新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)の警戒レベルが「フェーズ4」に引き上げられた28日、国は感染防止のため空港・港湾の検疫を強化し、各自治体でも対策本部が始動した。学校は海外への修学旅行などを中止し、街ではマスクが売り切れるなど、生活レベルの警戒度も高まる。ゴールデンウイーク序盤での思わぬインフル騒動で、旅行・消費の冷え込みを懸念する声も聞こえ始めた。
福岡空港では28日から、国際線の到着客全員に対し、問診票の記入を求め始めた。同空港検疫所支所の検疫官らはこの日から、感染防止のための医療用マスクや手袋をつけて対応。入国者らを驚かせた。
問診票は感染が確認されたメキシコ、米国、カナダへの滞在の有無や、発熱やせきなどの症状の有無を尋ねる内容。中国から帰国した男性は空港の対応について「異常だと思うが、健康のためなら仕方ない」、韓国旅行から帰国した女性は「韓国ではこんなに騒いでいなかったので、驚いている」と話した。
同空港は政府の行動計画で、成田空港などと共に発生国からの入国者を集約する4空港の一つに位置づけられている。3カ国から福岡への直行便はないが、ある検疫官は「韓国で発生したら、広島以西の空港への到着便が来るかもしれない。大変なのはこれから」と気を引き締めていた。
港湾での検疫強化も始まった。厚生労働省は全国の各検疫所に、新型インフルエンザ対策のガイドラインに沿った対応を指示。これにより発生国から船舶が入国する場合は、客船が横浜、神戸、関門港などに集約され、貨物の荷揚げも原則として検疫機能がある港に限定される。
福岡検疫所門司検疫所支所(北九州市門司区)によると、メキシコや米国など発生国と関門港を直接結ぶ船舶はない。ただ、中国や韓国との往来は多く、感染が東アジアに拡大した場合は検疫官の増員を含め検討する。
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各学校も海外への修学旅行を中止や延期したり、留学生に帰国命令を出すなど対応を始めた。
大分県立別府羽室台高は、6月5~14日に計画していた外国語科2年生34人のニュージーランド語学研修の中止を決めた。小崎貞祐教頭は「現地でも感染者が出ており、苦渋の決断」と話した。
福岡県太宰府市の福岡農業高校も、専攻科(高卒生)2年生30人が来月29日から米国・ハワイへ3泊5日の修学旅行に行く予定だったが、10月以降に延期した。同科の待鳥順二教頭は「ハワイで感染者は出ていないが、世界的な観光地で多くの人が集まることを考慮した」と語る。
北九州市の私立照曜館中は、3年生が5月30日出発予定の豪州への修学旅行について、延期も含めて検討し、連休明けまでに判断するという。
また、熊本学園大(熊本市)は28日、交換留学生でニュージーランド、カナダ、米国にいる学生11人全員に帰国命令を出したと発表した。坂本正学長は「学生らの安全を考えた」と説明。新型インフル発生地域への教職員らの渡航も禁止し、その他の地域への出国も自粛を求めている。
長崎大も同日、教職員と学生に対し、メキシコ渡航の原則禁止を通知。メキシコ以外の海外渡航も事前に届け出るよう求めた。
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薬局などでは早くもマスクが品薄になり、メーカーなどには企業などから大量注文が相次いでいる。
インフルエンザ用の抗体マスクを開発した福岡県飯塚市の「クロスシード」には数千枚・数万枚単位の注文が相次ぎ「受け付け電話が終日鳴りっぱなしで、ネット注文も切れ目がない状態」という。
抗体マスクはウイルスをマスク表面で無毒化する商品で、36枚入り7560円と20枚入り6720円の2種。通常なら業務閑散期だが、全社員を召集し、フル稼働で受注・生産に当たっている。
全国の企業と取引があるオフィス用品の通信販売業「アスクル」(東京都)も27、28日の2日間でマスクの受注量が通常の10~20倍に急増。「インフルエンザ用の密閉性の高い不織布製マスクは多くが外国産で、既に発症が報告された米国などへの輸出が優先される。在庫の補充は綱渡りだ」と懸念する。
一方、薬局のマスク販売コーナーも軒並み品薄状態で、福岡市中央区の「ダイコドラッグ天神ビル店」では、「インフル流行が報道されて以降、棚から商品が消えた」。福岡県内に約50店舗を展開する薬局店「ドラッグイレブン」(福岡県大野城市」も「各店舗ともり切れ寸前」と話す。
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新型インフルエンザが国内で発生した際に患者の隔離・治療に当たる福岡県の感染症指定医療機関「田川市立病院」(池田喜彦院長、392床)=同県田川市=が、医師不足から新型インフルエンザ患者の受け入れが困難になっていることが分かった。医師不足は地方を中心に深刻で、他の指定医療機関でも、流行時の医師確保が課題となりそうだ。
田川市立病院は99年、感染症専用の病床8床を開設。福岡県内で新型インフルエンザ感染の疑いがある患者が発生した場合、隔離・治療を行う医療機関に指定されている。
ところが病院によると、病床開設当初から専従医師は配置していない上、緊急時に主に治療に携わる呼吸器科は常勤医師が07年に退職して以来おらず、現在は非常勤3人が週替わりで診療している。ピーク時に約45人だった病院全体の医師数も現在31人。内科や小児科も現状の外来・入院診療が限界で、県に指定機関返上を申し出たこともあるという。
同院総務課の水上茂課長は「新型インフルエンザの患者受け入れを求められても、現状では対応が難しい。医師の派遣を県などにお願いしたい」と言う。
福岡県保健衛生課は「バックアップできる医療機関などを紹介したい」と話すが、具体策は未定。流行時は他の医療機関も「発熱外来」を開設するため、医師の派遣がどこまで可能かは未知数だ。
福岡県内では他に、福岡市立こども病院・感染症センター(同市中央区)と北九州市立医療センター(同市小倉北区)が指定されているが、両病院は「初期段階の受け入れに問題はない」としている。
2009年4月29日