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☆★☆★2009年04月30日付 |
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昼休みが終わるので帰ろうとする背中に仲間の声が飛んだ。「おめぇもジンケァネェなあ」と。「ジンケァネェは当地の言葉で「腎甲斐無い」(佐藤文治著『気仙ことば』より)の意だという。思わず笑ってしまった▼腎は腎臓のことで、精力を司る臓器だから、その甲斐のない(ケァネェ)人間は、情けない、頼りないといったことになるらしい。しかし冷やかした相手は「気の毒に」という文脈で使ったはずである。いまもあくせく働いている「甲斐性なし」に対し、毎日が日曜日の「自由人」が送ってくれた同情の気持ちがこの言葉に込められている▼「気の毒に」といった言葉ならこのニュアンスは伝わらない。同情しかつ幾分か現役であることを羨む気持ちが、この方言の持つ温かみに要約されるだろう。相手に面と向かって「頼りない」と言ったら喧嘩になる。だが、ジンケァネェには思いやりがたっぷりこもっている▼似たような言葉に「ジンネァ」があり、これは中間の「ケ」が抜けただけに見えるが、意味は正反対。決して「腎無い」ではなく「よくやった」「感心だ」というほめ言葉で、子どもの頃、何かを上手くやると「ジンネァ、ジンネァ」と持ち上げられたもの▼ほめ、おだててその気にさせる教育法が生んだ知恵が方言としてそのまま残っているわけだが、この歳まで働いて「ジンネァ」と言われるよりは、やはり「ジンケァネェな」と同情される方が、たそがれ人生にはふさわしい。 |
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☆★☆★2009年04月29日付 |
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詩才はないが代わりに酒才?をいただいて、一晩といえどもその世話にならぬことはない。それにしても唐代の詩人たちは酒をくらいながらよくも名作をものにしたものである。その源泉は酒にありと見てさしつかえあるまい▼唐詩の中にはよく「沽酒」という文字が登場する。「沽」は売る、買うという意味で、だから「沽酒」は酒を買う、あるいは酒店そのものを指す場合もあるようだ。では「沽券に関わる」の「沽券」とはなにか、深く意味を考えずに使ってきたが、調べてみるとこれは売り渡しの証文のことを言い、そこから体面、品位、信用などの意味合いを持つようになったものらしい▼ならば「券」の語源はなにかとついでに調べると、契約の際に使う割り符のこととある。木や竹を用いて契約書を作りそれを両截、半分ずつに分けて売り手と買い手が持つ。その裁断のために「刀」が用いられることから「券」という字が出来上がったと、白川静「字通」にある▼なるほどと感じ入り、では現代どのような券があるかと思いつくままに上げてみると、銀行券、証券、債券、株券、入場券、乗車券などなど券だらけなことに気付いた。唐代に比べ現代「沽券」のなんと多いことか。そのためにトラブルも多く、世界的金融危機もその紙切れに端を発した▼世界経済をリードすると自任していた国々は、国の債券、いや再建がならねば沽券に関わると必死だが、その点まともな銀行券も持たない当方など気楽なもので、「沽酒」が無上の楽しみ、そして酔生夢死を目指している次第。 |
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☆★☆★2009年04月28日付 |
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狂牛病、鳥インフルエンザについで、今度は豚インフルエンザが発生、メキシコではすでに八十人以上が死亡したという。まるで「三役揃い踏み」だ。いや、まだ馬がいるではないかと言われそうだが、昔から馬と鹿は風邪を引かないことになっている▼冗談はさておき、豚コレラだけでなく、豚インフルエンザまであるということは、他の動物も同様の病気を引き起こす可能性があるということだろう。いずれにしてもグローバル化というのは疫病もグローバル化することを意味する。わが国でも水際で食い止めようと検疫に躍起となっているが、風評被害をまともにくらう食品業界は頭が痛いだろう▼疫病といえば、世界中を震撼させた黒死病、つまりペストが代表格で、十四紀に大発生したこの伝染病で実に欧州全人口の三割が死亡したというから、戦争以上に恐ろしい。まだ一般の衛生思想が低かった少年時代、学校では「法定伝染病」の種類を暗記させられたものだった。「将校ペストル充填す」から始まり最後は「赤痢パラパラ痘瘡流行す」で終わる。これで後に加えられた日本脳炎を除く十種類の伝染病を覚えた▼しかし現在の「グローバル伝染病」は数を増やし、覚えきれないほどになってしまった。人間がいかに心掛けても動物にまで衛生思想を徹底させることはできない。悩ましいことではある。▼人間以外の動物に伝染病が発生しても人間には感染しないという勝手な思いこみがこれまではあった。しかし動物はみな同根であるという事実を教え込まれたのが現代である。食物連鎖の輪は人間も例外ではないということだ。 |
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☆★☆★2009年04月26日付 |
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人気グループSMAPの草なぎ剛さんが、公然わいせつの疑いで逮捕されたのにはビックリ。さぞかしハレンチな行為をしたのだろうと思っていたら、公園で全裸になって騒いでいただけだった▼昔はやった「ストリーカー」というのは確信犯で、全裸になって表通りを疾走するという「手口」は、愉快犯でもある。公序良俗に反することはまちがいないが、動機は単純だからまずはすぐ釈放される。草なぎさんの場合も酔って「ほでなし」(当地方言で正体無し)になっただけだろう▼いわば微罪で、「わいせつ物陳列罪」いや、チン列罪が妥当なところだろうが、公然わいせつときたから、世間が色めき立った。結局は処分保留で釈放されたが、当局の反応も過剰、メディアの騒ぎ方も尋常ではなかった。これが普通のおじさんのやったことだったらどうだったか?有名人は辛い▼口さがない街スズメたちも彼に同情的だった。酔った上とはいえ、決してほめられた行為ではないが、受けた代償はまったく割に合わないものだった。逮捕、自宅捜索、送検と犯罪人扱いされたのはともかく、映画、テレビ、CMなどの自粛による「社会的制裁」の方がはるかに打撃が大きい▼「草食系男子」の代表そのまま、やさしそうでどこか気の弱そうな男の子が、肉食系も三舎を避ける振る舞いをしたところが不思議。よほど辛いことがあったのだろう。酒の上の失敗を重ねている側から見るためか、こちらもつい同情した。 |
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☆★☆★2009年04月25日付 |
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英語で「ホンダ」と書いてあり、デザインもそっくりだから、誰もがホンダの製品だと思うが、よく見ると「HONGDA]と、間にGが入っている。一字違いのそんな「ホンダ」製バイクが東南アジアでよく売れたことがあった▼偽造大国・中国のしたたかさを物語る実話だが、実際、ブランドの模造、模倣、偽装などは朝飯前。なにせ日本で発売されたばかりのCDが、二三日も経たないうちに海賊版で現地に出回るというのだから、油断も隙もあったものではない。訴えても言を左右にして逃げ回る。かのバイクも逃げ足の速さだけは本物以上だったとか▼上海で開幕したモーターショーに、マツダやロールスロイスそっくりの車が出展されたと昨日の産経にあった。写真を見るとまさに瓜二つでデザイン盗用は明らかだが、元を見たことがなければ海賊版とは気が付かず、独自のデザインと思うだろう。知的財産権などという意識を持たない国ならではのこと▼同じく昨日の読売に、中国政府がIT機密を強制開示させる制度を五月に発足させるとあった。企業が知恵を絞って開発した先端製品の心臓部を公開せよというもので、いわば企業秘密をただで手にいれようということに等しく、当然多くのノウハウを抱えた先進国は猛反発している▼例によってコンピューターウイルスの侵入防止などを理由に掲げているが、金庫の鍵がどこにあって、ダイヤル番号も教えろという要求をする国がどこにあろうか。 |
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☆★☆★2009年04月24日付 |
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昨日の岩手日報一面トップを見て驚いた県民も多いはず。なんと岩手銀行の永野勝美代表取締役会長が解任されたとある。取締役の過半数が解任に賛成したというので、三越の岡田茂社長が解任された時発した言葉「なぜだ!」を想起してしまった▼昭和五十七年、ワンマンだけでなく公私混同が激しく女性関係にもルーズだった岡田社長が取締役会で解任された「三越事件」は、「岡田天皇」と異名をもつほど権勢を振るった人物でも、取締役会が16対0で解任したように、人心が離れたトップの末路を物語る見本として有名になった。「なぜだ!」は裸の王様の過剰な自信から発せられたものだった▼永野会長の解任がどのような理由によるものか、日報紙は触れていないが速報だったからだろう。しかし解任とは不信任と同義であり、そこにいたるまでには複雑な事情があったことは想像に難くない▼信用を重んじる金融機関が、少なくとも公表が憚られるようなお家事情を抱えていたことを初めて知って小欄は、堅忍不抜に見える組織でも人間関係が複雑になれば進路を誤りかねず、それは一にかかってトップの責任であることを教えられる思いだった。永野会長も裸の王様になっていたのであろうか?▼それにしても県内金融界をリードする岩手銀行の八代目会頭だった同氏が、こんな形で晩節を汚すことになったことは残念である。講演会で自信たっぷりに話していた姿を思い出し、人間とは切ないものだという思いを強くした。 |
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☆★☆★2009年04月23日付 |
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いつもさんざん世話になりながら、ありがたさを考えたことはなかった。それは当然あってしかるべきという慣れによるものだろう。普段空気の存在を意識することがないのと同じように▼世話になっているその相手とは「弁当」のことである。たかが弁当とお笑い召されるな。されど弁当なのである。「たかが」と笑うのは毎日愛妻弁当を預けられるしあわせなお方。「されど」と深刻な表情を浮かべるのはそのサービスを受けられない気の毒なお方と解釈してよかろう▼「たかが」から「されど」に環境が変化し、自分で作るようになって感じた最大のものは主婦の大変さだが、同時に弁当を作るという行為は愛情のバロメーターではないかという気になった。むろん一概に決め付けられるものではない。家庭の事情というものもある。しかし主婦たちが、夫のために、子どものためにそれだけの労力を捧げるという心の持ちようは尊い▼「愛妻弁当」は手がこんでいる。栄養や彩りを考えて何品も弁当箱にしのばせるのは大変だろう。だが、当方の弁当は前日の残り物を詰めただけか、一品ぐらい調理する程度の不細工なシロモノだ。しかしそれだけでも充実感はある。持たせてくれるだけでありがたいと亭主たちも内心感謝しているだろう▼弁当箱をなくしてしまい、四、五日おにぎり持参となったが、それで十分。ご飯プラス愛情というおかずさえあれば、亭主たちは必ず満足してくれるのである。顔にこそ出さないが。 |
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☆★☆★2009年04月22日付 |
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今月末から始まるゴールデンウイークの旅行客は国内、海外とも昨年を上回る見込みという。何が不況だろう。まあ、余裕のある方々はこの際大いに消費して景気を浮揚してほしいものだ▼仕事が減って時間的に余力が生まれた企業の中には、この際だから長期休暇にしてしまおうと、十日間以上を休みにしたところもあると聞く。生来が貧乏性だから、こんなに休みがあったら毎日をどう過ごすのだろうと他人事ながら気にかかってしまう。実はひがんでいるのかもしれない▼「働き蜂」とヤユされながら、せっせと生産にいそしんできた勤勉民族は、休みの過ごし方が苦手である。「習い性」というやつだ。仮に一週間の休みがあるとすると、その消化にもってこいなのが旅行だが、この時期どこも混雑するのが玉にキズ。近隣をブラブラするか、家でごろごろしているか、いずれ選択肢は少ない▼ブンヤ稼業は連休を許してくれないので十日はおろか、一週間の休暇も夢また夢である。交代で飛び石休暇を取るぐらいが関の山だが、これが国の基盤に沿った民族性の結果だろうと思う。つまり働かなければ食えない少資源国家の宿命として「遊べない」民族を生んだのだろう▼フランスでは一カ月もバカンスが取れるのに、日本ではなぜできぬのかという素朴な疑問に老爺は答えた。「海外で“荒稼ぎ”して富を蓄えてきた国と、労働が最大の資源である国との差だろう」と。それ以外説明がつかぬではないか。 |
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☆★☆★2009年04月21日付 |
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三陸鉄道の開業二十五年を祝う式典が宮古市であり、その祝賀会の席上で運輸、文部、財務大臣などを務めた「塩爺」こと塩川正十郎氏と会話をする機会を得た▼八十七歳という高齢を感じさせないかくしゃくぶりで、ダンディかつ大変な健啖家だった。もう引退はしているが政界の内情についてはアンテナを張っているはず。こちらも記者に戻って質問してみた。「今後の政局はどうなりますか?」「うん、七月解散だろうね」この卦がどう出るかは今後のお楽しみ▼選挙の結果については自民、民主おあいこ、いずれにしても過半数はとれまいという占いだったので、政界の再編成は大いにあるかどうかを質すと、「それは大あり」とのご託宣。そして一言「最近の議員はサラリーマン化している。骨がない」と切って捨て「ではさようなら」と愛敬を残して去っていった。枯れたようでまだ生では食えなさそうだ▼式には三鉄ゆかりの沿線各自治体から、引退した元首長たちも出席していて、フィルムのコマを戻したような錯覚にとらわれたが、これら「OB」が語る思い出話を聞いていると、確実に時間が流れていることを痛感させられた。大船渡高校が春の選抜に出場した時から四半世紀が経っているのである▼あの頃の当地はダブルの喜びであふれ、まだ景気も良かったのでみんなが将来に夢を抱いていた。それが今は下りだけの一方通行。早く上りの「ダイヤ」も組んでほしいもの。 |
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☆★☆★2009年04月19日付 |
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世界のイチロー≠ェ、またやってくれた。日米通算の安打数で、張本勲氏の持つ日本記録を更新する三千八十六安打を放ち、十八日は一般紙もこぞって一面で扱った。もはや超人の域の彼でさえ、先のWBCではあまり打てなかった▼しかし、みな「やってくれるだろう」と信じていた。その通りに、優勝決定戦で決勝の2点タイムリーを打った場面は、記憶に新しい。同じWBC組の松坂投手は、大リーグ開幕から二試合連続KOで故障者リスト入りした▼イチローも、そこからのスタートで記録を塗り替えたわけだが、この二人を考えると一度心も身体もピークに持っていった反動を思わざるを得ないし、そこまで本気にならなければ勝てないのがWBCだとも知らされた。数字がすべての世界では、勝利数の多い松坂投手が最優秀選手に輝いたが、内容では岩隈投手を推す声もあった▼とはいえ、仮に最後の場面で打てなくても、イチローこそ侍ジャパン≠フ陰の最優秀選手だったと思う。なぜなら、北京五輪で星野ジャパンが惨敗した時、「WBCはリベンジ(復讐)の場ではない」と、全く新しい体制で戦う覚悟を促したからだ。アジア予選から、率先垂範の練習姿勢もあった▼それでも野球発祥の地らしく、米大リーグにはまだまだ上がいる。最多安打男のピート・ローズには四千二百五十六本の記録があるという。だが、イチローはまだ三十五歳。「彼なら、またやってくれるだろう」と、日本の野球ファンはみな思っている。 |
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