橿原市の中和広域消防組合の救急隊員が病院に搬送しなかったため、意識不明の状態が続いているとして、大淀町の男性(44)と家族が損害賠償を求めた訴訟の判決で、奈良地裁は救急隊員の搬送義務違反を厳しく指摘した。ただ、救急現場では、症状の把握や受け入れ先の確保が難しくなっているとの指摘がある。背景には医師不足の深刻化もあり、県はこうした実態を調べる方針だ。
同事務組合は、大和高田、橿原両市など5市町村をカバーする。08年の救急車出動回数は1万1265回で、1万409人を搬送。1日に約30回出動している計算だ。
症状別では、軽症が57%を占め、中症が36%、重症が7%。ある職員は「現場で病状を見分けるのに困ることがある」と漏らす。病状の把握が難しいことに加えて「2次救急と言っても、実際は『1・5次』で、簡単な手術しかできない病院もある。救急車に収容しても行き先がない」と窮状を訴える。
男性が倒れていた橿原警察署の東隣は、3次救急に対応できる県立医大付属病院だ。判決によると、男性の家族は同病院を指さし「ここの病院はあかんのか、診てくれへんのか」と搬送を強く希望したが、救急隊員は「かかりつけじゃないと、なかなか診てくれない」と、搬送を依頼することはなかった。
県によると、今年4月現在、救急に対応できるという病院は40カ所で、2年前に比べて3カ所減った。県地域医療連携課は「救急を辞退した病院からは、医師の確保が難しいという声が上がっている」としており、医師不足が原因とみている。【高瀬浩平】
毎日新聞 2009年4月28日 地方版