はまぎんこども宇宙科学館/(財)横浜市青少年育成協会


人工衛星についてよくきかれる質問と答え集(2008年11月6日更新)


● 衛星を見たいのですが、なにが必要ですか?
● はじめて衛星を見るのですが、どんなかんじに見えますか?
● 肉眼で見えるのはいくつくらいの衛星ですか?
● 夕方や明け方にしか見えないのはなぜですか?
● 衛星がオレンジ色っぽく見えることがありますが、なぜでしょうか?
● 見えていた衛星が、すーっと消えてしまいましたが?
● 夕方、西の空を通過する衛星はよく見えないのに、東の空や頭の上近くではよく見えます。なぜでしょうか?
● 木星や金星くらい、あるいはもっと明るい輝きがしばらく見えていました。なんでしょうか? ← 2007.11.9更新
● 衛星はなぜ地球を回っていられるのですか?
● シャトルやミールはどれくらいの高さを飛んでいるのですか? 地球1周にどれくらいの時間がかかりますか?
● シャトルやミールの大きさや重さはどれくらいですか?
● 衛星番号や国際標識とはなんですか?
● いくつくらいの衛星が地球のまわりを回っていますか? 衝突はしないのですか? ← 2007.7.19更新
● 人工衛星も落ちてくることがあるのですか? ← 2008.11.6更新
● 静止衛星は見えますか?
● 人工衛星の写真がとりたいのですが、どうすればいいですか? ← 2008.3.28更新
● 人工衛星をビデオに撮りたいのですが、どうすればよいですか?
● シャトルや国際宇宙ステーションの形は望遠鏡で見えますか? ← 2008.4.6更新
● 軌道要素とはなんですか?
● 人工衛星の軌道要素はなぜ変化するのですか?
● パソコンで人工衛星の予報が計算できますか?
● ミールが見える時期と見えない時期があるのはなぜですか?
● シャトルがたまにしか見えないのはなぜですか?
● 人工衛星らしきものを見たのですが、なんという衛星でしょうか?

☆ 参考にした資料


★ JAXAキッズ
★ 宇宙ステーションキッズ
★ NASAについてよくきかれる質問と答え集
★ NASAの各種教育プログラム
★ NASA ‐ Kids Home
★ 人工衛星についてのFAQ(JAXA)
★ 日本の衛星プロジェクト(JAXA)



● 衛星を見たいのですが、なにが必要ですか?

→ 市街地でも肉眼で見える衛星がいくつもあります。家のそばで観望する
  のでしたら、方角を確かめておくこと、そして1分まで正確にあわせた
  時計と予報データ(いつ、どの方角、何度の仰角のところを通過するか)
  があればOKです。

  国内17都市向けに、明るい衛星の予報を別ページに掲げてあります。
    あなたの家から100km以内の都市の予報なら十分使えます。
  それほど近くの都市が予報にない場合は、観測地が間にはいるような
  2つの都市の予報を比較するか、パソコンを持っているひとなら自分で
    予報を計算してみましょう。各種パソコン用の予報プログラムが別ページ
  にありますからダウンロードしてみてください。



● はじめて衛星を見るのですが、どんなかんじに見えますか?

→ 星のような光点がゆっくり(おそい飛行機のように)動いていきます。
  飛行機の場合、光点がいくつか集まって見えたり、点滅していたりしま
  すが、衛星の場合はひとつの光点が動いていきます。

  飛行機と人工衛星の区別のしかたには、ほかに、動く方向も参考になります。
  人工衛星は、南や北の方向、東、北東、南東の方に動いていくものが大部分です。
    西、北西、南西方向に動いていくようなものはほとんどありません。
   (西の方に向けて打ち上げるのは、地球の自転方向(東)に逆らうので経済的
  ではありません。このため西に動いていく衛星はあまりないのです。皆無では
  ありませんが)

  衛星が回転していると、太陽光の反射で輝いているため、周期的に明る
    くなったり暗くなったりして見えることがあります。
  瞬間的に異常に明るく見えることもあります。明るく反射する部分がある
    ような場合です。



●肉眼で見えるのはいくつくらいの衛星ですか?

→  おおざっぱにいって、暗い空のもとで、肉眼で見えるのが数百個。
    すこし大きめの双眼鏡(口径5cmくらいのもの)なら数千個の衛星が観測
    対象となります。
  もちろん一晩でいっぺんに見えるわけではありません。



● 夕方や明け方にしか見えないのはなぜですか?


→ 衛星は自分から光を出していません。太陽の光に照らされていなければ
  見ることができません。つまり、(夜側の宇宙空間にのびている)地球の
  影に衛星が入っているときは見えません。(図のCやDに衛星がある時)

   さらに、空がある程度暗いことも必要です。昼間の明るい空を衛星が通過
  しても見ることができません。(夜でも明るい月がじゃまなことがあります)

  夕方太陽が沈んでからしばらくの間は、上空がまだ太陽に照らされています。
  そこを衛星が通れば見ることができるわけです。(図のBの位置)
  明け方についても同じことがいえます。(図のEの位置)

    夜も更けてくると、あなたのいる場所が地球の影の奥深くに移動します。
  上空にはもはや太陽光はとどきません。
  このため、衛星をみることができなくなります。

    (上図)
  ただし、夏至の頃には、夜遅くなっても、上空かなり高いところには太陽光
  が届いています。このため、夏には高い軌道を回る衛星(高い軌道の衛星
    ほど、ゆっくり動きます)が見られることがあります。(軌道が低い衛星は
  地球の影に入っていますが、軌道の高い衛星は太陽に照らされています)



● 衛星がオレンジ色っぽく見えることがありますが、なぜでしょうか?

→ 地球の大気層をながく通過した太陽光は、青っぽい色が散乱されるため、
    夕日や朝日と同じで赤くなります。
    地球の影に入るときや出たときの衛星は、こうした光で照らされているため
  オレンジ色っぽく見えることがあります。
    (上図の太陽光線は、実際には大気による屈折ですこし曲がります)

    衛星表面が赤やオレンジ色っぽい物質でおおわれている場合もあります。(解説


● 見えていた衛星が、すーっと消えてしまいましたが?

→ 地球の影のなかに入っていったためです。逆に、すーっと現れる場合もあり
  ます。影からでてきたわけですね。

地球の影に入っていく国際宇宙ステーション(写真データ) Credit: Chris Carrington



● 夕方、西の空を通過する衛星はよく見えないのに、東の空や頭の上近くでは
  よく見えます。なぜでしょうか?

  
→ 人工でない衛星、つまり月を考えてみましょう。
  日没直後くらいに、西空低くに見えているのは三日月ですね。その頃、もし
  上弦の半月なら頭の上近くや南の空にあるでしょう。また、満月なら日没の
  頃東から昇ってくるはずです。
  
  夕方、西空にある月は細く、東にある月は丸い、ということです。細い月より
  丸い月のほうがずっと明るいですね。
  
  あなじことが人工衛星にもいえます。夕方西にある人工衛星は、太陽に照らされて
  いる部分が少ししか見えていません。このため、明るく見えないのです。
  ただ、太陽光をよく反射する部分がうまい角度を向いていたりすると、西の方に
  あるときでも明るく見えることがあります。(夕方、西空を飛んでいる飛行機が
  キラリと輝くのを見た人もあるでしょう)



● 木星や金星くらい、あるいはもっと明るい輝きがしばらく見えていました。なんでしょうか?

→ イリジウムという衛星による、太陽光の反射を偶然見たのかもしれませんね。

    イリジウム衛星のアンテナからの反射光
    Credit: Sternwarte Solingen


    ワシントンの宇宙航空博物館にあるイリジウム衛星(衛星本体の大きさ約4m)
    IRIDIUM SATELLITE IN PICTURES より

    (そのほか、イリジウム衛星の情報や写真
    2007年11月8日 科学館屋上から見えたイリジウム衛星の反射光

    夕方、まだ空が明るい頃、マイナス4等級(金星並みの明るさ)で見えたイリジウム衛星。
  ゆっくり移動しながら明るさが変わっていくようすが写っています。(撮影データ

2003年3月21日 国際宇宙ステーションの窓から見えたイリジウム衛星の反射光 Credit: Don Pettit, ISS Expedition 6 Science Officer, NASA with assistance from amateur astronomers Rob Matson and Robert Reeves

イリジウム衛星の重さは689kgで、全世界をカバーする携帯電話サービスを 提供するためのものです。携帯電話からの電波は衛星間で次々に中継され、相手の 携帯電話に送られ、一般の電話にも接続するようになる予定でしたが、経営難の ため、イリジウム衛星の通信サービスは2000年3月18日以降中止になると 発表されました。   (その後、イリジウム衛星システムを買い取る会社が現れ、サービスが再開    されました) 「イリジウム」の名は元素のイリジウムからとられたものです。もともと77個の 衛星から成るシステムとして計画されたので、77個の電子が原子核を回る姿に 見立てその名がつけられました。その後の設計変更で、一部の衛星が不用となり 66個のシステムとなりました。(幸いなことに、「ジスプロシウム」という 言いにくい元素名に変更されることはありませんでした) イリジウム衛星は、約780kmの高さの軌道をまわり、普通は6〜7等級程度の 明かるさで、双眼鏡でしか見えないのですが、ときにマイナス等級になり、金星を もしのぐ明るさに達することがあります。平たい鏡のようなアンテナが太陽光を 反射してそれが観測者の目にはいると、5秒〜20秒もの間、木星や金星のような   明るさ、あるいは、目もくらむような輝きとなることがあります。 イリジウム衛星の通信サービスが終了になった場合、衛星そのものは軌道上の不用物体   となり、じゃまで危険なため、2年ほどかけて、大気圏に突入させ分解してしまう計画 でした。 もしも、今夜にでもイリジウム衛星かな、という現象を見たら、確認する方法が   あります。   まず、自分の観測地点の正確な(角度の0.5分、1km程度まで) 緯度・経度を調べます。わからなければ、

緯度・経度の   a度、b分、c秒 の値を 小数部を含む度 の単位に直しておきましょう。   a + b/60 + c/3600 で計算できます。   例 35度36分00秒 → 35.6度 パソコン用の人工衛星追跡プログラムには、 イリジウム衛星による反射現象を計算できるものがあります。 オービトロンというWindows用ソフトを使ってイリジウムによる明るい 反射現象(イリジウム・フレアとよぶことがあります)の予報を求めたい場合は、 軌道要素の読込みで iridium.txt を選びます。 あなたの観測地点の名前・正確な緯度・経度を入力し(入力例)「リストに加える」をクリックし、 観測地データを地名リストに加えておきます。 その地名を「選択」しておきましょう。 つぎに、「予報の設定」をします。(では「今後1週間分の予報」の設定です) (イリジウム衛星の予報の場合は、「全衛星」を選択しなくても全衛星について予報をしてくれます) 「予報」では フレア を選び、予報ボタンをクリックします。 予報結果の例. 予報結果において、「S.方位 S.仰角」とあるのは、それぞれ太陽の方位角と仰角です。 仰角がマイナスということは「地平線下」ということです。 予報された行をダブルクリックすると、そのときの状況(世界地図上の衛星位置と空での衛星位置)が 表示されます。 マイナス7〜8等ともなると、昼間の空でもよく見えるようになります。 昼間の予報も必要な場合は、予報の設定で「太陽の仰角」をマークをいれないようにします。設定例. 予報されたすべての場合にイリジウム・フレアが必ず見られるわけでは ありません。 すでに使われなくなったイリジウム衛星や待機中のイリジウム衛星については、 姿勢の制御がきちんとなされていないからです。   したがって反射するアンテナの向きが正確に予想できません。   「姿勢制御されていないイリジウム衛星」については、予報外の反射が偶然に 目撃される可能性もあります。   予報外の反射光を目撃したら、オービトロン で  目撃時の全イリジウム衛星の位置を表示させてみましょう。 目撃した仰角・方位角に、いずれかのイリジウム衛星があったかもしれません。   姿勢制御がきちんとできていないイリジウム衛星のリスト (可能性のあるものも含まれる)も参考になるでしょう。 予報されたイリジウム・フレアの明るさと、実際に見たときの明るさが かなり違う場合がありますが、その主な原因は、衛星の向き (太陽光を反射するアンテナの向き)の不確かさであると考えられています。 あるいは、インターネット上でイリジウム・フレアを計算することもできます。   こちらのページで、観測地の正確な緯度(Latitude)・経度(Longitude)、 そして観測地の名前を入力します。 Time Zone には (GMT+9)Japan を選びます。 Submit ボタンをクリックすると、地球の図の出ているページが表示されます。   Satellite と書いてあるところに、Iridium Flare とあります。   previous 48 hrs をクリックすると過去48時間に、設定した観測地で見られた であろうイリジウムによる明るい反射現象が表示されます。 表示内容は以下のようになっています。 Date(日付)、Local Time(地方時間。日本なら日本時間)、 Intensity(Mag)明るさの見積もり(等級) Alt(地平線からの高度。仰角)、Azimuth(方位角。真北から東まわりに   はかった角度。真東が90度、真南が180度、真西が270度) Distance to flare centre (最も明るく見えたはずの地点からの距離) Intensity at flare centre (Mag) 最も明るく見えたはずの地点での明るさ(等級)   Satellite (衛星)ここにイリジウム衛星何号か が示されます。 あなたが見た光の時刻や仰角、方位角と一致するでしょうか? イリジウム衛星の軌道要素は、たとえば、こちらのページから、入手できます。

  
● 衛星はなぜ地球を回っていられるのですか?


→ 大気がほとんどないほどの高さにそびえる、とてつもなく高い山を考えて
  ください。その頂上から、水平に石を放り投げたとしましょう。
  石を速く投げるほど遠くへ飛びます。秒速8kmで投げると、1秒後には
  約5m落下します。 いっぽう、地球の表面も丸みがあるので平均で5m
    下り坂になっています
    また1秒たつと5m落下しますが、地表もまた5m下っていますので、いつ
  たっても石は地面にとどかず、地球を一周して山の頂上に戻ってきます。

  空気の抵抗が無視できるようなところなら、スピードも秒速8kmのままです。
  こうしていつまでも地球の周りを回ることになります。これが人工衛星なの
  です。

  したがって、人工衛星は「落下し続けているが、地面にとどかない状態に
  ある」といえます。エレベーターをつっているワイヤーがきれると落下して
  しまいます(安全装置があるのかもしれませんが)。中にいる人や物は
  重さが無くなってしまいます。
  人工衛星の中では、なぜ重さがない状態なのかも、もうおわかりでしょう。



● シャトルやミールはどれくらいの高さを飛んでいるのですか? 地球1周に
  どれくらいの時間かかりますか?(ミールは2001年3月23日に落下しています)

→ 普通は、地上300〜400kmくらいの高さで飛行しています。東京-大阪
    間が約400kmですから、日本地図上で東京-大阪間の長さをはかり、その
  長さを垂直に立てたあたり(あるいはその3/4くらい)を飛行している、
    というわけです。
    もし地球を、半径5cmの円であらわすと、その2〜3mmくらい外側を
  シャトルやミールが飛行していることになります。

    このくらいの高さの軌道ですと、地球を1周する周期がおよそ1時間半ほど
  になります。速度は秒速約7.7kmです。
  軌道(円軌道とします)の高さが高いほど衛星の速度も周期もゆっくりに
    なります。地上から約36000kmの高さにある衛星では、速度が秒速約
    3.1kmで周期も23時間56分となります。これは地球の自転周期と同
    じです。
  つまり、赤道上約36000kmの高さを回る衛星は、地球と同じペースで
  回り、しかも地上から見た衛星の位置が変わりません。これが静止衛星です。
  地上から見ると、空に「静止」して見える衛星というわけです。

    次の図は、衛星(円軌道としています)の(地上からの)高さと、地球を一周する
  周期をグラフにしたものです。 (Ngraph使用)


    次の図は、衛星の高さと、軌道上の速度(毎秒何kmか)の関係を示したものです。


こちらのページで、地球上からの高さ(km)を入れると、その高さを円軌道で
まわる衛星の速度(km/秒)と周期(分)が計算されます。




● シャトルやミールの大きさや重さはどれくらいですか?
          (ミールは2001年3月23日に落下しています)

→ 軌道上のシャトルの長さは約37m、幅が約24m、貨物室が空の状態での
  重さが約70tです。(貨物室には約30tのものが積めます)
  ミールはコア・モジュールを含む7つのモジュールが相互にドッキングした
  複合体になっています。重量は100t以上で、有人宇宙船ソユーズと貨物
  宇宙船プログレスがドッキングしているときには、長さが33m以上、幅が
  約27mになります。

シャトルの写真(530KB; STS-51 ディスカバリー。シャトルから放出した衛星から撮影。1993年9月。提供NASA)
ミールの写真(143KB; STS-71 アトランティスから撮影。1995年6月。提供NASA)



● 衛星番号や国際標識とはなんですか?

→ 北米の防空警戒や地球上空を回っている人工物体の動きを監視しているアメ
    リカ、スペースコマンドが、レーダーや望遠鏡でとらえている軌道上人工物体
    ひとつひとつに与えている番号が「衛星番号」あるいは「カタログ番号」
    「物体番号」などとといわれているものです。
    (正式には、SCC(Space Control Center:スペースコントロールセンター)
      物体番号というようです)

    新しい衛星が打ち上げられると、衛星番号のほかに国際標識というものも
  スペースコマンドによって与えられています。衛星番号は通し番号で、スプー
    トニク1号が 1 となっています。国際標識は 例えば 1984-90A などいう
    もので、1984年の90番目に打ち上げられた衛星であることを意味します。
    その打ち上げで、重要度の高い順に 1984-90A, 1984-90B, 1984-90C, ... と
  つけられます。複数の衛星が1度に打ち上げられる場合は B や C も衛星
  ということがありますが、単独の衛星を上げる場合には B は最終段ロケット
  であることが普通です。

    スペースコマンドについて、詳しくはこちら(英語)を参照してください。

    スペースコマンドの宇宙監視システムについて:    (いずれも英語)



● いくつくらいの衛星が地球のまわりを回っていますか? 衝突はしないのですか?



観測されている軌道上物体数(赤紫色)と打ち上げ数 Credit: NASA

観測されている軌道上物体数の変化アニメーション 物体の大きさは誇張



→  これまで、毎年およそ50〜120回程度の打ち上げがあり、地球を回る物体の
  数は増える傾向にあります。(軌道上の物体数(緑の線) を見ると、太陽活動が極大であった
    1979年と1989年の直後にすこし数が減っています。
  太陽紫外線の影響で地球の上層大気の密度が増え、低軌道衛星にブレーキがかか
  ることで、落下する衛星が増えたからです)

  1996年に軌道上の物体数が目立って増加しているのは、その年6月に起こった、軌道上のロケット破壊のためです。

  同じく、2007年にも軌道上の物体数が目立って増加しています。(その原因
軌道上の物体数 Credit: NASA

レーダーや望遠鏡で追跡されている物体の総数(茶色)
破片(ピンク)
衛星(青)
ロケット(緑)
衛星から分離・放出されたもの(オレンジ)


軌道上の物体重量(単位千トン) Credit: NASA

レーダーや望遠鏡で追跡されている物体の総重量(茶色)
衛星(青)
ロケット(緑)
破片(ピンク)
衛星から分離・放出されたもの(オレンジ)





    1999年1月7日現在、8741個の物体(衛星やロケット、破片など)が
    レーダーや望遠鏡で確認されています。(最近の数は、この表の最後にある 
  All の "On Orbit" に示された数字です)

    そのうち約1〜2%は惑星間軌道の物体です)総重量にすると、およそ3900トンと見られています。
   (A. Rossi 参考資料)


     別の資料によりますと、
       1996年1月1日の時点では、約26600トンが打ち上げられ、約2400トンが軌道上にありました。
     そのうち、1860トンが高度2000km未満をまわっていました。



      その内訳はおよそ次にようになっています。


   機能している衛星               7%     *1注

   機能しなくなった衛星            22%

      衛星打ち上げに使われたロケット 17%

      破片              54%     *2注


        *1 これらは2003年末時点のデータ


               *2 衛星のカバー(覆い)など部品類も含まれますが、
                   大部分(約8割)は、衛星やロケットの分解破片です。

          その内訳は、残っていた燃料がなんらかの原因で爆発した例が40%、
         対衛星兵器実験や秘密保持など意図的な破壊が26%、原因不明が
                   34%となっています。(Nicholas L. Johnsonら. 参考資料)
                   原因不明の一部は、小さな物体との衝突である可能性があります。

                   そのような衝突例としては、1996年7月24日18時48分、
                   フランスの小型電子偵察衛星「スリーズ」に、アリアーヌロケットの
                   破片(衛星番号 18208)が衝突した事件があります。
                   人工衛星同士がたまたま衝突を起こした可能性が高い、
                   と結論された最初の例です。(F. Alby 参考資料)


          その他の衝突例

                   1998年3月末までに、なんらかの原因による人工衛星の分解は
          少なくとも149件にのぼっており、これらにより相当数の破片が
          軌道上にばらまかれたことになります。
          (R. Walker他 参考資料 / さらなる資料1 2)




         高度数千km以内を回る物体が7割を占め、赤道の約3万6千km上空
         静止軌道付近にあるものは8%ほどにすぎません。




  およそ10cmに満たないような小さな物体は、追跡のための観測にかかっていません。
    1cm大の物体も含めると、その数は11万、1mmまで含めれば3500万
  個という見積もりもあります。(A. Rossi 参考資料)

    1cm以上の物体のおよそ70%はアルミニウムで、およそ30%がプラスティック、
  鉄、銅線などと見られています。(William B. Scott 参考資料)


    衛星や有人宇宙船が衝突しないよう監視するのもアメリカ、スペースコマンド
    宇宙監視センターの仕事になっています。


Credit: NASA
地球を回る不用物体(スペースデブリー). 地上約2000kmまでの範囲



    数cm以下の物体までとらえるには、もっと強力なレーダーを設置し、ぶつかり
    そうなことがわかったら宇宙ステーションの軌道をわずかに変える、という
    ような方法が必要になるでしょう。

  実際、1999年10月26日、翌日のペガサス・ロケットとの接近に備え、国際宇宙ステーションの
  軌道を上昇させました。このような目的で国際宇宙ステーションの軌道修正を行ったのは、
  そのときが初めてでした。(資料:1 2)


  国際宇宙ステーションの場合、40km〜80kmに接近する物体は要注意とされ、
  スペースシャトルの場合には、10km〜50kmに物体が接近する場合は要注意とされるようです。
  (資料)



    一辺7mの四角の板に1cmより大きい軌道物体が衝突する確率は、1年間に
  0.09%という見積もりがあります。(A. Rossiら. 参考資料)
  一辺70mの板(面積は100倍)ならほぼ10年のうちに衝突を受けるという
    確率です。

    NASAの見積もりでは、国際宇宙ステーション(1998年11月から
    建設開始)が10年間に、1cm以上の物体と衝突する確率は19%となっています。
    これは深刻な衝突事故になりそうですが、モジュールの使用不能や人命に
    かかわる被害がでるような衝突の確率は5%と算出しています。

    国際宇宙ステーションの居住部や燃料系、姿勢制御系など重要な部分には、
    1cm以下の物体との衝突から守るため、防護シールドがとりつけられることに
    なっています。
  (N.L.ジョンソン 参考資料; 超高速衝突に関するページ ; ; ; )


    現在観測されている物体の密度は、密度の高い高度でも、平均では1億立方
  メートルに1個(およそ1辺が460kmの立方体に1個)程度となっています。
  (N.L.ジョンソン 参考資料)


    なお、スペースシャトルの窓ガラスに小さなクレーターが見つかっています。
    飛行中、平均して1日1個の小クレーターができているほどです。通常はミリ
    サイズ以下のようですが、STS-59のときは1.2cmものクレーターが
    あいたそうです。
    これらは、ペンキのはげ落ちたものや、ロケット燃料の燃えかすが衝突したもの
    です。(A. Rossi 参考資料)
    スペースシャトルの窓ガラスはほとんどが三重構造でたいへん分厚いものです。

  シャトルの貨物室のドアに1.7cmの衝突跡が見つかったり、翼の先端部にある
    強化炭素複合材パネル(RCCパネル)に4.8cmの衝突跡が見つかったこともあります。
   (資料)

    シャトルへの被害について詳しくは: 1 2 3



    1970年代シャトルの設計時には、こうした軌道上不用物体の重要性が
    理解されていなかったため、それらとの衝突に耐えられるような設計を 
    とってきませんでした。
    このままでは今後心配であるという認識が生まれたいま、シャトルの
    軌道上不用物体対策を本格的に研究しなければならないという提言が
    なされました。(詳しくはこちら)


   ★ 対策について





    1984年4月から約5.7年の間、地球をまわる軌道にあり、シャトルで
  回収された実験施設「LDEF」(エルデフと読みます)には、
    0.5mm以上の衝突跡が35000個以上見つかりました。
  そのうち、かなりの割合が軌道進行方向の反対側にあり、衝突物体のほとんどがアルミ
  (金属アルミとアルミの酸化物)でした。(資料)

  
    地球をまわる軌道から天体観測をしているハッブル・スペーステレスコープ
    (直径 4.3m, 長さ13.3m)のメンテナンスをしたとき、この望遠鏡の表面が写真や
  ビデオで丹念に撮影されました。
    その結果、788もの小さなクレーターがみつかりました。ほとんどが
    0.8cmに満たないものでしたが、最大では直径4.7cmのものもありました。





 Credit: ESA
8年以上軌道上にあったハッブル・スペーステレスコープの古い太陽電池板が 2002年3月に回収されました。 その太陽電池板に見つかった直径2.5mmの穴の写真です。軌道上のちいさな「ゴミ」が 高速でぶつかり貫通した穴です。 1984年11月、スペースシャトル「ディスカリー」で回収された「パラパB2」は、 ロケットの故障で目的の軌道に達せず、9ヶ月宇宙空間にあった衛星ですが、 その表面約1平方メートルが調べられた結果、断熱ブランケットに50個以上の穴がみつかり、 太陽電池板には8個の穴が見つかり、一部は0.7mmの厚みを貫通していました。 人間の尿や汗の成分をもつ物質が、断熱ブランケットを貫通していることも判明しました。 (資料) 高度400kmをまわる、断面積(太陽電池板などを含む)100m2の衛星に 10cmサイズの物体が衝突する確率は、およそ15000年に1度という見積もりもあります。 高度約800kmをまわる、ヨーロッパ宇宙機関の地球観測衛星、ERSの場合では、 断面積は約30m2となり、10cm以上の物体と衝突する確率は4000年に1度程度と見られています。 このように、個々の衛星について考えれば、無視できそうな衝突の確率ですが、 観測されている衛星すべての断面積をあわせていくと、 10年に1度程度は、衝突による衛星破壊が起こる計算です。 (資料) 0.5cmサイズの物体が、高度900〜1100kmをまわる大型衛星へ衝突する 事件は、毎年のように起こっているはずですが、その多くでは、衛星自体の破壊とまではいかず、 小さな破片が生ずる程度と見られてます。 (資料
中国の気象衛星「風雲1号C」の破片(赤)と国際宇宙ステーションの軌道 STK-generated image courtesy of CSSI (www.centerforspace.com)

世界地図上に示した中国の気象衛星「風雲1号C」の破片と国際宇宙ステーションの軌道
 (Orbitron で作図.もちろん図の破片の大きさは実際とは異なります)


  2007年1月12日07時28分頃、中国は、西昌宇宙センターのある四川省西昌付近から
  弾道ミサイルを発射し、自国の古くなった気象衛星「風雲1号C」(拡大図衛星データ大きさ・重量など)

  を破壊する実験を行いました。この「対衛星兵器」の実験により、960kgの 風雲1号C は
  多数の破片に分かれて地球のまわりを回っています。(資料:1 2)

  およそ10cmに満たないような小さな物体は追跡観測にかかっていませんが、約10cm以上の物体だけでも
  破壊実験から2ヶ月後には、約1600個が観測されています。(資料:1 2)

  破片の軌道は、高度およそ200〜3900kmにわたっており、1〜10cmの破片では4万個、
  1mm以上なら200万個にのぼると推定されるため、その高さをまわる人工衛星
  (国際宇宙ステーションも含まれる)との衝突が心配されます。
  1cm以上の破片の半数は、10年以上も軌道にとどまるとの予測があり、破片によっては数百年も軌道にとどまりそうです。

  この破壊事件によって発生した物体は、2007年はじめの軌道物体数を15%以上も増加させています。(資料:1 2 3)


  現在、レーダーで追跡されている 風雲1号C の破片の軌道要素


  このページにおいて Name に "FENGYUN 1C DEB" を入れれば、1週間以内の
  風雲1号C破片 への接近リストが表示されます。




  「風雲1号C」の破片が、NASAの地球観測衛星「テラ」に
   19m以内に接近し、7%の確率で衝突する可能性があると予測されました。

   そこで、接近24時間前(2007年6月22日)に「テラ」の推進システムにより軌道修正が行われました。
   その結果、接近距離は1.3kmになり、今回の衝突の危険はなくなったということです。(資料:1 2

2007年2月20日02時10分頃、オーストラリア上空でロケット破裂
Photo Credit: Ray Palmer, Western Australia (Feb. 19, 2007) - http://www.myastrospace.com/

(写真左上にある彗星のようなものが破裂による噴出物.中央やや下に南十字星が写っています)
  2006年3月1日(世界時2月28日)、カザフスタン共和国チュラタムにあるバイコヌール宇宙基地から
    アラブサット4Aという通信衛星を積んだロケットが打ち上げられました。

    ところが、上段ロケットであるブリーズ-Mロケットが予定より早く燃焼をとめてしまったため、
    衛星は予定の軌道に達せず、同年3月24日には南太平洋上の大気圏に突入しました。(資料ブリーズ-Mロケットも燃料をかなり残したまま地球をまわることになりました。
    (資料:1 22007年2月20日02時10分30秒オーストラリア上空を通過していたブリーズ-Mロケットは
  突然、破裂したのです。(上の写真)
  原因については不明ですが、流星物質による衝突、ロケット部品の腐食や故障などにより、酸化剤と燃料が
  接触したのではないかと見られています。レーダーでとらえられただけで千個以上の破片が発生しました。

  破裂したブリーズ-Mロケットは、地上約500〜15000kmの高さの軌道で
  地球をまわっていたため、その破片も、こうした広い範囲の高度の衛星と衝突する危険をもつことになります。


  2007年に入り、中国の衛星破壊兵器実験とあいまって、宇宙開発史上最悪の地球周回軌道上の破片増加となりました。
  (資料:1 2 3 4)


  国連宇宙空間平和利用委員会の科学技術小委員会では、2007年2月21日にガイドラインをまとめ、
  軌道上に不用物体が発生しない、残らないよう、衛星の設計、打ち上げ、運用、廃棄の各段階で対策をとることを求めています。






関連するグラフ

1立方km当りの物体密度(地上高度別)
Credit: NASA

高度別の物体数
Credit: NASA

2007年1月12日の中国による対衛星兵器実験で発生した破片(緑)
2007年1月10日時点でのデータ(青)
2007年3月31日時点でのデータ(赤)



高度1600km以内の物体数(横軸は物体の直径)
Credit: NASA

グラフ上の矢印で、その部分がなにによる推定であるか、などが記されています。


ある衛星に、レーダーで追跡されている物体が100m以内に接近する確率(横軸は衛星の高度)
Credit: NASA

高度700〜1100km、1400〜1600kmで接近確率が高まっています。

  
    






● 人工衛星も落ちてくることがあるのですか?

→  人工衛星情報のページに、「衛星の落下」という項があります。
  そこに示される衛星本体やロケット以外、破片のようなものまで含めますと、
  毎日のように物体が落下しています。(資料)

    次のグラフは、1965年から1996年に落下した物体の数を年毎に
  示したものです。(Ngraphで作図)

    
(資料: Satellite Situation Report, Vol. 37, No. 12, Dec. 1996, NASA/GSFC) このグラフを見ると、1968年、1979年、1989年といった 太陽活動の極大期頃に落下数が多くなる傾向がわかります。 (黒点数:「理科年表」1996年版 より)
    こちらのグラフでも、毎年の衛星落下数の変化が示されています。

    レーダー観測による断面積が1平方メートル以上の物体が、平均して毎週ひとつ落下している、という見積もりもあります。 (資料) http://www.orbitaldebris.jsc.nasa.gov/newsletter/pdfs/ODQNv2i4.pdf
  太陽からの遠紫外線が強まり、上層大気が温められ膨らみ、より高層の大気の密度が   高まるためです。(磁気嵐が起きたときも、上層大気に高速の電子が降り注ぎ、 上層大気を温めます。関連ページと資料) 低い軌道の衛星ほど大気(低い場所ほど大気が濃くなります)による ブレーキがきいて、軌道が下がっていきます。下のほうが大気密度が濃いので、 ますますブレーキがきいてしまいます。   こうして衛星は高度90kmくらいまで下がってくると流星のようになります。 10をこえる加速度や摂氏1500度をこえるような高温にさらされ、分解していきます。 (資料:) 高度30kmくらいまでの数分間は火の玉のようになり、速度のほとんどを 大気のブレーキで失います。あとは急角度で落下します。 (King-Hele; Janin 参考資料) ★ 2000年10月13日にロシアが打ち上げたプロトンロケットの4段目と 見られる物体のアメリカ上空での落下写真 (日本時間14日09時30分頃。関連ページ) ★ 2001年8月12日の、モールニヤ3ロケット落下写真(カナダ) ★ 衛星落下によく似た隕石落下の例http://impact.arc.nasa.gov/より)     1992年10月9日現地時間19時48分頃(日本時間10日08時48分頃)、 アメリカ、バージニア州東部上空に現れた大火球。12.4kgの隕石破片が 駐車中の車に激突。 (関連ページ: ) ほとんどの衛星は地上(海面)に達することなく燃え尽きてしまいます。 (ロケットの一部が落ちてきた例: 1997年1月22日日本時間18時37分頃、 テキサス州に落下したステンレス製燃料タンク。250kg超。 1996年4月24日にアメリカが打ち上げた衛星 MSX を軌道に乗せた    ロケットの一部。 2000年4月27日には、1996年の航行衛星打ち上げに使われた デルタ2ロケットの破片が南アフリカに落下したということです) ★ 落下例解説ページ ★ 地球表面に落下し、被害が出た場合は、打ち上げ国の責任となっています。   (「宇宙損害責任条約」) 1958年以降、地上にまで達した落下は、わかっているものだけで   62件以上にのぼります。(NASDA追跡管制部 参考資料) しかし、いまのところ、衛星の落下で死んだ人やけがをした人はありません。 これまで、人工衛星の落下物が人に当たったと報じられた例がひとつあります。 上記の1997年1月22日の落下事件当日、アメリカ、オクラホマ州で女性が 公園の近くを歩いているときに、焼けこげた15cmほどの金属製の網が 肩にあたったそうです。けがはありませんでした。 本当にそれが人工衛星であったのかは確認されていないのですが、 場所・時刻からは、デルタロケットの2段目の一部である可能性があるそうです。 ひとりの人間が、衛星の破片の落下で傷つくような確率は、1兆分の1もない、   といわれています。 アメリカで、ひとりの人間が落雷にあう確率は約140万分の1ということです から、普段は、あまり心配しなくてもよいでしょう。   実際、過去40年間に1400トンをこえる衛星破片が地球の表面に達した   と見られていますが、被害があったという報告はありません。 1999年1年間で、大気圏に突入した人工物体は193トンにもなりますが、 およそ、その10〜30%が地表まで達したと見られています。仮に20%と しますと、38トンが地表に落下した計算になります。地表の1/4が陸地ですから、   9.5トンが陸地に落下したことになります。でも被害にあったという報告や   ニュースはありませんでした。   衛星が上空を通過する地表の面積を考えると、日本の国土は0.1%程度   です。人工衛星の落下が毎日1度あったとしても、日本から大気圏突入の場面 が見られるのは(確率としては)数年に1度くらいの頻度、ということになり ます。これは日本のどこかで、その頭上(晴れていると仮定)に見られるとし た場合の見積もりです。 厳密には、陸地から1000km離れた海上上空で突入が起こっても見える 可能性があります。天候を無視すれば数カ月に1度見えるかもしれません。 しかし、快晴の夜というのは1カ月のうち数日程度である(理科年表:月別   天気日数)ため、目撃される現実的な頻度としては数年に1度くらいになり そうです。 衛星がいつどのあたりに落下するか、を予測することはたいへん難しく、   とくに上層大気の密度の変化が大きく影響します。その変化がブレーキ   効果を左右するのです。    大気密度の予測は、最も進んだモデルで計算しても10%程度の不確かさ   はさけられないので、落下予測の不確かさも10%くらいはあることにな ります。つまり、落下は10日後、という計算結果が出たら、1日くらい ずれる可能性がある、ということです。   したがって、落下する地域をある程度限定するには数時間前でないと無理 ということになります。 スペースコマンドの宇宙監視センターでは、地上に達する   可能性のある物体について、落下2週間前に「追跡落下予報」を出し始めま す。その後も何度か予報が再計算され、最終予報が落下2時間前に計算され ます。 この時点でも12分程度の誤差が見込まれるわけです。 突入前の物体は秒速8km近いスピードで動いていますから、12分で   6000km近くなります。札幌-那覇間が約2200km、日本列島の   全長がおよそ3000kmですから、落下地点の予測がいかに難しいかが   わかります。 これまで落下した中で最も重い衛星は、アメリカが打ち上げた「スカイラブ」でした。 約70トンの物体が1979年7月日本時間12日01時37分頃に インド洋南東部上空の大気圏に突入し、破片がオーストラリア南西部で 発見されました。(資料: ) アメリカの新聞、サンフランシスコ・イグザミナーは、落下から48時間以内に、 同新聞社までスカイラブの破片を最初に持ってきた人に1万ドルを進呈します、 という懸賞を出したところ、オーストラリアの17歳の青年が裏庭で見つけた 24個の焦げた破片をもってきました。間違いなくスカイラブの破片でした。 調査の結果、破片は幅約64km、長さ約3800kmの範囲に散らばり、 数週間の内に見つかった最大のものは約82kgのアルミニウム片でした。 (資料: David J. Shayler, Skylab: America's SpaceStation, MPG Books Ltd., 2001) 2001年3月23日には、さらに重い(約130トン)、ロシアのミールが   落下しました。(ミール再突入時の分解について) 関連ページ: コンプトン・ガンマ線観測衛星の落下

関連ページ: 「ジュール・ベルヌ」の落下 2000年11月21日08時00分、ロシアから打ち上げられた「クイックバード衛星」は、 ロケットの燃焼が不十分であったため、09時14分頃、南米ウルグアイ付近上空で 落下しました。その光景が地上から目撃、撮影されています。 (関連ページ: 2001年12月2日03時04分、バイコヌール宇宙基地からロシアの航行衛星 3つがいっしょに打ち上げられましたが、しばらく軌道上にあったロケットや その部品などが大気圏に再突入し、地上や航空機から目撃されました。 4段目ロケットの覆い(800kg)が12月2日07時30分頃、イギリス南部や ベルギー、フランス上空にかけて再突入し、フランスからは 「はじめ大きな火球ひとつだったのが30〜40個ほどに分裂し、巨大な花火の ようだった」と目撃報告がありました。 その約6時間後、13時15分頃にはアメリカ南西部上空に、4200kgの3段目 ロケットが再突入し、その光景が地上や航空機から目撃されました。雷のような 音を聞いたという報告もあります。(再突入地点地図(decayedと示した点) 資料: ) 150kmほどの高度にまで軌道が減衰した時点で、機体をわざとばらばらにして、 大気圏突入時に燃え尽きやすくする、というアイデアもあります。 いずれにせよ、衛星やロケットが大気圏を落下中にどのような状態におかれるかについて 詳しいデータがありませんので、どのような物体が地上にまで到達するかが予測し にくい状況にあります。 高熱に耐えるチタンやベリリウム、ステンレス、といった物質を使ったものでも、 小型であったり、十分薄い場合には問題ないはずです。一方、アルミニウムのように 融けやすい物質でも大きな物体になると地上に達する場合があるわけです。 衛星に文庫本サイズの測定機をのせてはどうか、というアイデアも出されています。 大気圏突入時に熱を検出して働きはじめ、小型センサーで温度、加速度、現在位置など を測定します。高熱や激しい衝撃を受けたあとの自由落下(5分〜7分)中に、測定した データを別の衛星(例えばイリジウム衛星など)に送信する、というものです。 このような測定データにより、より正確な大気圏突入時の予測計算ができるように なるでしょう。(資料) 大型の人工衛星が大気圏に突入した際、燃えつきずに地上にまで到達するかどうかを予測する   コンピュータープログラムも開発されています。   そうしたプログラムによって、ハッブル・スペース・テレスコープが(地上からのコントロールなしに)   大気圏に突入した場合の予測結果があります。(下図)

ハッブル・スペース・テレスコープの大気圏突入予測
Credit: NASA

11トンをこえるハッブル・スペース・テレスコープが高度78km(グラフ左上端)から分解していき、 2055kgが燃えつきずに地上に落下、破片は長さ1220km(下の矢印の範囲)にわたり散乱する という予測です。 NASAの新しい予報計算によりますと、2020年まではハッブル・スペース・テレスコープが 大気圏突入にいたることはなさそうです。 それまでには、(地上からコントロールし、安全な海域上空に落下させる)逆推進ロケットを ハッブル・スペース・テレスコープを取り付けることになるでしょう。   (資料:Sky & Telescope 2007年2月号 p. 15)







   落下が近づいた大型衛星「USA193」の場合


    USA193 の地表面軌跡
   Orbitron で作図.

   USA193 は、北緯58.5度〜南緯58.5度の間の上空を通過することがわかります。
   その部分の面積に対し、日本の面積は約0.09%しかありません。


     USA193の落下までの予測
   SatEvoプログラムで計算した落下までの予測をElement Managerで作図.

   近地点高度(左)と遠地点高度(右)の変化の予測です。
   軌道高度がしだいに低くなり、ついに3月13日頃、大気圏突入.
   2008年2月20日の軌道データからの予測です。軌道データが
   落下時期に近づくほど、より正確な結果が求まるでしょう。
  (これまでの高度変化グラフ  USA193の落下までの予測
   上とは別のプログラム、NASAのDebris Assessment Softwareで計算した落下までの予測.
   3月12日頃の落下を示しています。
  (ハッブル・スペース・テレスコープRCS値を参考に、断面積/質量は0.01と仮定しました)





   USA193 は、2006年12月15日06時00分に、ヴァンデンバーグ空軍基地から
   デルタ2ロケット打ち上げられたアメリカの軍事衛星です。(打ち上げ前のロケット. 関連資料: 1 2 3 4)

   別名は、 NROL-21.(National Reconnaissance Office Launch)


   打ち上げそのものは成功したようですが、その直後、軌道にのった衛星自体に問題が生じたようです。
   衛星に搭載されたコンピューターに異常があり、通信もとれず、地上からの制御がきかなくなっているようです。
  (資料)

   したがって、軌道をあげることも、安全な海域に落下させることもできなくなっています。
   ロケットの燃料である有毒なヒドラジンがタンクいっぱいに約450kgも積まれていること、
   バスくらいのサイズの大型偵察衛星(重量2275kg)であり、その半分程度が大気圏で燃えつきずに
   落下する可能性があり、心配されています。(資料:1 2 3)


   地上からの望遠鏡観測で、太陽電池板も展開していないように見えることから、
   それにより電力を失ったものと見られます。


   地上に落下する前に、ミサイルで破壊し、大気圏突入時に燃え尽きやすくしてしまおうという計画があります。
   2008年2月21〜25日の11時30分から2時間半の時間帯、艦船からミサイルを発射し、
   北太平洋(ハワイ西方)上、高度約240kmを飛行するUSA 193に秒速約10kmで接近して
   破壊するもようです。 (資料:1 2 3 4 5 6)


  2月21日12時30分頃と14時頃、22日12時20分頃と13時50分頃、
    23日12時10分頃と13時40分頃などに北太平洋上空を衛星が通過します。(下図参照)

    USA193 の2月21日12時29分の位置
   Orbitron で作図.


   2008年2月21日、12時26分にミサイル発射され、約3分後、247kmほど上空で衛星に命中しました
      ほとんどの破片は48時間以内に大気圏に突入し、残る破片も40日以内には
      大気圏に突入するだろうということです。(資料:1 2 3 4)





  夜空を通過する USA 193の写真
    2008年2月17日、熊本県さかもと八竜天文台で撮影されたUSA 193の写真
    2008年2月18日、スペインで撮影されたUS 193の写真(明るさは1等)
    2008年2月19日、アメリカ・コネティカット州で撮影されたUSA 193の写真(明るさは約マイナス1等)

    USA 193の軌道要素


    夜空を通過するUSA 193の予報(簡潔版. 2月12日更新)

  Windowsパソコンならば、こちらのソフトで通過予報を求めることができます。

   頭上付近を通過するような好条件では、1等級以上の明るさで見えるかもしれません。(参考:1 2





● 静止衛星は見えますか?

→ 赤道上約3万6千kmと、かなり高いところにあるため、静止衛星は通常
  肉眼では見えません。9等〜14等星くらいの明るさですから、望遠鏡なら
  見つけることができるでしょう。(口径20cm望遠鏡にCCDカメラを
  つけて撮影された静止衛星の例(望遠鏡の向きを固定して撮影しているため、
    星は日周運動のため、線となって写っていますが、静止衛星は点状に写っています)
    
  ただ、衛星のよく反射する部分の向きによって、一時的に明るくなり肉眼で
  見えるくらいになることもあります。変光星の増光と間違われたりすること
  もあります。
    次の映像にも静止衛星が一時的に明るくなる現象がとらえられています。



● 人工衛星の写真がとりたいのですが、どうすればいいですか?

→ 必要なものは、カメラ、カメラ用三脚(かたがたしない丈夫なもの)、
  シャッターボタンのネジ穴にねじ込むレリーズ(手でシャッターを押すと
  カメラが動いてしまうのでレリーズを使います)、フィルム(感度が400
  以上のもの)などです。なるべく正確にあわせた時計やメモ帳、懐中電灯
  (そのままの光ではまぶしいので、赤いセロハンをかぶせるとよいでしょう)、
  に予報、そして黒いラシャ紙(光沢のない黒い紙)も準備しましょう。



三脚に固定したカメラ。シャッターボタンからレリーズがのびています。

    完全に自動的になっているカメラは星空をとるのに向きません。手動で設定が
  できるカメラを使ってください。マニュアル設定のできる標準レンズ付きの
  1眼レフなら大丈夫です。

  カメラの絞りは一番小さい数字に合わせておきます。ピントは無限大のマーク
  に合わせます。そしてシャッタースピードはBという文字にセットします。

  予報時刻10分前には待機していましょう。通過する方向に見当をつけて
  カメラを向けておきます。フィルムを巻き上げて、いつでもシャッターが
  切れるようにしておきます。

    明るい街灯の光が直接こない場所で撮影します。(防寒・防犯にも注意して
  くださいね)レンズ用フードのある人はレンズにフードもつけておきます。

  衛星が現れたら、黒い紙でレンズの前を覆います。その状態でレリーズの
  ボタンを押してシャッターを開きます。(下の写真参照。左手でレリーズの
  ボタンを押しています)


  衛星がだいたい画面にはいってきたなと思ったら、落ちついてそっと紙を
  レンズからはずします。(こうすればシャッターを開けたときの振動で
  写真がぶれる心配がなくなります)

  数秒〜10秒程度数えて、ふたたび黒い紙でレンズをそっと覆います。
    そして、レリーズのストッパーネジをゆるめてシャッターを閉じます。

  黒い紙をはずした時と、ふたたび覆った時の時刻を見積もってメモして
  おきましょう。日付や撮影場所、カメラやレンズのデータ、フィルムの種類、
  衛星の名前なども忘れずに。

  目では明るく見えていた衛星も写真にとると控えめな線にしか写りません。
  特に明るいシャトルやミールなら、いくぶん見栄えのする写真になるでしょう。

    次の写真は、このようにしてとられたマイナス1等級のミールステーションです。
    横浜市内の住宅地から1997年7月31日夕方に撮影。


撮影データ: 1997年7月31日20時06分35秒から10秒間露出; ミノルタXD50mmレンズ; 絞りF1.2をF2.0に絞る; エクタクローム400 フィルム

    こうした撮影方法(三脚にカメラを固定して撮影するので「固定撮影」といい
  ます)で、星座の写真も簡単にとれます。ついでに星座もとってみましょう。
    (星座をとる場合は、10秒〜30秒くらいシャッターを開けたほうがいい
   でしょう。空が明るい市街地では短めに)

    人工衛星のすてきな写真がとれたらお知らせください。


    国際宇宙ステーションは1等星よりも明るく見えますので、
  写真やビデオ撮影のよい対象になります。
    国際宇宙ステーションの多くの部分が明るい色で、太陽光の90%くらいを
  反射しているところもあります。太陽光を吸収して電気をおこす太陽電池板ですら
  太陽光の35%近くを反射しています。(資料)


  関連ページ:国際宇宙ステーションを写真に撮ろう写真集





● 人工衛星をビデオに撮りたいのですが、どうすればよいですか?

2000年12月28日に科学館屋上からビデオで撮影した国際宇宙ステーション
MPEG動画 2.81MB)

    人工衛星の観測に慣れたら、家庭用ビデオカメラをつかって撮影してみましょう。
    ビデオカメラの性能はさまざまですが、1等星ていどの星を撮影できるカメラで
    あれば、ミールやスペースシャトルなどの明るいときは撮影可能でしょう。
    つぎに家庭用ビデオでの撮影方法を紹介します。


    器材:ビデオカメラ(レンズフードがあれば付けます)
          録画テープ
          カメラ用三脚(ガタガタしない丈夫なもの)
          なるべく正確にあわせた時計や懐中電灯

    準備:

    場所は撮影する方向に明るい照明などが無く、見通しのよいところを選びます。

    三脚を広げてしっかり固定し、カメラをとりつけて水平になっているか、カメラ
    の向きがスムースに動かせるか、確認します。

    三脚が軽いばあいや不安定なときは、三脚の中心に重い物をぶらさげると安定が
    よくなります。

    撮影時刻(時:分:秒)を再生時に表示できるカメラは、時報などを聴きながら
    内部時計を秒まで正確にあわせ、またカメラレンズはつぎのように設定します。

   絞り:開放(もっとも少ない数値)
   シャッター:1/4ないし1/10秒
   ピント:無限大
   ズーム:もっとも広角(望遠にしても視野がせまくなるだけです)

    そのほか、カメラの説明書を参考にして設定します。
    撮影のまえに、あらかじめ明るい星を視野にいれ、モニター画面に映っているか
    確認します。

    いよいよ撮影:

    カメラの向きを、予測した衛星の飛行コースに向け固定します。
    このとき、画面の隅に地上の風景(電柱、立木や雲など)や明るい星などが入ると、
    再生のとき、衛星の飛行のようすが比較できてよいでしょう。

    衛星の飛行が見えたら画面に入る直前でカメラをオンして録画をはじめます。
    画面に衛星が入ったら、カメラの向きは変えず固定したほうがよいでしょう。
    飛行する衛星が画面の一方の端に隠れたら、衛星を追いかけてカメラの向きを
    変え、ふたたび固定して撮影します。
    飛行する衛星にあわせてカメラの向きを変える(追尾する)と、再生のとき衛星
    の位置やスピードなど、飛行のようすがわかりにくくなります。

    撮影のとき、短波ラジオをお持ちのかたは標準電波(10MHzなど)の時報を受信し、
    秒を刻む信号や時刻のアナウンスを録画と同時に録音すると、あとで正確な時刻が
    わかって便利です。

    撮影例: 横浜市内から撮影されたシャトルの動画(3.18MB 撮影データ

(この項の答えは、横浜市緑区の藤田忠義さんに書いていただきました)



● シャトルや国際宇宙ステーションの形は望遠鏡で見えますか?

→  シャトルも国際宇宙ステーションも長さは30m以上あり、高度400kmあたりを
  飛行しているのが普通です。400km彼方にある30mの物体は、角度の
  15”くらいです。木星がもっとも大きく見えるときで50”ですから、
  望遠鏡で形がわかるはずです。

  実際には、ゆっくりした飛行機のように空を動いていく人工衛星を望遠鏡で
  追跡するのは容易ではありません。コンピューター制御で向きを変えられる
  望遠鏡に、衛星の動きを追跡するようプログラムしておけば、形の確認も可能
  でしょう。アメリカの一般向け天文学雑誌「スカイ・アンド・テレスコープ」
    1996年8月号に、小型望遠鏡用人工衛星追尾ソフトウェアの紹介記事が
  でていました。特定機種の小型望遠鏡用ですが、このソフトを使うと、人工衛星
    のある方向に自動的に望遠鏡が向き、自動的に追尾してくれるそうです。
  国際宇宙ステーションの形も判別でき、写真例もでていました。

    無料で使えるソフトも作成されています。

    ドイツのヨウゼフ・フーバーさんが、口径20cm(左の写真)と口径40cm
   (右の写真)の望遠鏡に高感度ビデオカメラをつけて撮影した国際宇宙ステーション
    です。(口径80cm望遠鏡による別の写真)
    (詳しくはこちら)


    そのような追尾システムがない場合、例えば、 頭上付近の、ある方向に
    固定した望遠鏡の視野を国際宇宙ステーションが横切ったとき、形がわかるで
    しょうか? 背景に太陽があったらシルエットになって、形がわかりやすい
    かもしれませんが、月面や太陽面を横切るのにせいぜい1/3〜1/2秒
    程度です。集中して見ていたら形がわかるかもしれません。



動画版アニメーションGIF版
Credit: Ed Morana, Livermore, CA USA (http://pictures.ed-morana.com/ISSTransits)

    アメリカのエド・モラーナさんが口径25cmの望遠鏡にビデオカメラを
  つけて撮影した、月面を横切る国際宇宙ステーションです。
  (2006年10月6日撮影)

  撮影地から国際宇宙ステーションまでの距離は約420km

  背景の大きなクレーターは、直径85kmのティコチコ)クレーター






2004年4月1日 土星付近を横切る国際宇宙ステーション(土星周囲には土星の衛星も)
Credit: Torsten Edelmann of Landsberg, Germany
動画版 Credit: John Locker 2006年7月12日 太陽面を横切る国際宇宙ステーション+ディカバリー(シャトル) ドッキング中に撮影されました。   月面や太陽面をよく観察されているかたは、人工衛星の通過を経験している のではないでしょうか。(木星の手前を通過した人工衛星のビデオ月面を横切る人工衛星の例太陽や月の前を横切る国際宇宙ステーションの写真 月の手前を通過する国際宇宙ステーションの写真例を見ると、ステーションの 形がわかります。(動画版太陽面を通過する国際宇宙ステーションhttp://www.wonderplanets.de/iss-transit.html より) 2003年8月2日にイギリスで撮影された太陽面を通過する衛星「ユアズ」データ) 0.7秒ほどで太陽面を通過しています。(ユアズについて高速度ビデオ撮影された国際宇宙ステーションの太陽面通過(2003年8月16日) こちらは、口径20cm望遠鏡の手動追尾で撮影された国際宇宙ステーション。 近藤弘之さんが20cm望遠鏡でとらえたシャトルの写真撮影データ近藤さんによるほかの写真2枚の画像から作成した国際宇宙ステーションの立体視画像赤青セロハンめがね用) スペースシャトルから60mものアンテナマストをのばしているときに、 口径20cmの望遠鏡の向きを手で調整しながらシャトルを見たら、 こんな感じに見えたそうです。 (カナダの観測者が、92倍の倍率で見た印象を絵にしたもの) 富山市天文台では、ミールの形スペースシャトル そして国際宇宙ステーションの形を大型望遠鏡でとらえました。 国際宇宙ステーションを口径10センチ40倍の望遠鏡で見たら、 こんなスケッチがとれたという報告もあります。 2003年7月にドイツで撮影された国際宇宙ステーション ハワイ、ハレアカラ山山頂に建設、テスト中の AEOS という 口径3.67mの高性能望遠鏡(アメリカ空軍の施設)は、像の安定化を はかっており、人工衛星の形状を調べることができるものです。 ★ AEOSがとらえたコンプトン衛星コンプトン衛星について望遠鏡による人工衛星写真例のページ(英語)
望遠鏡による人工衛星写真例のページ(英語)
望遠鏡による人工衛星写真例のページ(英語)

望遠鏡による昼間の国際宇宙ステーション撮影例のページ(英語)

望遠鏡による人工衛星観察のページ(英語) 国際宇宙ステーションの通過を真昼の空に望遠鏡でとらえた映像



● 軌道要素とはなんですか?

→ 天体の軌道を表すもので、これがわかればその天体の将来や過去の位置も計算
    できます(無制限にというわけではありませんが)。

    地球上空の人工物体を監視しているアメリカ、スペースコマンドのスペース
    コントロールセンター(SCC: コロラド州シャイアン・マウンテンの花崗岩を
    くり貫いた山中にあります)には、世界中に展開している18のレーダーと
    4カ所の光学望遠鏡から、毎日8万件という人工衛星の観測データが集まってきます。
  このデータから、各人工衛星の軌道が計算されています。
    (スペースコマンドの最近の資料では、観測サイトは全部で25カ所になっています)

  人工衛星の軌道要素の表しかたで、とくに広く使われているのがSCCが計算
  で出している、2行要素(Two-Line Element. 以下TLE)といわれているも
  のです。SCCの計算結果から、一部アメリカの軍事衛星のものなどをのぞいて
  NASAのゴダード宇宙飛行センターにも転送されています。

    以下はシャトルのTLEの例です。(見方については、人工衛星情報のページ
    にも詳しい説明があります)



    1 23500U 95007A   95061.64457404  .00011689  00000-0  86071-4 0    66
    2 23500  28.4639  87.0110 0008657 258.9312 101.0267 15.72268813    74

    上の2行要素は以下のような内容になっています。

    1 AAAAAU 00  0  0 BBBBB.BBBBBBBB  .CCCCCCCC  00000-0  00000-0 0  DDDZ
    2 AAAAA EEE.EEEE FFF.FFFF GGGGGGG HHH.HHHH III.IIII JJ.JJJJJJJJKKKKKZ

    見方: A-その衛星のCATALOG番号  B-元期 C-減衰率(2分のn-dot)  D-要素番号
    E-傾斜角 F-昇交点赤経 G-離心率 H-近地点引数 I-平均近点角 J-平均運動
    K-軌道周回数 Z-CHECKSUM

  衛星番号や国際標識、公転数などは軌道要素そのものではありません。



  元期:("げんき"と読みます) 軌道要素は変化していくので、いつの時点の
    データであるのかを示します。時刻系は協定世界時(グリニッジ標準時)で、
    1月0日0時0分0秒から何日たったか(小数部を含む)で表します。

    (1月0日からの経過日数と月日の関係は こちらで調べられます。
       左がうるう年用、右が平年用です)



    離心率: 衛星の軌道は一般に楕円軌道です。2つの焦点F1, F2からの距離
  の和が一定(F1S+F2S=一定)になるような場所を鉛筆でなぞっていくと、
    その曲線が楕円です。 (下図参照)


  一方の焦点に地球の中心があり、他方の焦点にはなにもありません。長軸の半分
  を「長半径」といいます(図の a)。2つの焦点を近づけていくと、楕円が円に
  ちかくなっていきます。焦点が一致してしまうと円そのものです。
  楕円の中心から焦点までの長さが、長半径のいくらにあたるかという割合を考え
    ると、これは楕円のつぶれ具合を表すことになります。これを離心率といい、
    e で表します。

    ちなみに、上図の AG1 を遠地点高度、PG2 を近地点高度といいます。
  AF1とPF1 をそれぞれ遠地点距離、近地点距離といいます。


  平均近点角: 元期において、衛星が軌道上のどこにいたかを表します。単位は
  「度」です。地球の中心から見て、近地点から何度回ったところにあったか、を
  示します(円軌道の場合)

  平均運動: 衛星が1日に地球を何周するかを表します。平均運動から軌道の
  長半径も計算できます。 大気によるブレーキ効果の影響が大きいと、平均運動
  の変化率も大きくなります。


    (上図参照)

  軌道傾斜角(i): 衛星が南半球から北半球側に向かう赤道面上の交点
    (昇交点)において、赤道面に対する軌道面の傾きを表します。単位は「度」。

  昇交点赤経(Ω): 地球の中心から見て、春分点方向(春分の日に太陽のある
    方向. 上図で γ と示してある方向)と昇交点の間の角度。この角度は春分点方
    向から東回りに測ります。

    近地点引数(ω): 地球の中心から見て、昇交点方向から、軌道上で最も
     地球中心に近い点(近地点. 図の 点P)までの角度。



    参考:軌道要素(英文解説)




● 人工衛星の軌道要素はなぜ変化するのですか?

→ (さきに軌道要素の説明を見てください)
  元期から時刻が経過すると平均近点角は増大していきます。(360度で近地点
  に再び戻りますが)

  そのほかの軌道要素も、以下のような原因で変化します。

  上層大気によるブレーキ(高度の高い衛星では影響があまりなくなります)

  地球が厳密な球でないこと(重力のむら)

  大きさの割に密度のない衛星の場合には、太陽光の圧力にも影響されます

  太陽や月の重力の影響(とくに高度が高い衛星)

  
    このため、予報計算に古い軌道要素を使うとかなりのずれが生じる場合があります。
  数百km程度の高さの衛星の予報には、予報日のおよそ1週間以内の元期の軌道
    要素を使いましょう。さらに高い衛星なら1カ月前のものでもよいかもしれません。
    ミールやシャトルのような、自分で(あるいは地上からの指令で)軌道の高さを
    調整できる衛星や、落下が近く平均運動の変化率が大きい衛星などについては、
    できるだけ新しい軌道要素で計算をするようにしましょう。



● パソコンで人工衛星の予報が計算できますか?

→ 例えば、Orbit 1.0aという Windows95/98用プログラムは、英語表示ですが、
    少し専門用語などを覚えるだけで使えます。
    日本語の「使い方」もあります。


    もっと高機能なものでは、Orbitron というプログラムがあります。
    こちらも Windows用ですが、メニューは日本語表示になります。


    こちらのページに、Windows以外のプログラムもあります。

    さらに、こちらこちらも参考にしてください。



● ミールが見える時期と見えない時期があるのはなぜですか?
        (ミールは2001年3月23日に落下しています)

→ ミールやシャトルのように、地上から数百kmの高さを回る衛星が肉眼で
  よく見えているのですが、ある衛星を見たいと思っても、夕方(明け方)
  いつも見えるわけではありません。

    地球は完全な球形ではなく、南北にわずかにつぶれた形になっています。
  このため、地球は衛星を少し複雑な重力で引っ張ることになり、衛星の軌道面
  はしだいに向きを変えていくのです。
    
    次の図は、毎日同じ時刻に、衛星の軌道面が(地球に対し)向きを変えていく
    ようすを示したものです。(1日にどれくらいずれていくかは、軌道によって
    異なります)

   (もう少し厳密に言えば、地球の自転周期は23時間56分04秒であるため、
     24時間たつと、地球の向きも約1度東にずれます)



    ある時刻に、衛星の軌道面が近くを通っていなければ、衛星を見ることが
  できないわけです。再び軌道面が近くにやってくれば、その衛星がまた見える
    時期に入るわけです。 ミールの場合、北東方向に動くコース、南東方向に
  動くコース、それぞれについて2カ月くらいの周期になります。

    


● シャトルがたまにしか見えないのはなぜですか?

→ 理由はいくつかあります。まず、シャトルは常時飛行しているのではないこと
  です。月に1度くらいの頻度で打ち上げられ、1回の飛行は1〜2週間くらい
  です。
  軌道の高さが地上300km程度と低めなため、比較的そばを通過してくれない
  と、空高くに見えません。
  しかも夕方や明け方頃に通過してくれないと、太陽がシャトルを照らさないので
  見えないのです。(双眼鏡で観察する場合には、深夜太陽が照らさない時間帯で
  も、シャトルの貨物室の照明などでシャトルが暗い光点として見えることがあり
    ます)

    さらに、シャトルの軌道が日本本土上空をまったく通らない場合も少なくありま
    せん。沖縄や小笠原ではよく見えても、本土では(とくに北にいくほど)あまり
    よく見えないということがあるのです。これはシャトルの軌道傾斜角に関係があ
    ります。

    以下の3つの図(別ページにもある、sattrack というプログラム
  で作成しました)は、軌道傾斜角がそれぞれ 28.5度、57.0度、そして
  81.2度の人工衛星の地表面軌跡(グラウンド・トラック. 水色の曲線)です。
    衛星直下点の軌跡を表したものです。
    地表面軌跡がずれていくのは、衛星が回っている間に地球が東に自転しているた
    めです。


  軌道傾斜角が 28.5度の場合は、地表面軌跡が南北緯度28.5度の範囲に
  なり、日本本土上空にこないことがわかります。シャトルもこのケースになる
  ことがあります。(シャトルの場合、静止衛星を放出するときは、軌道傾斜角が
    28.5度であるのが普通です)上図はハッブル・スペーステレスコープのもの
  です。


  2番目の図は1994年4月飛行のシャトルの例ですが、緯度57.0度の範囲
  に地表面軌跡があります。地球を観測するなどの場合、軌道傾斜角を大きくとり、
  地上の広い範囲をカバーできるようにするわけです。


  3番目の地表面軌跡は低高度気象衛星(メテオール)のもので、ほぼ地球全体を
    カバーできるような大きな傾斜角になっています。
  


● 人工衛星らしきものを見たのですが、なんという衛星でしょうか?

→ ごらんになった観測者名、観測場所の住所とその土地の緯度・経度
   (緯度・経度の調べかた)

    天気(快晴、薄曇りなど)

  月明かりの有無

  見え始めた時刻(分まで正確に)


    星座がわかるかたは、なになに座の上部からなになに座の中央を通過、
  といった表現で衛星の動きを記録しておきましょう。

  あとで、
    このページこのページ の星座早見(Planesphere)の目盛りから、
    方位角(北から東まわりの角度.東が90度、南が180度、西が270度)と
    仰角(地平線からの高度)を見積もります。

  あるいは、StarCalc のような Windows用プラネタリウムソフト
  では、カーソル位置の方位角・仰角 が常に表示されていますので、
  星座間移動の記録から、その方位角・仰角 を読みとります。



  星座がよくわからないかたは、およその方角・仰角を見積もりましょう。
    なお、角度10度はこれくらいです。
  (例:北西の仰角45度くらいから北東の70度くらいを通過し、
      南東低空に消えていった)

    その動きに要した時間(何分くらいで動いていったか)

    衛星の明るさが何等星くらいであったか
  
    そのほか、とくに気づいたこと

    以上のようなことを記録しておきましょう。

    オービトロンという人工衛星追跡ソフト(Windows用)を使って、
    目撃した衛星を調べることができます





分度器の中心に糸を固定しおもりをたらし、古はがきを丸めたものにつければ、仰角測定器のできあがりです。目盛り「90」からのずれが地平線からの角度(仰角)です。

    ドイツ宇宙オペレーションセンターの衛星予報から、数日前に通過した
    比較的明るい衛星を調べることもできます。Daily predictions for brighter satellites
    というページを見て下さい。そのページの上の欄に日付を変える項目があります。












文・撮影  : 山田陽志郎
<yamada@ysc.go.jp>
作図 : 出雲晶子
<izumo@ysc.go.jp>
参考資料(順不同): シャトル・ミールについて SPACE NOTE '95 (NASDA) http://shuttle-mir.nasa.gov/
http://www.ksc.nasa.gov/shuttle/technology/sts-newsref/stsref-toc.html
軌道物体について J. Andreas Howell, "The Challenge of Space Surveillance", Sky & Telescope, June 1987, pp. 584-588 G. Janin, "How Long Do Our Satellites Live?", ESA Bulletin, No. 45, 1986, pp. 34-39 R. Kresken, "Artificial Earth Satellites" in EARTH AND SOLAR SYSTEM (Compendium of Practical Astronomy, Vol. 2, Ed. G. D. Roth), Springer-Verlag, 1994, pp. 170-191 Richard Crowther, "The Trackable Debris Population in Low Earth Orbit", Journal of The British Interplanetary Society, Vol. 47, No. 4, April 1994, pp. 128-133 H. Klinkrad & R. Jehn, "The Space-Debris Environment of the Earth", ESA Journal, Vol. 12, 1992, pp. 1-11 A. Rossi & P. Farinella, "Collision Rates and Impact Velocities for Bodies in Low Earth Orbit", ESA Journal, Vol. 12, 1992, pp. 339-348 A. Rossi, "Long Term Evolution of Earth Orbiting Debris", April 1 1996 Nicholas L. Johnson & Darren S. McKnight, ARTIFICIAL SPACE DEBRIS, Orbit Book Company Inc., 1987 Desmond King-Hele, OBSERVING EARTH SATELLITES, Macmillan London Ltd., 1983 William B. Scott, "Leonids Shower Triggers New Look at Space Debris", Aviation Week & Space Technology, January 4 1999, pp. 51-55 F. Alby, "Collision Risk Monitoring for Spot Satellits", Journal of The British Interplanetary Society, Vol. 53, No. 1/2, January/February 2000, pp.39-44 R. Walker, J. Wilkinson, H. Stokes, and G. Swinerd, "Historical Evolution of the Low Earth Orbit Debris Environment", Journal of The British Interplanetary Society, Vol. 53, No. 3/4, March/April 2000, pp.104-110 八坂哲雄 「どうする? ふえつづける宇宙ゴミ」, L5, 1994年 2月号, pp. 5-9 栗林忠男(編)「解説宇宙法資料集」, 慶應通信, 1995年 NASDA追跡管制部 「宇宙機の落下予測技術について」, NASDAニュース, No. 185, April 1997 N.L.ジョンソン 「宇宙ゴミの脅威」,日経サイエンス,1998年11月号,pp. 54-62

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