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不動産・マンションはどこまで下がる?――自壊する危機の構図

東洋経済オンライン4月24日(金) 11時21分配信 / 経済 - 経済総合
不動産・マンションはどこまで下がる?――自壊する危機の構図
本格化する地価再下落と業界大淘汰
 昨年から本格化した不動産不況はクライマックスの局面に近づいたようだ。そう思わせる現象が相次いでいる。

 まず、地価下落の加速だ。3月下旬に発表された2009年1月1日現在の公示地価では、全国平均の地価は3年ぶりに下落に転じた。大都市圏では地価上昇地点は皆無で、名古屋や東京都心部を中心に前年比2割以上の下落率を記録する地点が多発した。しかも、この公示地価は実態より甘い評価というのが一般的な受け止め方。「たとえば東京圏の商業地が平均で6.1%下落したというが、現場取引の実感では、この数倍の下落率があったと見ていい」(業界関係者)。景気の急激な後退に伴い、足元では一段と地価下落に拍車がかかっている可能性が高い。

 地価先安感が強まる中、不動産取引はパタリと止まった。都市未来総合研究所の調べでは、08年度(2月まで)の不動産売買は前年度同期間と比べ、件数で59%減、金額で65%減もの激減である。同研究所の佐藤泰弘・主席研究員は「前年度のバブルの反動もあるが、特にSPC(特別目的会社)形態の私募ファンドや建設・不動産会社による買い減少が目立つ」と言う。

 マンションをはじめ住宅価格も下落が目立ってきた。出血覚悟の在庫処分で、当初価格の2割、3割引きという“たたき売り”が話題となり、一部のモデルルームは活況を呈した。売れ残り物件を再販業者が元値の半値近辺で買い取り、2〜3割引きで売るといったアウトレットマンションも一般化。昨年半ばまでは建築費上昇を上乗せされ、04年ころの価格より2割前後も値上がりしていたマンション価格だが、消費者の所得環境悪化に伴う在庫急増を受け、「価格崩壊局面」に突入した。

 そして、不動産業界に吹き荒れる淘汰の嵐だ。この3月にも不動産ファンド運営のパシフィックホールディングス(HD)、マンション分譲のエスグラントコーポレーション、アゼルが破綻。負債総額数百億円超の大型倒産が日常茶飯事になっている。その多くがマンション販売の不振や不動産流動化(短期転売)事業の失敗によるものだ。

【関連図】 マネー凍結で本格化する地価再下落と業界大淘汰

■自滅する危機の構図 “崖っ縁”不動産ファンド

 今回の不動産不況の引き金は、米国発サブプライム金融危機だった。それまで国内では、新興不動産会社や国内外の私募ファンド、そして「最後の買い手」とも言われるJ-REITを主役として、それらが一連の流れ作業のように売買を繰り返し、都心中心の不動産バブルを形成していた。バックには外資を中心とした潤沢な資金供給があった。

 ところが、金融危機が深まると、CMBS(商業用不動産ローン担保証券)など証券化市場が投資家離散で崩壊。サブプライムで満身創痍(そうい)の海外金融機関は日本の不動産に対する投融資を一気に絞り込んだ。バブルの主役たちは命綱の資金パイプを失い、市場は逆噴射を始める。「外資・外需に依存した証券化(ファンド)市場の崩壊」。早稲田大学大学院ファイナンス研究科の川口有一郎教授はそう総括する。

 不動産不況を深刻化させたのは、金融危機という外部要因だけではない。鑑定価格を無理に引き上げてでもアグレッシブな値付けをし、高値を追う。利益相反を犯して傘下の不動産ファンドに物件を高値で引き取らせる。REIT市場でもたびたび行政指導の対象となった不動産業界の放漫経営、ガバナンス欠如といった内部要因も指摘される。それゆえ“自滅”の要素も大きい。

 昨年10月のニューシティ・レジデンス投資法人の民事再生法申請は自滅を象徴するような事件だった。国内初、世界でもまれと言われるREITの破綻だが、「フォワード・コミットメント」と呼ばれる物件の青田買いの資金手当てがつかずに行き詰まった。あまりに異例な突然死だけに、「REITとしての物件の受け皿機能を失ったことで、スポンサー会社が“万歳”(経営放棄)したのでは」との憶測さえ呼んでいる。

■最大手ダヴィンチHD 「デフォルト予告」の波紋

 さらに、不動産ファンド業界2位のパシフィックHDの破綻が市場の混迷を一段と深めている。同社の公募社債は4本、残高合計370億円あるが、「保有不動産のほとんどが担保に供されているため、社債回収率は非常に厳しい評価となる可能性が高い」(証券アナリスト)。

 また、同社はJ-REIT2社と私募ファンドのスポンサーであり、それらの運用会社の親会社でもある。08年11月末時点の預かり資産は9099億円に及ぶ。スポンサーの破綻はファンド運営に直接的影響は与えないとはいえ、金融機関の貸し出し方針は今やスポンサーの信用力次第であり、明らかに悪材料。「第二、第三のニューシティ」を出さないためには、早急に信用力の高い新スポンサーを見つける必要がある。

 そして今、市場が注視するのがダヴィンチHDの動向だ。同社は現在、04年運用開始の「ムーンコイン」、06年開始の通称1兆円ファンド「カドベ」、今年3月に開始した「ノービル」の不動産私募ファンド(連結子会社)を合わせ約1.5兆円を運用するほか、J-REIT「DAオフィス」(持ち分法適用会社)のスポンサー企業でもある。東京丸の内のパシフィック・センチュリー・プレイス(オフィス部分・取得額約2000億円)、芝パークビル(同1430億円)、森トラストと共同買収した虎ノ門パストラル(同2300億円を折半)はカドベに組み込まれている。

 しかし、その経営は厳しさを増す。08年12月期は不動産売却収入の激減や投資案件の評価損急増で179億円の最終赤字に転落。これにより決算短信に「継続企業の前提に関する重要な疑義」の注記が付いた。借入金返済期限が続々と到来(09年の連結ベースの返済予定額は3800億円強)する中で、資金調達の道は大きく狭められた。返済資金確保のため物件売却を急いでも、買い手不在で売るに売れない。

 こうした状況下でダヴィンチHDの金子修社長の発言が波紋を呼んでいる。同氏は、今後、ファンドの保有物件の評価額が借入金額を下回った場合、「デフォルト(債務不履行)するしかない」と言う。

 同社の不動産ファンドでは物件取得のために返済原資を資産の範囲に限定したノンリコースローンを活用しており、返済不能となれば物件をローンの貸し手に渡せばよい。その意味では合理的な選択ともいえるわけだが、保有物件の評価額が下がり続ける中で、デフォルトが続出すればどうなるか。物件を引き取った金融機関は資金回収のため物件を売りに出し、不動産市況を一段と冷え込ませる。また、ローンを証券化したCMBSの投資家は、低格付け証券を中心に大きな損失を被ることも予想される。ちなみに、国内で発行されたCMBS全体の裏付けローンの償還は09年に1兆円弱、10年に1兆円強へ膨らむ。「CMBS2010年問題」として危惧されるゆえんだ。

 実は、同じようなことが金融危機の震源地・米国で2年前から繰り返されてきた。サブプライムローンが返済できない債務者が自宅を銀行に渡し、銀行が競売にかける。それが住宅価格の下落を加速し、債務者の返済能力を一段と奪うという悪循環だ。米国の住宅価格指数は今年1月現在、依然下げ止まらず、前年同月比で19%、06年ピーク比では30%の下落となっている(S&Pケース・シラー指数)。

■公的資金投入論も浮上 業界は大きな岐路に

 「今後3年は不動産を活用したビジネスはできそうもない」。そう話すのは、有力外資系金融機関の幹部だ。「1990年代後半や2000年代初頭の不況期には外資のニューマネーが日本市場に入ってきたが、今や彼らはみな売り手に回っている。再び資金が戻るのはいつなのか、まったく予想がつかない」。

 大手不動産鑑定会社・三友システムアプレイザルの井上明義社長は、さらに厳しい認識を示す。「米国の金融危機の全貌は依然見えず、金融要因だけで一番底が来るまであと1〜2年。その後、国内経済悪化による需給アンバランスの要因が加わり二番底をつける。最悪の場合、本格的な市況の回復まで10年から15年かかるのではないか」と見る。

 業界が国会を巻き込み、不動産市場への公的資金投入論も高まってきた。一方で、REIT市場で合併再編促進に向けた制度改正も行われるなど、マーケットの自律調整機能に期待する声も大きい。業界は今、大きな岐路に立っている。

(週刊東洋経済)

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  • 最終更新:4月24日(金) 11時21分
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