きょうのコラム「時鐘」 2009年4月30日

 音楽家として成功する方法を教えてあげよう、と指揮者の岩城宏之さんに言われたことがある。「ユダヤ人に生まれること。だから私たちは失格だ」

無論軽い冗談だが、芸術の世界は普段の努力だけでなく、持って生まれた才能がモノを言う。絵や音楽の才能の芽は、子どものころに既に見極めがつく。勉強したら追いつけるという話ではない

そんな才能に見放された者にとって、クラシック音楽や名画の鑑賞は、つい肩が凝る。分かったような顔をしてうなずくのも、骨が折れる。食わず嫌いを押し通しているが、実は「秘蔵の名曲」をたまに聴く。美空ひばりさんがオーケストラをバックに、歌劇のアリアを披露したビデオである

歌詞も物語の筋も分からないが、演歌の女王による時折コブシを利かせた熱唱は、異国で生まれた音楽を身近なものにしてくれる。岩城さん絶賛のステージ、と聞いた

「熱狂の日」音楽祭が始まっている。プロもアマも、モーツァルトに興じる。当地ならではの伝統芸能との競演もある。音楽が苦手という同類はいても、はなから音楽嫌いは、そうはいないだろう。