遺族の悲しみに寄り添おう

 
              
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遺族の悲しみに寄り添おう

2009/04/26配信
 107人の死者を出した兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故。25日、丸4年が過ぎた。事故の風化を危ぶむ声が上がる一方、今も多くの遺族が悲しみや絶望から立ち直れずにいる。遺族の心の痛みが和らぐスピードには個人差があり、その人の性格や生活環境だけでなく、そばで支えてくれる人の存在が心の回復に大きな影響を与えるとされる。

 そんな中、地元尼崎の聖トマス大に今月1日、国内の大学では初めてとなる、死別体験者の心のケア(グリーフケア)の専門家養成を目的とした「日本グリーフケア研究所」が設立された。事故や災害、病気などで愛する人を亡くした遺族の“グリーフ(悲嘆)”にどう寄り添うか。多くの人にとって身近で難しいテーマと言え、同大の取り組みに注目が集まっている。
 
 研究所開設のきっかけとなったのは、2007年秋からJR西日本の寄付講座として同大が開講した「『悲嘆』について学ぶ」公開講座。現在4期目を開講しているが、死別体験者の悲しみに寄り添うために必要な知識や考え方を学ぼうと、毎回、定員を大きく上回る受講申し込みがあるという。同大はグリーフケアに対する社会的関心が高まっているとして、「グリーフケアワーカー」の養成講座設置を決めた。

 今月開講した「基礎コース」に加え、2010年度には「ボランティアコース」、11年度には「専門職コース」も開講する予定だ。講義は平日の夜や土曜に行い、基礎コースでは死生学や対人援助スキルなどを指導する。死生学とは哲学、心理学、医学、民俗学など様々な観点から死と向き合う新しい学問で生命倫理や自殺の予防などとともに死にまつわる悲嘆も研究対象としている。受講生の中には、脱線事故の遺族の姿もあるという。

事故から1カ月後、犠牲者を現場で追悼する高木さん(前列右から3人目)=2005年5月25日、兵庫県尼崎市
事故から1カ月後、犠牲者を現場で追悼する高木さん(前列右から3人目)=2005年5月25日、兵庫県尼崎市

20年以上前からグリーフケアに携わり、阪神大震災で被災者ケアの経験もある同大名誉教授の高木慶子所長によると、今の日本は死別体験者が孤独に陥りやすい社会だという。遺族が悲しみを乗り越えていくためには、そばに寄り添い、ひたすらじっと話に耳を傾けてくれる“支え人”の存在が必要となる。ところが核家族化が進み、地域社会とのつながりがどんどん希薄になっている日本では、支え人がなかなか見つからない。肉親を亡くした経験がなく、遺族とどう接してよいかが分からない人も増えている。「だからこそ、グリーフケアの知識やスキルを持った専門家が今後ますます必要になる」と、高木所長は指摘する。

 限りある命を持つ人間の社会にとって死別体験は避けられない。核家族・少子化という現実がある以上、肉親を失った悲しみを和らげるために社会として対応していく必要があるだろう。専門家の育成と同時に、もっと多くの人が気軽にグリーフケアを学べるよう、地域の公的機関が行う市民講座などにも学習の機会が広がっていくことが望まれる。また、日ごろから家庭などで“肉親を亡くす”という体験について、子どもたちに積極的に伝えていくことも重要だ。愛する人を失う悲しみについて考えることは、人の命の重みを理解することにもつながる。それはあまりに多くの犠牲と引き換えに、私たちがあの事故から学んだ尊い教訓でもある。(大)
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