サイエンス

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

新型インフルエンザ:「ウイルスは弱毒」 田代WHO緊急委委員、発見遅れ憂慮

 【ジュネーブ澤田克己】感染が広がる新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)の世界的大流行(パンデミック)への警戒レベル引き上げを討議した世界保健機関(WHO)緊急委員会委員の田代真人・国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長は28日、記者会見し、今回のウイルスは「弱毒性」との見解を示した。強毒性のH5N1型鳥インフルエンザが新型に変異した場合に比べ「それほど大きな被害は出ない」とみられ、「全く同じ対策を機械的に取るのは妥当でない」と述べた。

 田代氏は毒性について「今後、遺伝子の突然変異で病原性を獲得しないという保証はない」とした。そのうえで、遺伝子解析の「予備的データ」の結果として現段階で「強い病原性を示唆するような遺伝子はない」と「弱毒性」との認識を示した。

 被害については、現在の毒性が変わらなければ、パンデミックを起こしても、約200万人が死亡した57年の「アジア風邪の規模かもしれない」とした。

 数千万人規模の死者が想定される強毒性H5N1型と「全く横並びに判断していいものではない」と話した。

 致死率などについては、疫学的調査が終わっていないため「実際の数字は分からない」と説明した。H5N1型に比べ「健康被害や社会的影響は大きく異なる。全く同じ対策を機械的に取ることは必ずしも妥当ではない。フレキシブル(柔軟)に考えていく必要がある」と述べた。

 日本の対策について「少しナーバスになり過ぎているところがあるかもしれないが、後手後手になって大きな被害が出るよりは、やり過ぎの方がいいかもしれない」とし、発見の遅れに憂慮を示した。

==============

 ■解説

 ◇変異の恐れ、警戒継続を

 新型インフルエンザウイルスが、毎年流行するインフルエンザと同じ弱毒性との見解が示された。だが世界中の大半の人が経験したことがないウイルスのため免疫がない。さらにインフルエンザウイルスは変異しやすく、流行中に強毒性に変わることも考えられる。パンデミックへの警戒は依然怠れない。

 弱毒性ウイルスとは、呼吸器感染にとどまり強毒性鳥インフルエンザで懸念されている全身感染を起こさない▽感染者に生体防御の過剰反応(サイトカインストーム)を起こさない--とされる。新型変異前の豚インフルエンザウイルスはもともと弱毒性と知られていた。変異し人から人に感染するようになったウイルスの毒性は不明だったが、遺伝子レベルで「弱毒性」と今回初めて指摘された。

 国立感染症研究所の田代真人氏によると、今回検出したウイルスのHAたんぱく(表面に突き出た突起)を遺伝子解析した結果、その中間部分にある塩基性アミノ酸が一つで人の呼吸器にしか感染しない構造だった。この塩基性アミノ酸が8~10個に増えると全身感染する強毒性になる。

 流行の拡大を防ぐため、政府が早期発見の体制を整える一方、個人もマスクの着用や手洗いなどを徹底し、感染症への備えを心がけることが大切だ。【関東晋慈】

毎日新聞 2009年4月30日 東京朝刊

検索:

サイエンス 最新記事

サイエンス アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報