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業者仲介で結婚

豊かさあこがれ 中国人花嫁来日
 長浜市で幼稚園児二人が殺害された事件で、滋賀県警捜査本部(長浜署)に殺人容疑で逮捕された谷口充恵容疑者(三四)=中国名・鄭永善=は、六年半前に中国東北部(旧満州)の黒竜江省から日本に嫁いできた。県警の調べ官に「いい暮らしがしたかった」と来日の真意を漏らしたという。最近の統計では、男性が選ぶ国際結婚の相手は中国人が最多。業者が仲介、一件数百万円とされる「花嫁ビジネス」の現場を訪ねた。
 JR長浜駅からほど近い市の中心部に「結婚へのいざない」と書かれたオレンジ色のさび付いた看板がある。「独りぼっちにならないように配慮したつもりなんですよ」。谷口容疑者と夫(四七)の結婚をあっせんしたという初老の元業者は、物腰柔らかに語り始めた。
 県北部の農村で四十−五十代の未婚男性に声を掛ける中で「頭の良い日本語が話せる女性」を希望する夫と知り合った。「ふっくらして、おおらかで明るい男性」を望む谷口容疑者と「条件はぴったりだった」という。

多い黒竜江省出身

 谷口容疑者は農村出身で七人きょうだいの末っ子。調べに「貧しかった」と述懐している。元業者によると、結婚当初は夫の両親と同居、幸せそうな暮らしぶりだった。
 来日する中国人女性のほとんどが黒竜江省出身者だ。経済成長を続ける中国で発展から取り残され、貧しさから逃れようと多くの女性が日本行きを望んでいるという。
 結婚にかかった費用について元業者は言葉を濁すが、谷口容疑者の実家へ百万円の結納金を渡し、三回の現地訪問でもその都度、中国人仲介者に百万円ずつ支払ったという。元業者への謝礼や諸費用も夫側が負担した。二年半前から約八十組を仲介した「チャイナブライダル」(岐阜県美濃加茂市)によると、男性側は通常、渡航費も含め計二百万、業者によってはそれ以上を支払う。登録した男性は写真や書類で五、六人を選び、二泊三日程度の日程で中国で見合い。再び現地を訪れ式を挙げる。成婚率はほぼ100%という。

言葉の壁、離婚も

 一方で「日本になじめない」と供述した谷口容疑者同様、言葉の壁や生活習慣の違いに悩む人も少なくない。「夫の態度が急に冷たくなったが、言葉が通じず話し合えない」。大阪府門真市で中国人の相談に乗る台湾出身の高尾莉娜(りな)さん(四八)は昨年末、涙声の電話を受けた。
 中国人向け新聞を発行する「関西華文時報」(大阪市)にも昨年、食堂経営者の妻(三〇)から「朝から晩まで働かされ自由がない」との相談があった。高尾さんは「夫や家族の理解がないと、若い女性は精神的に参ってしまう」と指摘する。
 来日直後に行方が分からなくなるなど、最初から日本への定住が目的だったとみられるケースもあり、破たんも相次いでいる。厚生労働省の統計によると、二〇〇四年の日本人男性と中国人女性の婚姻件数は一万千九百十五件。離婚件数は四千三百八十六件で、単純計算では約三分の一が別れていることになる。
【2006年3月6日掲載】