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ボクシングの魅力、「青空ジム」で伝授/横浜の元チャンプ・河合さん
- 暮らし・話題
- 2009/04/27
暗がりの公園に、皮のミットをたたく鈍い音が響く。ボクシンググローブを手に息を弾ませているのは、仕事帰りの会社員たち。横浜市中区、根岸森林公園の「青空ジム」で練習するボクシングクラブの面々だ。その輪の中心には、ミットを構える元チャンプがいる。
午後六時半すぎ、仕事を終えた”練習生”が公園の駐車場に集まってくる。電気が消えたレストハウスの軒先が練習場所。リングもサンドバッグもなく、街灯と自動販売機のほのかな明かりが頼りの「青空ジム」だ。
そろいのTシャツにプリントされているのは「反逆」の二文字。「形にはとらわれない。でも設備が整ったジムに負けないぞ、と。そんな思いを込めました」。仕事の傍ら指導にあたる”会長”の河合丈也さん(39)は話す。
河合さんは日本スーパーウエルター級の元王者。一九三一年から続くハマの老舗ジム「カワイ」の二代目会長の甥っ子で、元世界王者花形進らを輩出した名門の、最後のチャンピオンだ。
三年前、ジムの後輩に指導を頼まれたことがきっかけだった。公園で教え始めたことを会社の同僚に告げると「自分もやってみたい」と、次々と手が上がった。
目のけがで、河合さんが引退を余儀なくされたのは二〇〇四年。くすぶる思いがあった。引っ越し業者に就職したが、三十歳半ばの新人は年下の先輩に怒られることもしばしば。ボクシングへの未練を断とうとするほど、思いが募った。
週一回の練習に集まるのは、同僚やかつてのジムの練習生など五、六人。昨年アマチュア大会でデビューした西巻剛さん(28)は「二試合とも負け。次こそ勝って何かを残したい」。たばこをやめ、ロードワークに汗を流す日々だ。
「ボクシングをやることで前向きになり、生き方が変わる。そんな人が一人でも増えれば」。ミットを手にする河合さんの思いは、自身の歩みにも重なる。
現役の晩年、ジムが経営難から一時閉鎖された。スポーツジムで練習を続けた。「リングもなくて、勝てっこない」。そんな周囲の声をはね返し、タイトル防衛を重ねた。「環境は関係ない。自分の頑張り次第で道は開ける」。拳だけを頼りに戦う、ボクシングの本質が、魅力が、そこにある。
最近クラブ名を「ヨコハマメリケン”キッド”ボクシングファミリー」に変えた。カワイ初代会長の祖父鉄也さんは、「キッド鉄」の名でハマの興行界を仕切った伝説の人物だった。その祖父は終戦直後、焼け野原の横浜で、「青空ジム」から再興した。河合さんは言う。「自分もこの公園から、再出発です」
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