話題

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

特集ワイド:もうろう、わけ分からず…ありませんか?お酒の失敗

 ◇脳の活動低下「生の自分」に 記憶飛ぶ「ブラックアウト」も

 泥酔して裸になり逮捕された「SMAP」の草なぎ剛(くさなぎつよし)さん(34)。酒の上での失態は明らかだが、捜査当局や大臣発言に過剰反応では?の声もあがった。飲酒の科学を学びつつ、あらためて考えた。【宮田哲、坂巻士朗】

 「たくさんお酒を飲みまして、自分でも訳がわからないぐらいになりまして、大人として恥ずかしい行動を起こしてしまいました。とても反省しております」

 草なぎさんのこの言葉を聞いた酒飲み、酒好きは、「心当たり」に思いをはせたのではないだろうか。

 酒の上での失敗として、記憶に新しいのは自民党の中川昭一前財務・金融担当相の「もうろう会見」。今年2月、先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)後にろれつが回らない状態で記者会見、自らも「ギョッとした」という醜態が世界に発信された。中川氏は「かぜ薬が原因」と強調し、「ワインに口は付けたが、ごっくんはしていない」と説明したが、引責辞任した。

 酒がらみでの現行犯逮捕にはこんな例もある。08年2月、東京都内で、無職の男ら3人が、参加者が裸になる祭りを話題に盛り上がり、商店街を全裸で歩いて公然わいせつ容疑で▽今月25日、秋田市内で泥酔した会社員が自宅と間違えたのか民家に侵入。「知らない人が家で寝ている」と通報され、住居侵入容疑で。

 失敗談は数あれど、「私の友人は、そのほとんどが酒のうえの友人である。将棋友達、競馬友達というのもいるけれど、一緒に楽しく酒を飲めるというのでなければ本当の友人にはなれない」(山口瞳「酒について」=「男性自身 英雄の死」新潮文庫)という一文もある。

 酒を飲むとどうなるのか、「国立病院機構久里浜アルコール症センター」(神奈川県横須賀市)の樋口進副院長に、科学的に説明してもらった。「アルコールは脳の機能全体を低下させる。それだけなら誰も飲みません。酒を飲むと神経伝達物質のドーパミンが分泌され多幸感(気持ちよさ)も感じるのです」と話す。

 樋口さんによると、脳の各部位には役割がある。酔うと表れる行動の変化は、関係部分の活動が低下したことから引き起こされる。

 アルコールの血中濃度が低い段階から影響を受けやすいのが大脳皮質内の前頭葉だ。この中の前頭前野は性格や行動を抑制する司令塔の役割を果たしている。一方、本能的な行動や笑う、怒るなどの感情をつかさどるのが大脳辺縁系。普段は前頭前野が辺縁系にブレーキをかけて、行動の調和を取っている。

 アルコールで前頭前野の働きが弱まり抑制が利かなくなると、辺縁系の生の感情が出やすくなる。つまり、多弁になったり、本音が出たりする。「心の中でうっせきしていた感情が表に出たり、我慢していたことをしてしまう傾向になる。酔うと大声になるのも抑制が外れることと関係があるでしょう」

 飲むほどに進むアルコールの血中濃度の上昇とともに、影響を受ける部位は増える。小脳の働きが落ちると「千鳥足」になる。記憶中枢とされる海馬の機能が下がると、記憶が飛ぶ「ブラックアウト」と呼ばれる現象が起きる。

 前頭前野などの活動が鈍るのは、アルコールが、脳の活動を抑える神経伝達物質GABA(ギャバ=γ-アミノ酪酸)の分泌を促すためだ。GABAは発芽玄米やチョコレートにも含まれる。脳内では安眠などに役立つが、過度になると必要な機能まで低下させる。海馬の場合は、海馬内に多く分布し、神経活動を高めるたんぱく質「NMDA受容体」の働きが鈍るためだと考えられている。

 酔っぱらった状態は「普通酩酊(めいてい)」と「異常酩酊」に分けられる。普通酩酊は文字通りの普通の酔っ払い。「血中濃度の上昇に応じた行動の変化が推測できる状態です」と樋口さん。異常酩酊は「複雑酩酊」「病的酩酊」に分かれ、複雑酩酊は比較的早い段階で人格が変わるケース。いわゆる酒乱である。病的酩酊はわずかな酒量で完全に別人格になり、記憶が全くないケースだが、「このケースは極めてまれ」という。

 自分が酒乱かもしれないと思ったらどうすればいいか。「記憶がない間に周りに迷惑をかけているかもしれない。断酒が一番だが、嫌なら一緒に飲んだ人に自分の様子を聞くべきです。どの程度飲めば変わるのか把握し、その前に飲むのをやめることです」と樋口さんはアドバイスする。

 ただ、「ほどほどに抑制が外れるのは悪いことではない。自分をガチガチに律している人は、酒の力で本当の自分を出す、言いたいことが言えるのが楽しいんですから」と補足した。

 季節は春から初夏へ。酒席に慣れない新入社員をはじめ、お酒で失敗している若者もいるだろう。「ぐでん愚伝(ぐでん)--酒に惚れた男の言い分」などの著書のある評論家、塩田丸男さんからはこんな言葉をいただいた。「私だって30代前半はしょっちゅう、ぐでんぐでんに酔っぱらっていた。だれでも若いころの失敗を教訓にして、自分の体質に合った大人の飲み方ができるようになるんじゃないかなあ」

 ◇地デジ所管・鳩山総務相発言「雑な言葉で総スカン」

 今回の騒動では、警察は逮捕しただけでなく、家宅捜索までした。鳩山邦夫総務相は後に撤回したものの「最低の人間」とまで言い放ち、「最低の行為」と言い換えた。地デジ推進のキャラクターを務めるなど草なぎさんの社会的な責任はあるが、一段落した今、「何だったのか」という声もある。

 ノンフィクション作家の吉永みち子さんは「泥酔者として保護するケースかと思ったが、法律家からは『苦情の通報があり、本人がパンツを脱いでいたら、逮捕せざるを得ない』と聞いた。とはいえ、自宅の家宅捜索まではやり過ぎ。芸能人と薬物の関係を確認したい、との思惑が先行したと思う」と指摘する。また、鳩山総務相発言に対しては「あまりにも雑な言葉遣いだ。“怒ってみせること”が喝采(かっさい)されたかんぽの宿問題に味をしめ、酒の失敗をだしにして、自分をクリーンに見せようとする姿勢が総スカンを食った」と話す。

==============

 ◇「特集ワイド」へご意見、ご感想を

t.yukan@mbx.mainichi.co.jp

ファクス03・3212・0279

毎日新聞 2009年4月28日 東京夕刊

検索:

話題 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報