きょうの社説 2009年4月30日

◎路線別配分決まらず 開業遅れだけは避けたい
 政府の二〇〇九年度補正予算案に盛り込まれた整備新幹線建設事業費の路線別配分が、 閣議決定に合わせて公表できないという異例の事態となったのは残念と言うしかない。理由は新潟県が予算の受け入れに条件を付けたためであり、このまま同県と国土交通省の調整が難航すれば、北陸新幹線の工事にも影響が出かねない雲行きである。

 新潟県が、県民の利益のために国交省にいろいろ注文を付けることを否定するつもりは ない。主張を実現するために、時には駆け引きも必要だろう。ただ、それが石川、富山県が待ち望んでいる新幹線金沢開業の遅れにつながっては困る。「新潟県の声」だけが「地方の声」ではない。新幹線に無理解な一部のメディアなどに都合よく「曲解」されて批判の材料に使われたり、工事を滞らせたりするような言動は避けてほしい。

 新潟県が出している条件は▽新幹線開業後にJRから支払われる貸付料の一部を地方に 還元すること▽県内駅(上越など)に新幹線をすべて停車させること―である。前者については、富山、長野県も同様の提案をしており、まったくあり得ない発想というわけではない。後者も気持ちは理解できる。しかし、これらが予算の配分を「人質」に取り、開業遅れのリスクを負っても結論を急がなければならない問題なのだろうか。

 貸付料については、未着工区間の建設財源としても有望視されており、現段階ですべて の関係自治体が「地方還元」にもろ手を挙げて賛成するとは思えない。拙速を避けて、延伸に充当することを望む自治体の意向も十分にくんで扱いを検討する必要があるだろう。停車駅も、開業までまだ五年以上も準備期間があるのだから、JRとすれば、今は「今後検討する」と答えるしかなく、どれだけ強く迫ってみたところで、その姿勢がすぐに変わるとは思えない。

 新潟県は、ひとまず予算の配分を了承し、工事を着実に進めながら要望の実現を目指し てもらいたい。国交省には、補正予算の成立までに同県の理解を得るためにあらゆる努力を尽くすことを求めておきたい。

◎税務職員の相互派遣 強まる県市町一体の流れ
 個人住民税の徴収強化策として、石川県は六月から県税職員と県内八市町の税務職員の 相互派遣事業に取り組む。県はさらに滞納整理を促進するため、専任職員を増員して直接徴収を行う市町を拡大することにしている。個人住民税の徴収業務で県と市町の一体化を一段と深化させるものであり、こうした取り組みによって地方税の収入率アップはもとより、自治体職員の税務能力の向上が望まれる。

 地方分権を確かなものにするには、まず自治体の自主財源の確保が不可欠である。国か ら地方への税源移譲を伴う分権改革をさらに推進していくなら、自治体も相応の能力を備える必要があり、県市町一体による徴税業務の強化は分権時代の流れとも言える。

 一体的な取り組みを進めれば、共同の組織づくりも視野に入ってこよう。今年度に入り 、滞納者の財産調査や差し押さえ、公売などを行う全県的組織を作る県が相次いでいる。福井県もその一つで、十七市町と共同で「地方税滞納整理機構」を設立し、四月から業務を開始している。こうした事例も参考にしてほしい。

 県の税務職員相互派遣事業では、県職員が派遣先の市町で滞納整理を推進する一方、県 税事務所などに市町職員を受け入れ、徴収能力の向上を図る。派遣期間はそれぞれ三―四カ月程度で、六月と十月の前後期に分け、四市町ずつ行う予定という。

 個人住民税(県民税と市町民税)の徴収は基本的に市町が行うことになっているが、個 人住民税を増やす形で税源移譲が行われたことに伴い、未収額も全国的に増加傾向にある。

 一方、職員が限られた中小規模の市町では、税務職員の知識、ノウハウを高めることが 課題になっている。今回の職員相互派遣は、住民税の徴収と職員の能力向上の両面で、県が主導的役割を果たすものと評価できる。来年度以降も継続してもらいたい。

 福井県の滞納整理機構は、県と市町職員が相互に併任発令を受けて業務を行っている。 これも一体化の一つの方法である。