米グーグルが始めた書籍検索サービスが日本の出版業界に電子化への対応を迫っている。同社は世界の図書館の本をデジタル化し、電子図書館作りを進めている。著作権侵害を理由に米国の出版社が訴えていたが和解が成立、日本の書籍も対象に含まれることになったからだ。
グーグルのサービスは絶版となった書籍をスキャナーで読み取ってデータベース化し、本文の一部か全体を検索閲覧できるようにした。各国の有力大学と協力して、すでに約700万冊の情報を取り込んだ。
現物を入手できない本をインターネットで検索閲覧できれば学術研究に役立つし一般の読者にも便利。そのための書籍複製は米国著作権法のフェアユース(公正利用)に当たると同社は正当性を主張している。
和解案では、絶版となった本を電子化した場合、グーグルは60ドルをまず権利者に支払い、商用利用した場合には収益の63%を分配する。権利者は同社にデータベースからの削除を求めることもできる。
問題は今回の決定が米国の集団訴訟に基づく和解という点だ。日米両国は国際条約により著作権を相互に保護する義務がある。このため日本の出版社も共通の利害関係者となり和解の効力が及ぶ。グーグルは削除の意思表示がない限り、権利料を支払うことでいわば自動的に日本の書籍も電子化できることになる。
多くの出版社はグーグルと和解したうえで削除を求める方針。米国の著作権法や訴訟法の効果が日本の権利者にも及ぶことには疑問を禁じ得ないが、やむを得ない対応である。
日本の書籍は絶版かどうかの判断が米国では難しい。電子化する前に入念に調査するとともに、商用利用する場合には収益の還元方法を日本の出版社や著作権者に明確に示すようグーグルに求める必要がある。
フランスなど欧州では電子図書館作りを国策で進めている国も多い。日本は古書の電子化は保存目的で行っているが、書籍の検索サービスは著作権法上認められていない。日本でも書籍の検索サービスを歓迎する声は多く、対応が求められよう。
今国会提出の著作権法改正案には国立国会図書館に書籍の電子化を認める条項が入った。日本も電子図書館作りを急いで進めたい。さらに日本にもフェアユースの明確な規定を導入し、グーグルの事業を法的に監視できるようにすべきだ。
グーグルの検索技術は先進的だが法的な課題も多い。国内法制度を整備する一方、政府間で新たなルール作りを進めていく必要もあろう。