政府は、追加経済対策のため過去最大となる十四兆六千九百八十七億円の財政支出を盛り込んだ二〇〇九年度補正予算案を決定し、国会に提出した。補正後の一般会計総額は百二兆四千七百三十六億円となり、初めて百兆円を突破する。
補正予算は年度途中で必要になった場合に編成されるのが普通で、年度当初の四月に提出されるのは極めて異例だ。追加経済対策によって国内総生産(GDP)成長率を1・9%押し上げる効果があるとされる。
歳出は追加経済対策の柱となる雇用対策に一兆二千六百九十八億円、企業の資金繰り支援などに二兆九千六百五十九億円を重点配分。環境対応車や省エネ家電の購入補助など「低炭素革命」の実現に一兆五千七百七十五億円、介護職員の処遇改善など健康長寿・子育てに二兆二百二十一億円、農業支援や公共事業などインフラ整備に二兆五千七百七十五億円を計上した。
考えられる景気対策の「大盤振る舞い」となり、ばらまきの懸念も指摘されている。民主党も〇九―一〇年度で約二十一兆円の対案を発表している。国会で与野党が政策効果について論議を深めることが重要である。
問題は借金頼みの財政だ。歳入面では「霞が関の埋蔵金」といわれる財政投融資特別会計から三兆一千億円を取り崩し、積立金はほぼ枯渇する。このため穴埋めとして、赤字国債など国債十兆八千百九十億円を追加発行する。当初予算と合わせた〇九年度の国債発行額は四十四兆一千百三十億円と一九九九年度の三十七兆五千億円を上回って過去最大となる。
当初予算で四十六兆一千億円を見込んでいる税収は企業の業績悪化によって四兆―五兆円程度下振れする可能性があり、最終的には国債発行額が戦後初めて税収を上回る可能性もある。そうなれば、必要な歳入の半分以上は借金で賄うことになる。
与謝野馨財務相は衆院本会議での財政演説で、三兆四千八百七十億円の赤字国債を追加発行することを説明し、景気の底割れを防ぐためには「やむを得ざる措置」として大型の財政出動に理解を求めた。
しかし、これほど歳出が膨らんで、本当に財政の建て直しが可能なのか。国民に重い付けを回すことになるのではと不安が募る。財政健全化は、政府が掲げてきた基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化だけでは不十分である。政府は国会で財政健全化の道筋を説明することが求められよう。
次期衆院選を前に、世襲立候補の制限問題が急浮上している。自民党は、菅義偉選対副委員長らが党のマニフェスト(政権公約)の目玉にと意欲を示すが、党内の強い反発で難航は必至の状況だ。民主党は、先手を打つ形でマニフェストへの制限盛り込みを決めた。選挙へ向けた攻防とともに、動きは一段と活発化しそうだ。
国会を見渡せば、世襲議員の多さが目につく。閣僚では麻生太郎首相を含め約三分の二に上る。共同通信の調査によると、次期衆院選の立候補予定者のうち、国会議員を父母や祖父母に持ち地盤を継いだのは自民党で約九十人、民主党は約二十人とされる。世襲への疑問や、弊害を指摘する声も多く聞かれる。
民主党は政治改革推進本部総会で、三親等以内の親族が同一選挙区から続けて立候補するのを党規で禁じることなどを決めた。世襲議員が所属議員の約三分の一とされ、立候補の制限論をめぐって党内対立が強まる自民党との違いをアピールする狙いといえよう。一方、自民党では菅氏が「党の体質を変える覚悟を示す必要がある」と強気の構えを崩していない。
自民党の世襲議員からは「世襲の是非は選挙での有権者の選択に任せるべきだ」との声もある。世襲制限は憲法が保障する「職業選択の自由」などとも絡む。だが、地盤や「看板」「かばん」を受け継ぐ世襲候補者が圧倒的に有利なことは明白だ。政治に情熱を燃やす有能な人材の政治参加を阻害する一因となっていることは否めない。
政治の劣化が国民の信頼を失墜させている。選挙戦の攻防材料にとどめず、有能な人材が政治を担い、活力を注ぎ込める環境をどう整えるか、政界挙げて真剣に考え改革に踏み出す時であろう。
(2009年4月28日掲載)