2005年12月20日

スタジオジブリのホスピタリティと電通のホスピタリティ

「会社もいろいろ」とは良く言ったものです。

接客方法もいろいろ、面談室も実にいろいろです。
今日は、両社の「接客方法の違い」について私が実感したことを書いてみたいと思います。

スタジオジブリと大手広告代理店の電通、両社の部長にお目にかかりました。

新橋の電通本社は気品の高さと透明感を感じさせる高層のビルです。面談室が何階であったのかは忘れてしまいましたが、かなり高い場所であったことは間違いありません。

印象的であったのはいわゆる「お茶出し」です。

電通の場合は面談室の内線電話で社員の方が飲み物を注文します。
社員食堂があるのかどうかは知りませんが、専任のウエイターが注文品をデリバリーする方式を取っています。

「さすが電通」と思う反面「なんとなく無機質」と感じてしまったことも事実です。「お金が発生している」と思ってしまうからです。

そして、この高層ビルから東京の街を見下ろすと・・・まさに見下ろすという言葉がピッタリでした。
朝日新聞のこの天声人語を引用します。同じ感想です。

塔のような高層の建物に登って感じるのは「近景の欠如」だ。地上のものは、遠景になってしまう。樹木は見えても枝は見えない。人は見えても顔は見えないし、声も届かない。(2005年4月22日)
一方スタジオジブリの部長と面談したのは小金井の本社ではなく、三鷹のオフィスでした。
JR中央線の電車の車窓からも見えるあの「屋根が草畑」の建物です。

「木造の建物の玄関から入っていくと、なんとそこはオフィスだった」という表現があてはまります。

大きな「トトロ」のぬいぐるみが迎えてくれました。もちろん床は木、壁も木と漆喰であったと記憶しています。
商談用のテーブルも木製、椅子も木製です。

私は木工家でもあります。テーブルが良い物であることは一目で分かりました。

夏にはセミの声が、そして秋には虫の音が聞こえてきそうな・・・とても静かな特別な空間でした。

スタッフの女性が丁寧なあいさつをしながら「お茶だし」をしてくださいました。
本当に温かみを感じました。
まさに「ホスピタリティ」あふれる空間とサービスです。

特徴的であったのは、スタジオジブリでは商談する場所が個室ではなかったことです。
6人がけのテーブルが4台設置された「高級レストランのような雰囲気の場所」なのです。

これは宮崎駿監督のお考えによるものであると私は考えます。
「他人に聞かれてはいけないような商談はしてはいけない」ということでしょう。

そして、部長は私たちとの商談の前に宮崎監督のビジネスに関する考え方を話されました。
「宮崎も私どもも、スタジオジブリのビジネスをこのように考えております。それは・・・」

詳細は述べませんが「ジブリブランドを商用に利用して欲しくない」「ジブリはキャラクタービジネスを行っているわけではない」ということです。

宮崎監督はそもそも「キャラクター」を作りたがりません。実際に宮崎作品の登場人物などは「キャラクター」になりにくいデザインです。ご存知のように「普通の女の子」や「あまりかわいくないもの」ばかりです。

宮崎監督の「思い」と「キャラクターをつくって大儲けする」という世の中に溢れた考え方の間には決定的な違いがあると思います。

この宮崎監督の「思い」を理解していないために、サツキとメイの家に関する愛知万博でのドタバタ、閉会後の施設の奪い合い合戦などの問題が発生するのです。
宮崎監督はさぞ閉口されていることでしょう。

話を戻しますが、電通とスタジオジブリの接客方法は180度違いました。
会社が目指しているものも180度違うのではないかと感じてしまいます。

電通は常に「鳥の目」で高所から物事を見て、考えて、ビジネスに反映させます。
マス(大勢)の心をコントロールするメッセージ(商品)をつくることを目指している会社です。
これは広告代理店の「宿命」でもあります。

一方スタジオジブリは「虫の目」で見ています。
「神は細部に宿る」と言われますが、細部にもこだわった宮崎監督の作品はどれも素晴らしいものです。
(私も宮崎アニメの大ファンです。)

スタジオジブリは一人ひとりの心に直接届くメッセージ(商品)を提供しています。
作品を観た個人が「作品をどう捉えるか」ということはあまり意識していないでしょう。ましてや「何かを購買させるメッセージ性」など100%考えていないと思います。
「ジブリ作品、また観たいね」というファン(リピーター)を増やしたいだけであると考えます。


スタジオジブリと電通、それぞれが活躍する分野では圧倒的な「力」を有していますが、記してきたように接客現場における「見えない何か」が全く違うということに気づかれたことでしょう。

今やあらゆるビジネスにおいて「心のこもった接客現場」の創出こそが成功の鍵であることは間違いありません。

それは対顧客だけではありません。
ホスピタリティ経営においては「出入りの業者もファミリーと考える」ことが大切なのです。
 

両社の「ホスピタリティ」や「おもてなし」については、ディズニーランドと比較しながら今後もこのブログで取り上げていく所存です。


ディズニーランドは永遠に完成しない「夢の世界」です。

日本社会や日本の多くの企業が「心の産業としての東京ディズニーリゾート経営」から学ぶべきことはたくさんある、私はそのように考えております。