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きょうの社説 2009年4月29日
◎新型インフル認定 地方の危機対応も試される
世界保健機関(WHO)が豚インフルエンザを世界的大流行の恐れがある新型インフル
エンザと認定し、国際的な警戒レベルを引き上げたのは、メキシコ以外の国で被害が比較的軽いうちに、国際社会で可能な限りの対応を講じて状況悪化に歯止めをかけるのが狙いである。恐れていた新型の出現は、大型連休入りで海外旅行者が増え、人の移動が活発になる日 本にとっては最悪のタイミングともいえ、政府とともに地方も危機対応能力が試されることになる。国内で感染が広がる差し迫った状況にはないものの、患者発生は十分に考えられ、あらゆる可能性を想定して準備を整えたい。 石川、富山県では対策本部を設置して対応を本格化させた。隣の韓国でも感染が疑われ る患者が発生し、ソウルをはじめ国際線をもつ小松、富山空港では検疫、監視体制の強化が求められる。患者発生に備えた指定医療機関の受け入れ体制も万全にしたい。 万一、連休中に患者が発生した場合、人が集まるイベントや観光地にも悪影響を及ぼし かねない。新型インフルエンザに対する市町村の準備には遅れもみられたが、住民の安全に責任を担う当事者意識をもって地域事情に合わせた対策を練っておく必要がある。 WHOは国境閉鎖や海外旅行の制限は勧告しないとしている。まだその段階ではないと の認識であり、大型連休入りした日本にとっては他の国以上に水際対策は慎重かつ冷静な対応が求められる。 メキシコでは死者が百五十人を超え、感染者は米大陸以外にも急速に拡大している。世 界が空路で結ばれ、国境を越えた行き来が活発化した現代は、感染症の拡大スピードもスペイン風邪が流行した時代とは比べものにならない。 ウイルスの毒性や感染力など実態は不明の部分が多く、専門家による一刻も早い解明が 待たれるが、それが新型の不気味な脅威であり、今まさに問われているのは、未知のウイルスに対する国際社会の対応力である。わずかながら明るい兆しも見えてきた世界経済のリスク要因にさせないためにも各国のスクラムを強めたい。
◎体罰めぐる司法判断 批判を過度に恐れずに
児童の胸元をつかんで叱責した教師の行為が体罰にあたるかどうかが争われた訴訟で、
最高裁第三小法廷は「体罰にあたらない」として、体罰を認めた一、二審判決を破棄した。体罰について、最高裁が判断を示した初のケースで、教師が児童生徒に一定の力を行使しても、許される場合があるとした。教師は体罰批判を過度に恐れず、子供と真正面から向き合ってほしいという思いが判決文から伝わってくる。とはいえ、身体への侵害や肉体的な苦痛を与える体罰は、あくまで学校教育法で禁じら れている。最高裁は今回、目的、態様、継続時間などを考慮し、「やや穏当を欠く」としながらも、「指導するためにしたことで、悪ふざけの罰として肉体的苦痛を与えるためではない」と認めたが、教育現場でどの程度の指導なら許されるかの判断は、なかなか難しい。 文部科学省は一昨年、教師の体罰に関する基準を全面的に見直し、体罰にあたらない具 体例を七つ明示した。▽放課後も教室に残して指導する▽授業中、教室に起立させる▽学習課題や掃除当番をほかの子供より多く課す、などである。学校側は、体罰の疑いを持たれぬためにも、この基準に沿って指導することが望ましい。 判決によると、原告の男児は当時、小学二年生で、休み時間中に廊下で女児をけり、注 意した講師の尻をけった。講師は追いかけて捕まえ、洋服をつかんで壁に押し当て、「もう、するなよ」としかった。男児は、しかられたことが原因で夜中に泣き叫んだり、一人で寝られなくなるなどして、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断を受けたという。 判決は一方で、「男児の母親が長期にわたり、学校関係者に対して極めて激しい抗議行 動を続けた」と指摘し、保護者の側にも行き過ぎた振る舞いがあったことを示唆している。教師の側には「問題教師」がいて、保護者側には過剰な要求をする「モンスターペアレント」と呼ばれる困った人々がいる。学校は、体罰と疑われぬよう文科省が示した基準をきちんと守らせていくほかあるまい。
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