豚インフルエンザの人への感染拡大で、世界保健機関(WHO)が警戒水準(フェーズ)を「4」に引き上げた。ウイルスが人から人への感染力を十分に得た段階を意味し、新型インフルエンザ発生を認定したことになる。
警戒を強めなければなるまい。WHOのチャン事務局長は「世界的大流行の危険性は高まった」との声明を発表した。メキシコや米国、欧州などへ感染が広がった現状から、対策はインフルエンザ発生の封じ込めより、被害の軽減に力点を置くべきだとも述べている。
日本政府は麻生太郎首相を本部長とする「新型インフルエンザ対策本部」の初会合を開いた。首相は「国家の危機管理上、極めて重要な課題だ」との認識を示した。拡大防止と被害軽減に全力を挙げてもらいたい。
何よりも大切なことは、パッニックを起こさず、冷静に対応することだ。WHOは「大流行は不可避ではない」とも述べる。やみくもにおびえる必要はなかろう。
パニック防止には、政府の正しい情報発信がかぎを握る。豚インフルの特性については、まだ正確に分かっていない。メキシコだけ死者が多い理由も、専門家には「衛生環境や医療水準の違い」とみる意見があるもののはっきりしない。政府は、国際的な連携を強化し、メキシコをはじめ各国の状況や、ウイルスの特徴などに関する情報収集に努めるとともに、対策を国民に分かりやすく、迅速に伝えなければならない。
日常生活での予防は、栄養と休養による健康管理に気を付け、積極的な手洗いやうがいを心掛けることが重要という。流行地域に行かないことも大事だ。マスクの着用や人込みを避けるのも有効だろう。
懸念されるのは、輸入豚肉に対する風評被害である。野田聖子消費者行政担当相は「豚肉は輸入時に殺菌され、料理の際も加熱するので全く安全だ」と明言する。メキシコ産の豚肉を使った食べ物の販売を見合わせる動きがあることにも「消費者に間違ったシグナルを送ってもらっては困る」と注意する。
内閣府の食品安全委員会委員長見解でも万一、ウイルスが付着していたとしても「インフルエンザウイルスは酸に弱く、胃酸で不活化される可能性が高い」などから豚肉・豚肉加工品は「安全」と強調する。間違った情報に惑わされないよう、一人一人も正しい知識を得る努力が大切だ。
政府の宇宙開発戦略本部の有識者らによる専門調査会は、宇宙基本法に基づく初の国家戦略となる「宇宙基本計画」の原案をまとめた。
日本の宇宙政策を研究開発から利用重視へ転換するのを基本方針とした。今後十年程度を見越した上で、二〇一三年度まで五年間の取り組みとして、地球環境観測・気象衛星や有人宇宙活動など、九つの開発利用計画を盛り込んでいる。
計画では五年間で三十四基の衛星を打ち上げる。アジアの災害時に衛星の観測情報を提供して国際貢献するほか、小型衛星の打ち上げ機会を増やして宇宙産業の振興も狙う。日本得意の二足歩行ロボットによる月面探査を実現し、有人活動との連携も検討するなどだ。
内容はあまりに総花的で、予算の裏付けもない。計画をそのまま実行すると五年後には現在の二倍以上の予算が必要との指摘もあり、実現は難しかろう。
問題は非軍事を原則としてきた宇宙開発に、宇宙基本法の施行によって防衛目的の宇宙利用が解禁されたことだ。計画の柱の一つとして安全保障目的の衛星が挙げられ、現在三基の情報収集衛星を五年以内に四基に拡充し、早期警戒衛星のセンサー研究の推進も明記された。
しかし、衛星自体の保有の判断は今年末にまとまる新しい防衛計画大綱や次期中期防衛力整備計画に委ねるとした。まだ正式に決まっていない衛星について、基本計画で先走るのは、順序が逆ではないか。
既に運用されている情報収集衛星についても、本当に役に立っているのか、検証作業がなされていない。巨額の税金が投入される宇宙開発は納税者の理解と支持が欠かせない。防衛機密に隠れた宇宙の軍事化を進めてはなるまい。歯止めが必要だ。
(2009年4月29日掲載)