支局長からの手紙

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海を渡った神様 /島根

 「日本と韓国は長い間、『近くて遠い国』と言われてきましたが、もともと仲が悪かったわけではないのです。むしろ仲のよかった時代の方がはるかに長いのです」。前松江市立城北小学校長で、県国際理解教育研究会理事の錦織明さん(60)はそう語ります。錦織さんが監修、発行した「海を渡った神様」は、1850年ぐらい前の話です。内容を短く紹介します。

 今の韓国の日本海側に、新羅という国があり、ヨノラン、セオニョという夫婦が仲良く暮らしていました。後に日本で王様と王妃様になる2人は、韓国の古い本「三国遺事」に登場します。韓国・慶尚北道の町から岩に乗り、日本のある小国(「海を渡った神様」では出雲の国)に渡ります。米や鉄作り、機織りを伝え、人々から神様として慕われました。

 記紀神話の神・スサノオノミコトについても書かれています。「スサノオノミコトは高天原(たかまがはら)を追放されたあと、新羅に天下るのですが、それを知る日本人は案外少ないのです」と錦織さん。本は日本語とハングル語で紹介されていて、とても興味深い内容に仕上がっています。

 20年前、錦織さんはハングル文字を読めませんでした。ある日、伊藤博文を暗殺したことで知られる韓国の独立運動家・安重根(アンジュングン)が、本国では、いたるところで英雄扱いされていることを知ります。「人間の評価が、日韓両国でなぜこんなに違うのか」。NHKのハングル語講座で学ぶ一方で、韓国から学校教科書を取り寄せ、学校教材の開発を進めていきました。

 「戦後、教育の世界で神話はタブーでした。『ナショナリズムをあおる』というのが理由でしょうが、私は、グローバルな視点を学校教育に取り入れたかったのです」と錦織さんは語ります。「海を渡った神様」は日韓両国の教師が合同で教材開発し、03年、まず電子ブック(CD)として完成、両国の学校などで使われました。「近くて遠い国」が「近くて近い国」になるきっかけになったのではないでしょうか。

 竹島問題を発端に、いま島根県と慶尚北道は友好関係を中断しています。錦織さんは出版にあたって「日韓両国の友好親善に少しでも寄与することができれば望外の喜びです」と記しました。両国の「垣根」が取り払われることを私も願っています。本は、松江市の県立図書館や同市立中央図書館などで閲覧できます。【松江支局長・元田禎】

 motoda@mbx.mainichi.co.jp

毎日新聞 2009年4月22日 地方版

 
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