初の百日間は、新政権の命運を握るともいわれる。「変革」を掲げたオバマ大統領は経済、外交などの難局に対して新機軸を意欲的に打ち出し、“新しいアメリカ”を印象づけたといえよう。
就任一カ月足らずで成立させた景気対策法は最大の成果だ。総額七千八百七十億ドルと史上最大規模、中低所得者を主な対象にした減税と、社会資本整備のための財政支出を柱に超大型の景気対策が動きだした。今月中旬、米国の景気指標の一部に下げ止まりの兆しがみられ、オバマ大統領は「かすかな希望の光が見え始めている」と述べた。景気回復への芽が生まれ、経済崩壊へ歯止めをかけることができたのではないか。
とはいえ、先行きを楽観視するには早計に過ぎる。金融安定化に向けた追加支援策の具体化や、経営危機に陥っている自動車大手の再建など難題が立ちはだかる。特に自動車産業は部品・素材メーカーなどのすそ野が広いだけに、破綻(はたん)した場合の影響は甚大だ。オバマ政権にとっては難しい采配(さいはい)を迫られよう。
外交ではアフガニスタンへの米軍増派の一方で、イラク駐留戦闘部隊の来年八月末までの撤退を発表した。「一国主義」などと世界から反発の強かったブッシュ外交からの決別を急いだようだ。
ブッシュ前政権時代に悪化した米国のイメージを劇的に改善したのが三月末から一週間余りにわたった欧州・中東歴訪だ。初参加の金融サミットや北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を乗り切り、各地では市民との対話集会をこなした。「対話」と「協調」を訴え、外交問題を包括的かつ重層的にとらえようとする姿勢は、国際社会の安定に希望を抱かせるものだ。
チェコの首都プラハで表明した「核兵器のない世界」を目指す新構想は特筆されよう。最大の核大国の指導者が、かじを切ったインパクトは大きい。核廃絶が簡単に進むとは思えないが、唯一の被爆国である日本にとって、オバマ大統領の踏み出した一歩を是が非でも支えたい。
ハネムーン期間が終わり、これからはオバマ大統領の真価が一段と問われることになる。矢継ぎ早の政策転換、しかも大胆ともいえる中身には議会などからの反発も少なくないだろう。「変革」の実現に向けて、これからが正念場だ。
二〇〇八年度の国土交通白書は、厳しい経済情勢の中、「暮らしと生活環境」に焦点を当てたのが特徴だ。住民ニーズを踏まえたうえで、国土交通行政の今後の方策を示している。
国土交通省が、昨年十一月から十二月にかけてインターネット上で行った全国の二十歳以上の男女四千人の意識調査をベースにした。現在の暮らしや生活環境について、「満足」と「どちらかといえば満足」が合わせて60%だった。しかし、将来については「不安」が20%、「どちらかといえば不安」が44%で、七割近くが不安を感じると答えた。
具体的な課題として挙げられたのは「雇用機会や働く場」「地域経済の状況」「街のにぎわい」などで、地域の経済基盤や活力の現状に対する不満が高く、将来不安につながったようだ。特に都市部に比べて町村部の方が顕著で、地域の実情を反映している。
白書は、地方圏で公共交通事業者が不採算路線から撤退することなどにより、公共交通のサービスレベルが低下しているとし、都市中心部の衰退や日々の生活の利便性の低下にまで結びついていると指摘した。取り組むべき方策として、居住・商業・公共公益機能がコンパクトに配置された中心市街地の形成と、公共交通機関と連携したまちづくりを提唱している。
今回、白書が暮らしや生活環境に目を向けた点は評価できる。衰退する地方にとって市街地の活性化や公共交通の再生は急務だ。ただ、一朝一夕に解決できるものではなく、旧来の公共事業のばらまきのような手法にも限界があるだろう。
まちづくりには官よりもむしろ住民主導の取り組みが欠かせない。地域住民を巻き込んだ中長期的な施策が求められる。
(2009年4月30日掲載)