山口県宇部市の焼き肉店の売上金横領事件で逮捕起訴され、03年に控訴審で逆転無罪となった斎藤猛さん(47)が、山口検察審査会のメンバーに偶然選ばれていた。市民参加の司法制度としては5月から始まる裁判員制度の“先行例”とも言える同審査会。冤罪(えんざい)被害者として参加した斎藤さんは「裁判員制度で冤罪は減るかもしれない」と、その可能性を実感したという。
斎藤さんは02年、勤務先の焼き肉店の売上金を横領したとして実刑判決を受けたが、03年に広島高裁での控訴審で無罪判決が確定。斎藤さんらは業務上横領などの罪で元同僚の女性を告発した。山口地検は不起訴処分にしたが、山口検察審査会が08年4月、起訴相当と議決。地検は半年後、女性を横領容疑で逮捕、起訴した。
斎藤さんが審査員の通知を受けたのは、審査会の議決後。「自分もお世話になったから」と引き受けた。メンバーは会社員や主婦などさまざまで、それぞれの経験や専門知識から意見を言い合った。任期は半年間。難解な事件もあったが、わからないことは事務官に質問し、話し合って結論を出したという。
任期最後には大半の人が「やって良かった」と言い、斎藤さんも「市民が司法に関心を持つきっかけになり、有意義だった」と振り返る。
ただ、同じ「市民の司法参加」でも、検察官の判断について調書などの書類を読んで話し合う審査会に対し、裁判員は、法廷で殺人事件などの被告や被害者側と直接向き合い、有罪無罪、量刑を判断する。「法廷で対面するのは精神的に重い」との懸念もあるという。
もし、裁判員に選ばれたら--。「人を裁くのは気が進まない」。だが一方で被告人席に立った経験から「裁判官は検察側に逆らえないのでは」と感じたと言い、市民感覚が裁判に反映される意義はあると思うという。そして「状況証拠だけで判断せず、『疑わしきは罰せず』を貫きたい」と語った。【藤沢美由紀】
毎日新聞 2009年4月12日 2時30分(最終更新 4月12日 3時10分)