2006年08月24日

「この世で一番怖いのは、雨やもり」

長い人生を経て、酸いも甘いも噛み分けた老夫婦の会話。

---------------------------------------
「あのなあ。この世で一番怖いものはなんだろうなァ。死ぬことか、なァ・・・」
<中略>
「わたしがこの世で一番怖いと思うのは、雨やもりだよ」

「やもり?そりゃ、うちの天井をはいつくばっているヤツかい」

「そうじゃないですよ。雨やもりってのは、雨もりのことですよ」

「どうして、雨もりが怖いんだい?」

「そうさねェ、もし火事だったら、いっぺんに燃えちまって、どうしたらいいかを最初から考えればいいけれどね、雨やもりは、私たちが気がつかないうちに、天井が腐り、柱が腐り、畳がダメになっていってしまう。この“気づかないうち”というのが怖いんですよ、おじいさん」

「ああ、そうだなァ」

「人間も・・・・やっぱり、雨やもりになっていくのが怖いですねェ。しだいしだいに気づかないことが一番怖いんですよ」

引用 榎本勝起著 「魅力人生爽快学」 損な性分のあなたに贈る100話 大和出版1986年
---------------------------------------
私は以前から「正しい思想から正しい行動が生まれる」という至極当たり前のことを、このブログでも繰り返し書いてきました。

そして今、日本人の「心の荒廃」が社会問題になってきています。
作家の高村薫さんは「欲と金にまみれる一方の現代日本、何でもありの社会全体が危険なんだと思う」と述べていらっしゃいます。

この「荒廃した心」から生み出される事件や不祥事が多発していますが、日本人の「心」が大きく変貌してきてしまった理由は、いったい何であったのでしょうか。

今日はこのことを少しだけ明らかにしてみたいと思います。

結論から申し上げますと、冒頭の引用文のように、日本人が「雨やもりに気づかなかった」ということです。
生活習慣病ではありませんが、少しずつ悪くなっていくものに「ストップ」をかけられなかったということです。

その結果、多くの日本人は「モラル」「規範」「品格」「思いやり」などで構成される大切なものを失ってしまったのです。この失ってしまったもの・・・それを一言でいえば「良心」でしょうか。

それではどうして、雨やもりに気づかずに、この「良心」を失ってしまったのでしょうか。
そもそも人間にとってこの「雨やもり」とは何なのでしょうか。

その答えも実に簡単なことなのです。
それは人間だれでもが持っている「楽をしたい」と思う心なのです。

---------------------------------------
「楽しいの楽」、「楽をするの楽」どちらも人間にとって必要な「楽」です。楽をすることが楽しいかという意地悪な質問はさておき、私たち日本人はこの何十年、この「楽」を得たいがために、何か大切なものを失ってきてしまったのではないでしょうか。景観、安全、信頼、正義、それとも創り出す力、伝える力、疑ってみる力、人を育てる力でしょうか、あるいは個人や国のアイデンティティでしょうか。

私には、ディズニーランドには日本社会が失ってきた何かが、今でも存在するように思えてなりません。武士道や菜根譚の教えなのか、日本古来の価値観かも知れません。

「すべてのゲストがVIP」東京ディズニーランドで教えるホスピタリティより
---------------------------------------

この数十年、多くの日本人個人や、家庭や、組織に「楽をしたい」というウイルスが侵入してきたことに気づかなかったため、天井が腐り、柱が腐り、畳がダメになっていってしまったのです。

「楽をしたい」というウイルスは、今や日本社会に蔓延しています。特にひどいのがマスメディア業界でしょう。楽をして付加価値をつける技術や理論のすごさには驚嘆してしまいます。
(このブログでは書きませんが、記号論の世界であり、小泉劇場や郵政選挙の基本となった考え方です)

さて、それではどうすれば日本人の「荒廃した心」を元に戻すことができるでしょうか。
その答えも簡単です。それは日本人の「意識改革」を行うということです。

「意識改革」といっても決してマインドコントロールをするということではありません。単に「ものの見方、考え方」を変えるということだけです。社会は変化しているのですから新しい「考え方=思想」を、勇気を持って受け入れていくということです。

具体的に言いましょう。その新しい「考え方=思想」とはズバリ!「ホスピタリティ・マインド」なのです。

欠乏マインドから豊かさマインドへ
競争至上主義から協力、共生主義へ
サービス的思考からホスピタリティシンキングへ

日本人に今求められている「心」、それは「ホスピタリティ・マインド」であると言っても良いでしょう。

最後に一言
ディズニーランドの運営において一番怖いことは、キャストの「楽をしたい」という心です。

ディズニーランドではこれまで「楽をしたい」ウイルスをキャストや組織に侵入させないために、あらゆる努力を重ねてきましたが、その根底にあるのが「ホスピタリティ・ビジネス」としての「ものの見方、考え方」なのです。

日本人の「心」が大きく変貌してきてしまった理由とは・・・ご理解いただけたでしょうか。
この記事へのトラックバックURL
http://www.blogdehp.net/tb/13132901
(当記事へのリンクを含まないトラックバックは受信されません。)