以前、病院に行ってはっとしたことがある。医師から事務職員まで全員が青色のマスク姿。風邪の感染防止だったのだろうが、とっさに思い描いたのは新型インフルエンザ流行時の緊迫した光景である。
それが現実になるのだろうか。メキシコや米国など国境を越えて広がる豚インフルエンザ。世界保健機関(WHO)は警戒水準を「3」から、ウイルスが人から人への感染力を十分に得た「4」へと引き上げた。新型インフルエンザ発生の認定宣言である。
これを受け、日本政府は対策本部を設置、水際対策や医療態勢の強化などに乗り出した。海外ツアーの中止や、駐在員と家族を一時帰国させる企業も相次ぐなど慌ただしさが増してきた。
世界的な金融・経済危機に続く、新たな衝撃の影響が懸念される。何としても世界的な大流行は避けたい。怖いのはウイルスだけではない。風評やパニックによって社会的な大混乱を招くことだ。
緊張感を持ちつつ冷静に対応したい。そのためにも、行政の迅速かつ正確な情報提供が欠かせない。ワクチンの製造や治療薬の備蓄など備えの強化も急がれる。
二十世紀にはスペイン風邪など三回の世界的大流行を招いた。「今世紀初」とならぬよう、医療技術や監視体制などを駆使し、各国の力を結集したい。