きょうのコラム「時鐘」 2009年4月28日

 よく分からない出来事が起きると、識者のせりふは大概決まっている。1つは、万一の事態に備えよ。もう1つは過剰反応は慎め

おいしそうな豚肉を前に、さて、どうしたものか。豚インフルエンザ騒ぎには、まだ分からぬことが多いが、農水相は肉の「安全宣言」をした。いま、精肉店やスーパーの陳列棚に疑いの目を向けるのは過剰反応であろう

周囲には、豚肉嫌いの若者が結構いる。安全でおいしいブランド豚や無菌豚が流通するまでは、豚肉には十分に火を通せ、と言われた。が、通し過ぎると肉はパサついてしまい、確かにおいしくない。ぜいたくな話だが、豚肉嫌いが分からぬでもない

そんな口のおごっていそうな若者が、他方で食事の時にコーラをはべらせる。食べ物をぐいぐい流し込む光景を見ると、途端に味覚の存在自体を疑ってしまう。あれではご飯の味が分かるはずもない

「食育」の時代だそうである。安全で体に良いものを食べるという本能に近い行動にまで、指導や教育が必要になった。進化するインフルエンザ・ウイルスは怖いが、「食べる力」が退化するのも怖い。