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社説:視点 オバマの100日・経済 八方美人から脱皮を=論説委員・福本容子

 振り返れば、まだ100日なのかといった印象である。日本の私たちでさえ、大統領の話題に触れない日がないほど精力的な仕事ぶりが伝わってきた。

 この間、不況はさらに深刻化し、米国の失業者は1~3月で200万人以上も増えた。にもかかわらず最新の世論調査で大半の米国民が大統領の実績を「期待通り」か「期待以上」と高く評価している。人物の魅力に加え、就任から約1カ月で大型景気対策法を成立させた指導力や、リアルタイムで国民への説明にあたる姿勢が支持の背景にあるのだろう。

 それだけに残念なのが、腰の引けた金融危機対策だ。世界中に波及した経済危機の元凶は金融にある。その機能をまひさせた巨額の不良資産は多くが未処理のまま金融機関の元にある。ここに本気でメスを入れない限り景気の本格回復が望めないのは大統領も認めている。

 2月末の議会演説で大統領はこう語った。「今、銀行支援がどれほど不人気な政策であるか分かっている。しかし、怒りの感情や時の政治状況に任せて行動している余裕はない。問題の解決こそ私の責任なのである」

 力強い言葉だったが結局、国民の怒りや議会の金融機関非難、さらに金融界の反発に押され、断固とした行動は伴っていない。公表された対策は、国民に正直に追加負担を求める代わりに金融機関に責任と大幅な改革を迫るという抜本的な内容ではなかった。主要銀行を対象とした資産査定の結果が近く公表される予定だが、不良資産処理と資本増強で政府がどこまで踏み込むのかまだ分からない。

 大統領の根強い人気と裏腹なのだが、多方面に目配りしてばかりでは、大胆な解決策は難しい。国民にも議会の民主・共和両党にも銀行にも好かれる金融安定化策などあり得ないのだ。

 新政権には、二度と同じ危機を起こさない仕組みを作る課題も課せられた。ウォール街の暴走を防ぎ、国民や企業の経済活動を補佐する金融の基本に戻る必要がある。金融だけ突出して大もうけする世界でなくなることを意味するが、それを実現させる覚悟はあるのか。

 税金を投じた直接的なものから中央銀行のゼロ金利政策や資産買い取りまで、金融界にはすでに相当な公的支援がなされている。無駄にしないためには、好む選択でなくとも、政府が一時的に強い権限を行使し経営に関与すべき時があるのだ。

 まだ100日である。国民からの高い支持は困難な政策を実現するための資本として生かしてもらいたい。

毎日新聞 2009年4月29日 東京朝刊

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