豚インフルエンザと情報の不確かさ
24日くらいから話題になり始めたメキシコ発の豚インフルエンザだけど、WHOは二回目の緊急委員会を一日前倒しで開いて、パンデミックの警戒レベルをフェーズ4に引きあげた。
メディアの情報を色々見聞きしていると、感染者が出た国や数は刻々増えているし、メキシコでの死者の数も増加していて、なんだか相当やばげな感じもするんだけど、微妙に腑に落ちないところもあったりして。
特に不思議なのは、メキシコではある程度死者が出ているのに、ほかの国で見つかった患者はいずれも軽症で、もう治ってしまったりほとんど治りかけだってことだ。
メキシコでは突出して感染者数と死亡者数が多い。現時点で感染の疑いがある人が2000人近く、死者が150人くらい。これが事実なら、7%の死亡率という異常に高い数字になる。
史上最悪とされているスペイン風邪でも、死亡率は2~3%なのに。しかもスペイン風邪は、第一次大戦下の塹壕の中で爆発的に蔓延して行ったという、ものすごく劣悪な環境下での死亡率なんだよね。
実際問題として、今のところ新型豚インフルエンザに罹っていたことが確実にわかっているのは、死亡した22人だけだ。
つまり、他の感染者と推定されている人たちが同じ豚インフルエンザにかかっているかどうかも確かではないし、他の死者が同じ豚インフルエンザによるものかどうかもわかっていない。
若者のほうが症状が酷いという情報もあるけど、「話が合いすぎていて」こんなふうにまだ全く情報が不完全な状況下では信用できない。現に、他の国では青年たちが軽く癒っているわけだし。
おそらく、事の始まりは、メキシコで原因不明でまとまって死者が出たのを受けて、ウイルスの検査をしてみたら豚のH1N1がみつかり、こりゃ大変となったんじゃないかな。そこから、あわてて感染者がいないかと探し始めているので、情報が錯綜していると思われる。
メキシコはマスクの着用とかの映像を見ても、インフルエンザパンデミックに対してのリテラシーは全くないと言って良いくらい低い感じ。たぶん、政府が急に大変だよと言い始めたので、びっくりしている状態なのだろう。
たぶん民間の医療機関でも、インフルエンザパンデミックについて高いレベルの知識は持ち合わせているところは、あまり多くないんじゃないかと思う。
だから、政府が各地の医療機関にとにかくそれらしい情報を全部報告しろと指示して、本当に今回の豚インフルエンザによるものかどうか区別されていないすべての情報があがってきていることが、感染者数や死者数のふしぎな値に影響しているんじゃないかなあと思う。
メキシコは人口1億人の国なので、豚インフルエンザとは全く関係なしに、普通でも死者は毎日3000人以上いるはず。(日本でも年間100数十万人死んでるわけだし)
だから、かぜっぽいというか呼吸器系の症状とか肺炎が原因でなくなった人を、あまり精査せずに勘定に入れると、これくらいの数にはすぐになっちゃうだろう。だから、現時点で発表されている死者数を、単純に豚インフルエンザによる死者と信じる事はできないと思うのね。
また、ニュース解説の中には、今回のウイルスは豚に鳥とヒトのウイルスが感染して変異したものとかいっているのもあって、これは明らかに間違い。今の段階でそんなことまでわかるわけないし、そうでないと考えるのが妥当だから。
この豚の中で鳥とヒトのウイルスの遺伝子が混ざるという話は、鳥インフルエンザに関する以前から知られている仮説なので、それをメディアが中途半端に専門家から耳にしたかして出て来た誤報じゃないかと思う。
青年層に症状が強く出ているという話も、なんとなく誤報のような気がする。これも、パンデミックが起きたときそうなるかもしれないという、仮説そのものだからだ。
かつてのスペイン風邪は若者の死亡率が非常に高かった。それは、サイトカインストームと呼ばれる免疫の過剰反応が原因ではないかとされている。通常インフルエンザは、免疫が衰えた高齢者やまだ不完全な幼児が重症になりやすいんだけど、サイトカインストームなら、免疫がしっかりした青壮年のほうがひどくなるのではないかと考えられるわけ。まあ、これも異論はあるんだけど。
一方死者が20人とかくらいでは、統計的に若者が多いとか少ないとか言えるような数じゃない。それなのに、若者が多いという話が出ているのは、新型ウイルス、すわサイトカインストームって言う感じの思いつきから逆算して出てきた「誤報」じゃないかという気がするんだよね。まあ、これはなんともいえないけど。
いずれにせよ、こういう時に出てくる情報には不確かなものがすごく多い。メディアが伝える内容それぞれも、それが確定した事実かどうかよく見極める必要がある。
時系列に沿ってニュースを聞いていると、患者がどんどん増えているように聞こえるけど、それは感染が次々広がって数が増えているのか、それとも豚インフルエンザに罹っているヒトがいるはずという目で調べ始めたら、感染が拡大しているわけではないけど、そういうひとが新たに見つかっているだけなのか、区別がつきにくい。
まあ、ぼくの感じでは、少なくともヒトヒト感染が起きたウイルスに関しては、それほど毒性の強いものではないんじゃないかという感じがする。
いずれにせよ、これからどういう情報がどう流れ、後から振り返ってみるとその情報がどれくらい確かなものだったかという事などを注意深く観察しておくと、将来に向けての良い勉強になるんでないかな。
最終更新時間 2009年04月28日 09:47
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> 今回のウイルスは豚に鳥とヒトのウイルスが感染して変異
これは「豚と鳥とヒト」の遺伝子情報が混合されている、が正確な情報。そしてCDCとWHOの確定情報です。どこぞの素人の戯言ではないよ。
> いずれにせよ、これからどういう情報がどう流れ、後から振り返ってみるとその情報がどれくらい確かなものだったかという事などを注意深く観察しておくと、将来に向けての良い勉強になるんでないかな。
もっと強調しておいてください。それから「WHO」と「CDC」は眺めていてくださいね。
投稿者 いつもの名無し : 2009年04月28日 13:34