「入るな!」と言われれば、入ってみたくなるのが人間の性(さが)であり、新聞記者の本能。というわけで、今回のテーマは「立ち入り禁止の向こう側」。普段は、関係者でなければ決して入ることができない、福岡都心のあんな場所や、こんな所に潜入。扉の向こうの「秘密の空間」を案内します。

数十本のケーブルがはう「とう道」。気温は、年間通じて17℃前後だが、夏場の湿度は約80%に。うっすらと霧がかかっていた

数十本のケーブルがはう「とう道」。気温は、年間通じて17℃前後だが、夏場の湿度は約80%に。うっすらと霧がかかっていた

 ●地下深く潜れば都心を貫き7キロ 実は災害の備え

 29段の階段を下り、6段はしごを登る。目の前のドアを開け、さらに、77段の急な階段を下りる。

 着いた所は福岡市中央区天神2丁目、NTT天神ビルの地下約20メートル。ビルの地下6階の深さに当たるその場所には、なんと“秘密のトンネル”が存在したのだ。

 場所によっては直径3.6メートルもあるこのトンネル、電話線など都心に張り巡らされた大量のケーブルを、地震や火災などの災害から守るために造られた「とう道」と呼ばれる設備なのだ。驚くことにこのとう道、同市博多区博多駅東2丁目のNTT博多ビルの下まで延びているという。

 案内してくれたNTTインフラネット九州支店設備部の中峯常夫さん(50)から「テロの標的にもなりかねないので‐」と念押しされているので、詳しく記事では書けないが、福岡市都心部の地中には約7キロのとう道が掘られており、深い場所では地下約30メートルにも及ぶ。全国では約600キロもあるそうだ。

 深い所の次は高い所。手動の2枚扉を閉めてボタンを押すと、エレベーターはゆっくりと昇り始める。2分45秒かけて、に到着。扉を開けると、オォー、眼下に天神の街が広がっている。

KBCの鉄塔。「3階」からさらに地上約?㍍の「4階」踊り場に登り天神の街を眺める永井さん。ここから西日本大濠花火大会を見物した先輩もいたとか

KBCの鉄塔。「3階」からさらに地上約?㍍の「4階」踊り場に登り天神の街を眺める永井さん。ここから西日本大濠花火大会を見物した先輩もいたとか

 ここはKBC九州朝日放送(同市中央区長浜1丁目)の鉄塔の踊り場。地上810メートル。通称「3階」と呼ばれているそうだ。西は糸島半島(同市西区)、東は八木山峠(福岡県飯塚市)辺りまで一望できる。ミニチュアのように見える下界の車や人を眺めながら、気持ちいい風を浴びていると、同行してくれたKBC広報室の永井譲さん(42)が「今の季節はいいんですけどねー」と一言。

 冬は玄界灘から北風が吹き付けるため、フード付きのダウンジャケットにズボンは2枚重ねといった、雪中登山スタイルでないと「とても耐えられませんよ」とのこと。

 ●回送列車が行く終着駅の先は? 将来の「本線」も

 最後に潜入したのは地下鉄七隈線「天神南駅」の“向こう側”。同駅止まりの列車から乗客全員が降りたところで、特別に先頭車両に乗り込ませてもらった。

天神南駅の〝向こう側〟。奥に車止めと「春吉中間換気所」につながる階段が見える。左右の柱の奥には、延伸時に「本線」となる線路が

天神南駅の〝向こう側〟。奥に車止めと「春吉中間換気所」につながる階段が見える。左右の柱の奥には、延伸時に「本線」となる線路が

 回送となった列車は50秒かけ東へ約200メートル進み停車。ここは、中央区春吉交差点の地下約15メートル。左右の窓から見えるのは将来延伸する際に本線になる予定の線路だ。前方には、うん、確かにコンクリートの壁がある。

 わずか500メートル先にはキャナルシティ博多(博多区住吉一丁目)があるのだが「トンネルを掘るだけでも100億円以上は必要です」と、市交通局鉄道土木部の角英孝さん(49)。

 停車してから2分。列車は天神南駅へ折り返し。お客さんを乗せて出発した。これで今回の取材は終了。普段は入れない“向こう側”に広がる世界。楽しんでいただけましたか?

 (横山智徳)

=2007/07/31付 西日本新聞朝刊=