【　「タバコ1000円時代？」に思う　】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2008.6.30

 

　「禁煙なんて簡単だ。私は何十回もやってるよ」　マーク・トゥエイン

 

ども、中西です。歴史もの（？）が続いたので今回は時事ネタを。

最近、ある方が、「タバコ一箱の値段を1000円にすべきだ」という趣旨の発言をされたことから、いろいろと物議を醸しているようです。なんと「議員連盟」までできたとか。

いま、一箱300円ぐらいですから、一気に三倍以上に値上げしようと言うことになります。

 

唐突ですがもしCD一枚一万円になったら、皆さん、僕のアルバム、買ってくれますか？

しかもCDは一度買えばずーっと楽しめるわけですが、タバコを吸う人は毎日吸われるでしょうから、より切実な問題でしょうね。単純計算で一日一箱として１年365日だから36万5千円ですか。う～ん、4～5年禁煙したら新車買えちゃいますねぇ。コレハエライコトデスヨ。

もっとも世界の、というか欧米先進国ではタバコは健康を害する軽い「毒物」みたいに扱われているようで、ロンドンでは5ポンド（約1000円）、ニューヨークでも日本の倍以上はするそうです。つまり、「タバコ1000円時代」は冗談でもなんでもなく「今そこにある現実」というわけです。

 

ところで、今現在でもタバコの値段には6割以上の税金が含まれているわけですが、原材料費が変わらないとすれば「1000円時代」にはなんと9割近くが税金ということになってしまいます。外国はどうか知らんが、わが国はそこまで極端な値上げはたとえタバコでも国民感情が許さないという気がします。それでなくても最近の石油関係、穀物関係の値上がりが激しいときに、特に原材料の需給が変動してるわけでもないのに値上げするのはいかがなものか。他の嗜好品の便乗値上げを呼んで家計を圧迫するだけのような気もします。

 

結局なんだかんだ言っても政府は慢性的な財政赤字という現状を考えればいずれ消費税ＵＰに手をつけざるを得ない。けれども今秋以降の解散総選挙を控えて与野党ともに「増税」は言い出しにくい。特に与党は年金問題や「後期高齢者医療」の問題でミソをつけているし、例の「道路特定財源」の一般財源化を首相公約したために09年度の予算の歳入不足が予測される。あれやこれやで一時的な先送りとして「必殺！取りやすいとこから取る攻撃」炸裂！！というスジガキなんでしょうか。だとしたら「弱いものいじめ」丸出しですねこりゃ。

 

ある試算によれば「1000円時代」になり、仮に喫煙者が3分の1になっても税収自体は約3兆円アップするとのことですが、こういう試算が的中したのを聞いたためしがないのであくまで「参考」としても、ムダな公共事業やハコものばっかり作って税金をばら撒いてきたうえに、「ノー○ンしゃぶしゃぶ（古い）」やら「居酒屋タクシー」やらで散々甘い汁を吸った挙句、がっぽり退職金もらって関連団体に天下ってゆく官僚たちのツケをなぜ喫煙者だけが払わにゃならんのか、理解に苦しむというのが本当のところではないでしょうか。ちなみに私、中西保志はタバコをまったく吸いません。吸っていたこともありません。

なんというか志（こころざし）の問題ですよ志の！

 

「そうではないのだ。あくまでタバコが体に悪いことを知ってほしいというのが狙いなのだ。『脱たばこ社会』を実現させたいのだ」と言う意見もあるようです。

しかし、これもちょっと待てよ？

「1000円時代」になればはっきりいって経済的にタバコを買うことができなくなる人が続出するでしょう。かといって喫煙には習慣性があることがはっきりしていますからすぐ禁煙なんてできません。そうした人はいままでの3分の一ほどになった量のタバコをしっかりと「根元まで」吸うでしょう。あるいはいわゆる「シケモク拾い」が大量に発生し、こうした人々の健康は確実に悪化します。タバコを根元まで吸うというのがもっとも健康に悪い吸い方だからです。要するに中・低所得層の健康が余計損なわれかねません。「健康の格差社会」になりかねないわけです。

 

また、一箱1000円とすると街のタバコ屋さんで大金が取引されることになり、金銭目的で（あるいはタバコ目的で）強盗を企てる者が増えるかもしれません。おばあちゃんが一人でやってる「町内のたばこ屋」なんてのは完全になくなるでしょう。街はいまより確実に活気を失い、不況感はさらに加速するかもしれません。

このように単に値段を3倍強にしたからといって健康増進したり景気回復したりするような単純なものではないと思われます。

 

とはいえタバコには非喫煙者からみて我慢できない「マイナス面」がいくつもあることも事実です。

１・喫煙者のタバコ臭（本人はあまりわからないらしい）あるいは受動喫煙（吐いた煙を吸う）

２・吸殻のポイ捨てによるゴミ問題

３・寝タバコなどで火事の原因となる

４・喫煙者が中毒症状をひきおこす可能性がある

５・肺がんを含む呼吸器系の病気の原因と考えられている

６・未成年者の喫煙の問題

あげればまだまだあるでしょうが、主なところはこんなもんでしょう。

このうち６に関してはいまＴＡＳＰＯカードで識別するシステムがスタートしようとしています。これは不便もあるでしょうが必要な制度だと思います。使い勝手の悪さなどはいずれ改善されてゆくでしょう。

残る１～５ですがこれは要するに「マナー」の問題だと思います。まわりに気を配り、ルールを守って喫煙する人を増やしていけばいいだけのことで、そもそも建前上「成人しか吸ってない」はずですから問題はないはずです。

 

自動車事故で犠牲になる人が多いからといって「自動車税を3倍にしろ！」なんていう人はいません。しかし、無免許運転や飲酒運転した挙句、事故を起こす人には厳罰で臨むように道路交通法は改正されてきています。

同じように、喫煙場所をしっかり確保した上でルールを破る不届き者や病人・乳幼児などのそばで平気でスパスパやってる不心得者をしっかり取り締まればよいだけの話じゃないでしょうか。その際の罰金をうんと高く設定すればいいだけのことではないかと思います。

 

ということで今回の結論は

「タバコ自体は値上げせず、マナー・ルールの違反者には罰金を！」ということになります。

ついでに言えば

「タバコ増税で赤字の穴埋め、なんて考えるな。徹底した行革リストラを。それでもダメなら消費税」

ということでしょうか。

なんか「政見放送」みたいだな今回。

 

この稿へのご意見ご感想をお待ちしています。

info@y-nakanishi.com

 

 

このたびの「岩手・宮城内陸地震」におきまして亡くなられた方のご冥福をお祈りし、

被災されました方々の一日も早い復興を心よりお祈りいたします。

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中西保志

【坂の上の雲へ】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2008.6.16

 

 

 

 

秋山好古は安政6年（1859年）生まれ。明治維新のころはまだ8歳でした。

幼いながらも武士階級の没落を目の当たりにし、新しい時代を生き抜くために学問を身につけたいと思います。しかし秋山家は没落士族で子だくさん、とても好古を学校にはやれません。そこで彼は風呂屋の下働きをしてわずかな手間賃をもらい、本を買って独学で勉強したのです。

 

そしてある日、大阪に「タダの学校」ができたと聞きました。「タダの学校」とは師範学校、つまり今で言う教育大学のことなのですが、当時はまだ「学校」というものが全国にでき始めたばかりだったため、極端に教員が不足し、ごく短期間就学すれば教員免許を発行され、その間の生活費も保証される、という制度があったのです。しかし、その師範学校はまだ松山にはなく、東京、名古屋、大阪などにしかありません。好古は年齢を3歳偽り、わずか16歳で故郷を後にして大阪へと旅立ちます。

そしてあっという間に教員になってしまったのです。優秀だったのですね。

ところが、新米教員というのは今もそうかもしれませんが、あまり高給ではなかったため、故郷へ仕送りができません。「やはり教師ではダメだ」彼の目的はとにかくお金を稼いで弟たちに自分がいけなかった学校へいかせてやりたいということだったのです。そこで教師の道をあきらめ、これも「タダの学校」である、陸軍士官学校を受験するために上京するのです。

 

好古は、いわゆる「賊軍（旧幕府）」の出身であることから「官軍」の薩摩・長州の出身者が幅をきかせる軍人の世界ではずいぶんと肩身が狭かったことでしょう。

しかしここでも彼は抜群の成績を収め、さらにその後、できたばかりの陸軍大学の一期生となってエリート軍人の仲間入りを果たすのです。

彼は陸大の「騎兵科」に入ります。理由は、他の学科（歩兵・工兵・砲兵など）が4年間の学科であるのに、騎兵だけは3年で修了することができたためです。早く一人前になりたい、という思いがあったのでしょう。3年でこれを無事卒業し、彼はすぐに騎兵少尉（役所・会社で言えば係長クラス）になります。

当然、給料は上がり、そのお金を故郷・松山に送って、弟・淳五郎（真之）を学校に行かせることができたのです。

 

彼はその後もフランスの「サン・シール陸軍士官学校」に留学し、「騎兵」の研究に打ち込みます。

実は、写真を見ればわかるのですが、好古は日本人にはとても見えないほど顔の彫りが深く、鼻が高かったため、陸軍大学に教えに来ていたドイツ人教官が思わずドイツ語で話しかけるほどであったそうです。

また当時の人としてはかなり背が高く、今でいう「イケメン」だったのです。フランスではかなりモテたと記録には残っています。

実際、馬に乗るのには手足が長いほど有利であったため、彼は偶然とはいえ自分にもっとも適した道を歩んだことになります。

 

日露戦争では「黒溝台の戦い」において、満州（現在の中国東北部）の極寒の荒野で、10万人のロシア軍を相手に、自ら育て上げた騎兵軍団のわずか8千人で陣地を守り抜いた、という大活躍を演じます。

彼は戦いの前に自軍とロシア軍の兵力、特に騎兵の力の差を痛感し、まともにぶつかってはかないっこないことを知り、騎兵たちに「全員、馬を下りよ！」と命じます。そして塹壕を掘り、陣地を築くと、当時世界最新式の機関砲を備え付けさせたのです。馬はとてもデリケートな動物なので、機関砲の音だけで興奮したり、暴走してしまう、そこをつけば相手を混乱させて崩せる。

これが、彼がさまざまな軍書を読み漁り、最終的に考えついた戦闘方法だったのです。詳しい資料は残っていませんが、おそらく好古は長篠の戦い（1575年）で、織田信長・徳川家康の連合軍が、武田勝頼の騎馬武者軍団を馬防柵（バリケード）と鉄砲三千丁の三段撃ち一斉射撃で壊滅させた故事からヒントを得たのではないでしょうか。結果、数で圧倒的に勝るはずのロシア軍は最終的に後退してゆきました

。

騎兵だから馬で戦う、という「常識」にとらわれず、騎兵だからこそ敵の騎兵の弱点をつける。まさに「騎兵の父」と呼ばれた秋山好古の真骨頂です。ここでもまた「白砂糖は黒砂糖から作られ」たのです。

 

晩年、好古は大将にまで上り詰めた陸軍をあっさり辞め、故郷・松山の私立の中学校（今の高等学校）の校長になります。日露戦争で活躍した軍人の多くが貴族や政治家に成り上がったのに対して、ずいぶん不思議な余生であったと人々に思われたようです。彼は本当は軍人ではなく、若いころに断念した教師になりたかったのでしょう。穏やかなやさしい校長先生だったようです。

ただひとつ、彼らしいエピソードをあげれば・・・

昭和のはじめごろ軍縮で大量の軍人がリストラされ、その失業対策として各学校に軍事教官を派遣し、軍事訓練を日課にすることになったのですが、自分の学校にやってきた教官が生徒たちをスパルタ式にシゴキ上げるのをみて、好古校長はその教官を呼び出して「うちの生徒は兵隊ではない！勉強ができんじゃないか！！」と一喝。

「日露戦争の英雄」にどやされた教官はグゥの音も出なかったそうな。

 

3回にわたり、インストアライブで松山を訪れたときに見た「明治の青春たち」のお話をお送りしてきました。

彼らの時代は今より圧倒的に貧しく、不便だったけれど、「生きる希望」に満ち満ちた世界でもあったような気がします。

「何者かになりたい、ならねばならぬ」という志だけを胸に、広い世界に飛び出していく時代。それを青春と呼ぶのなら、「明治」はまさにこの国の「青春時代」であったといえるでしょう。僕たちはなんとなくいまだにその遺産で食いつないでいるような、居心地の悪さをいま、感じています。

しかし、彼らがそうであったように、望むような未来、ではなく、坂の上の青空に浮かぶ雲をめがけて駆け上がって行った果てに、未来は待っているのでしょう。それがどんな明日でも、立ち止まるよりはずっといいはず。さあ、「坂の上の雲」へ。

 

このたびの中国・四川大地震ならびにミャンマーのサイクロンによって亡くなられた方の

ご冥福をお祈りし、被災された方々の一日も早い復興を心よりお祈りいたします。

　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　             　　 中西保志

【秋山真之】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2008.5.28

 

 

 

 

（前回からの続き）


秋山真之は日露戦争（１９０４～５）の「日本海海戦」において、連合艦隊参謀として対馬沖で帝政ロシアのバルチック艦隊を相手に世界史上にも他に類を見ない完全な勝利を成し遂げた作戦を作り上げ、「智謀湧くが如し」といわれたことで有名ですが、幼なじみの正岡子規や、東大の同窓生・夏目漱石などとともに、小説家・文学者を目指した青春時代があったのです。

 

　　雪の日に北の窓あけシシすれば　あまりの寒さにチンコちぢまる

 

おいおい、窓からするなよ！と突っ込みたくなる歌ですが、これが彼の七歳ごろの作だそうです。こんなのもあります。

 

　　湯に入るに前や後ろを良く洗い　どんぶり入るは大のおきらい

 

これは近所の銭湯の主人が入浴のマナーを客にわからせるような歌を作ってくれ、と頼んだのに答えたものだそうです。上手な裸婦のイラストつきだったそうです。マセガキだったんですね。もちろん大人になってからは立派な歌も作っています。

 

　　春の野に若菜を摘める乙女子は　なべて霞の衣きるなり

 

　　世を捨てて　深山の庵の寝ざめにも　友はありけり小牡鹿の声

 

これらは松山中学在学中の作といわれています。古今調の和歌ですね。

 

前にも書きましたが、彼は松山中、東大、海軍兵学校とすべての試験をほとんど一夜漬けでパスという、信じられないエピソードの持ち主なのですが、その秘訣を聞かれたとき、次のように答えています。

 

「本来、人間の頭に優劣などない。適切な戦術を選ぶ判断力があるだけである。過去5年間の出題を調べ、細かく分析すれば、おのずとどこが重要か位はだれにでもわかる。あとは問題を作る教師の授業のときの声の調子、目配り、黒板の字の書き方を観察していればどんな問題が出るかはすぐわかる。要は出題の『型』を見極めればいいのだ」どうです。現在にも立派に通用する「必勝法」でしょう。

正岡子規が、その短かった人生をかけて過去の短歌・俳句を収集、分類し、その中から「近代文学としての短歌・俳句」を作り上げていったのと共通していると思いませんか。大胆に想像すれば「のぼさん」は「じゅんさんの一夜漬け」を見て、こうした作業のヒントをつかんだのかもしれません。

そんな真之が軍人になってから行ったことは、古今東西の軍書を読みあさり、要点を抽出し、自分の中で組み立てなおすことでした。それは海の戦いに限らず、陸戦をも含め、また日本の戦国時代の水軍の古文書にまでも及んだそうです。そうした中から「奇跡の勝利」といわれた日本海海戦の作戦は生まれたのです。

「白砂糖は黒砂糖からできるのだ」彼の名言のひとつです。

このことから考えるに彼はいわゆる「天才」ではなく、いまで言う「データ主義」というか、「野村ＩＤ野球」のような「努力秀才」タイプだったのかもしれませんね。

さて、いよいよバルチック艦隊が対馬沖に現れたとの通報を受けたとき、旗艦・三笠のブリッジ（艦橋）にいた真之は東京の大本営に出撃の電報を打ちます。

 

「敵艦見ユトノ警報ニ接シ、聯合（れんごう）艦隊ハ直（ただち）ニ出動、之（これ）ヲ撃滅セントス」

 

ここまで書いた真之は少し考えて次の一文を書き加えました。

 

「本日天気晴朗ナレドモ浪（なみ）高シ」

 

これは歴史的な名文として今に伝えられています。

 

晩年の真之は、戦争で亡くなった両軍の霊を慰めるために軍をやめて僧侶になりたがったようですが、周りが「日本海海戦の英雄」を取り巻いて放さなかったため、結局終生軍人でした（実際、彼の息子の一人は僧侶になっています）。

本当の彼は血を見るのが大嫌いな平和主義者でした。19～20世紀はじめの帝国主義時代の大きな波が彼を捉えて放さなかったのです。平和な時代であれば、彼は間違いなく子規や漱石と並ぶ文豪となっていたでしょう。

18世紀以来、南下政策を取り続ける巨大国家帝政ロシアに、「窮鼠猫をかむ」の思いで戦いを挑まざるを得なかったアジアの小国日本。

しかし、思いのほかの大勝利にすっかり舞い上がってしまった日本人はそののち無謀な戦争を繰り返し、今日なおその傷跡が多く残っています（このあたり、なんか「バブルとその崩壊」とおんなじパターンのような気がします）。

 

米国留学の経験もある真之は「アメリカとだけはケンカしてはいかん」が口癖だったそうです。

 

次回は兄・好古についてです。

 

【春や昔】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2008.5.9

 

 

 

春や昔　十五万石の　城下哉（かな）

　

正岡子規、28歳の作です。

愛媛県松山市は、子規のいた頃は「伊予の松山一万戸」といわれ，人口三～四万人の、いまから見れば小さな町だったようです。しかし、「明治」という新しい時代の風を受けて日本の文化を革新する、という壮大な目標を掲げていた子規にとって、松山の街は全宇宙にも匹敵する「大きな存在」であったようです。

 

以前にも書きましたが、正岡子規は伊予松山藩の藩士の子に生まれ、長じて松山中学、東京大学と進み、のち新聞「日本」の文化欄を担当して、自作の短歌・俳句とその評論を発表し、「近代文学としての短歌・俳句」を作り上げていきました。

 

明治維新のとき、松山藩は幕府方、いわゆる「賊軍」とされ、「官軍」の土佐藩（いまの高知県）に進駐されたのです。松山士族はわずかの支度金で武士の身分を剥奪され、平民として暮らすことになってしまいました。いわば大リストラにあってしまったのです。そんな空気の中、幼少のころの子規は、嫡男（あととり）として厳格に育てられ、なんと十歳ごろまで「ちょんまげ」を結わされていたそうです。

正岡家はお馬廻り番という、中級の武家でしたが、子規の父、常尚は早逝し、叔父の儒学者・大原観山の薫陶を受けたようです。彼にとって、傾いた家運を再び盛り返すには学問に打ち込むしかなかったのです。そして猛勉強の甲斐あって、できたばかりの東京大学予備門（いまの教養学部）に進学。当時日本には、「大学」と名のつくものは「東大」ただひとつしかなかったのですから、これはとてつもないことだったのです。

そのころの同級生はというと、夏目漱石（1867～1916）、山田美妙（1868～1910）、尾崎紅葉（1868～1903）などがいたようです。すでにこのころから、学友たちと短歌・俳句の会を盛んに開いています。

そんな子規の、松山時代からの無二の親友が同時期に東大に入った秋山真之（1868～1918）でした。かれもまた、松山士族の期待を一身に背負って、青雲の志を抱いて故郷・松山を後にした一人だったのです。幼名を淳五郎といい、子規とは「じゅんさん」「のぼさん（升・のぼる）」と呼び合っていたようです。

ケンカが異常に強く、城下の子供たちの大将的存在だったようです。その一方でいわゆる「ヤマ勘」の名人で、東大入試を含め、すべての試験を「一夜漬け」でパスしたというものすごい逸話があります。

真之には9歳年上の兄・好古（1859～1930）がいました。秋山家もまた、没落士族だったため、好古は「学費が要らない」というだけの理由で、はじめ師範学校（いまの教育大学）に、のち陸軍士官学校に進学し、成績優秀だったため出来立ての陸軍大学一期生となり、そこでもまた「就学期間が短い」というだけの理由で「騎兵科」に進むのです。故郷・松山に仕送りをするため、少しでも早く出世したいという気持ちが強かったのでしょう。

当時の好古の生活を物語るエピソードですが、上京した真之が兄の下宿を訪ねたところ、四畳半に古カバンがひとつ、後は何にもなし。ご飯もお茶碗ひとつをまわして使うほどだったそうです。そうして学費を出してくれたのかと真之は涙したそうです。

兄の援助を受けて学生生活を送る真之はしかし、次第に自分はこれでいいのかと悩み始めます。

そしてついに決心して大学を辞め、東京・築地にあった海軍兵学校に進むのです。

同じころ、当時「不治の病」とされていた結核に冒され始めていた子規は、自らの文学の完成を目指して東大を退学し、新聞「日本」の記者となります。当時の「東京大学」というのは、今とは比較にならないほどの「超エリート養成機関」だったのです。

 

現に子規の進んだ「文学部国文科」は、同学年生が子規のほか数名だったというから、もし無事に卒業さえしていれば即、高級官僚のイスが約束されていたでしょう。

子規や真之を動かしたものは何だったのでしょう。それは「時代」のうねり、とでもいうか、当時の日本が抱えていたさまざまな問題と無縁ではなかったのです。子規にとっては明治維新後、堰を切ったようになだれ込んできた欧米の文化に対して、日本語を軸とする日本の文化をいかにして守り抜いていくか、という課題がありました。いわゆる「鹿鳴館時代」の極端な洋風礼賛の中、いっそ公用語を英語にしてしまえ、と発言した閣僚さえいたといいます。それではこの国が千数百年間築きあげてきた文化はなんだったのか、という問題です。

また、真之においてはいわゆる「帝国主義時代」の只中に開国した明治日本は、南下政策をとりつづける帝政ロシアと、いづれぶつからざるを得ない。いや、飲み込まれるかもしれないという危機感がそうさせたのだと思います。

こうして、「明治の青春たち」はそれぞれの道を歩み始めたのでした。

（以下、次稿）

 

【中西保志のヴォーカル塾・第１７弾！】                                 　2008.4.17

 

ずいぶんと、久しぶりですが、こちらのほうもぼちぼちと再開してまいります。

 

さて、今回は「バラード」とは何か？というお題でございます。

手元の国語辞典によると、

 

【バラード　（名詞）　[仏］　ｂａｌｌａｄｅ】

(1)舞踊、音楽をともなった古来の小叙事詩。

(2)[音楽用語］　物語ふうの内容をあらわした自由形式の曲。物語曲＝バラッド　[英］ballad

 

という記述になっています。

う～ん、（２）のほうの解釈は現在の「バラード」に近いけど、（１）とどう関係するんだろう。それによく、「○○のバラード」とか「××のバラッド」っていうけど、「バラード」という場合と、「バラッド」という場合には何か違いがあるのかな？

 

実は厳密にはこの二つは違うものらしいんです。

「バラード　ｂａｌｌａｄｅ」とはフランス語で、「詩」の形式を表す言葉だそうです。中世フランス（14～15世紀　・　イギリスと百年戦争をやってたころですね）において、音楽や踊りにのせて決まったスタイルの詩を朗読していたようなんですね。たいていは3連（ブロック）ないしは5連からなり、各連の最終行には韻が踏まれ、また最終連においてはたいてい貴公子への呼びかけが含まれていたそうです。ま、当時の貴族階級の遊び、というかたしなみのひとつだったんでしょう。

これが19世紀になってイギリスの画家で詩人のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ（1828－1882）らによって再評価されることになったのだそうです。

 

いっぽう「バラッド　ｂａｌｌａｄ」のほうは英語で、意味は「韻を踏んだ歴史物語」であり、武勇伝やロマンス・社会諷刺・政治をテーマとして語り部が音楽にのせて語るスタイルだったようで、その内容は、ほとんど最後は破局が訪れる、というアン・ハッピーエンドな内容だったようです。わが国で言えば琵琶法師が語る「平家物語　～祇園精舎の鐘の声ぇ、諸行無常の響きありぃ～」みたいなものだったのではないかと思います。

そういえば「演歌」というのも、もともとは「演説歌」。明治・大正時代、政治批判や社会風刺を弁士がバイオリンなどにのせて語っていたのが、浪曲や民謡の影響を受けて次第に大衆音楽の1ジャンルになっていったものですから、成り立ちがなんとなく似ていますね。こちらのほうが「バラード」よりずっと大衆的な感じがします。

 

さて、19世紀の「バラード」の復興に刺激を受けて、音楽の世界にも変化が起こります。「ピアノの詩人」として有名なショパン （1809－1849）によってはじめて「バラード（譚詩曲）」として器楽曲の名称（またはジャンル名）に転用されました。

ところがショパンの「バラード」は古い歴史物語を詠んだ詩に基づいていることが多く、どうやらショパン先生、意識して「バラード」と「バラッド」を一緒にしちゃったようなんですね。

「ま、英語もフランス語もたいして違わんだろ。どうせオレ、ポーランド人だしぃ～」なーんて考えたのかどうか・・・。

ともあれショパンの「バラード」は絶賛され、以後、リスト（1811－1886）、ブラームス（1833－1897）、チャイコフスキー（1840－1893）らが次々と「バラード」の名曲を世に送り出していったのでした。

歌曲の分野でも、、ゲーテ（1749－1832）らの文豪が生み出した文学的バラッドに曲づけされたシューベルト（1797－1828）らによる「魔王」、クララ・シューマン（1819－1896）による「ローレライ」などは有名です。

 

時は流れて1950～60年代、いわゆる「ロック音楽」が世界を席巻した時代において、速いテンポの曲に対してミディアム、またはスローテンポで物語やロマンス・社会風刺を歌い上げるスタイルを「ロック・バラード（バラッド）」と呼ぶようになったのです。欧米のミュージシャンはいわゆる「クラシック音楽」の影響を強く受けているため、そのスタイルに習ったのでしょう。日本のポップス音楽で普通に「バラード」と呼ばれている音楽はこの流れを汲んでいるといえるでしょう。

 

歌い手として「バラード」といわれる曲を歌うとき、以上のような歴史をかみしめることもまた重要なのではないかと思います。

 

最後に、本稿を書くために「英和辞典」を調べていて、面白いことを発見しました。

 

歌謡 【かよう】 (名詞)  ballad, song

演歌 【えんか】 (名詞)  modern Japanese ballad

義太夫 【ぎだゆう】 (名詞)  gidayuu (form of ballad drama)

小唄 【こうた】 (名詞)  ballad

 

な～んだ。みんな「バラード」じゃないか。

 

【さくらさく】2008.3.29

 

桜が咲いております。

 

今年は遅くも早くもなく、まさにドンピシャリのタイミングで咲いております。

 

何度もここに書いているように、僕は「春」という季節はキライなのです。

なんだか騒々しく、ほこりっぽく、落ち着かない、イヤ～な時期なのですが、桜だけは大好きなのです。

桜の木、というのは普段街で見ても誰も気に留めない、とっても地味な木なのですが、今だけは違います。一年間の鬱憤を晴らすかのように見るものの心を奪うかのように咲き誇ります。

そして、わずか一週間ほどで散り始め、もとの「地味な木」にもどるでのす。

 

　　さまざまの　事おもひ出す　桜哉 　（松尾芭蕉）

 

一年一度のこの時期、約束どおりにめぐってくる桜の花の下で、今年は何を思い出すでしょうか。

 

ま、そういうことで皆さん、ひとつパァーッといきましょう！

 

【アーサー・Ｃ・クラーク氏に捧ぐ】                                                 2008.3.21

 

2008年3月19日、偉大なＳＦ作家、サー・アーサー・チャールズ・クラーク氏がスリランカ

で死去したとのニュースが世界を駆け巡った。

 

1917年、イギリス生まれ。第二次大戦のとき、空軍でレーダーの研究に携わり、その

後衛星通信の構想を論文として発表。

1946年、『抜け穴』および『太陽系最後の日』で作家デビュー。

1953年、『幼年期の終り』を発表。ＳＦ作家としての地位を不動のものとする。

1956年、スリランカに移住。

1968年、映画『2001年宇宙の旅』公開。

1987年、アーサー・C・クラーク賞が発足。

1998年、エリザベス女王より「ナイト」の称号を授与される。

2008年3月19日、心肺機能不全のため90歳で死去。

 

その作風は豊富な科学的知識に裏打ちされた近未来を舞台にしたリアルなハードSFをベースに、仏教思想に共鳴したともいわれる「人類の宇宙的進化」を壮大に描くテーマ性に特色がある。晩年には「生きている間に宇宙人のいるという確かな痕跡を見たかった」と話していたそうである。

スタンリー・キューブリック（1928 - 1999）監督の映画『2001年宇宙の旅』において、

キューブリックとともに脚本および科学的考証のアドバイザーを務め、小説「2001年宇宙の旅」として発表。

 

僕はこの作品を公開から10年後、1978年大阪で見ました。当時、ジョージ・ルーカス

監督の映画「スター・ウォーズ」やスティーブン・スピルバーグ監督の「未知との遭遇」が公開され、ＳＦ映画の大ブームが巻き起こっていたのですが、それらの作品の先駆的な名作として10年ぶりの全国ロードショーが行われたのです。

 

物語は太古の昔、人類がまだ猿と見分けがつかなかったころから始まります。

樹の上から地上に降り、二足歩行をはじめたばかりの人類は猛獣に襲われ、飢えに苦しむ悲惨な生活を余儀なくされていました。そこに突如、モノリス（黒い石版）が現れ、「道具を使う」ことを教えられるのです。

はじめは動物の骨のような単純なものから、やがては宇宙ロケットのような複雑なも

のまで、人類は次々と「道具」によって暮らしを変えていき、ついには宇宙に飛び出していきます。2001年、月面で発見された第二のモノリスは探検隊が接触したとたん強力な電磁波を木星にむかって放射し始めます。木星の「何者か」に向けて宇宙船「ディスカバリー」号は地球を発進。乗組員はボーマン船長とプール副長。そして宇宙船の管理はすべて「第三の乗組員」であるスーパーコンピュータの「ＨＡＬ」にまかされていました（他の乗組員は資源節約のため木星到着まで冷凍睡眠中）。

長い航海の途中、この「ＨＡＬ」が反乱を起こします。「彼」は船外装置の故障を知

らせ、プール副長を修理作業に向かわせて、小型作業艇を遠隔操作。事故に見せかけて彼を抹殺。驚いたボーマンも船外に出たのを確認して「ディスカバリー」のエアロックを閉めてしまいます。「酸素がなければ生きていけない」そんな不完全な肉体を持ち、些細な感情で判断を誤る人類よりも、論理的に「完璧な存在」である自分のほうが「何者か」に会うにふさわしい。「ＨＡＬ」はそう判断したのでしょうか。

他の乗組員も次々と殺され（電源を切るだけ）ます。

ボーマンはエアロックを手動で開き作業艇の非常脱出装置を使って強引に船内に戻り、「ＨＡＬ」の記憶装置を切断して「殺し」ます。「喰うか喰われるか」長い殺戮の歴史の象徴でしょうか。

ボーマンの手動操縦となった「ディスカバリー」はついに木星に到着。そこには「第三のモノリス」と、それが導く「スターゲイト」が彼を待っていたのです。

 

その高度で難解なストーリー展開のゆえに1968年公開当初は不評であったといいます。しかし現在、「歴代名画ベスト10」の常連であり、「地球上のどこかで必ず上映されている映画」と呼ばれる理由は、なんといってもその抜群の視覚効果（いわゆるＳＦＸ）の見事さとクラークが担当した科学考証の完璧さによるものだと思います。（最初、この映画の美術監督にわが国の手塚治虫氏（1928－1989）がオファーされていたという話があります。実現していたらよかったのにねぇ。）

 

加うるに音楽は宇宙ＳＦでありながら全編ベルリン・フィルハーモニーによるオーケストラによって演奏されます。Ｒ・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」、Ｊ・シュトラウス世の「美しく青きドナウ」などの名曲は僕はこの映画で覚えました。

 

クラークは「この映画で描きたかったのは科学的な意味での『神』である」と語っています。

人類は「別のもの」に進化する可能性を持った存在である。ではあるが人類はその不

完全性のゆえに、発達した「道具」を持てば持つほど自滅の可能性が高くなる存在でもある。『神』は人類がある「レベル」に到達した段階で、次の目標を「置き石」のように残していった。2001年がまさに「その時期」にあたる、ということなのでしょうか。

 

現実の2001年は「911テロ」に始まり、アフガン・イラクと戦火がやむことはなく、

資源問題、地球温暖化、人口問題などなど、「クラークの2001年」とはかけ離れてきているようにも思えます。いまこそ人類の英知を結集して新しい未来を切り開いていく「時期」なのだ、とクラークは、そしてキューブリックはこの映画で40年前から訴えていたのではないでしょうか。

 

最後に、クラークが遺した「三法則」を。

 

１、高名で年配の科学者が「可能である」と言った場合、その主張はほぼ間違い

ない。また「不可能である」と言った場合には、その主張はまず間違っている。

２、可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされることまでやってみるこ

とである。

３、充分に発達した科学技術は、「魔法」と見分けが付かない。

 

【加賀の国、百万石の春の夢】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2008.2.29

 

「加賀の国」は、現在の石川県の一部の地域の旧名である。

 

「加賀」という国は古代には存在しなかった。

平安時代初期までは越前の国（現在の福井県）に属し、弘仁14年（823年）全国で

ももっとも遅く立国したという。平野部が狭く、川も少ない。北国の寒さ厳しく作物があ

まり獲れなかったことが原因といわれる。

そんな土地が中世において農民たちの努力で少しずつ開拓され、次第に豊かな土地へと変貌していったのである。他の国に比べても農民の存在感が大きい土地柄であった。

 

室町時代、この地は守護大名・富樫氏によって支配されていた。

そして15世紀の終わり、ここに「百姓ノ持チタル国」が出現する。

一向宗（浄土真宗）の宗教勢力を背景に、農民一揆と国人（地方武士）の武力によって、守護大名の支配を排除した史上類のない共和体制が、1575年織田信長によって占領されるまで約百年間続いたのである。

信長の家臣であった前田利家（1539－1599）は秀吉、家康と、刻々変化する権力構造に対して常に「多数派」の座を占めて次第にその存在感を高め、ついに前田家は２代・利長において能登・加賀・越中（富山県）の三国を治める最大の外様大名として江戸時代を迎える。この三国で獲れる米の石高の合計が105万5千石であったことから俗に「加賀百万石」と呼ばれるのである。

 

（ちなみに、「1石」とは「一人の人間が一年間に食べる米の量」のことである。人が一日に食べる米を「一食一合」として一日三合。一年365日で約1000合。だから1000合＝100升＝10斗＝「1石」なのである。）

江戸時代初期の日本全体の米の収穫高は約2000万石。このことから当時の日本の総人口はおおよそ2000万人ほどであったと推定されている。

 

つまり加賀藩は、日本の約二十分の一を養えるだけの国力を持っていたことになる。現在に当てはめると人口600万人規模の巨大自治体に相当するだろう。

いま、石川県の人口は約117万人（2008年1月1日現在）。カバーする面積が違うとはいえ、当時の加賀藩の隆盛が偲ばれるというものである。

そして泰平の江戸時代、戦争に出費することもなく、いやむしろ徳川幕府に対して反抗する気がないことをあらわすために「武」をすて「文」を、すなわち文化・芸術にその国力を注ぐ結果となり、江戸時代を通じて北陸の地に文化の花を咲かせたのである。

３代・常長は加賀藩文化を大成させた英主であったが、江戸においては常に鼻毛を伸ばしキンキラキンの着物で「志村風」のバカ殿を装い、幕府の目をそらしていたという。殿様も楽ではない。

その甲斐あって（？）輪島塗、九谷焼、山中塗、金沢箔、加賀友禅などの伝統工芸から、茶道、華道、

香道などの様式文化、兼六園などの庭園美術。さらには能・狂言・謡などの舞台芸術にいたるまで、日本文化の一大成果として今日もなおゆるぎない地位を占めているといえる。

 

東京を空襲で追われ一時金沢に疎開した経験を持つという、故・岩城宏之氏が初代音楽監督を務めた「オーケストラアンサンブル金沢（ＯＥＫ）」は以上述べてきたかの地の文化的伝統の延長線上に存在するといってよい。人種、国籍を問わず、優秀な演奏者を世界中から募り、精度の高いアンサンブル、特にストリングスの質感には定評があるそうである。

 

「そうである」なんていってるのはもちろん、僕にオーケストラ音楽の教養がないからですが、いやー本当に楽しかったですよ、オケを背負って歌うのって。

「バーン」と盛り上がるとこう、なんかまるで空を飛べそうな感じになるもんね。

指揮・渡辺俊幸氏。

1970年代、ポップスグループ「赤い鳥」のドラマーとして活躍。

さだまさし氏をはじめ、多くのポップスの作・編曲を手がけ、ＮＨＫ大河ドラマ「利家とまつ」の音楽を作曲指揮されています。（オーケストラアンサンブル金沢が演奏）気さくで誠実なジェントルマンでありました。

 

2月3日、石川県立音楽堂 。満員のお客様の前で気持ちよく歌うことができました。

 

またやりたいなぁ。

 

【お初・徳兵衛　恋の街】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2008.2.7

 

ＪＲ大阪駅・阪急梅田駅から程近く、曽根崎の地に「お初天神通り」は、ある。

 

　　　　

　

江戸中期、このあたりは草深い人気（ひとけ）のない鬱蒼とした森であった。

中にぽつんとその社（やしろ）は建っていた。「露（つゆ）天神」という。

かの菅原道真（845～903）が藤原氏との政争に敗れ太宰府へ左遷される途中、ここで都を偲んで涙を流した故事からそう呼ばれているそうな。

 

元禄16年（1703年）4月7日早朝、その森の中で、大阪堂島新地「天満屋」の女郎　はつ（21歳）と内本町醤油商「平野屋」の手代である　徳兵衛（25歳）が情死するという事件が起こっている。

 

当時、京にいた浄瑠璃作者の近松門左衛門（1653－1725）はこの事件を聞くや、鳥羽（京都の南）から大阪行きの船に乗り、大阪につくまでの数時間で見事な作品を書き上げたという。今に伝わる歌舞伎・人形浄瑠璃の名作「曽根崎心中」がそれである。

 

あらすじをあえて現代風（一部脚色あり）に紹介すると、北新地のクラブ「１０－ＭＡ」で働くホステス、初世（２１）には将来を約束した男性がいた。

なじみのお客の徳夫（のりお・２５）、中堅商社「平野恒産」の営業第三課・第一係長である。若くして管理職のポストについているのは本人の実力もあるが創業者の遠縁に当たるという事情にもよる。誠実でまじめ一方、人望も厚く、上司からも信頼されている。接待で何度か店に通ううちに、二人は深く愛し合う関係になっていった。

しかし初世には、病弱だった母（故人）の治療代として店に多額のバンス（前渡し金）があり、ホステスをやめることができない。事情を打ち明けたところ徳夫は「今すぐは無理だが、いづれ課長に昇進するタイミングで」と借金の清算と結婚を約束してくれた。

そんなある日、専務に呼び出された徳夫は「娘の入り婿になってほしい。将来は取締役に」と話を持ちかけられる。しかし、無理やり引っ張り出された見合いの席で徳夫はきっぱりと「自分には約束した相手がいる」と告げて去る。

 

その日から社内における彼の存在は微妙なものになっていく。得意先との商談は何故か次々とキャンセルされ、職場で彼に向けられる視線は次第に棘（とげ）を含んだものに変わる。ついには任されていた大きな取引の担当を解任されてしまう。

そして人事異動でまったく未経験の証券部門を担当させられることになる。

しかし一本気な徳夫はここでも何とか実績を作って専務を見返そうとがんばる。

そのころ、学生時代サッカー部の同輩で大手証券会社に勤める平次（ひらつぐ）に街で偶然出会う。いまの境遇を相談すると平次は協力を約束してくれ、「資金運用はまかせろ」と銘柄をアドバイスしてくれた。

実は平次自身が大きな運用損を抱えており、暴落寸前の銘柄を徳夫に押し付けて自らは即座に退社し行方をくらましてしまう。案の定株は大暴落、「平野恒産」は巨額の損失をこうむる。

すべてを知った徳夫は呆然と立ち尽くすほかはなかった。

 

最近、徳夫の様子がおかしいことを感じ取った初世は、男の心変わりかと彼を責めるが、真実を知り、この世では幸せになれない二人の運命を悟る。

そして二人は深夜、大阪の街をあてどもなく彷徨（さまよ）い、知らず知らずに曽根崎の「露天神」へと向かうのであった。

（登場する個人名、団体名はフィクションであり、現実のいかなる個人、団体とも無関係です）

 

というような、今でも「火サス」か「土スペ」に出てきそうなストーリーである。「人間の営み」というものはいつの時代もそう変化するものではないということであろうか。

 

これが人形浄瑠璃として竹本座にかけられるや、たちまち大入りの大人気となり、経営不振に陥っていた竹本座は、これで一挙に借財を返して立ち直ったといわれている。

これ以降、このような作品を「世話物」と呼ぶようになる。

それまでの人形浄瑠璃は、お家騒動とか仇討ち物などの武士を主題にした「時代浄瑠璃」ばかりで、いわゆる「人形劇」の域を出ないものであった。ところが「世話物」はつい最近の、しかも身近な事件を題材としたシンプルな内容に恋愛、友情とその裏切り、出世と人情、本音と建前という今日でも十分通用するリアルで説得力のあるテーマを絡めた「新ジャンル」として大阪の庶民に大歓迎されたのである。

若い二人の「まっすぐでひたむきな恋愛観」が人々の胸を打ったことも大きな要因であろう。

 

この成功によって近松門左衛門は劇作家としての地位を不動のものとする。

「露天神」はいつしか「お初天神」と呼ばれるようになり、今日も恋の成就を願う多くの人々が「お初天神」を訪れている。

 

僕的にこの物語を眺めるならば、近松はおそらく恋愛の持つアナーキーさ、エキセントリックさを「心中」という極端な方法でしか成就することができない時代の、あるいは社会の「窮屈さ」「居心地の悪さ」を告発したかったのではないかと思います。

上記の「徳夫」のような状況に置かれたとき、果たして自分ならばどうするか。現実と妥協し、恋を捨てるのか。あるいは恋を選んで現実を捨てるのか。いずれにせよ「本物の恋」は必ずしもハッピーエンドとは限らない。

いや、むしろ自らをも滅ぼしかねない「毒」を隠しているものなのかもしれない。

それでも人は恋にあこがれ、「お初・徳兵衛」にあこがれる。この「どうしようもなさ」こそ「人間」なのだ、と近松は言いたかったのではないかと思います。

300年前に生きた「人間たち」の息吹が聞こえてくるような名作をわれわれは受け継いでいるのです。

 

この世の名残、夜も名残、死にに行く身をたとふれば、

あだしが原の道の霜、一足づつに消えて行く、夢の夢こそあはれなれ。

あれ数ふれば暁の、七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の、

鐘の響きの聞き納め、寂滅為楽と響くなりー　　（「お初・徳兵衛　道行」より）

 

 

【京都あれこれ・その３】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2008.1.21

 

えー、今回は「その１」「その２」とはガラリ変わって、「京都の味」というテーマでお送りしたいと思います。

といっても、お茶菓子だの、懐石料理だのっていうカタクルシイやつじゃなくて、いたってザッカケない庶民の、というか「学生の」味なんですが。

 

まず、第一に取り上げたいのはズバリ！「ラーメン」です。

僕は二十歳台の半ばごろ東京に出てきたのですが、引っ越して間もないころ東京の街

で「京風ラーメン」という看板を見つけ、懐かしさから思わず飛び込んだことがありました。

と・こ・ろ・お・が！出てきたラーメンは僕の知ってる「京都のラーメン」とはまったくの別物だったのです。澄まし汁のように色の薄いスープに、三輪ソーメンのように細くてストレー

トな麺、のっている具もみんな薄くて薄味。まーるいお麩みたいなのまで入ってました。おまけに「ラーメンセット」を頼んだら、ライスじゃなくて「炊き込みご飯」がついてきました。

 

僕の知る限り、京都でこんなラーメン見たことない！なんじゃこりゃ？と吃驚仰天

（びっくりぎょうてん）したことがありました（味のよしあしは別ですよ）。

僕の知ってる「京都のラーメン」とは例えば、

 

北白川の「Ｔ」

京都駅徒歩すぐの「Ｄ」

その隣の「Ｓ」

 

といったところでしょうか。それぞれ個性は違うけれど、共通する特徴は「ギットギト」であるという点です。

とくに北白川の「Ｔ」は、乳白色のスープが「ゲル状」になりかけてると錯覚するほど濃厚で、「通」はさらにそこにニンニクやら特性の「タレ」やらをぶち込んで正体不明の「底なし沼」みたいになってるところに、腰の強い太麺がはいり、その上には厚さ８ミリはあろうかという「焼き豚」がドンブリ一面を覆いつくす、そこにお好みでオヤジがムンズとつかんだ青ネギのみじん切りをエベレストかチョモランマのように盛り上げるといった、まさに「荒ぶる男のラーメン」なのであります。

 

このお店、最近では東京でも見かけるようになってきているのですが、どうもちがうんだな

ぁ～。やっぱり「北白川」じゃなけりゃあ。あの情け容赦のない「ギットギト感」が出てないような気がするんです。同じ京都市内にも数店舗あるんですが、やっぱり「北白川」じゃないとなぁ。

すぐそばを、哲学者・西田幾多郎（１８７０～１９４５）が思索しながら歩いたとい

う「哲学の小径（こみち）」がはしり、足利義政（１４４９～１４７３）が崩れ行く足利幕府を省みず享楽にふけったという慈照寺・銀閣にも程近い、というまことに結構な場所ですので、是非一度訪れて顔を油でテカテカにしてきてください。

 

続いては「餃子」です。

餃子の「Ｏ」といえばいまや全国どこにでもあるチェーン店ですが、京都が発祥の地

です。

僕が学生のころは正門の前でアルバイトの人がセッセと「餃子のタダ券」を配ってま

した。（今もやってるのかなぁ。）それが「Ｏ」だけで京都に何十店舗とあるために、毎日通学してると見る見るうちに数十種類の「タダ券」がたまってしまうのです。

ある日、「これ全部、餃子と交換してみたろ」という、ヒマなことを考えた男がいて、

仲間数人と数日かけて京都中の「Ｏ」の餃子を交換しまくるというアホなことをやりました。下宿の一室に山と詰まれた餃子、ぎょうざ、また餃子。下宿中の腹ペコ学生に声をかけてみんなで「餃子を食べる会」を開催したのです。

その結果、下宿の建物全体がニンニク臭くなり、数年後とうとう建て替えることになっ

たとさ。

 

「Ｏ」のとあるチェーン店では、「学生限定で、皿洗いをすれば定食がタダ」という

ところがありました。いかにも京都らしい話ですよね。

 

最後は、「にしんそば」。

これはわからん。これだけは。日本そばにしょうゆとみりんで煮付けた（？）にしんの切り身がのってるものなんですが、どう考えても何もそんな食べ方しなくても・・・。

正確に京都のものかどうかはわからないのですが、あれだけはいまだに「謎」です。

 

「にしんそば」が好き、という方、どこがいいのか教えてくださいませ。

 

【明けましておめでとうございます】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2008.1.7

　

新年をお慶び申し上げます。

 

今年が皆様にとって健康で

幸福な一年になりますよう

お祈りいたします。

 

 

 

 

平成二十年　元旦　　　　　中西保志

 

 

 

【京都あれこれ・その２】                                                                        2007.12.21

 

上京区のとある場所に「白峯神宮（しらみねじんぐう）」がある。

元は公家の飛鳥井家（本姓は藤原氏）の邸宅であったという。それほど広い神社ではない。

この飛鳥井家、平安時代から代々蹴鞠（けまり）と和歌の家元とされてきた家柄で、「蹴鞠→サッカー」の連想から現在では「サッカーの神様」として知られている。

訪ねてみても、境内にはＪリーグの有名選手たちの奉納絵馬やサッカー漫画「キャプテン翼」の作者・高橋陽一氏の色紙などが納められていて、その前にはテニスコート半分くらいの鞠庭がある。奥の建物からは浄瑠璃をうなる声が聞こえてくる。

おそらく愛好家の人があつまっての稽古中なのだろう。近所の人々の集会所的な使われ方もしているようだ。明るく開放的な感じの都会の神社である。

 

ところがこの神社、もうひとつ、実に重要な役目を担っている。「日本最大の怨霊」を祭っているのである。その名は崇徳上皇（すとくじょうこう・１１１９～１１６４）。「崇徳院」とも呼ばれる。

「百人一首」の中でも有名な一首、

 

瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ

 

の作者とされている、平安後期の天皇、上皇である。

 

当時は天皇家による直接政治、いわゆる「院政」の最盛期であった。

「院政」を簡単に説明すれば、「日本国株式会社の（社長）である天皇」の座を退いた、「（会長もしくは相談役）である上皇」が、律令や官僚機構にしばられず自由に（ときに勝手気ままに）政治を行うことである。

当時の天皇は実は大変多忙なのである。朝から晩まで儀式が続く。一年３６５日、「国事行為」のスケジュールがびっしりである。いわば日本全体の「大神主」なのである。儀式の合間に歌を詠む。これも重要な職務なのである。当時の人々は「言霊（ことだま）」を信じていたから、天皇が「幸あれ」と詠めば「幸せになる」のである。とても政治の実務などやっているどころではない。そのため実際の政治は摂政・関白任せとなり、結果的に藤原氏の天下となってしまった過去を反省し、早めに「社長」を退き、身軽になって「元・社長」の権威（天皇の父、祖父であることが多い）で政治を行い、天皇家に権力を取り戻そうとしたわけである。

 

このシステム、良いように見えて、大きな「問題点」があった。「上皇」は必ずしも一人ではない、のである。天皇を退いた「元・天皇」が何人もいた場合、実際に政治を行えるのは「一人だけ」である。これを「治天の君」という。それ以外の「上皇」は結局「タダの人」になってしまう。つまり権力闘争の種を含んでいるのである。

崇徳は幼少のころ父・鳥羽上皇の思惑から天皇に即位し、成人に達するや異母弟の近衛天皇に位を譲らされ、近衛が若死にすると同じく異母弟の後白河天皇となる。「治天の君」の座（つまり経営権）は依然として父・鳥羽が握って放さない。要するに鳥羽にとって天皇は「ものごころがつかない」ほうが良いわけである。

一説には崇徳は鳥羽の祖父・白河上皇が愛し身籠らせた女性を、孫の鳥羽に押し付けた結果生まれたといわれており、鳥羽はひそかに崇徳のことを「叔父子（おじご）」と呼んで憎んでいた、といわれている。このままでは「タダの人」で終わってしまいそうだ。

 

ここに至って、崇徳上皇はクーデターを計画、同じく現状に不満を持つ藤原頼長（１１２０～１１５６）らとともに決起するも敢え無く失敗。(保元の乱）崇徳上皇は首謀者として讃岐の国（香川県）に流され、幽閉生活を余儀なくされる。ここで彼は贖罪（つぐない）のしるしにと「五部大乗経」を写経し、朝廷に献じようとするが、「呪いがかかっているのではないか」と疑われ、つき返されてしまう。

 

「五部大乗経」、いまでいえば「ジャポニカ百科事典」全巻くらいの長さです。しかもこれを写経

した者は「無限の力」を持つという言い伝えがあり、崇徳はこれを何年もかけて完成させたにもかかわらず、です。怒り狂った彼は以後、食を断ち、髪や爪は伸ばし放題、幽鬼のような姿になっていきます。そして忌まわの際に自らの舌を噛み切ってその血で経文に「呪いの言葉」を書き付けて死に果てたということです。

 

「私は日本の大魔王となって、君（天皇）を民となし、民（武士）を君とする世の中にしてやる」と。

 

源頼朝によって鎌倉幕府が開かれ、後鳥羽上皇が「承久の乱」で幕府に敗れて隠岐島へ流されるのはそれから数十年後のことです。崇徳の予言どおり「武士の世」が始まったというわけです。

 

明治維新のとき、明治天皇が最初に公式に行ったことは、それまで讃岐の白峰に葬られていた崇徳上皇の御霊（みたま）を平安京にお招きすることであったといいます。

「日本最大の怨霊」の怒りを宥め、「武士の世」から新しい時代を迎える日本を見守る、「良い神様」になっていただこうとしたのです。

 

そして現在、そして現在、「白峯神宮」には平和でのどかな日常が流れています。「日本の呪い手」を「日本の守り神」に変えてしまう。これもまた京都のもつ不思議な「力」の源なのかもしれません。

 

ｐｓ：本年最後の文章になりました。今年一年読んで下さりどうもありがとうございました。来年もがんばります。皆さん、良いお年を！

 

 

【京都あれこれ・その１】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.12.8

 

今回の関西キャンペーンで、京都を訪れた。

 

「訪れた」って、２０代はじめのころは毎日のように「訪れ」ていたのだが・・・

今回は私的なものを含めても３年ぶりの訪問だった。

 

相変わらず、冬の京都はめっちゃ寒い。

前日までいた大阪、翌日行った名古屋と比べると、確実に３～４度は違う感じである。

大阪・名古屋は海沿いの都市である。海側から常に暖気が送られている。

京都は盆地である。四方を山に囲まれ、海からも遠い。

冬はシベリアからの猛烈な寒気が日本海側で雪を降らせ、湿り気を失った「空っ風」の状態で吹き込んでくる。

反対に夏は「フェーン現象」で、これまたカラカラの暖気が南から押し寄せる。

「めっちゃ暑い」のである。

京都の冬に東北人も震え上がり、夏の暑さには九州人もギブアップするのである。

 

何でこんなとこに１０００年以上も続く都ができたのだろう。

 

京都の町は西暦７９４年、桓武天皇が、十年続いた長岡京から遷都する形で始まった「平安京」が元になっている。東西4.5km、南北5.2km。中国の長安城をモデルに作られたといわれるが、城壁はない。中国の場合、異民族の侵入を防ぐために都は高い城壁に覆われているのだが、日本には「異民族」などいなかったために作る必要がなかったのだろう。

 

その代わり、飛鳥・奈良時代には実に頻繁に「遷都」を繰り返している。長岡京の前の「平城京」が７１０年から約８０年。その前の「藤原京」「大津京」「難波京」など、天皇一代で何度も遷都した例さえある。当時、日本の人口はせいぜい数百万人くらい、さぞや大変な負担であったことだろう。

 

それが、「平安京」を境にまったく動かなくなる。実は「天皇の玉座」（高御座・たかみくら）はいまも京都御所にある。つまり伝統的な解釈では日本国の首都はいまだに「平安京」に存在するのであり、いま陛下はちょっと武蔵の国（東京）にお出かけになっておられる、という考え方も成り立つわけである。

 

それにしても、何でこんなとこに１０００年以上も続く都ができたのだろう。

 

一説には古代の王たちは「怨霊の祟り」を恐れたのだといわれている。

長岡京を建設中に建設責任者の藤原種継（ふじわらのたねつぐ）が何者かによって暗殺され、容疑者として皇太弟・早良親王（さわらしんのう）が淡路に流罪となり、憤死した「早良の祟り」によって天変地異がおこり、事件の関係者が次々と倒れるなどの怪事があり、桓武天皇はこれを恐れて長岡京を廃都とし、｢山背（やましろ）」の国と呼ばれていた京都盆地を「山城」と改名し、霊的に完璧な防御を施した都を作り、ここに遷都した、というのである。

 

「霊的な防御」とはいわゆる「風水」にもとづく都市計画をいう。古代中国において「四神相応」といって、首都が備えるべき４つの地形を備えた土地を選ぶことである。

 

北に「玄武（げんぶ）」、亀である。これは山を示す。「北山」という地名があるごとく、京都の北は山である。

 

南に「朱雀（すざく）」、鳥である。これは「大きな水」を示す。今は失われたが明治ごろまで京都の南には「巨椋池（おぐらいけ）」という湖があった。

 

西に｢白虎」、これは大きな道を示す。出雲街道などの大道が古代からあった。

 

東に「青龍」、これは川を示す。鴨川が流れている。

 

また、「魔が入りこむ方角」、鬼門といわれる東北には比叡山・延暦寺を置いた。

 

このほか、ありとあらゆる「吉相」を備えた都として「平安京」はできているのである。「異民族」と

いう物理的な脅威よりも、「怨霊」という目に見えない「敵」から守られた都だからこそ、

１０００年の風雪に耐えて今に伝わる「世界の京都」が出来上がっている、というわけ。

 

寒いくらいなんだ！暑いくらいなんだってんだ！というわけね。

 

でもこれ、まんざらデタラメでもないような気がするんですよ。僕は奈良で少年時代を過ごし、大学生になって京都に来たとき、似たような観光地を想像していたのですが、まったく雰囲気が違いました。

なんというか「現役感」が違う、というか、京都の街は今も生きて動いている感じがするのです。誤解のないように。

べつに奈良が「死んでる」というのではなく、あそこは街ぐるみ「博物館」化していて、昔のまま保存することが使命になってしまっている感じがします。もちろん京都にもその感じは

ありますが、ずっと自由度が高い感じがするということです。今も新しい何かを生み出しそうな雰囲気を持っているということです。

 

１２００年前に桓武天皇が感じた「何か」がいまも京都の街を護っている、ということなのでしょうか。

 

（次回に続く）

 

【中日ドラゴンズ日本一パレードに思う】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.11.20


急に寒くなってきましたね。今年は夏が暑かったせいか、いっそう寒さが身にしみます。皆さん、くれぐれも風邪など召されませんように。

 

ところで先日キャンペーンで名古屋にいたとき、「中日ドラゴンズ日本一記念パレード」に遭遇しました。報道によれば、パレードは名古屋駅前を午前中に出発し、落合博満監督や選手など７０人を乗せたオープンカー２台と大型装飾パレードカー４台が目抜き通りを行進。沿道には約５５万人のファン（主催者側発表）が詰め掛けたということです。

 

僕はその2日前に名古屋入りしたのですが、53年ぶりの日本一だということで、街じゅうさぞや盛り上がって、お祭り騒ぎ状態か思ったんですが、日本シリーズから日にちがたっているせいなのか、いつもより人が多いな、という程度でそれほどの変化は感じられず、またパレード当日も人が集まっている繁華街の中心エリア以外はさほどいつもと変わりがなく、１９８５年の「阪神優勝、日本一」のときの、異常なまでの興奮（何しろ、本拠地でもなんでもない京都の三条河原町に深夜に人が勝手に数百人も集まって路上で胴上げをやってたんですから）を経験している者としては少々物足りない、というかあのときがハチャメチャすぎたというか、今回の名古屋の街は実に整然としたものでした。このあたり「堅実でやや保守的」と評されることが多い名古屋人の性格的なものなのでしょうか、とにかく中日ファンの「大人の対応」に感心しました。

 

そういえば日本一を決めたあの試合、日本シリーズ第５戦、北海道日本ハムファイターズを相手に３勝１敗と王手の状態で先発・山井大介投手が８回までパーフェクトで来たのを落合監督が迷うことなく９回に守護神・岩瀬仁紀投手にチェンジしたあの采配にも中日の「大人」が感じられるような気がします。

記録を調べてみるとアメリカ・メジャーリーグでさえただ一度、１９５６年のワールドシリーズニューヨーク・ヤンキースのドン・ラーセン投手が第５戦に先発し、ブルックリン・ドジャースを２−０のパーフェクトに抑えた記録があるのみで、しかもこのシリーズは第７戦まであったため、この試合が最後ではなかったことを考えると、今回のケースはアメリカにもない大記録がかかった瞬間であっただけに落合監督の判断力は人間離れしてるというかものすごいなぁ、と思いました。

結果的に継投でパーフェクトが達成されたから良かったようなものの、もし岩瀬投手が打たれて逆転負けにでもなっていたら、監督は日本中から袋叩きにあっていたことでしょう。

 

試合中、山井投手が自身で交代を訴えていたこと、点差がわずか１点だったことや、この試合にもし負けたら第６戦からはアウェイの札幌ドームに持ち越されることを嫌ったという事情はわかるとしても、もし自分が監督だったらあそこまで冷静に客観的に判断できるか、と思ったらとっても無理なような気がします。あの采配に関しては現在も賛否両論、毀誉褒貶が飛び交っているようですが、あくまでも「オレ流」を貫いた落合監督の「大人度数」に僕は脱帽です。

また、後を託された岩瀬投手にかかったプレッシャーの重さ（何しろ、ヒットはおろかフォアボールすら許されない空気でしたからね）たるやどんなにすごいものだったか、それも含めてすごいドラマだったなぁ、と今も思います。野球というスポーツの面白さ、すごさを改めて感じた試合でした。

その後、アジアシリーズでも堅実な采配でチームを指揮し、三年連続で日本の「アジア一」を守った手腕はこのとき見せた冷静沈着かつ決断力に富んだ「大人度数」に支えられているのだと思いました。

もうひとつ嬉しかったことは昨年オフにオリックスから放出され、中日に育成選手として受け入れられたかつての近鉄バファローズ（ついに一度も日本一を経験することなく消滅した）の主砲、中村紀洋選手が見事ＭＶＰを獲得したことでした。このあたりも、過去は問わない、実力ある人は正当に評価するという良い意味での「合理主義」が働いていればこその結果であったろうと思われ、元バファローズのファンとしてはせめても、というかよかったなぁと思える結末だったと思います。

 

僕は中日ファンというわけじゃないけど、ファンの皆さん本当におめでとうございました・・・

 

・・・でもさぁ、やっぱり「山井のパーフェクト」、見たかったなぁ。

【亀田家問題に思う】                                                            2007.10.26

 

中西保志です。

最近、「時事問題」についてはあまり取り上げなかったんですが、どうにも気になっているので今回はあえて考えてみたいと思います。

 

「亀田家問題」とは言うまでもなく去る10月11日のＷＢＣ世界フライ級タイトルマッチ【亀田大毅選手（協栄ジム・亀田家次男）対チャンピオン・内藤大助選手（宮田ジム）】における、亀田サイドの暴言、反則行為およびセコンドの指示と、そこにいたるまでの長男・亀田興毅選手（元WBAライトフライ級チャンピオン）および父・史郎氏の言動、パフォーマンスに対して、大毅選手の敗北をきっかけに、世間（マスコミ）が轟々たる非難（いわゆる「亀田バッシング」）をあびせる結果になっていることをさすのですが、さてこれはそれほどの大問題なんですかねぇ。

 

まず試合ですが、僕はテレビで見ていました。

もちろん僕はボクシングのことなんかぜんぜん知りませんがそんな「ド素人」が見てもあれはミスマッチの試合だったと思います。挑戦者（亀田大毅選手）は明らかにチャンピオン（内藤大助選手）とはかなりの実力差があったように見えたし、しかもラウンドを追うごとにその差がひらいていって、終盤はむしろ「亀田、よく立ってるなあ｣と感心したほどでした。

18歳、プロ試合11戦目という経験の浅さもあり、体もまだ成長期にある若者であるだけに、33歳、苦節11年にして世界王者となったベテランには及ばなかったという試合内容であったと思います。そのまま終わっていればそれだけのことだったのに、終盤に至っての反則行為の執拗な繰り返しの結果、判定で大差で敗れたわけですが、ここでちょっと「変だなあ」と僕は思うのです。

 

たとえばサッカーの試合だったら、明らかな反則行為を2度行えば「イエローカード2枚」で退場、一度だけでも重い反則なら「レッドカード」で即退場ですよね。野球の場合はもっと厳格で、たとえ故意でなくてもピッチャーがバッターの頭の付近にスピードボールを投げた、というだけで「危険球退場」、これにもし監督が抗議して審判に対して「恫喝」とみなされる言動に及んだ場合はこれも退場です。「プロスポーツ」であるならば当然、「反則行為」に対する罰則を下す権限はレフェリー（およびジャッジ）にあるはずで、先の試合における亀田大毅選手の反則にはその場で「減点」という裁定が審判によって下されているんです。もしもそれが「軽すぎる」というんなら、そんな軽い罰則にした審判に問題があるはずで、簡単に言えばその場で「失格・退場」にしなかった（大毅選手は少なくとも同様の反則を3回繰り返していました）責任は審判（ジャッジをふくむ）に存在するはずなんです。

 

これではまるで「プロレスの審判」じゃないか、と思うんです。ご存知の方も多いと思いますが、プロレスにおいては「反則行為」は「カウント5」までオッケーだったり、セコンドが突然、相手選手に殴りかかったりするのをレフェリーが「見てみぬふり」をしたりして、試合を盛り上げる「演出」に一役買っているという面があるわけですが、これはプロレスが単なるスポーツではない「エンタテイメント」として認知されているからこそ許される世界なわけで、プロボクシングはあくまでも「プロスポーツ」として存在する以上、厳格にルールを適用すべきだと思います。僕は不勉強で、もしかしてプロボクシングには「失格・退場」という罰則が無いのかもしれませんが、もしそうならば今後を考えてルール改正に踏み切るべきだと思います。プロレスはプロレス、ボクシングはボクシングとして見たいですよね。

 

さらに言うと、亀田選手（興毅・大毅）が試合前の計量のときなどに見せる「パフォーマンス」はたとえばモハメド・アリなどがかつてやっていたものとそう変わりはありません。あくまでも対戦相手をエキサイトさせて平常心を失わせるための「心理作戦」の一環であり、彼らの出身がたまたま関西（大阪）であったために関西地方以外の人にはいわゆる「ガラの悪い」物言いに聞こえる面はあると思うし、彼らは「尊敬する相手にしか敬語は使わない」というポリシー（？）をもっているらしいので、余計にダーティなキャラクターになっているのだと思います。そういったキャラクターも含めて、「時代のヒーロー｣みたいに持ち上げて、「視聴率」や「販売部数」を稼ぐだけ稼ぎ、風向きが変わるや一転して「亀田バッシング」に奔走するスポーツマスコミには何のペナルティも課せられないのでしょうか。

 

さらにボクシング協会が下した「ペナルティ」についてですが、「一年間の選手活動禁止」というのはなんと「刑事事件」を起こした選手に対する罰則よりも重いのだそうです。亀田選手は別にお客や審判を殴ったわけじゃないのに、何でそこまで重い「罪」を背負わなければならないのか僕にはわかりません。

さらには「記者会見」して「謝罪」を要求するなんて。こういう「人民裁判」みたいなことをなぜテレビで放送するのかまったく理解できません。（大毅選手は後に個人的に内藤選手に謝罪しています）

百歩譲ってそれだけの重い罪だというならばプロらしく「罰金」にでもすればまだわかりますが・・・。

 

今回のことでチャンピオン・内藤大助選手を褒め称える報道も目にしますが、彼はいわばプロボクサーとして当然の態度で接しているまでで、「もうすんだことだから・・・」といっているのも本心からでしょう。だいたい彼がチャンピオンになった試合（7月１８日）はキー局では放送されず、紆余曲折の末｢TOKYO MX」というローカル局でやっと中継されたそうです。世界チャンピオンですよ、しかも「フライ級」の。いまになって取材が殺到するということ自体、失礼な話だと思います。

 

なぜ僕が今回こういう文章を書いたかというと、ここ数年、似たようなパターンで「時代のヒーロー」が作られてはつぶされていっているからです。「○ネオ」さんとか「○リエモン」さんとかね。彼らはいわゆる「本流」でないところから実力と特異なキャラクターで登場し、マスコミとの協力関係によってまたたく間に頭角を現し、風向きが変わったらつぶされる、という共通の「パターン」を描いています。「大人の世界」ならそれもいいでしょう。

しかし今回は十八歳という前途ある若者のこれから先のスポーツマンとしての人生がかかっている問題です。一刻も早くこんな「空騒ぎ」はやめてもらいたいと思います。

 

 

【日本語が好き！】　                                                            2007.10.15

 

もうすっかり秋ですね。

 

今回は「読書の秋」ということで、日本が世界に誇る「歌」である和歌・俳句の世界をのぞいてみましょう。といっても、とりあえず明治時代から見ていきたいと思います。

というのも、われわれが現在使っている「日本語」という言語のかなり多くの言葉が明治時代（特に中期）において成立しているからです。それまでの日本語、とくに書き言葉というのは、（それ以前が江戸時代ですからあたりまえですが）大まかに言えば「～にてござ候（そうろう）」といった形式の、現在でいえば歌舞伎や浄瑠璃で使われているような言葉しかなかったのです。

これでは近代的な概念（たとえば「哲学」や「法律」や「経済」など）を表現しにくい、というかほとんど無理でした。そこで明治の先人たちは自ら新しい言葉を、外国語から翻訳したり、まったく新たに作り出したりしたのです。また、「話し言葉」（口語）と「書き言葉」（文語）が大きく違っていたのを統一する試み（言文一致運動）もなされ、明治後期にいたってほぼ現在使われているような「日本語」になっていきます。

 

今回とりあげたいのはこのような時代において新しい「日本語」による新しい「和歌・俳句」ひいては小説文学を生み出していった人々についてです。

 

正岡子規（１８６７～１９０２）はまさに明治維新のころ生まれ、日本が近代国家として成長していく過程の時期を生きた人です。生まれは伊予松山、現在の愛媛県松山市です。幼名「升（のぼる）」。松山藩は幕府の親藩（徳川家の一門）であったために維新後は官軍である土佐藩（高知）の進駐を受け、一種の占領状態になってしまいます。代々松山藩士の家系であった子規の一家は武士の身分を剥奪され、子規は新しい時代を生き抜くために学問に没頭します。

後に上京し、できたばかりの東京大学に入学。はじめは政治家を志したようですが、断念。中退して「日本」という新聞社の記者となります。ここで文化欄を担当し、記事の傍らに自作の俳句・和歌を発表し始めます。

また、有史以来の日本の和歌・俳句を収集し、分類してその主なものを批評しています。これは大変な労作で、それまで誰もやらなかったことでした。なぜ彼はそんなことをしたかというと、おそらく急速に近代化する当時の日本の時代の勢いの中で、ほうっておけば消えてゆくかもしれない存在である和歌・俳句という日本固有の文化を後世に伝えたいという気持ちからであったと思います。かなり若いころから結核という当時においては不治の病とされた持病を持ち、亡くなるまでの数年間はほとんど寝たきりの闘病生活であったようです。それでも子規は死の直前まで筆を執り続けました。

結果として彼の仕事はその死後、高浜虚子（１８７４～１９５９）や河東碧梧桐（１８７３

～１９３７）らによって引き継がれ、近代文学としての「短歌」の成立に大きく寄与したのでした。

 

彼の短歌・俳句の特徴は、徹底した「写実主義」にあります。

彼のもっとも有名な一句、

 

　　　柿食へば　鐘が鳴るなり　法隆寺

 

などはその好例といえるでしょう。

 

評論「歌よみに与ふる書」において、彼は明快に述べています。

 

　　「近来和歌は一向に振ひ不申（もうさず）候。正直に申し候へば万葉以来＊実朝（さねとも）以来一向に振ひ不申候。」　　　＊源実朝（１１９２～１２１９）

 

　　「＊貫之（つらゆき）は下手な歌よみにて『古今集』はくだらぬ集に有之候。」　　　　　　　　

　　　

　　　　　　　　　　　　　　　＊紀貫之（８６６～９４５）

 

つまり「万葉集」のように素朴でおおらかな写実主義を愛し、「古今集」以下の王朝風に華麗に装飾された和歌をかれは批判しているわけです。これは彼自身の好みであると同時に、近代をいやおうなく意識した、彼なりの「改革宣言」であったのでしょう。先に述べたような急速な時代の波にも耐えうる強靭でシンプルな言葉によって、ギリギリまでぜい肉をそぎ落とした表現こそ彼の理想であったようです。

その作品のいくつかをご紹介します。

 

　　　瓶にさす藤の花ぶさみじかければ　たたみの上にとどかざりけり

 

　　　くれないの 二尺のびたるばらの芽の　針やわらかに 春雨の降る

 

　　　いちはつの 花咲きいでて 我目には 今年ばかりの 春ゆかんとす

　　　　　

　　　親鳥のぬくめ心地や玉子酒

　　　

　　　赤蜻蛉（あかとんぼ）筑波に雲もなかりけり

 

　　　島々に灯をともしけり春の海

 

これらの作品は今現在、われわれが見ても素直にその世界に入ってゆくことができるものであると思います。見たままをそのまま言葉にするかれの作風はいわば今日のすぐれたＪ－ＰＯＰの歌詞のように接するものに自由な解釈をゆだねているのだと思います。その作品から、何を感じるか、また、どう感じてもそれが、その人にとっての真実である、というように。

 

余談ですが、彼は日本に野球が導入された最初の頃の熱心な選手でもあり、自身の幼名である「升（のぼる）」をベースボールにひっかけて、「野球（のぼーる）」という雅号を用いたこともあるそうです。また「バッター」｢ランナー｣｢フォアボール」「ストレート」「フライボール」「ショートストップ」などの外来語を「打者」「走者」「四球」「直球」「飛球」「遊撃手」と日本語に訳したのは彼であるといわれています。（これらのことが評価され正岡子規は2002年、野球殿堂入りを果たしています）

 

彼の人生はわずか三十四年という短いものでしたが、彼が残した「日本語」は立派に現在も行き続けているのです。

その墓碑銘に曰く。

　「正岡子規又ノ名ハ虎之助又ノ名ハ升又ノ名ハ子規又ノ名ハ獺祭書屋主人又ノ名ハ竹ノ里人伊豫松山ニ生レ東京根岸ニ住ム父隼太松山藩御馬廻加番タリ卒ス母大原氏ニ養ハル日本新聞社員タリ明治三十□年□月□日没ス享年三十□月給四十圓」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（「卒ス」とは身分のある人が死亡すること）

 

見事に写実的な表現ですね。

 

【金色堂・後編】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.9.18


（続き）
では、そのように繁栄を極めていた「奥州藤原氏」は、なぜ三代で滅びたのかというと、これには有名な源義経（１１５９～１１８９）が関係しています。

 

先に述べたように平安時代の終わり（１２世紀後半）は、源氏・平家の対立に加えて東北で奥州藤原氏が繁栄するという、「三国時代」でしたが、この「均衡状態」を一気に変えたのが義経だったのです。

義経は幼名を「牛若」といい、源氏の棟梁・源義朝（１１２３～１１６０）の九男で「九郎」とも呼ばれました。父・義朝が平清盛との争い（平治の乱）に敗れ、まだ幼子だった牛若は、京の北、鞍馬山の寺に預けられ、僧侶となるように運命づけられたのを嫌って京を脱出。元服して名を義経と改め、北の都・平泉に「亡命」したのです。

このとき三代・藤原秀衡は彼を受け入れ、「源氏の御曹司」として養育しました。おそらく将来、都の勢力と争いになったときの調停役にでも育ってくれることを考えていたのでしょう。義経は東北の豊かな自然の中で立派な若武者に成長し、伊豆で平家打倒を宣言した兄・頼朝のもとに駆けつけます。頼朝の軍勢を任された義経は、それまでの常識を打ち破る天才的な戦法を次々と打ち出し「平家にあらずば人にあらず」とさえ言われた平家を、一の谷・屋島・壇ノ浦と破り続け、何とわずか１年あまりで滅亡させてしまうのです。

 

ところがその後、朝廷（後白河法皇）の陰謀によって、兄・頼朝と対立した義経は都を追われ、「第二の故郷」である平泉に逃げ込みます。秀衡はここでも義経を暖かく迎え入れ、自らの武将としました。中央が源氏・頼朝によって統一された以上、もはや決戦は避けられないと見て義経の天才的な作戦能力に期待したのです。

ところがその直後に秀衡は急死し、急きょ後を継いだ気の弱い四代目・泰衡（やすひら）は朝廷の権威と、頼朝の軍事力を恐れて義経を裏切り、高館（たかだち）にあった義経の館を急襲、義経を自害に追い込みます。「謀反人・義経」を討てば許されるとでも思ったのでしょうか。

もちろん頼朝は許す気などさらさらなく、「大将」を失って弱体化した泰衡軍を適当な口実をもうけて討ち滅ぼしてしまいます。このときの戦火で、平泉のあの大伽藍たちはそのほとんどが消失してしったといわれています。

ここに頼朝による天下統一が成し遂げられ、鎌倉幕府が、そしてはるか後「明治維新」まで続く「武士の世」が始まるのです。

 

松尾芭蕉のいう、「兵（つわもの）どもの夢」とは、このようなものだったのです。

 

前置きが長くなりましたが、以上が平泉と藤原三代の簡単な来歴です。

 

ここで特筆するべきことは「金色堂」はこの時代のまま保存されているということなのです。

僕は奈良市の出身で古い建築物は見慣れているように思われるかもしれませんが、実は平安時代以前から現在まで保存され続けている建築物というのは本当は全国に数えるほどしかないのです。
奈良でも法隆寺と正倉院の他いくつあるでしょうか。京都の多くの寺院は鎌倉・室町時代以降に建てられたものです。宇治の平等院は平安中期のものですが、やはり再建されています。

要するにすべて木造であった日本の歴史建造物は火災によってほとんど過去に消失してしまっていて、今ある建物は当時を偲ぶ姿ではあっても当時そのままではないのです。ところが「金色堂」は今日まで大切に保存されてきており、いち早く国宝に指定され、現在「世界遺産」にすら登録要請されているのです。義経だって見たに違いありません。これを見ない手はない！というわけで行ってきました。

 

が･･･････、

なんちゅうアクセスの悪さ！東北新幹線「一関」から東北本線で数駅だというのに列車の本数が異常に少ない！１時間に一本あるかないか。しかも連絡が悪い。単線で「ボタン」を押してドアを勝手に空けて乗り降りするタイプの完全なローカル列車。かりにも東北「本線」ですよ「本線」！しかも並行するバス路線もないそうです。自家用車がない人は普段どうしてるんだろう。この辺は小沢一郎さんの地元でしょ。

何とかしてくださいよー。ダメ？

 

「東北本線」ていうから東海道線とか山手線みたいなもんだと勝手に思い込んで時間割を作っちゃったもんだからたまらない。予定ではゆっくり拝観できるはずが、「平泉」発の次の列車に乗り遅れたら「前沢」まで行く手段がない！ってことは駅への行き返りを除けばたったの３０分ほどしか見る時間がない！

「今日はあくまで前沢でミニライブをやるのが目的で来てるんですからね！遅刻は絶対にダメですよ！」マネージャーの鬼のような顔が浮かびます。（実は今回だけ特別に「単独行動」にしてもらっていたので、スタッフとは現地集合になっていたのです。）

 

　

 

　

 

とにかくここまできたんだからせめて「金色堂」だけでも見たいよーというわけで、平泉駅前から出発のシャトルバスに乗車。「毛越寺」「義経堂」「弁慶堂」「平泉博物館」などを時間の都合で泣く泣くスルーして中尊寺参道入り口に到着。ここからはなだらかな坂道が続きます。参道に沿ってそこここに「薬師堂」「阿弥陀堂」「観音堂」などのお堂が点在し、小高い山全体があたかも浄土世界であるように表現されているわけです。なんて言ってる時間がもったいないほどに急ぎ足で坂道を駆け上がる駆け上がる！日ごろの「登山」がここで活きました。これじゃまるでクロスカントリーだね。途中、短く「本堂」を参拝のあと、いよいよ「金色堂」へ。

すでに述べたように風雨から守るための「覆堂」の中に「金色堂」はあります。現在はさらに全体を巨大なガラスケースでおおわれ、気温・湿度が保たれています。参拝者はその外から見ることになります。う～ん確かに怪しいばかりの輝きを放っています。内部に安置された三体の阿弥陀如来像などもすべて金ピカ。スピルバーグ監督の映画「未知との遭遇」の、ＵＦＯの内部が思い浮かびます。８００年前の人には本当に「極楽浄土」からの使いに見えたかもしれません。

大きさは予想していた以上に小さく、「亀有公園前派出所」くらいでしょうか。建築というより工芸品の部類に入るかもしれません。全体の雰囲気でいうと「仏壇」の大きいの、という感じですね。

そう、まさにこれは奥州藤原氏のお仏壇なのです。（それで内部がキンキラキンで豪華なのも理解できます）館は焼いても仏壇は残す、それが「この国のかたち」です。それゆえに戦火を免れ、今日に残されたのでしょう。

 

残念ながらここでタイムアップ。急いで下山し、いよいよ間に合わないので背に腹は変えられずタクシーで前沢へ、ミニライブの打ち合わせへと向かったのでした。なんだか駆け足過ぎて物足りない。

今度またゆっくりと来てみたいなぁ。

 

【金色堂・前編】                                                                 2007.9.4

 

どうも、中西です。

いやぁ～ホンマに暑かったですねぇ、今年の夏は。

8月16日に岐阜県多治見市、埼玉県熊谷市で記録した40.9℃は従来の日本の最高気温の記録であった1933年7月25日の山形県山形市で記録された40.8℃を74年ぶりに更新しました。とにかく今年の暑さは「ウルトラ級」でしたね。

こんな状態の日本（大阪）で、陸上大会なんかやって、選手の皆さんほんとにご苦労様でした。記録云々より、無事に終わってほんとによかったよかった。（そういえばマラソン男子でアフリカの選手が熱中症でバタバタ倒れたり棄権したりしてましたね）

 

とりあえず東京は「ひと段落」といったところですが、まだまだ暑さが続いてるところもあるのでしょうね。

 

都会の暑さは明らかに太陽光線や湿気のせいばかりではなく、ビル等の空調の廃熱が建物の間に充満しているのと、ビルの壁面に多用されているガラスに反射した光線が、ちょうどプリズムのような働きをして、余計に外気温を上昇させているのだと考えられます。また地面も大部分舗装され、熱の逃げ場がありません。おかげで各家庭でもクーラーなしではいられない状態になり、その結果さらに廃熱で外気温が上がる、という悪循環が起こっているのでしょう。僕はこの「熱」のことを「自分さえよけりゃいい熱」と呼んでいます。

 

「いっそ、いっぺんクーラーを止めてみたらどうでしょう。通りに打ち水をして、縁台に座れば風通しのいい日陰なんか案外涼しいもんですよ」な～んてことをよく聞きますが、甘い甘い。今年の暑さはそんなんじゃあとっても追いつきませんでしたよね。結局、涼しい場所に出かける（つまり避暑ですな）しか方法はないのかもしれません。

というわけで、今回は涼しい東北への旅のおはなしです。

 

先日、東北方面に仕事で行った折に平泉に立ち寄り、「国宝・金色堂」を擁する中尊寺を参拝してきました。

 

中尊寺は平安時代初期の創建といわれ、のち平安後期（十二世紀）に「藤原三代」で有名な奥州藤原氏の保護の下で伽藍（がらん・寺の建物）を拡張し、「東北の都・平泉」のまさに中心をなした寺院です。

 

東北は当時、朝廷の支配が及ばない周辺地帯として残されていたのを初代・藤原清衡（ふじわらのきよひら）が統一、以後三代・約100年にわたって治め、空前の繁栄を極めたといわれています。おりしも平安京では、打ち続く戦（いくさ）で寺院・役所は焼かれ、御所すら荒廃し、奈良の大仏もこの頃に焼き打ちされています。いわゆる「源平の争い」によって、天下は二分されたかのようですが、実はここ平泉にはこの世の楽園のような風景が繰り広げられていたのでした。つまり当時の日本は「源氏・平家・奥州藤原氏」の「三国時代」だったのです。

 

「この世の楽園」とは単なるたとえ話ではなく、当時は「末法思想」（世の終わりが近づいているという教え）に基づく「浄土信仰」（それなら死んでのち極楽浄土に行きたい）によって、生きているうちから極楽浄土の様子を常に思い浮かべることが「往生」（おうじょう・極楽への生まれ変わり）の条件だと信じられていたのでした。藤原清衡はこのような気持ちから、平泉を「この世の楽園」とするべく、どんどん伽藍を拡張し続けたのでした。さらに二代・基衡は「毛越寺（もうつうじ）」を、三代・秀衡は「無量光院」等を建立し、最盛期にはその伽藍の数、一千近くにも達したといわれています。

 

なぜこんなにも多くの寺院を建てることができたか、というと、当時の東北は空前の「ゴールドラッシュ」に沸きかえっていたからです。このあたりでは現在でも山間の小川の砂をふるいにかけると小さな砂金が取れるところがあるそうですが、この時代に大量の金鉱が発見されたのです。また東北は古くから名馬の産地としても知られ、遠く大陸とも貿易を行っていたようです。多くの建物の内装には惜しげもなく金が使われ、さらには中国（宋）から「一切経」（いっさいきょう・すべてのお経。数千巻）を取り寄せ、その代金はズバリ！「金」そのもので支払ったそうです。あまりの重さに船が沈みそうになるほどであったそうな。

 

そうした奥州藤原氏の栄耀栄華の象徴が「中尊寺・金色堂」なのです。

これは５，６メートル四方ほどの小さなお堂なのですが、驚くべきことに屋根瓦から柱・壁・床に至るまですべて金箔が押されています。

その内部は金銀はもちろん遠く中国や東南アジアから取り寄せた螺鈿（らでん）や宝玉、アフリカゾウの象牙（！）などで飾られ、極楽浄土の主催者である本尊・阿弥陀如来（あみだにょらい）と観音（かんのん）・勢至（せいし）の両菩薩、さらには仏を守護する諸天（インドの神々）を祀った須弥壇（しゅみだん）が三基置かれ、その内部に清衡・基衡・秀衡の三体のミイラが納められていました。つまり、このお堂が藤原三代のお墓でもあったわけです。金色堂自体は雨による侵食を防ぐために創建当事から全体をすっぽり別の建物でおおわれていました。これを「覆堂（おおいどう・さやどう）」といい、現在は鉄筋コンクリート造りの「新・覆堂」に覆われています。

 

江戸時代には松尾芭蕉がこの地を訪れ、「奥の細道」の中で

 

　　　五月雨（さみだれ）の　降残してや　光堂（ひかりどう）

 

と詠み、また藤原三代の栄華とその滅亡のはかなさを

 

　　　夏草や　兵（つわもの）どもが　夢の跡

 

と詠んだのはあまりにも有名です。

 

この頃の平泉のことを後にモンゴル（元）の人に伝え聞いたイタリアの商人マルコ・ポーロが「黄金の国・ジパング」とヨーロッパじゅうに触れ回り、さらに後、その「ジパング」めざしてスペインを船出したイタリア人コロンブスが偶然にアメリカ大陸を「発見」してしまったというお粗末。

 

話が長くなるので今回はここまで。（後編に続く）

 

 

【残暑お見舞い申し上げます。】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.8.15

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

皆様のおかげを持ちまして当サイトは四年目に入ることとなりました。

 

世の中はめまぐるしく激しく変わっていきますが、変わらない「やすらぎ」「癒し」の空間を目指してこれからもサイト運営に努力しいきたいと思います。

 

今後ともご支援・ご声援をよろしくお願いいたします。

 

恒久の世界平和を願って

　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　平成十九年　　八月十五日　　　　　　中西保志

 

 

 

このたびの台風４号、ならびに新潟県中越沖地震におきまして、犠牲となられた方の

ご冥福をおいのりいたしますとともに、被災されました方々の一日も早い復興をお祈り申し上げます。

 

【金峰山！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.7.23

 

中西保志です。

東京はこのところ、梅雨の影響で朝晩少し肌寒いくらいの毎日です。

皆さんのところはいかがでしょうか。

 

さて今回も元気に山登り山登り！山梨県と長野県の境にある金峰山に登りました。

標高2598メートル、日本百名山のひとつです。

「今回の山は頂上付近に特徴があります。巨大な岩がゴロゴロしてるんですよ。それと、山頂からの富士山の眺めが実にもう、絶景なんですわ！」

と自称「富士山フェチ」の隊長が熱く語ってくれます。このヒト、実は本職は世界をまたにかける超多忙なビジネスマン（今現在も海外出張中）なんですが、僕と山に行くときは単なる山好きの「隊長」なんです。

こういうの、いいよねぇ。俗世間を離れて、一個の「人間」になれるところが。

 

それはそうと、今日はどうも天気がいまちなんだよねぇ。

「山で雨に降られると、ほんとつまんないんですよ。もう、苦行って感じで。何とか天気が持ちこたえるように祈りましょう」といいながら、なにやらゴロゴロと遠くの雲間から聞こえてきてます。

 

   　 

 

今回はまず、県境の大弛峠（おおだるみとうげ）から入り、朝日岳（2579ｍ）から鉄山の中腹、そして金峰山と尾根伝いに渡っていく、という「縦走ルート」を取ります。というとなんかすごいコースみたいですが、かなり上のほうまで自動車道が通っていて、実際は400～500メートルくらいのアップダウンに過ぎませんが。ま、「おとなのハイキング」ですかね。ともあれ、2500メートル級となると毎度のことながら防寒が欠かせません。それと今回は雨の心配もあり、特に厳重に着込んで行きました。ご覧の通りの「ドラえもん」状態。

 

いつもながら、登り始めは、ハァ～キツい。そこをグッと我慢して登っていくと、だんだんと体が慣れてきて、呼吸が落ち着いてきます。そうすると周りの景色が次第に開けてきて、山の空気が肺いっぱいに広がり、エアコンのフィルターを掃除するように（あ、今年まだやってなかった！やらなくちゃ）体中の血液がきれいになってゆく感じがするのです。天気もまだギリギリ踏みとどまってくれてるし、今のうちに頂上へアタックだ！

 

途中、朝日岳、そして鉄山と尾根伝いに行くうちに、だんだん大きな岩がゴロゴロと顔を出し始めます。なんとなく、東京ディズニーランドの「トムソーヤ島」のような眺めです。岩と岩の間の亀裂にはまらないように気をつけながらひょひょいと飛び越えていくのですが、夜露で岩の表面が湿っているため、つるつるすべり、ひっくり返りやすくなっています。でもなんか、子供のころ裏山や空き地で遊んだような感覚がよみがえってきます。ふとみると、山肌を覆うようにハイマツ（地面に沿って伸びる背の低い松の一種）が生い茂り、見事なグリーンのじゅうたんを広げています。そして、遠くにかかっていた雲が晴れた瞬間、見事な富士の姿が現れたのでした。

 

見よ！この雄姿。冠雪をいただく富士山の中腹に「松」「竹」「映」「画」の四文字が浮かんでくるようなみごとなアングル、まさに「おっとこ前」の富士山でありました。

 

 

 

そしてついに山頂に到着。ここには「五丈岩（ごじょういわ）」という、この山の主のような巨岩がそびえ立っています。う～ん大きい。ビルにしたら、４～５階くらいはあるんじゃないかな。ちゃんと鳥居がたち、ご神体として祭られています。参拝のあと、食事タイム。いつもながら、ここでしか味わえない食べ物の美味しさありがたさをかみ締めます。と、ここでついに痺れを切らしたように雨が降り始めました。すばやく片付けて下山下山。帰りに、これも恒例の温泉につかります。雨は勢いを増してきました。露天風呂で有名なところなので、編み笠を借りて入ります。山間の景色は遠くかすんで、お湯の表面をポツポツと雨が跳ね踊ります。こういうのも風流でいいねぇ。

 

編み笠と　湯船たたくや　夏の雨

（ヘタだなぁ～。）

 

【中西保志のヴォーカル塾・第１６弾！】                                         2007.7.2

 

中西保志です。
心配された「カラ梅雨」のほうは、遅ればせながら解消されつつあるようですが、今年の暑さはそうとう厳しくなりそうです。皆さん、くれぐれもおなか出して寝ないように。

さて、今回は前回に続き、「音感」についてみてみましょう。

今回は「その２・音痴とは何か」についてです。

その前に、前回見た「絶対音感」についてのおさらいですが、要するに「絶対」という言葉のイメージに振り回されてるんですよ。「絶対王政」とか「絶対的エース」とか。そんなたいそうなもんじゃあありません。
この場合の「絶対」とは、「相対」の逆であって、つまり「ひとつしか音がない（比べるものがない＝絶対）」か、「二つ以上音がある（相対）」か、という意味なんです。で、ここからが大事なんですが、音楽とか歌とかは一つの音だけで終わることはほとんどない、つまり大部分「相対音感」の世界なんです、当然。
ということは今回のテーマの「音痴」も「相対音感」に関係していることがわかります。

まず断っておかなければならないのですが、ここで言う「音痴」とは、あくまで「聴覚」が正常である場合のことであるということです。たとえば、一般的に歌唱力があるといわれるプロの歌手の歌を聞いて「いい歌だなぁ。自分もあんなふうに歌いたいのに、自分はどうしても音がはずれてうまく歌えない。どうしたらええの？」という悩みをもってる人などが該当します。「音がはずれてる」と自覚できるならなおよろしい。
そうでない人、つまり「聴覚」に問題があると思われる方は、残念ながら当塾ではどうしようもありません。耳鼻科のお医者様に行かれることをお勧めします。

ふつう歌を歌うとき、歌いだしの最初の音から類推して次の音の高さを予測し、次々と高さの違う音を声帯から発するわけですが、それらの「音の連なりの上がり下がりの形」を「歌」と呼んでいるわけです。ここではもちろん「相対音感」が活躍するわけです。
この点は楽器の演奏とははっきりと違います。楽器の場合は「Ａ」なら「Ａ」という音の出る操作（鍵盤をたたいたり弦をはじいたり）をすることで音を出しているわけですから仮にまったく音が聞こえなくても楽譜によって決められた「操作」をすれば演奏することは可能です。晩年のベートーベンは耳が不自由だったそうですが数々の名曲を残していますよね。

しかしながら「歌」は、音を発する「楽器」が体の中の声帯であり、以前見たようにそのほとんどは「不随意筋（自分の意思では動かせない筋肉）」であるため、聴覚によって取り入れた「音」の情報から脳が「無意識」のレベルで次の音を予測し、直接「楽器」を操作しているのです。このレベルでは「歌」と「言語」はほぼ同じしくみのものと考えられます。つまり「はし」が「橋」なのか「箸」なのかは、発せられた音の高さの組み合わせによって習慣的にわれわれは理解できるわけです。
同じように「方言」が、違う土地の人からは奇異に聞こえるのは「歌詞」が同じでも自分たちの「メロディ」とちがう「歌」だからです。地方から東京に出てきた人が「ことば（のイントネーション）」の違いに苦労するのは、ひとたび「無意識」に記憶された「メロディ（イントネーション）」はそう簡単には書き換えることはできないことをあらわしています。
この点、関西出身、東京在住の塾長などは身にしみてわかります。ほんまにねぇ。

さあ、ここからが今回のメインテーマですが、それでは以上のことをふまえて、「音痴」とは何だとあなたは思いますか。
そう、「脳」が記憶している「歌」を構成する個々の音の高さ低さ（音程）に対する「無意識の記憶」が客観的に見て正しくないということなんです。この「客観的に」というところがミソです。
つまり、自分ひとりで歌ってる分には「音痴」かどうかなんて関係ない（というか認識できない）わけですが、自分以外に聞かせる場合には問題があるわけです。育った環境や習慣、個人差などで、正しい音程が記憶されていない場合がこれに当てはまります。

ではどうやってこれを矯正すればよいかというと、答えは簡単で、「客観的に」聞く、そして歌う、ということです。
　　１・自分が歌いたい曲を歌っている、自分と同じくらいの声の高さのプロ歌手のＣＤ（一応その歌手の音程が「正しい」ものであると信用して）と歌詞カードを用意して、あらためて聞いてみる。

　　２・同じ曲をカラオケで歌ってみる。（オリジナルカラオケがあればベスト）

　　３・第三者に聞いてもらい、違いを指摘してもらう。

　　４・それが恥ずかしい場合や適当な第三者がいない場合は、歌っているのを録音して自分で聞いてみて、違う箇所を歌詞カードに書き留める。

　　５・録音したものを少しずつ区切りながら何度も何度も聞き返し、正しく歌えるようになるまで繰り返す。（脳に正しい音程をたたき込むわけです。）

以上です。欲を言えばやはり第三者、しかもある程度歌える人がいたほうが無難です。録音する場合はＭＴＲ（マルチトラックレコーダー、オケと歌が別々に録音再生できる）があればよいが、なくても録音できるラジカセが２台あればできます。
この方法、実はプロのミュージシャンがフレーズ（曲の中の特定の部分）のコピーをしたりするときに使うやり方なんです。個人差はありますが必ずこの方法で矯正可能なはずです。

よく、「音痴は治る」とかいって高価な器具を売ってますが、けっきょく補助的な役には立っても本質的には上に述べた部分が中心です。脳に刻まれた「無意識の記憶」を書き換えるわけですから時間がかかることもあります。でも「何としても音痴を克服して彼女（彼氏？）の前でかっこよく歌いたい」なんて思っている人がいたら是非トライしてください。吉報をお待ちしています。

この稿へのご意見ご感想、ヴォーカルについてのご質問をお待ちしています。

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【中西保志のヴォーカル塾・第１５弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.6.13

 

中西保志です。

だんだん暑つぅ～くなって来ましたね。

今年は何でも、夏を暑くする「ラ・ニーニャ現象」とやらが早々と見られ、猛暑確定的なんだそうです。お互い夏バテに注意しましょう。

 

さて今回は「音感」について考えてみましょう。これもまた歌を歌うときの重要な要素であることは言うまでもありません。

 

よく「絶対音感」という言葉が聞かれますが、この言葉の意味を正確に知っているでしょうか。人間にはいろいろな「感覚」が備わっています。たとえば電車などに乗り、「今、時速○○キロで走ってる」とか言い当てる人がいますね。この人は「スピード感」という感覚に優れているわけです。また、ある目標物から自分までの距離を「○○メートル」と言い当てられる人は「距離感」という感覚に優れているといえるでしょう。

 

同じようにある音を聞いてその音が「（音名の）Ｆ！」とか「Ｂ！」とか当てられる人（正確にはその音の高さを感じ取れる人）を「絶対音感保持者」と呼ぶのです。つまり「音」という建物の高さを正確に当てられる人のことです。

でも、普通の人だって「このビル、だいたい１００メートルくらいかなぁ」とか、「今、時速８０キロは出てるよなぁ」とかいって、ほぼ当たってる場合がありますよね。つまり「絶対音感」とは何も常人とかけ離れた超能力のようなものではなく、「音」の高さを測る「モノサシ」が特に正確な人、ってことです。

 

一方で、ほとんどの人は二つの建物があれば「どちらが高いか」は一目でわかりますよね。同じく二種類の音が鳴れば「どちらが高いかは」すぐわかります。「モノサシ」がそこまで正確じゃなくても、「比較するもの」があれば高いか低いか、あるいは「ある音に対してこの音の高さはどのくらいか」は簡単にわかります。こちらは「相対音感」と呼ばれます。つまりふつうの人でも音階の出る楽器（ギター、ピアノ等）があれば正確に音を感じ取ることができるわけです。たいがいはこれで問題ありません。

 

ではなぜ「絶対音感」が注目されるかというと、ひとつは非常に幼い時期（ほぼ５～６歳）までに訓練しないと身につきにくい感覚であることがわかっているため、「幼児教育」とか、「早熟の天才」とか、「神童」とかのイメージとともに語られやすく、「お受験ママのあこがれ」みたいになってしまっている部分があることと、プロの作曲家やクラシック系の演奏家の多くが「絶対音感保持者」であることから来る「ブランドイメージ（？）」の影響が大きいと思われます。

実際には「保持者」でない大音楽家はいっぱいいますし、だいたいやねぇ、音の高さがわかったって、それだけでいい曲やいい演奏ができるわけないじゃあありませんか！

 

まぁ、もちろんひとつの優れた「感覚」であることは確かですし、以下のようなメリットがあることは事実です。

　１・さまざまな音に対して音名を答えられる。

　２・和音の構成音に対しても反射的に音名を答えられる。

　３・楽曲を記憶するのが速いことが多い。

 

ところがまた、以下のようなデメリットもあるようです。

　１・移動ドで歌うことを苦手とする場合がある。

　２・同じ操作で調が異なる楽器の場合など演奏に抵抗を感じることがある。

 

つまり、「絶対音感だけ」だと、ある固定された「調」以外の演奏や歌唱に問題が起こる場合もありうるということです。この問題を克服するためにプロの音楽家たちは「相対音感」での訓練をも平行して行わなければならないのです。「鬼に金棒」状態になるために。

 

まとめていうと、「相対音感」が音と音との「距離」にたいする感覚（を記憶する能力）であるのに対して、「絶対音感」はひとつの音の「高さ」に対する感覚（を記憶する能力）であり、ほとんどすべての人が保持しており、そのなかの優れた感覚の持ち主を特に「絶対音感保持者」と呼んでいるに過ぎない。

ということです。

 

ちなみに私、中西保志は由緒正しい「絶対音感不保持者」であります。

 

ま、今回は「ヴォーカル」とは直接関係しない「軽い読み物」としてお送りしました。

（って今までのほとんどがそうですが・・・）

 

さて、次回は「音感について・その２」です。

 

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【大菩薩峠を行く】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.5.29

 

なんか東京は最近、降ったり照ったりの落ち着かない天気が続いていますが、皆さんのところはどうでしょうか。

 

さて今回は「大菩薩峠（だいぼさつとうげ）」です。　　　　　　　　　　　　　　　　

その昔、中里介山によって書かれ、ニヒルな主人公・机龍之介が活躍する、「国民文学」とまで称えられた大長編時代小説・・・とはあまり関係なく、遠く南アルプス越しに富士山が見える人気のコースだそうで、「標高2056.9メートル。ま、少々物足りませんが、肩ならしということで」と、いつもの「隊長」からのお誘いが。

 

ある、うららかな春の一日、都内を出発して一路山梨へ。午前6時と、わりと常識的（？）な時間の出発になりました。「今回は下りた後、名物のほうとうを食べましょう。」というわけで、軽い気持ちで登り始めたのですが・・・。しばらく行くと、山道の脇に古い立て看板らしきものが。「この先、？？？が？？？しています」・・・？？？う～ん、読めないなぁ。

 

でもなんか、脇道らしいものがその向こうに続いています。「普通のルートだと、ただのハイキングコースですからね。オモシロそうじゃないですか、こっちいきましょう」とそちらの方へ。ところがこれが「道なき道」で、生い茂る藪を掻きわけ掻きわけ進んでいくと、だんだん急な岩場に出てきました。

もう二本足では登れず、両の手に草の根や岩のくぼみを捕らえてやっとこさよじ登る「断崖絶壁」になってきて、気分はもう「ファイトぉ～！」「いっぱぁ～つっ！」みたいになってきました。

　　　　　　

 

あとでわかったのですが、あの看板は「この先、手すりが破損しています。」つまり、もともとは急斜面を登るための手すり（チェーン）がつけてあった場所らしいのですが、そんなものは見当たらず、ひたすら自力でよじ登るのみ、という「男の体力コース」になっていたのでした。なんとか目標の「雷岩（かみなりいわ）」にたどり着き、大菩薩嶺の頂上に到着。そのまま尾根伝いに大菩薩峠を目指します。さすがに2000メートル級の頂上付近は所々に残雪が見られ、吹く風が凍りつくように冷たい。平日のせいか人出はほとんど無く、荒涼とした尾根が続いています。

 

その時、ふと人の気配を感じて振り返ると何と！短パンにランニングシャツ、ウェストポーチにスニーカーという超軽装備で、風のように走ってくる人がいるではありませんか。その人は、僕たちがヒーコラとよじ登った崖を、駅の階段を登るようにヒョイヒョイと走り登っていくのです。まるでカモシカのように。

「モノスゴイ人がいるもんだ！」と「隊長」でさえびっくりしていましたが、あれはクロスカントリーの選手か何かのトレーニングだったんでしょうか。上には上がいるもんです。

 

さて昼近く、大菩薩峠の休憩所「介山荘」に到着。早速お湯を沸かし、持参のカップラーメンをいただきます。高所のためお湯は沸騰しませんので待ち時間は5～6分。残ったお湯で食後のインスタントコーヒーを作ります。う～ん、こういうところだと、何でこんなにうまいんだろう。

 

 

ところでここが小説の舞台になったところなんだそうです。主人公・机龍之介は夜な夜なここで辻斬りを行ったというんですが、こんなとこでどうやってチャンバラするんだ？というような岩ゴツゴツの吹きっさらしの場所です。（ひょっとして、昔もクロスカントリー選手みたいな人がいたのか？）

 

下山後は恒例の温泉へ。眼下に甲府盆地を見おろす素晴らしい眺めの露天風呂でした。では、いよいよ夕食の「ほうとう」をいただきに参りましょう。

ほうとうは「餺飩」と書きます。もとはうどん（饂飩）と同じく、中国から来たものであったようですが、山国の甲斐（山梨県）では古くから主食として用いられ、武田信玄公ゆかりの食物として有名です。

 

実はこれまでちゃんとした「ほうとう」を食べたことがなかったのですが、甲府駅前「小作」にて食したそれは、実に美味。もっちりムチムチの麺と、たっぷりの野菜（十数種類）を秘伝のダシと味噌で仕上げた一品でした。単なる「味噌煮込みうどん」とはまったく違う、「ほうとう」としか言いようのない食感。もうひとつの名物「馬刺し」とともに大満足の味でした。皆さんも甲府に行かれることがあったらぜひどうぞ。ちょうど大河ドラマで「風林火山」もやってるし。（ってなんか、観光協会のヒトになってますが）

 

【お悔やみ】

この項執筆中に、浪曲師・玉川福太郎師匠の訃報に接しました。

 

師匠とは04年暮れ、「ぶんざ・元禄散華」にてご一緒させていただきました。

豪快で、それでいて我々若輩にもやさしいお心遣いを忘れない、太陽のように明るいご性格と、切れのよい「関東節」とよばれる節回しで多くの人に愛され、正にこれからの浪曲界を背負って立つ大きな存在であっただけに、早すぎるお別れを悔やまずにはいられません。

謹んでご冥福ををお祈り申し上げます。

 

【中西保志のヴォーカル塾・第１４弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.5.7

 

中西保志です。

ひさびさの「ヴォーカル塾」、今回は「ビブラートについて」です。

 

ビブラートとは、イタリア語「Vibrato」。英語の「Vibration／バイブレーション」。日本語で言えば「振動」の意味です。

そもそも「声（音）」とは空気の振動（バイブレーション）そのもののことですから、この場合とくに「ビブラート」と表現するときは特別な意味を持ちます。ここでいう「ビブラート」とは、歌うときに、ある音を伸ばしながら声を「波打たせる」ことです。そうすることによって、声に微妙な味わいや奥行きを感じさせる効果をねらって行います。

 

何度もお話しているように「声」とは肺呼吸において呼気（吐く息）が気管の先端にある「声帯」を通る時、声門（声帯靭帯）の厚みと幅をコントロールすることによって微妙に呼気を振動・共鳴させて音色（トーン）と調（ピッチ）をさまざまに変化させた「音」を生み出すことです。そのとき、基準となる音の上下に声を「波打たせる」歌いかたを「ビブラート」と呼ぶのです。

 

ここで重要なことは、ただ声を「震わせる」だけでは決して心地よい「ビブラート」にはならない、ということです。むしろ、意識的・作為的に行う「震え声」は多くの場合、妙な「クセ」ととらえられて不快な印象を持たれかねません。こうした「震え声」は「トレモロ（顫音・せんおん） 」と呼ばれるものであることが多く、「ビブラート」とは似て非なるものです。

むしろ「ビブラート」とは、あるひとつの音を持続的に維持しようと発声するときに無意識に微妙にその高さや強さが変動し、ある規則的な「波」を作り出してしまう、その「波」が聞くものにとって心地よい範囲に収まっている場合を特別にそう呼ぶ、と考えたほうがよいのかもしれません。

 

皆さんは「1/fゆらぎ」という言葉を聴いたことがあるでしょうか。「　ｆ　ぶんのいち　ゆらぎ」と読みます。

自然界には人間が「心地よい」と感じる絶妙なバランスの、いわば「黄金法則」が隠されていて、たとえば小川のせせらぎを聞いているとリラックスできる、とか、木の枝ぶりの見事さに感動する、なんていう場合に、そこに「1/fゆらぎ」が存在する、というような表現のされ方をします。

 

人間の神経細胞はある種の電気信号を発射しており、それを周波数（frequency＝ｆ）ごとに分析すると、あるシンプルな波形に分けることができるそうです。これを「1/fゆらぎ」と呼びます。そして、この「1/fゆらぎ」は、快適性と関係があることがわかっているそうです。先ほどの「波」とはこの「1/fゆらぎ」のことです。つまりわれわれが自然の美しさや音楽のすばらしさに「感動」するのは、もともと身体の中に持っている「波」と、それらの持つ「波」の「波長」が一致することによる、という理論です。優れた芸術には必ずどこかにそうした「波」が隠されているともいいます。

 

ここで考えてほしいのは、山奥の渓流や木々の緑には「波」を感じても、コンクリートで固められた岸壁や高層ビルにはそれを感じることはない、ということです。つまり人工的、作為的な「震え声」には「1/fゆらぎ」は存在しないのです。もともと身体の中にある「波」を感じて、無意識的に声を「波打たせる」ことが美しい「ビブラート」を生み出す秘訣、ということになります。

 

「無意識的に」なんて簡単に言ってますが、これがどんなに大変なことかは人前で歌を歌ったことのある人ならばお分かりかと思います。精神統一、リラックス、それでいて完璧なセルフコントロール。一見、矛盾に満ちた世界です。これを我が物とするために有効な方法を、当「ヴォーカル塾」ではすでにお教えしています。そう、「腹式呼吸」と「発声練習」です。地味なようですがこの反復によって、「ビブラート」は必ずあなたのものになります。個人差はありますが。

 

よく「お腹から声が出ている」なんていいますよね。お腹には「声帯」はありませんからより正確に言うならばあれは、『正しい呼吸法と発声法によって無意識のレベルでコントロールされた「1/fゆらぎ」（「波」）を含んだビブラートが表現されている』、という意味になります。これは思い立ってすぐできる、というわけにはいきませんが、誰もが表現できる可能性をもっています。なぜならば答えは私たち自身のなかにあるのですから・・・。

 

今回はここまで。

この稿へのご意見ご感想、ヴォーカルについてのご質問をお待ちしています。

 

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【西への旅・その3】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.4.17

 

中西保志です。

東京では桜もすっかり終わり、本格的な春になるかと思ったら、暑かったり寒かったり、雨の日も多く、なんだかはっきりしない天気が続いています。風邪をひいている人も多くなってきているようですね。お互い気をつけましょう。

 

さて「西への旅」もいよいよ最終回、今回は「大仙古墳（伝・仁徳天皇陵）」を訪れます。その前に、皆さんは大阪が日本の首都だったのをご存知でしょうか。といっても古代の話ですが・・・

 

前回の続き、3月16日は浜村淳さんの番組に出演後、大阪市内のＦＭ局・ＡＭ局などを駆け足でまわり、最後の仕事がＮＨＫ・ＦＭ大阪局の生放送だったのですが、出演まで一時間ほど空いていたので、隣の大阪歴史博物館へ。何の予備知識もなく入ったのですが、その内容の豊富なこと！特に最上階、古代の都「難波宮（なにわのみや）」の内裏（宮廷）の一部を実寸代で再現したものは圧巻の一言。それは7世紀～8世紀において奈良の藤原京や平城京にも匹敵する巨大な都がここ大阪の地に存在していたことを高らかに告げるものでした。

 

実は古代日本においては都はどんどん移転していたのです。おそらくは九州北部に始まった「倭国」は謎の「邪馬台国」を経て大和（奈良）の飛鳥に都を定めました。ところがここでも場所を転々としています。最終的に平安京（京都市）に落ち着くまで、今でいう奈良・大阪・京都・滋賀と、近畿各府県のあいだを、細かいのまで数えたら20回以上遷都しまくっているのです。なぜこんなに、まるで使い捨てのように都を変えるのか？これは古代の中国にも韓国にも無い、日本だけの珍現象といえるかもしれません。現代人にもよく引越しする人はいますが国体じゃああるまいし、都がそんなにくるくる変わったら当時の人々はさぞ大変だったでしょうね。

 

つまり僕たちが学校で習った「奈良時代」というのは、より正確に言うと「奈良と大阪、ときどき京都・滋賀」時代とでもいうようなものだったのですね。

難波宮もそうしたうちのひとつ、いや、二つなのです。実は7世紀、孝徳天皇（大化の改新）の時代と、8世紀、聖武天皇（奈良の大仏）の時代にまったく同じ場所に別々に都を作ったことが発掘調査でわかっています。その内裏の跡は史跡として保存されていますが、その場所が何と大阪城の真向かいなのです。う～ん、時代は違えど、エライヒトの目の付け所はおんなじなんでしょうか。

 

ところが、これらのさらにずっと前、4世紀～5世紀ごろすでに大阪・堺には巨大な権力を持つ「大王（おおきみ）」と呼ばれる存在が君臨していたことがわかっています。歴史的には「応神（おうじん）王朝」と呼ばれるこの時期の天皇（大王）たちは大陸とも盛んに交流し、中国の時の皇帝から「六国安東大将軍」なんていう肩書きをもらってジャンジャン戦争していたようです。いわゆる「倭の五王」の時代ですね。当時の大王たちの権力の大きさを今に伝えるのが空前絶後の規模を誇る巨大古墳群です。これらは現在「百舌鳥（もず）古墳群」とよばれ、そのいくつかが天皇陵として宮内庁の監理下にあります。その中でひときわ巨大なのが「大仙古墳（伝・仁徳天皇陵）」なのです。なぜ「伝」かというと、これが確かに仁徳天皇の陵（みささぎ、お墓のこと）だ、という証拠が確認されていないからだそうです。

 

 

 

　　　「百舌鳥」駅にて。

翌17日朝、ＪＲ大阪駅から阪和線で「百舌鳥」駅下車すぐ。とにかくその巨大さたるや、敷地面積ではエジプトのピラミッドさえはるかにしのぐというもの。

形は有名な「前方後円墳」で、縦の長さが約475メートル、横約300メートル高さ約30メートル。さらにその外を3重の堀に囲まれ、周囲約3キロメートル！最近の試算では古代の工法では約16年、延べ700万人の人手が、現代工法でさえ同じものを作るのに約3年、延べ3万人が必要といわれています。　

 

完成当時は表面を白い化粧石に覆われ、回りには無数の埴輪（はにわ）が並べられていたらしい（誰が見たんだ）。現在は樹木が生い茂り、表面は見ることができません。記録によれば江戸時代までは気軽に登ったり、山菜採りをしたりすることが出来たそうです。泉が湧いている場所もあるそうです。後円部に大きな発掘（盗掘？）の跡があり、巨大な石棺が埋まっているそうです。また明治時代、土砂崩れの補修中に前方部にも石棺が見つかったそうです。「そうです」ばっかりなのは、現在は宮内庁の監理がキビしく、3重の堀のそのまた外側からしか見ることが出来ないからです。

 

 

 

堺市役所から。

近くによると・・・

だからといって普通に堀のそばを歩いていたらただの「低い山」にしか見えない。じゃあどうすりゃあいいんだ？というわけで、周辺の高い建物を探しますが、やはり天皇陵ということでか、周囲にあまり高いマンションやビルは見当たりません。そこで地図をよく見ると、どうやら堺市役所の新館21階展望台（地上約80メートル）が一番よく見えそうだ、というわけで南海高野線に乗り換えて堺東駅下車すぐの市役所へ。

やった！見えた。堺の街のど真ん中にうずくまる巨大な牛のような姿。まさに堺の主（ぬし）といったたたずまいです。一つわかったのは、古代の人は決して僕が今見ているような古墳の姿を見ることは出来なかっただろうということ。

ではなぜこんな巨大なものを造ったか？

 

 

ひとつの想像ですが、僕は去年富士山に登ったとき、なんとも言えない神聖なというか荘厳な何者かを感じたのです。高い場所、というのは訳も無く人を感動させることがあるような気がします。昔から山の頂上には神様が祀られていたりすることがよくあります。この古墳は「神の降りてくる場所」として作られたのではないでしょうか。このあたりは海が近く、大きな山がそばに無いし、この国に君臨する大王が自らの権力を表現するために「山」が必要だったのではないでしょうか。だからこそ人々はこの「山」を拝みつつ、つらい労役に耐え、大王につき従って行ったのではないでしょうか。

 

大仙古墳の隣には堺市博物館があります。古墳時代だけではなく、中世・戦国時代の自由都市・堺のにぎわいがよく表現されたすばらしい展示がありました。

 

　｢堺市博物館｣にて。　　　　お揃い・・・・・？！

　

いやはや、有意義な一日・・・って、おい！インストアライブはどうなっとんじゃ？いっけねー、コロッと忘れてた！というわけで、「百舌鳥」駅から約10分、「鳳」駅下車徒歩5分の「おおとりウイングス」へと急ぐのでありました。

 

【西への旅・その2】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.4.8

 

中西保志です。

東京は桜もそろそろ終わり、これから桜前線が北上してゆきます。新入学、新学期、新

卒入社、新営業年度とあわただしい一年がまた始まりますね。

私はあいかわらずインストアライブ、キャンペーンと飛び回っております。

前回に続き、関西方面のキャンペーン（というかその余禄の「三大目標」）についてお送

りいたします。

 

今回は第二弾。

浜村淳さん、という名前はもちろん全国区で有名だと思いますが、僕のように1960～70年代に関西で育ったものにとっては特別な感情がわいてきます。中学生のころ、お小遣いをためて始めて買ったラジオ（短波放送など世界の日本語放送を受信するのがはやっていたので、ＡＭ・ＦＭ・短波対応の「3バンドラジオ」が大人気だったのです）から流れてくる、「さ【て】みなさん（この【て】にアクセントがあります）！」というきまり文句で始まる知的で上品なおしゃべり（京都弁）と、映画についての細やかな、ほとんど作品一本見たような気にさせるほどの解説そして国内外の音楽、という構成の深夜放送を、受験勉強の友としていつも聞いていました。

それと平行して朝の帯番組「ありがとう浜村淳です」（生放送）を持たれ、以来この番組を30年間休むことなく続けておられます。その他に司会者として数々のテレビ番組を持たれ特に「全日本有線放送大賞」の名司会は有名。さらに映画解説者として多くの雑誌にコラム等を書かれています。

 

僕が始めてビリー・ジョエルの「素顔のままで」を聞いたのも、確か高2のころの浜村さんのラジオででした。奇しくも後に浜村さんと同じ大学の門をくぐることになり、またその十数年後に大阪・堂島のフェスティバルホールで「全日本有線放送大賞・新人賞」を頂き、浜村さんの名調子でイントロが流れてきたとき「は、浜村さんやぁ～っ！オレもとうとうここまで来たかぁ～っ！」と歌そっちのけで感動しっぱなしでした。その後何度もキャンペーン、ライブ等で大阪を訪れたのですが、何故かご縁が無くお会いすることはありませんでした。

 

それが今回ひょっこり、十数年ぶりにご一緒することに。

倉敷ライブの翌日、「ありがとう浜村淳です」のゲスト出演。ライブ打ち上げもそこそこに、翌3月16日は5時半おきで支度してホテルを飛び出し、朝7時の新幹線に飛び乗って新大阪へ。駅前でタクシー待ちをしていると、なんとわが母校、「清風高校」のロゴ入りバックを担いだジャージの一団が通り過ぎてゆくではないか！おそらく体育部の諸君の、

試合への移動中なんでしょうが、何たる偶然！「ウエルカムトゥ大阪」ですね、これは。

ＭＢＳ（毎日放送）に到着、スタジオへ。スタッフと軽く打ち合わせ。浜村さん相変わらずの名調子で快調に生放送中。ＣＭ放送中にすばやくブースに入ります。

 

驚いたのはフェスティバルホールでのことはもちろん、僕が主題歌を歌った「スペインからの手紙」という10年以上前の映画のことを実に詳しく記憶しておられて、「いやぁ、あの映画はよかった。あの子役の子、よかったよねぇ。僕は松竹（配給会社）の人にあれはもっと宣伝しなきゃあ、ってハッパかけたんだよ」、なんてこっちが忘れてるようなことを、ついこの前のように話されるのでした。何というか、実にふわっとした、「いい空気」を持った方だなぁと改めて思いました。長く人々に愛されてきた人だけが持つ空気。決して相手を威圧する「オーラ」ではなく、「ホスピタリティ」とでもいうような空気を持っておられます。ほんとうの「大物」とはこういう方のことを言うのだ、と思いました。

翌日、堺の「おおとりウイングス」でインストアライブの後、サイン会で「浜村さんの番組で聞いて知りました」とおっしゃっていた方の、多かったこと。

 

浜村先輩！中西もどうにか頑張っております。いつまでもお元気で、また伺います。

 

【西への旅・その1】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.3.29

 

中西保志です。

いよいよ桜本番になっております。今年は異常気象のせいか、関東以西の各地ほぼいっせいに見ごろとなっているようですね。

 

さて、3月15日に倉敷でピアノライブを行い、「Ｓｔａｎｄａｒｓ」のアルバムリリースにあわせて、次いで大阪、名古屋とキャンペーンを行いました。キャンペーンなどで神奈川県より西に行くのはものすごく久しぶりで、とても楽しみにしていたのですが、メインの仕事とは別にぼくには今回、「3つの大目標」があったのです。

それは、

 

（１）倉敷の美観地区にある「大原美術館」を訪ねる。

（２）浜村淳さんに会う（これは仕事でですが）。

（３）「大仙古墳（伝・仁徳天皇陵）」を訪ねる。

 

というものです。今回は（１）について。

ご存知の通り、倉敷には江戸から明治・大正の、紡績を中心に商業が活発に行われていた時代の建物を、街をあげて保存していこうという趣旨で往時をしのばせる白壁の土蔵や町屋が多く残され、新規の建築にも規制や補助が加えられ、「美観地区」と呼ばれる一角が形成されています。

そのど真ん中にある「大原美術館」は、倉敷の整備にも尽力した大実業家・大原孫三郎が昭和5年に建立したものです。

 

実は、ここが日本で始めての西洋美術館なのです。（上野にある「国立西洋美術館」でさえ戦後のもの）その設立趣旨は、「西洋のすぐれた文化・芸術を日本に紹介し、日本の文化レベルを近代化する」、という壮大なもので、そうした動きが首都・東京よりもずっと早く倉敷で見られたというのはやはり特筆すべきことだと思います。しかもここは現在までまったくの私立の美術館として存続しているのです。

 

建物の正面玄関はなんとギリシャ・パルテノン風で入り口の左右にロダン作（！）のブロンズ像が狛犬のように出迎えてくれます。その収蔵品は、もうなんと申しましょうか、僕が知っているだけでも、シャガール、セザンヌ、ゴーギャン、コロー、ミレー、マネ、モネ、ルソー、ルノワール、ユトリロ、ピカソ、ムンク、キリコ、マティス、などなど、失礼ながらここに置いといて大丈夫なのか？と心配になるほどの逸品ぞろい。１９～２０世紀の近代絵画を中心にすさまじいばかりの名画の数々。しかもそれらが手が触れるほど（もちろんさわっちゃダメですが）近くから鑑賞できるのです。

 

また、日本の青木繁、佐伯祐三郎、岸田劉生などの作品群も見事で、棟方志功の版画のまとまったコレクションでも有名だそうです。それだけではなく、別棟の「東洋館」では日本・中国・インド・シルクロードの工芸品、仏像。その他にもギリシャ・ローマ・ペルシャの遺品など、博物館的な展示も実に豪華。ライブの前だったので1時間ほどしかいられませんでしたが、う～んこれは一日じゅう見ていてもあきませんねー。

 

しかし、なぜこの美術館はこんなにも素晴らしいコレクションを集めることが出来たのでしょうか。もちろん創立者・大原孫三郎の並々ならぬ情熱はわかるのですが、それだけではなかったのです。実はこれらの西洋絵画の多くは明治・大正時代に、ある一人の日本人画家によってパリで収集されたものなのです。

その人の名は児島虎次郎。倉敷の近郊に生まれ、若いころから画家を志し、大原の援助を受けて渡欧し、絵の修業に励みます。ところが日本人で初めてパリの有名画家サロンに出入りを許されたほどの腕前でありながら、生前彼の絵は一枚も売られることは無かったのです。彼は孫三郎との固い絆と、近代絵画の日本への紹介という大きな目標のために自らの画家としての活動を封印し、もっぱら西洋絵画の買い付けに奔走します。自身がヨーロッパの画家たちも一目置くほどである虎次郎は、その審美眼でこれからますます評価が高まっていくであろう名品を買い付け、つぎつぎと日本へ送り出したのです。（つ
まり「先行投資」に成功したわけですね）

 

そうした名画の一枚にエル・グレコの「受胎告知」という作品があります。じつはこの絵、日本にあること自体が奇跡的といわれる名品なのだそうです。テーマはイタリア・ルネッサンス期によく見られる宗教画なのですが、制作年代は1６世紀後半と他のコレクションに比べてきわだって古く、しかもこのエル・グレコという画家自体作品数が極めて少ないそうで、倉敷市の学芸員の方の話ではいまだにフランス政府が「これだけは返してほしい」と泣きついている一品だとか。大原の情熱と児島の鍛え抜かれた審美眼が生んだ「奇跡」だったのでしょう。

 

僕はこれまで特に絵画に興味があったわけではないのですが、さすがにこれだけの数の「本物」をまえにすると、軽いめまい、というか興奮状態になりましたね。画家の持つ生命力をその画面から感じるというか、いやはやすごいもんです。一緒に見に行ったピアノの山崎さんなんか、思わずデジカメで撮ろうとして係りの人に怒られてましたが、わかるなぁーその気持ち。なんというかハイな気持ちになるんですよ。おかげでライブにもいい影響が出たようです。

 

ひとつの国の文化のレベル（文化・芸術を理解し、愛好するレベル）が低いままだと、その文化・芸術作品はどんどん海外に持ち去られてしまいます。幕末・明治維新や終戦直後に二束三文で外国に売られていった浮世絵・日本画・工芸品・古代遺物の、なんと多いことか。孫三郎や虎次郎はそうした時代の現状を知っていたからこそ、西洋美術の収集に奔走したのだと思います。

 

「お金持ち」といっても最近の人たちみたいに外車を乗り回したり、高層マンションに住んだりするのではなく、後世に残るすばらしい「先行投資」を行った人たちがいた、ということを覚えておきたいものです。皆さんも倉敷に行かれたらぜひ寄ってみてください。

 

この稿執筆中に、歌手・俳優の植木等氏の訃報に接しました。

私の愛唱歌のひとつである「スーダラ節」を始め、数々のヒット曲と主演映画等によって、はげまされ、元気付けられました。

謹んでご冥福をお祈りいたします。

 

 

【不都合な「現実」】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.3.12

 

中西保志です。

 

このところ、仕事が立て込んで、こちらの更新がお留守になっていました。

いや、申し訳ない。

 

ところで３月も半ばになり、とうとう東京では観測史上はじめての「無雪冬」、雪の降らない冬となってしまうことが確実になりました。これを、言われているような「地球温暖化」現象の一端と見るべきか、はたまた単なる循環的な温度変化と見るべきかは今のところはっきりとはいえません（地球はむしろ寒冷化していると主張する学者もいて、定説がないのが現状）。地球というあまりにも巨大な存在に対して、われわれはまだほとんどよく知らない、というのが本当だと思います。

ただ、確実にいえることは、近年われわれの感じる「四季」に狂い、というか変動が生じているようです。

 

僕の好きな曲に伊勢正三さんの「なごり雪」というのがあります。卒業の春、東京でともに学生時代（？）を過ごした彼女を遠いふるさと行きの汽車（！）のホームで見送る主人公の切ない気持ちを、断ち切れぬ未練のように降り続ける「なごり雪」に託して歌い上げた「ニューミュージック」世代の名曲です。

まるで映画のワンシーンのような（後に本当に映画になりました）、美しくも悲しいイメージをイルカさんの歌できいて涙した人は多いはずです。

 

でも「無雪冬」じゃあどうにも雰囲気が出ないよねぇ。

 

このまま温暖化がさらに進んで２月ごろに桜が咲いて散ってしまったら、世の中に山ほどある「桜ソング」はどうなってしまうのか？卒業式のころに梅雨になったらズブ濡れで第二ボタンじゃなくて傘の奪い合いになってしまうのか？また、冬と夏が接近して（だんだんそうなってきてます）春と秋がなくなって夏・冬だけになっちゃったら「劇団四季」は「劇団二季」になってしまうのか？その場合、オペラの「二期会」から文句は出ないのか？年がら年中広瀬香美さんとチューブばっかり聞くことになるのか？？？？

 

ま、ともかくこの欄で何度も申し上げてきたようにＪ・ＰＯＰの一つの大きな特徴は季節の移り変わりを歌に詠み込む「短歌」「俳句」の精神をバックボーンとして、折々の風情を洋楽的センスのメロディにのせて歌い上げる作品が多いという点にあると思います。それが今、危機に瀕しているのであります！実に！

 

みなさん！温暖化を食い止めましょう。「因果関係がはっきりしない」なんてのーがきタレてる場合じゃありません。やれることからやりましょう！ストーブやエアコンは使わない。寒ければ着る。暑ければ脱ぐ。寒けりゃくっつきあって寝ればいいんです（相手がいない人はこのさい作る）。自動車も必要以外には乗らない。電車・バスを使う。自転車にのる。歩く。見てないテレビは消す。トイレの電気も消す。長電話をしない。インターネットもほどほどに。買い物籠を使う。過剰包装をやめる、やめさせる。ゴミをなるべく出さない。夜は早く寝る（コンサートの日以外）・・・どーです。省エネ、節約、ダイエット、メタボリック対策、さらに少子化対策（？）にもなってさらに地球に優しい。こんないいことありません。１億２千万人でこれやったらだいぶ違うと思いますよ。効果なければさらに全人類６０億人に広げればよろしい。

 

深夜テレビで大電力使って「地球温暖化はどうのこうの」議論やってる場合ですか。ド深夜は放送やめましょう！電波をとめてください。

いまのままじゃあ「クジラみたいにかわいくて頭のいい動物を食べるなんて許せないわ！」なーんていってる人たちと論理的におんなじですよ。バカやブスなら食べていいの？牛や豚や鳥や羊はブスなの？バカなの？矛盾しとるやろが！（だんだんカンニング竹山君みたいになってきたのでこの辺でやめときます。）

 

とにかく、日本の美しい「四季」とそれが生み育んだ素晴らしい文化を次の世代に伝えていきたいと心から思います。

 

【中西保志のヴォーカル塾・第１３弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.2.6

 

中西保志です。

 

どうもこのところ、２月とは思えないような暖かい日が続いて、暖冬真っ盛りの東京です。といってもこれは関東地方から西（というか南西）の話であって、北陸・東北・北海道、ま

た北方領土（？）の方々はあいかわらず厳しい冬をすごされているのでしょうか。

南北に長い国・日本は実はとても「広い」国なのですね。九州・沖縄など南のほうからは梅や桜はもちろん、ヒマワリ（！）までが咲いた、というとんでもないニュースが届くなど、ちょっと異常な感じがします。いつもならば辛夷（こぶし）がその白い花を咲かせる春を待ちわびるこの時期・・・ってそうだ！今回のテーマは。。。

 

今回は「こぶし」について、です。

「こぶし」とは、「小（こ）節（ふし）」、つまりメロディ全体の大きな動きに対して、音を細か

く動かす装飾的な節回しを「こぶし」と呼んでいるわけです。モンゴルの歌にも「こぶし」に

似た節回しがあり、それをモンゴル語で「バガ・ノゴラ」と呼ぶそうです。「バガ」は「小さ

い」、「ノゴラ」は「節回し」の意味だそうですから、言葉の意味までまったく同じですね。

モンゴルのみならず、ポルトガルの「ファド」やイタリアの「カンツォーネ」にも「こぶし」と共通

する節回しがあるそうですし、Ｒ＆Ｂ・ポップス、いわゆる「洋楽」における「フェイク」という

のも同じ発想のものと考えてよいでしょう。

「こぶし」は歌のメロディの持つ魅力を深める貴重な要素としてさまざまな歌の中で用い

られてきたのです。

 

ところが、「こぶし」的なものをまったく用いない歌もあります。純粋な西洋音楽、中でも教

会音楽には「こぶし」があるような曲はほとんどありません。

一説には欧米において教会という場所は石造りの大聖堂であることが多く、わざわざ

「こぶし」で装飾しなくてもワンワン響くので用いる必要が無かったのではないかと考えら

れます。

そういえば、モンゴル歌謡にしろファド、カンツォーネにしろ、ブルース・カントリーミュージック

にしろ、主に野外で労働の傍らに歌われたのが始まりといわれています。日本の民謡も

同じですね。野外では声は反響はしませんからメロディ自体を「こぶし」で装飾することに

よってより遠くまでひびかせ、進んではより個性的で深みのあるものにしていったのではない

でしょうか。

 

先ほど「教会音楽には『こぶし』はない」といいましたが、ご存知の通り、アメリカの黒人系

の教会ではフェイクばりばりのゴスペルソングが歌われています。これは先の「法則」に照ら

すと、元々は普通のツルンとした宗教歌だったのを、いわゆる「コットンフィールド」で厳し

い労働に明け暮れていた黒人奴隷たちが、仲間の死後にその魂を神の御許へ送るため

に日ごろ畑で歌っていた「ブルース（もしくはその原型）」のスタイルで歌をささげたのが始ま

りだったのでしょう。興味深いことに、今日アメリカンポップスのスターと呼ばれるブラック系の

歌手の多くはこうした黒人教会で幼少のころから歌っていた人が実に多いのです。

つまり、「こぶし」のある歌というのは洋の東西を問わず大衆的で、聞いた人々の心の奥

底に届くいわゆる「血に語りかける」歌であるといえるのかもしれません。

 

主な「こぶし」は楽譜にすると（楽譜は苦手ですが）、３連符や５連符、また16分音符

などであらわされることが多いようです。ところがそうした楽譜を見て歌うと、どうしてもそのま

ま３連符や５連符として機械的な歌になってしまいます。この場合「こぶし」のオタマジャク

シ１つ１つはそんなに重要ではありません。、止まった音がたくさんあるのではなくて、１つの

音が動いていると考えればよいのです。

歌い方はお手本とする歌手のＣＤを繰り返し聞いてまねをしながらいろいろなパターンを

覚えていき、独自の工夫を重ねて歌の中で使っていく、というのが一般的です。場所によ

って情熱的に、あるいは、スピード感をもって、小気味よく「こぶし」をまわすことが重要で

す。聞いていて小気味よく自然な流れが感じられないと意味がありません。

 

ところで、最近のＪ−ＰＯＰの中にはやたらめったらフェイクを使いすぎて元のメロディの魅力

が埋もれてしまっている楽曲が少なくないように思います。本来あくまでもメロディの良さを

際立たせるためのテクニックなのですからむしろ「ここ」と決めた場所に抑制的に用いてこそ

効果的といえるのではないでしょうか。

ま、好きずきですがネ。

今回はここまで。

 

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「阪神・淡路大震災」から12年がたちます。

 

月日はあっという間に過ぎ去り、街は傷跡を隠してゆくけれど、被災された方々の苦しみ、悲しみは消えることは無いのでしょう。あの悲劇を忘れることなく、助け合いと思いやりの心を持ってより良く生きていくことが、あの日「たまたま被災しなかった」われわれに残された「宿題」なのだと思っています。

　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　平成十九年一月十七日　　中西保志

 

【晩秋の尾瀬を行く・その2】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.1.17

 

なんか、去年の「出しガラ」みたいで気が引けるけど、続き物なんで今回は「完結編」ということで。

 

例によって夜の出動なので、防寒と懐中電灯は必須アイテムです。

真夏でさえひんやりとする尾瀬ですから、相当寒いんだろうと警戒して、富士山のときよりさらに厳重に着込んでいったため、前回の写真のような「宇宙人スタイル（？）」になってしまいました。

 

「鳩待峠」の入り口から山道を降りていくのですが、なんせ街灯なんかまったく無い、曇りだから月も出てない、自分たちの明かりだけが頼り、という状態。しかも、富士山のときと違って登山客なんか人っ子一人いない。人間って不思議なもので、薄暗ーいと何か出てきそうでコワかったりするのですが、こうストレートに暗い（というか真っ黒）と、むしろ笑っちゃうというか、不思議な「躁状態」みたいになって、ズンズンと進んでゆけるのでした。時おりそばを流れるせせらぎの音が耳をくすぐる他は何の音も聞こえません。

 

次第に平地に降りてきて、落ち葉で埋め尽くされていた山道が木道に変わります。この木道、東京電力が一本一本敷設しているんだそうで、以前は尾瀬の湿原を観光客が好き勝手に踏み荒らして、荒廃していたのが、木道のおかげでルートが確定し、環境保護にも役立っているということです。そういえばよく見ると木道の板の端っこに「ＴＥＰＣＯ（東京電力）」と小さく刻印してあったりして、さりげなく自己主張してますね。ま、電気料金については言いたいこともあるけど、こういうところは東電さんやるじゃないの、とちょっとだけ見直した単純な俺。

 

「山の鼻」という場所で小休止。ここにはりっぱなビジターセンターや休憩所があるのですがシーズンオフですべて閉鎖。だーれもいません。というか、かれこれ3～４時間歩きっぱなしですが、誰とも会っていません。やっぱりこの時期に来るとこじゃなんですかね。

「そんなこと無いですよ。これから次第に夜が明けてきて、朝もやの立ちこめる中から湿原の全景が姿を現すんです。そこが見ものなんですよ。」とやや弁解気味に力説する「隊長」。なるほど。

 

　　　　　　　　　　　

　

 

ここからは本格的な湿原になり、「牛首分岐」「竜宮十字路」「下田代十字路」とユニークな名称のポイントを通っていきます。だんだんと回りが明るくなり、尾瀬の全景が見えてきました。広さはどれくらいなのでしょう。見渡す限り葦のような水生植物の海原が続きます。本当に何の音もしません。遠くで野鳥のさえずりがたまに聞こえる以外は自分の足が木道を踏みしめる音だけが響きます。あんまり静か過ぎて耳が痛くなりそうです。

 

途中、川にかかった橋がはずされていたり（冬になると積雪で木の橋が折れるので）、木道の一部が破損していたため、迂回ルートを取ったりして、いいよ湿原の一方の端、「赤田代」まで到着。ここには宿泊設備を備えた山小屋が多数あります。が、やっぱり閉鎖中。とにかく暖をとらねばと「隊長」持参のコッヘル（登山用の小鍋）と小型コンロでお湯を沸かし、コーヒーを一杯。あー一生き返る。しばらく仮眠。といっても閉鎖中の山小屋の軒下でゴロ寝するんですが。

 

うとうとと30分ほど眠ったでしょうか。ポツリ、ポツリと顔にかかる水しぶきで目がさめました。ありゃあ雨だわ。大変だ。というわけで急遽その後の予定は切り上げて、もと来た道を引き返します。次第に本降りになってくる雨。ほうほうのていで引き上げです。一応防水加工の服なので水に濡れはしませんでしたが、寒さは2割り増しです。雨でさらに静寂が増したような広大な「貸しきり空間」。救いは風があまり無かったことでしょうか。まるで静かな湖面を必死に渡ってゆく3匹のミズスマシのように僕らは進みます。

 

しかし、尾瀬のこんな風景を見たのはひょっとして俺たちだけじゃないかと思えるほどの異空間でした。かつて富士山頂を「月面」と表現しましたが、こちらは「火星表面」かもしれません。

 

やっとのことで車にたどり着き、そのまま近くの公衆浴場（温泉）へ。いやぁーまいったまいった。何があろうとも終わりよければすべて良し。というか、見たことの無い風景ではありました。（おわり）

 

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【新年明けましておめでとうございます】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2007.1.5

 

新しい年をお慶び申し上げます。

 

今年が皆様にとってよりいっそう良い年になるようお祈りいたします。

 

 

平成十九年　元旦　　　　　中西保志

【中西保志のヴォーカル塾・第12弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.12.18

 

実はつい先日、今流行の「ノロウィルス」につかまってしまい、「地獄のような5日間」を過ごすハメになってしまいました。多くは言いません。「上は噴水、下は洪水」。地獄です。

皆さん、気をつけましょう。気をつけてても、もしつかまったら潔く苦しみましょう。へたに胃腸薬なんか飲むと余計苦しみが長くなります。普通だいたい３～5日間で許してもらえます。名前は「ノロ」だけど、早足です。さーっと出て行っていただくのが最善です。あー苦しかった。

 

ところで今回は「飲酒について」です。この時期、忘年会、クリスマス、新年会とお酒を飲む機会が多く、そこにはカラオケがつき物だったりするわけですが、「ヴォーカル塾」としての見解は、

 

「飲んだら歌うな、歌うなら飲むな」です。

 

え？何キビしい事いってるんだ、って？そりゃそうですよ「ヴォーカル塾」なんだから。つまり「自分はヴォーカリストだ」という自覚がある人ならば、という意味です。

ヴォーカリストにとって「歌う」ということは最高の自己表現であるべきで、酔っ払っていては自己表現もないもんです。歌う前にお酒を飲んでコンサート、レコーディング等をする人がプロ・アマ問わずいるようですが感心しません。何故か？

 

ここでアルコールが人体に及ぼす影響について考えて見ましょう。

一般に「お酒」と呼ばれるものは、穀物や果実などを発酵させてつくられた「エタノール（エチルアルコール）」を主成分とするわけですが、このエタノールは人体に入ると、いくつかの段階で影響を及ぼすことがわかっています。

 

第１にはエタノールによる脳の麻痺。中枢神経系の抑制力がおさえられるため、早期（少量のエタノール摂取）においては興奮状態が助長されます。いわゆる「酔っ払って気が大きくなった」状態ですね。これを「アルコール作用の発揚期」といいます。主観的にはもっとも「うまく歌える」と感じる状態でしょう。

　第２段階。さらにエタノールの血中濃度があがると（つまりガンガン飲むと）、運動や意識をつかさどる神経系にも抑制がかかり、反応速度が遅くなったり、刺激に対して無反応になったりします。つまり「完全に酔っ払った」状態。これを「アルコール作用の酩酊期」といいます。この段階では聴覚や音感は完全に麻痺しています。歌を歌ってももはや「騒音でしかない」状態です。

　第3段階。もっと濃度があがると心臓や肺の機能を低下させ、最悪の場合死に至る「急性アルコール中毒症」状態になることもあります。歌どころではありません。

　第4段階。体内でエタノールを分解する過程で生成される「アセトアルデヒド」の毒性による麻痺。これは俗に言う「二日酔い」のことです。アセトアルデヒドはエタノールより毒性が強く、頭痛、吐き気、心筋梗塞などを引き起こします。

 

問題は同じ量のエタノールを摂取しても「発揚期」で止まる人と、「酩酊期」あるいはその先の「急性アルコール中毒症」まで行ってしまう人がいるという点です。これは体内の体液の量が各々違うからで、同じ量のお酒でも割る水の量によって濃さが変わるのと同じだと考えてください。みんなと同じように飲んでいたのに気がついたら鴨川の河原でぶっ倒れていた、なんてことがよくあります。（これは僕自身の体験）

 

エタノールは主に肝臓で分解（代謝）されますが、このとき2種類の酵素が用いられます。1つ目はアルコールデヒドロゲナーゼ（アルコール脱水素酵素）で、これによってエタノールはアセトアルデヒドに代わります。そしてこれが2つ目の酵素、アルデヒドデヒドロゲナーゼ（アルデヒド脱水素酵素）によって酢酸に代わるのです。

ところが、調査によればこの２つめのアルデヒドデヒドロゲナーゼのほうは日本人の約半数が持っていないかごく少ない量しかない人が多く、つまり日本人には「もともとお酒が飲めない人、飲んではいけない人」が2人に１人はいることになります。

 

以上のことを頭に入れて考えてみてください。このような状態で「歌を歌う」ということは、例えて言えばレーサーがレースの前に景気づけに一杯やって車に乗るようなものです。「自分が自分をコントロール仕切れない状態」でハンドルを握る運転が「良い運転」かどうか、ということです。「気分が乗っていい歌になるんだ」という人もいますが、それは一種の「ドーピング」です。もし仮にそれでいい歌が歌えたとしましょう。では次に歌うときはどうしますか？やはり「いい歌」のために飲みますか？それじゃ最後には「飲まないと歌えない人」になるんじゃありませんか？

 

欧米人（コーカソイド）は先に述べたアルデヒドデヒドロゲナーゼを多量に持つ人が多く、つまり総じて「酒が強い」ために、少々のお酒では酔っ払わないアーティスト・ミュージシャンもいるのでしょう。しかしそれをまねて、日本人が同じことをしてはいけない、ということです。あくまでも自分自身の感覚で自分の「歌」をコントロールできてこそヴォーカリストと呼べるのです。そのことを忘れないでください。

ヴォーカリストを自覚する人、あるいは目指す人ならば、宴会でも「今日は歌うぞ」という日はアルコールはなるべく乾杯程度に抑えて、早めに歌うのが良いでしょう。お酒は歌い終わってから、あるいは2次会の居酒屋でたっぷりと楽しめばいいのではないでしょうか。

 

最後に、今回は「ヴォーカルと飲酒」というテーマでお話しましたが、年末に向けてくれぐれも「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」のほうは徹底してください。お願いします。

 

それでは皆さん、良い年末を！

 

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【晩秋の尾瀬を行く・その２】は、新年に掲載予定。  

 

【晩秋の尾瀬を行く・その1】                                                      2006.12.5

 

中西保志です。

夏に富士登山を敢行した「隊長」からふたたび連絡が入りました。

「今度はオゼに行きましょう！」　はぁ・・・オゼ？

「尾瀬ですよ、群馬の。このシーズンだと貸しきり状態ですよ、きっと」

「はぁ尾瀬、いいですね、行きましょう。」と言ってはみたものの、尾瀬って夏に行くとこじゃあ・・・？

「そんなことないですよ。たしかに夏の観光で有名だけど、遊歩道は11月半ばまで開放されてるし、今年は暖かい日が多いから、遅い紅葉も楽しめるかもしれませんよ。」

 

♪なつがくーれば　おもいだすー♪

って歌であまりにも有名な尾瀬ですが、関西人の僕はそれまで行ったことがありませんでした。

関東地方の人はわりと遠足とかで行くようですが、やっぱり行くにしても「夏の行楽」って感じですよねぇ。

 

尾瀬は日本最大の湿地帯といわれています。その周辺を2000メートル級の山々に囲まれた盆地状の地形で、数万年前に火山の噴火によって川がせき止められ、取り残された湿地に流れ込んだ土砂や植物の枯れたものが堆積していきました。しかし夏でも気温が低いためそれらの堆積物は腐らず、長い年月をかけて「泥炭（ピート）」となっていきました。その上にヨシやミズゴケなどの水生植物が生い茂り、現在の姿を創り出しているのだそうです。

大正時代に電力会社が尾瀬の土地を買収して水力発電所を作ろうとしたが、すでに当時から尾瀬の自然を守ろうという声が強く、開発は中止され、昭和３０年代以降の行楽ブームによって一般に知られるようになったのだそうです。しかし、当時は環境に対するマナーが行き届いていなかったため、自然の荒廃を招いてしまいました。その後自然に対する影響を抑えるため木道が渡され、人はその上を歩くように決められています。

 

「とにかく寒いんで、富士山のときプラス一枚多めに着込んで。あ、それと靴が重要ですから足にぴったりフィットしたやつを履いてきてくださいね。」

そうなんです。実は富士山のとき、あまりいい靴を履いていなかったもので、足の裏にマメができて、しばらく歩きづらかったのでした。やっぱり装備は足元から、というわけで「隊長」の案内で都内某所の専門店へ。

 

店の壁に、なんと「富士山」と「尾瀬」の大きな写真が飾ってありました。なるほど、この二つは人気の定番コースなんですね。

お話好きで熟練の女性店員さん（直訳すると、おしゃべりなおばちゃん）の、丁寧なレクチャーをうけて、慎重に靴を選びます。登山靴とかトレッキングシューズというのはとにかく重くて硬い。履いて歩くとなんか「鉄ゲタ」みたいで、かえって疲れるんじゃあ？と思うけど、山歩きの靴はなんといっても強度と防水性が大事だそうで、これでも最近のモデルは軽くなったんだそうです。黒のバックスキンのハイカットタイプのがかっこよかったので、これに決定。

さていよいよ出発です。

 

例によって週末の夕方集合して深夜に出発、翌日昼過ぎにはもどって温泉で汗をながす、というパターンです。

今回は新隊員として三味線奏者の清元静二郎さんも参加。

名づけて「晩秋尾瀬・突撃おっさん探検隊」。天気予報では夕方から夜にかけては晴れ時々曇り、翌日は雨の可能性あり。低気圧の影響で雷の恐れも、というところ。

う～ん、必ずしもいい条件ではありませんが、ま、いってみよー。

 

（以下次号）

 

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 【ヴォーカル塾はお休みです。】

 

 

中西保志です。
ひじょ～～～に寒くなってきましたねぇ。
ま、十一月も半ばですから、当たり前といえば当たり前なんですけど、そろそろ朝、布団から出るのがツラくなって来ましたねぇ。
僕は寒がりなので靴下を履いて寝ています。
あ、それとこのごろは寝る前に焼酎のお湯割りに梅干しを入れたのを飲んで寝ます。これ飲むと体がポカポカしてよく眠れるんですよ。
と、いうわけで、

【中西保志のヴォーカル塾　第十一弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.11.17


今回は「飲酒と喫煙について　その1　喫煙」です。

 

まず、断っておきますが、二十歳未満の人は決して飲酒・喫煙はしないように！
それから自動車・バイクなどを運転する前には絶対にアルコールを飲まないようにお願いします。忘年会シーズンを控えて特に注意してください。

 

その上で「ヴォーカルと酒・タバコ」について考えて見ましょう。

厳密に言えばどちらも声には良くはありません。特にタバコは、吸ったケムリがまさに「声の出所」を逆流するように肺に吸い込まれていくわけですから、その途中にある大事な大事な「声帯」にも当然影響が出ます。タバコに含まれるニコチンやタールの人体に対する悪影響は、いまさらここに揚げるまでもないほどですが、長い間大量にタバコを吸い続けると声帯の張りが失われ、弛緩（ゆるゆる）状態になってしまうことがあります。こうなるとヴォーカルどころか「声」そのものがでにくくなり、最悪の場合「喉頭がん」の原因ともなる可能性すらあるそうです。そうなったら声帯切除、つまり「声」を失うことになりかねません。普段吸わない人、吸ったことが無い人は「ヴォーカル」という立場から見てもなるべく吸わないほうがいいと思います。

 

よく、ロック系のヴォーカリストが不良っぽいイメージ作りとか、声をハスキーにしたいからとかの理由でわざとタバコをたくさん吸ったりする場合があるようですが、タバコを吸っても声そのものはほとんど変化しません。先ほど書いたようにニコチン・タールの影響で声帯が傷つく可能性が高く、おまけに肺活量が低下するために声量が落ちて、声が小さく出にくくなるだけです。同じだけがんばっても声が小さいので、さらにがんばって出そうとしてよけいな負担を声帯にかけ、さらに声帯を壊してしまうという「悪循環」に陥ってしまうだけです。
楽器ならエフェクターひとつで音色を変えることが出来ますが、「声」はそうはいきません。一度失われた「声」は二度と元に戻らないのです。自分の持って生まれた「楽器」を大事にするべきだと思います。

 

とはいえ、ここだけの話ですがクラシックの某大先生は有名な愛煙家だという噂もあるし、個人差のすごくある問題でもあるのですが。

 

しかしまぁ、最近の世間の「タバコ撲滅運動状態」は僕としてはいかがなものか、と「ヴォーカル塾」を少し離れて感じています。たしかに上に述べたように、タバコには人体に対する悪影響が考えられるのですが、それにしてもちょっと過剰反応しすぎではないでしょうか。

 

最近は駅、公共の建物、レストラン、劇場などでも全面禁煙のところが多いし、東京のどこの区だったか、路上喫煙禁止にしちゃった自治体まであったような。吸える場所がなくなれば吸う人はいなくなるのでしょうか。
1920年代にアメリカで「禁酒法」というのが出されましたが、お酒（密造酒）の消費量はむしろガンガン増えたそうです。ギャングの資金源になったりして逆効果だったためにこの法はその後廃止されました。それに政府は財政難になるといつもタバコの税金を重くするんですよね。文句が出にくいから。このあたりもなんか「弱いものいじめ」な感じがします。
たしかにふた昔くらい前までのように電車の中でさえスパスパ吸ってるおっちゃんがいたりするのはひどいと思うけど、ただタバコ吸ってる人を見ただけで「えんがちょ」状態というか、近づかないというのは「いきすぎ」な感じがします。

 

別に僕が昔、「ＪＴ」の応援歌を歌ったことがあるから弁護するわけじゃないけど、やはり習慣性のあるものですから簡単にはなくならないし、本人にとっては「スーッとする」「一息つける」など、一種の覚醒作用があるのも事実でしょう。「体に悪いことは何一つやってません！」と言い切れる人ならともかく（僕にはとてもそんな自信はありません）、気分転換に何本か吸うくらいのことまでとやかく言うことはないと思うんですがネェ。

「空気が汚れる」という意見もあるようですが、自動車・バイクの排ガス、不燃ゴミの燃焼ガス、エアコン・冷蔵庫のフロンガス、工場の排煙など、空気を汚すものは他にもたーくさんありますよね。マイカーの中だけ禁煙にして、排気ガスを撒き散らして走っていてはあんまり威張れないと思いますよ。

 

ようするに結論は「マナーを守って、ほどほどに」ってことになるんでしょうか。
「交通ルール」のように「喫煙ルール」を作ってそれを徹底させるしかないでしょう。（マイ吸殻いれの携行、歩きタバコの禁止、ポイ捨て厳禁と、乳幼児・病人のいるところでは禁止、とか）交通事故が多いからといってマイカー全面禁止！とはならないように、喫煙それ自体をヒステリックに取り上げるより、節度を持った楽しみ方をしてもらうようにもって行くしか無いと思います。

 

ただ、「自分はヴォーカリストだ」という自覚を持っている人なら吸うべきではないし、もし吸っているなら直ちにやめるべきです。

ちなみに僕は今も昔もまったく吸っていません。
次回は「その２　飲酒について」です。

 

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【中西保志のヴォーカル塾・第十弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.10.24

 

中西保志です。

急に寒くなってきましたねぇー。ほんの1ヵ月半前、「あづいー、死にそう～」なーんてうめいてたのが悪い冗談みたいですねぇー。今年は特に気温の寒暖の差が激しいように感じます。「カゼをひく絶好のチャンス（？）到来！」って感じです。皆さん、十分気をつけましょう。この時期のカゼはインフルエンザなどの流行性のものであることはほとんどなく、からだの調整力が気温の変化についていかないために起こるいわゆる「感冒」であることが多いので、食事と睡眠さえしっかりとっていれば乗り切れると思います。というわけで、今回のテーマは「食事と睡眠」です。

 

どんな仕事でもそうですが、食事と睡眠（と排泄）に代表される「生活リズム」が順調に行われてこそベストパフォーマンスを残せるというものです。クラシック系の声楽家の中には信じられないほど大量に食べるヒトがいるそうです。しかもおいしいものに目が無い人が多いようですね。つまり「大食家（グルマン）」で「美食家（グルメ）」というわけです。

 

確かに「歌う」ということは通常の生活ではありえない大声を持続的に出し続けるわけですから相当なエネルギー（カロリー）を必要とするのですが、どんなにハードなステージをこなす人であっても、実際に歌っている時間は1～2時間、リハーサルを入れても3～４時間程度ではないかと経験的に思います。しかも毎日毎日ステージをこなす人はまれで、そうなると通常のお勤めの人と比べても「消費カロリー」という点においてはさほど差があるとは思えません。（ミュージカルなど、例外はあると思いますが・・・）そうだとすると食事量は通常と変わらないものであって間違いは無いと思われます。

 

食事のメニューに関してですがこれは何を食べても大きな問題は無いと思います。僕の知り合いの女性ヴォーカリストでめちゃくちゃ辛い物好きな人がいますが、それが原因で声がどうこうなったとは聞いていません。一応理屈づけるなら、喉のわりと手前で「食道」と「気道」は別れていますから普段食べなれたものであれば「気道」のほうに悪い影響があるとは考えられません。

 

ただし、好きだからといってインスタントラーメンばっかり食べていてはやはりパワフルな声はでにくいと思いますし、何より食事時間が不規則ではせっかくの栄養がきっちりエネルギーになってくれません。一般的にいえば「比較的高カロリーのものを少量づつよくかんで」食べることが出来ればよいと思います。

自分自身のことを言えばまず第一に「歌う前2時間にはものを食べない」というのが原則です。これはまず食べ物の消化には想像以上に時間がかかり、食べたものがすぐ力になるわけではないという点と、消化中は体内の血液が胃に集まるのでむしろ体はパワーダウンするということ、それからこれはちょっとキタナイ話ですが歌ってる最中にゲップが出たり、胃腸が弱いときに戻してしまう可能性もあるからです。同じ理由で飲み物は炭酸系は避けたほうが良いでしょう。どうしてもおなかがすいてたまらん！というときはチョコレートや飴玉など糖分をすばやく吸収できるものが良いでしょう。それから喉（のど）をひとつの楽器と考えるならあまり冷たいものや熱すぎるものはひかえたほうが良いと思います。

 

次に「睡眠」ですがこれは出来れば取れるだけとったほうがいいと思います。

以前にもお話しましたが、「人間が眠っている状態」というのは呼吸ひとつとっても完全な「腹式呼吸」状態になっていますし、体のどこにも力が入っていない状態ですから当然喉（のど）も最高にリラックスした状態なのです。聞いた話ですがかのホイットニー・ヒューストンはかつてなんと一日14時間の睡眠をとっていたそうです。いくらなんでもそりゃ寝すぎだろ！と思いますが、彼女の完璧なパフォーマンスを考えると、起きて活動している時間のほとんどすべてはレッスンやトレーニングに費やされていたでしょうから生活の、というか生存のすべてが「ヴォーカル」に捧げられていたわけです。ものすごい「プロ意識」というべきでしょう。

そこまでやる必要はありませんが、逆に「夜更かしをして寝不足の状態ではいい声が出るはずが無い」という常識的な知識は持っておくべきだと思います。

 

今回はここまで。次回は「飲酒と喫煙について」です。

 

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【富士山登頂記　その３】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.10.11

 

何とそこには・・・日の出を待つ登山客が数十組も待機しているではありませんか。

頂上には風をさえぎるものがあまりなく、日の出を待つには寒すぎるのです。そこで山小屋のある9合目や9合５勺の地点にかたまっているわけなんですが、その様はまるで何かの災害にあった避難民のようです。男も女も老人も子供もみな地面に座り込み、かねて用意のホカロンを手に、暗闇にうごめいています。寝ている人もいるようです。

このへんまで来ると、口の中は細かい砂でジャリジャリになってくるし、そういえばさっきから小さい雹（ひょう）というかアラレみたいな氷の粒が舞っています。ここで30分ほどの時間調整。

 

やがてうっすらぼんやりと周りの景色が見え始めてきました。午前4時を過ぎたでしょうか。いよいよ最後の力を振り絞り、「感動のフィナーレ（？）」に向けて登り始めます。

よく言われることですが、「最後の最後」が一番苦しいんです。頂上はすぐそこに見えているのに、なかなか登りきることができません。頭はますますボヤーンとしてくるし、耳鳴りみたいなのも聞こえます。しまいには「オレ、何でこんなことしてるんだろ？」と無意味な疑問がわいてきたりします。

 

　

そしてついに！

頂上にたどり着きました！そこはまるで月面のように（行ったこと無いけど）、静寂と虚無が支配する異空間でした。驚くべきことに頂上についたとほぼ同時に雹は降り止み、やがて東の空から少しづつ少しづつ明るくなってきて、はるかかなたの雲海から巨大な火の玉が顔を出し始めました。

太陽が動いている（ホントは地球が動いてるんですが）ことを肉眼で見たのは初めてかもしれません。先ほどまでのグレーの虚無空間がいきなりオレンジ色の躍動感に切り替わってゆく瞬間・・・なかなか言葉にならない感動です。生命とは、生きるとは、この虚無からの精一杯の跳躍なのかもしれません。・・・などとガラにもなく詩人してしまうほどにインパクトのあるシーンでしたね。

　　　　　　

さて、頂上にはいくつかの施設があります。まず、目を引くのが「浅間大社奥宮」。神社ですね。考えてみればここは日本でもっとも「天上界」に近いところですからね。早速お参りしました。ちゃんと神主さん、巫女さんがいて、お守りやおみくじなんかも売っています。

それから郵便局。例年7月10日から8月20日まで限定で開局しています。速達、書留、小包以外の普通郵便物と電子郵便（レタックス）を取り扱っているそうです。切手・ハガキの販売もしていて、郵便物には富士山頂と書かれた風景印を押してくれるので、暑中見舞を富士山頂から出せば、良い記念になりますね。僕も出しました。

同時期には山頂NTTも開設しているので、登頂の喜びを直に伝えることもできます。 でも、あんまり便利すぎて山頂からの電話で奥さんと「アナタ、帰りにスーパーでダイコン買ってきてね」なんて会話になったらちょっとどうなんでしょう。

一応みやげ物屋もあり、カレーライスや麺類、丼ものも食べられます。（超高いけど）

それから、これは施設じゃないけど、以前気象庁が使っていた測候所の跡があります。実はここが山頂でももっとも高い場所にありまして、さらに急な斜面を数十メートル登ります。もう、こうなりゃヤケだ！登ったろうじゃないの！というわけでさらに上へ。ついに「標高3776メートル」の標識にたどり着きました。現在は気象衛星があるからお役御免となりましたが、平成十六年まではここに観測員が常駐していたそうです。こんなとこで一年間過ごすなんてどんな状態なんだろう。冬なんか零下何十度の極地みたいになるらしいし、ホント、大変な仕事ですよね。だいたい、観測所を作る機材はどうやって持っていったんだろう。やっぱり細かいパーツに分けて担いだんかな。う～んプロジェクトＸ。

 

さて、下山時は登ったときがウソのような快晴で、はるか先まで見渡せる雄大な富士の裾野を楽しみながら登って来た道を降りて行きました。でも、とにかく道が猛烈に悪いので、登山杖が無いとすぐ足をとられてすっころんでしまいます。僕なんか、杖があっても何度もシリモチをついてしまいました。一度なんかコけたところがちょうど富士山状（？）に盛り上がっていて、「カンチョー状態（！）」になってしまい、その後ずーっと痛かったのでした。

ようやく５合目の登山口に下りてきました。ここからシャトルバスで駐車場へ。そして車で裾野の温泉に直行。砂と泥だらけの体を清めてリラックス、リラックス。

 

ところが、風呂からあがって休憩所でお茶を飲んでいるときに「ドッカーン！」とものすごい雷の音。それと同時にバケツをひっくり返したような雨また雨！あと一時間ズレていたらずぶ濡れ間違いなしというきわどさでした。その後帰宅してから知ったのですが、どうやら僕たちが降りてすぐに頂上付近では季節はずれの大雪になり、一瞬にして冠雪状態になったんだそうです。同行の「隊長」いわく、「針の穴を通すような幸運」だったんですねー。日ごろの行い・・・もたいして良くはないはずだけれど、とにかく山の神様には気に入られたようで、素晴らしい体験をさせていただきました。また行くぞ！

 

【追記】

「おにぎり」なんですが、頂上で食べようと思って包みを開けたら、なんかシャーベット状にカチカチになりかけていて、見るからにウマクなさそうな感じになってました。それでもとにかく記念にと思い、無理やり食べたんですが、ま、最初に思ったほどウマいもんじゃあありませんでしたね。やっぱりただの「塩むすび」じゃなく、ノリと梅干くらいはあったほうが・・・。それと保温パックかなんかあったほうが・・・

 

【中西保志のヴォーカル塾　第9弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.10.11

 

今回は少し目先をかえて、「ヴォーカル」、「ヴォーカリスト」の定義について考えて見ましょう。

手元の国語辞典を調べると、

 

「ボーカル」・・・（英　vocal）１．声楽。２．有声。母音。

「ボーカリスト」・・・（英　vocalist）声楽家。歌手。

 

となっています。まあ、一般的にはこのような意味になるのでしょう。

しかし、当塾においてはもっと広い意味でこれをとらえていきたいと思います。すなわち、

 

「ヴォーカル」・・・声によるすべてのコミュニケーション。

「ヴォーカリスト」・・・自分の気持ちを声で伝えるすべての人。

 

という定義で行いたいと思います。たとえば、

 

友達の結婚式でスピーチする人、

恋人に「告白」する人、

大事な交渉事に臨む人、

言いたくないけど、他人の批判・注意をしなければならない人、

授業・講義・演説をする人、などなど・・・

 

そしてもちろん、

 

歌を歌う人　です。

 

伝えたい相手が一人であろうと大勢であろうと、言葉にメロディがついていようといなかろうと、これらすべては「ヴォーカル」である、というのが当塾の方針です。

 

今回はここまで。

 

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【富士山登頂記　その２】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.9.22

 

中西保志です。

 

いよいよ登り始めたのですが、なにしろ夜の十時過ぎですから当然真っ暗闇です。登山口のみやげ物屋の周辺だけが漆黒の闇の中にＵＦＯのように浮かび上がるほどの暗さ。かろうじて、満月に近い月がかすかに足元を照らしてくれています。人工的な明かりのまったく無い世界を体験するのはどれくらいぶりだろう。昔の人が「日の出とともに起き、日没とともに眠った」というのがわかる気がします。（それじゃ寝過ぎだろ！）

 

ここで僕たちの装備一式をご説明しますと、

 

　１　　リュック（胸の前で止められるもの。ガサガサしないので動きやすい）

　２　　懐中電灯（体につけられるもの。炭鉱夫のように額につけるものが一般的）

　３　　軍手（ガケのぼりにはかかせない）

　４　　タオル（首に巻いて防寒具として。下山してからの入浴にも必要）

　５　　厚手のセーター（頂上は想像以上に寒い。５合目の登山口ですでに１８度くら

い。この日、下界は３５度近かったが・・・）

　６　　フリースジャケット（これも防寒用）

　７　　帽子（白いキャップ。道に迷っても見つけてもらいやすい。毛糸の帽子がベスト

だそう）

　８　　ヤッケ上下（風を通さないもの。体感温度は風の強さに影響される）

　９　　トレッキングシューズ（出来ればくるぶしまでを覆うハイカットが望ましい。

下山時に砂が靴に入りにくい）

　１０　厚手の靴下（靴との隙間を空けないため。僕は靴下２枚履きで対応）

　１１　「六根清浄」の登山杖（スキーのストックでも可。登りより降りるときに重宝します）

　１２　水筒（ペットボトルでもよし。ただし、ゴミにすべからず。スポーツドリンクが一般的）

　１３　着替え（下山後入浴するため）

　１４　おやつ（チョコレート、飴玉など歩きながらカロリー補給できるもの）

　１５　カメラ（頂上での記念撮影はしたいもの。写メールでもいいのでぜひ）

　１６　使い捨てカイロ（寒いんです。ホントに）

　１７　お金（小銭多めが望ましい。各合目ごとに山小屋があり、トイレは有料、

２００円也。立ち○ョンという手もあるが視線をさえぎるものが何も無いので

ご覚悟を。山小屋には缶ビールの自動販売機まであるがめちゃ高！）

　

以上。おっと、忘れちゃいけない

 

　１８　おにぎり（登山当日、自分で炊いて塩むすびにして持ってきました。）

 

と、こんな感じです。重装備でリュックはパンパン、そうとうな重さになっています。登山道なんですが、暗いのと道が悪いのとで何度もすっ転びました。山登りというより「ガケ登り」ですね、これは。

ようやく「新６合目」に到着。この時点で標高２７００メートル。各合目には宿泊施設もあって、寝泊りしながらじょじょに頂上を目指すことが出来るようになっています。これなら体力に自信の無い人でも登れるわけですね。

「合目」の由来ですが、夜間登山のときランプの油がなくなるのを目安に「１合目、２合目・・・」としたという説のほか、いろいろとあるようです。

 

一休みののち、また登り始める。このあたりまでは背たけの短い高山植物がチラホラと見えますが、７合目から上になるとそれもほとんどなくなり、８合目からは完全に土と砂利と岩しかない「死の世界」が続きます。（もちろん、降りるときにわかったのであって、この時点では真っ暗なのとしんどいのとで、それどころじゃなかったのですが・・・）

 

やっと８合目（標高３２００メートル）へ。この辺からかなり空気が薄くなってきて、なんか頭がボーッとします。それでもなお登り続けると今度は軽いめまいが・・・。なんか、ものを考えることが出来なくなってくる。「えーと１たす１は・・・２だよな。よし、じゃあ３たす４は・・・え？な、何だっけ？？？」完全に「高山病」の初期状態。（単にオレがバカなだけかもしれんが）

そしてついに頂上目前の「９合５勺」までたどりついた・・・。なんと！そこには・・・。

 

以下次号

 

【中西保志のヴォーカル塾・第８弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.9.22

 

今回は「マイクの使い方」についてです。

 

クラシックの歌手には、広いホールの隅々までマイクなしで声をいきわたらせることができたりするモノスゴイ人がいたりするのですが、これは前に書いたようにクラシックの発声特有の、少ない呼気で薄く延ばした声門を振動させ、響きを増幅して大きくする、という技術を用いたもので、もちろん素晴らしい技なのですが、クラッシク以外の音楽ジャンルには応用することが出来ません。（無理にやろうとするととってもヘンテコな歌になってしまいます。コントのネタにありますよね）

したがってＪ−ＰＯＰでは、ヴォーカリストの口から出た声はマイクによって拾われ、スピーカーによって聞く人の耳に届くことになります。つまり、

　

ヴォーカル　→　マイク　→　アンプ　→　スピーカー　→　リスナー

 

という流れがあることになります。どのように機材が高度、複雑になろうとも基本的にはこの順序であることは変わりません。

何が言いたいかというと「マイク」とは、人間と機械とをつなぐものである、ということです。機械の精度が上がったことによってマイクはとても小さな音を拾ったり、大きすぎる音をカットしたりすることが出来ますが、人を感動させる歌を歌うのはあくまで人間であるヴォーカリストなのです。声をどのように使うか、ということと同じくらいその声を使って歌い上げた「歌」をどのように機械に伝えるか、が重要になってくるわけです。これを「マイキング」といいます。

歌には必ず「起承転結」、つまりイントロダクション、ブリッジ、サビ、エンディングといった起伏の変化があるものです。

たとえば非常に大きな声が出るヴォーカリストＡ君がいるとすると、彼がサビで力まかせにシャウトした声はマイクが拾いきれず、いわゆる「割れ声」として機械に伝わってしまいます。また、小さな声しか出ないＢさんの場合、ずっと一定の声の強さしか伝わらなくて平板な歌になってしまうのです。

 

これらの失敗はマイクが何のためにあるかを知らないために起こるのです。Ａ君の場合、声の大きさに合わせてマイクとの距離を考えながら歌い、サビの部分では声に応じてマイクを口から離せば拾われる声の大きさを調節することが出来ます。Ｂさんの場合は逆に大きく聞かせたい部分でマイクに近づけばいいわけです。自分がどの程度の声を出したらどのくらいマイクとの距離をとればいいかを感覚的につかむこと、これが「マイキング」です。やってみるとわかると思いますがかなり難しい技術です。客観的に自分の声を他人に聞いてもらって、どの距離が自分にあっているかを研究してみましょう。

 

よくマイクのブランドや性能にこだわりを持ち、「マイマイク」を持ち歩いている人がいますが、そのことは熱心でよいとしても、「マイキング」がしっかりできている人は非常に少ないのが現実です。レコーディング・エンジニアを目指すのならともかく、ヴォーカリストとしては「マイキング」を大事にしたいものです。ちなみに僕は「マイマイク」なんて持ってません。だって高いんだもん。

 

今回はここまで。

 

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【富士山登頂記その１】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.9.6

 

中西保志です。

 

先日、富士山に登ってきました。標高３，７７６メートル。いうまでもなく日本の最高峰です。

実は登山というのはこれが生まれて初めてで、いきなり富士山というのはちょっと無謀か？とも思ったのですが、数ヶ月前、夢で「富士山の頂上でおにぎりを食べているオレ」というのを見まして、それ以来、いてもたってもいられなくて知り合いを尋ねまわった結果、いましたよ、「山のベテラン」が。

しかも昨年登って、今年も登る予定だと言うじゃあありませんか。「オレもいくいく！」とついていくことに決定。かくして「中年富士登山隊（定員２名）」の発足であります。

まずは、何の予備知識もなかったので「隊長」にレクチャーしていただきました。

 

１．富士山は夏しか登れない。（７月８月と９月はじめまで）

２．山頂は真夏でも氷点下の寒さ。（雪が降ることも珍しくない）

３．八合目から上は空気が薄くて、軽い「高山病」にかかることがある。

４．登山道は岩だらけ穴ぼこだらけ、「道」というより「ガケ」登りに近い。

５．降りるときは登るとき以上に体力を使う。

 

富士登山なんて小学生でもやってるから簡単か、と思ってたらけっこうな難関だということが次第にわかってきたのでした。特に僕たちがやったのは夜十時ごろ五合目の登山口から登り始め、一気に頂上まで上って「ご来光（日の出）」を拝もうという、とてもハードなコースだったので、十分な準備が必要とのこと。早速、靴、防寒着、懐中電灯その他の装備を用意し、インターネットや本などで知識を吸収して本番に備えました。体力づくりも重要なので、毎日ジョギング、腕立て伏せ、腹筋、ストレッチｅｔｃ。目標があると楽しいもんです。

決行日を７月下旬と定めて、いよいよトライ、という当日に、台風がやってきて流れてしまったり、なかなか実現しないまま夏が過ぎていきました。

そうそう、

 

６．山の天気は非常に変わりやすい。

 

これも重要なポイントでありまして、せっかく登ったはいいが、曇りや雨では「ご来光」は望めません。どうせなら「昇る朝日をバックにＶサイン」の一枚でも写真に撮りたいじゃあないですか。というわけで慎重に慎重をを期して八月中旬の一日を選び、お盆の帰省ラッシュで混み合う幹線道路を巧みに避けて一路富士宮へ。

 

 　　　　　　　　　　

 

まずは腹ごしらえ。地元で評判の「うな丼」（肝吸い付）をわしわしといただき、体力をチャージ。その後登山用シャトルバスに乗って五合目の登山口へ。

お盆のせいか意外に人は少ない。当日の天候は晴れのち時々曇りのまずまずの状態。ただし、山の上のほうはどうなってるかわからない。

ここで最後の装備チェックを行い、売店で登山杖（正８角形のつえ、いわゆる「六根清浄」の鈴のついたアレです。）を８００円也にて購入。何故か木刀もいっしょに売っていたが、アレは何にするんだろう？

午後十時、いよいよ登り始める。（以下次号）

 

 

【中西保志のヴォーカル塾　第七弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.9.6

 

今回は「歌う姿勢」について考えてみましょう。

よく「ヴォーカル入門」なんていう本には、「顔はいくぶん上向きに」とか、「目はしっかり見開いて」とか、「下あごを引いて」「肩は後に引いて力を入れない」「おなかを引っ込める」「かかとを少し開く」・・・あのぉ・・・それってつまり「気をつけ！」みたいな姿勢で歌え、ってことですかぁ？東海林太郎とか藤山一郎（敬称略・それにしても古い＜汗＞）じゃあるまいし、そりゃあ無理ってもんですよぉお代官様ぁ。

だいいち、顔を上向きにしてあごを引いたら首に余計な力がかかって歌うどころじゃありませんよぉ。

 

要するにこの類の本に書かれているのは、クラッシック的な発声をするときの「正しい姿勢」を基準にやや理想化されたものであることを頭に入れておく必要があります。もっともすべてむちゃくちゃか、というとそうではなく、じゅうぶんな腹式呼吸を確保するための姿勢だと思ってください。日本人は猫背の人が多く、どうしても肩が前に出てしまい、肺が膨らみにくいという欠点があるのです。これを防ぐためにはやはり普段からのストレッチ運動が有効です。肩、背中、腰に十分な柔軟性を持たせることはとても重要なので声をよくしたい人は「発声練習」とともにストレッチングも並行して行うと良いと思います。つまり極端な話、腹式呼吸が十分に確保されていればそれほど姿勢に気を使う必要はない、ということです。特にＪ−ＰＯＰはステージ上を動き回ったり、ダンスを取り入れたり、またイスに座ったまま歌ったり、楽器を演奏しながら歌う場合もあるのですから。

 

ただ、やはり猫背は見た目にも良くありませんから背筋を鍛えて矯正すると良いでしょう。コルセットなどで普段から癖をつけるという方法もあります。　

僕が歌う姿勢で気をつけているのはただ二つの点です。それは両足の親指を意識する、ということと、その足先を見ない、ということです。どういうことかというと、足先が外開きになると体の重心が後に行ってしまい、バランスをとるために胸や肩が前に出やすいからです。両足の親指を意識してやや内股気味に立つと重心が前に出て胸や肩は引き気味になるのです。ただしその状態で足先を見てしまうとノドの気道がつぶれて呼気が十分に出ません。したがってあくまで自分のなかで親指がやや内向きになっているのを確認して声を出すということです。これは座っているときも同じです。足の指を意識することで体が自然と前に出て、肩が開きやすくなります。

ついでに歌うための理想的な体形は、というと、いわゆる「鳩胸出っ尻」というのが良いようです。自慢じゃあないけど僕はコレです。こういう体形の人は日本人には少ないようですが、このことも日本人ヴォーカリストの評価にかかわっているのかもしれません。ある程度のウェートトレーニングで体形を変えることはできます。

 

今回はここまで。

 

【残暑お見舞い申し上げます。】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.8.15

 

中西保志です。

 

皆様方のおかげを持ちまして当サイトは三年目に入ることとなりました。

これからも多くの方々に愛されるより良いサイト運営を目指して、努力していきたいと思います。

今後とも変わらぬご支援・ご声援をよろしくお願いいたします。

恒久の世界平和を願って
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　平成十八年　　八月十五日　　　　　　中西保志

 

【中西保志のヴォーカル塾・第六弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.7.29

 

中西保志です。

いやぁー日本全国、梅雨でグジョグジョになりましたねー。

例年だと僕の誕生日（7月18日）あたりを境にして梅雨が明け、いよいよ本格的な「夏」到来！となるんですが、今年はかなりずれ込みました。まあ個人的にはあまり暑くなくてしのぎやすい気温だったりしたのですが、雨ばかり続くと洗濯物は乾かないわ、食べ物はすぐダメになるわでうっとうしいし、農業関係の方や海の家関係の方々のご心配を思うと、やはり夏はカンカン照りじゃないとまずいんでしょうね。また各地で土砂災害などが出ているようです。被災された方々の一日も早い復興をお祈りいたします。

 

さて、「ヴォーカル塾・第六弾」はいよいよ「発声その2」、実際に声を出してみる段階になりました。その前に例によって前回までのおさらいをしましょう。

 

人間の声は肺からの呼気が声帯を通るときに「声唇」と呼ばれる2枚の弁の開け閉めで声の高低がきまり、「声唇」の表面の「声帯靭帯」（「声門」ともいう）が振動することで微妙なニュアンスが生まれ、それがのどの奥で共鳴し、さらに口の形によって音色を変化させることで声となる、でしたね。

 

発声といえば、ひとつ面白いことがあります。音楽のジャンルによって声の音色は大きく異なります。たとえば、クラッシックの歌手の人は、もちろんその人その人によって微妙な個性の違いはあるものの、いわゆる「クラッシックの声」として聞こえますね。また「浪曲の声」「演歌の声」「民謡の声」などなど、「いい声」「悪い声」という以前に「楽器」が違う感じでわれわれの耳は認識します。医学的にはまったく同じ形の体の器官なのに、この「違い」はどうして起きるのでしょうか。

じつはこれこそが「人間の声」の、どんな楽器にもまねのできないすばらしい特徴なのです。

これは「人間の体」一般に置き換えてみるとわかりやすいと思います。たとえばプロレスラーの肉体は、普通の人間がやったら死んでしまうようなリング上の「闘い」に耐えられるように、特別なトレーニングによって鍛え上げられています。バレエダンサーの肉体、マラソン選手の肉体、野球選手、相撲取り、歌舞伎役者、などなど、各々のジャンルに向いた「体つき」というものがあります。しかし、彼らとて赤ちゃんのときからそんな肉体だったわけはなく、ものごころついてからの鍛錬によって、また実際のプレイの経験によってじょじょにそのジャンルに向いた肉体を獲得していくのです。

 

「声」もまったく同じです。もって生まれた個性はあるものの、後天的な鍛錬によって声唇、声門、喉頭、口の形などひとつひとつが「このときはこう」という「振り付け」通りに瞬時に変化しているのです。したがってクラッシックの発声はクラッシクの「振り付け」が、浪曲には浪曲のそれが存在します。

大まかに言ってクラッシク系の発声は声唇をできるだけ薄くのばして喉頭室（のどの空間）をひろくし、声門にぶつかる呼気の圧力（声門下圧という）が少なくても効率よく振動するような発声です。

これに対して浪曲などの発声はむしろ逆に声唇をできるだけ分厚くして、閉じ合わせる部分の表面積を広く取り、喉頭室を狭くして響きをひずませることによって複雑・微妙な味わいを狙った発声といえるでしょう。この場合は声門下圧が強くないと声になりません。ジャズ、ブルース系の発声もこれに近い要素があります。

 

さてＪ−ＰＯＰの発声はというとこれは歌い手によってかなりの差がありますが、あえて言うなら声唇の厚さ、喉頭室の広さ、呼気の強さが上の２つの中間に位置するような、すなわち地声（ふだんしゃべっているときの声）の発声に近いものが多いようです。Ｊ−ＰＯＰの場合、いわゆる「先生から生徒へ」とか、「師匠から弟子へ」受け継ぐものではなく、その人の個性に左右されるジャンルなのではっきりとした分類が難しいのです。「振り付け」なしのアドリブという感じですね。

 

では実際に声を出してみましょう。ピアノまたはキーボードなどを一緒に鳴らしながら、無理のない高さから「マメマメマメ・・・」と発声してください。このとき「マ」がシの音だとすると「メ」がドの音になるようにしてください。つまり、となり合った音の高さ（半音の関係）で「マメマメマメ」とくりかえすのです。姿勢は軽く足を開き、ややアゴを引き気味にして肩の力を抜きます。のどの奥がリラックスして広がっているのをイメージします。このとき、前回説明した「アクビの口」で発声してみてください。これがもっともノドがリラックスした状態です。一通りやったら半音づつ高くしていってください。ノドに力をいれないようにしながらじょじょに高くスライドしていくと、自然に声が裏声（ファルセット）になっていくはずです。裏声は非常に大事な発声です。必ず地声と裏声両方の声域で練習しましょう。苦しくなる少し前の高さから、今度は半音づつ降りていきます。低いほうも苦しくなる手前で止まります。ここまでが1セットです。次に「マメマメ・・・」を「マモマモ・・・」に変えてやってみましょう。のどの奥の変化がわかるはずです。それから鼻の奥も響いていることも感じられるでしょう。

これらを２セットくらいやってみてください。あまりやりすぎても意味がありません。最初に声を出す前に息を吸い込まないこと。大きな声を出そうとせず普通に話すくらいの強さで発声してみてください。これを毎日続けると、出せる声の範囲がじょじょに広くなってくるはずです。

 

カラオケなんかで歌う前にも、腹式呼吸とこの発声練習をやっておくだけでかなり良いウォーミングアップになります。歌う時だけではなく、スピーチや発表をするとき、あるいは重大な告白（！）をするときなんかにも有効です。

どんなことでもそうですが、いきなりやってはいけません。スポーツに準備体操が欠かせないように、「歌う」こともりっぱな「運動」であることを認識しましょう。

 

ところで、こんな経験をしたことはありませんか。ビデオなどで録画（録音）された自分の声を聞いて、ふだん自分が認識している自分の声とちがうと思った、なんてこと。実は自分が聞いている「自分の声」というのは口から出て外の空気を振動させている「外の声」と自分自身の体の内部（内耳）に響いている「内の声」とのミックスされたものなのです。録音された自分の声は「外の声」だけですから、違う感じがするんですね。しかし他人には「外の声」しか聞こえませんから自分の声を録音してみて客観的に聞いてみることはとても大事です。まず自分の発声と声の質を自覚しましょう。

 

では次回はいよいよ「歌う」編です。

 

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【中西保志のヴォーカル塾・第五弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.7.11

 

中西保志です。

 

ワールドカップ・ドイツ大会もイタリア優勝という結果で幕を閉じました。心配されたテロなどの発生もなく、大成功だったと思います。

 

ジーコ・ジャパンの予選リーグ敗退で、「最悪！」とか「絶望的！」とか言う声がありますが、僕はそれはずいぶん「ハイクラスなものの見方」だと思います。1998年フランス、2002年日韓、2006年ドイツと、曲がりなりにも3連続本大会出場は立派（何しろそれまで一度も出た事がなかったのですから）だし、勝負は時の運なのだから、とにかくこの結果を踏まえて次回2010年南アフリカ大会に向けてがんばってほしいものだと思います。

 

さて、今回は「実践編2・発声その1」です。

 

前回のおさらいをしますと、人間の体を直立した大きな注射器だとすると、シリンダーに当たるのが「肺」、ピストンに当たるのが「横隔膜」、ノズルが「気管支」である、ということでしたね。今回のテーマ「発声」ではそのノズルの先端についている「笛」が主役です。

 

この「笛」のことを「声帯」といいます。「のど笛」なんていいますよね。

鳥類には声帯はなく、それよりもっと肺に近い部分にある「鳴管」という器官で泣き声を出しているそうです。そのため鳥たちは肺からの吐く息（呼気）を「鳴管」にぶつけて出す単純な音色しか作れず「ピー」とか「カー」とかの泣き声で鳥の種類がわかったりするわけです。逆に言うとその程度の「色分け」しかできません。

 

人間の声帯はこれとは異なり、非常に複雑かつデリケートにできています。鳥類の「鳴管」に比べてより脳に近い部分にあることによって微妙なコントロールができるのではないかと思います。

まず「声唇」と呼ばれる2枚の弁によって「音」が生まれます。「声唇」は随意筋で、自由に動かすことができます。これを小さくすぼめると高い声が、大きく開くと低い声が出ます。さらに細かく見ると、左右の「声唇」が閉じ合わされる部分の粘膜を特に「声帯靭帯（じんたい）」といいます。正確にはこの「声帯靭帯」が振動するのです。ところがこの「声帯靭帯」だけは不随意筋、自由自在に動かせないんです。つまり、大まかに高い声、低い声というコントロールはできても、微妙なニュアンスをつけるのは難しい、という考えてみればあたりまえな結論になってしまうのです。ここまで読んでくれた人、すみません。

 

でも、思い出してください。前回の「腹式呼吸」で説明したように、不随意筋自体は動かせなくても、その周りの筋肉を使ってある程度のコントロールは可能です。声帯全体を収めている「喉頭」という軟骨組織のまわりの筋肉によって、「声帯靭帯」も引っ張られて動きます。たとえば、アクビをするとき、喉頭の前の部分が下に引っ張られ、結果的に膜が伸ばされた状態になります。実はこの「アクビのポーズ」は声帯にとって非常にリラックスした状態なのです。発声練習の時などによくこの状態で行いますので覚えておいてください。

 

「声帯靭帯」の振動は「声唇」の状態とも密接に関係しています。

「声唇」が柔らかな状態だと柔らかな音質になり、硬いと硬くなります。

また持って生まれた「声唇」の厚さや「声帯靭帯」の閉じ具合、閉じる圧力、わずかな形状の違い、また声帯そのものの大きさも音質に影響します。一般に女性の声が高く、男性の声が低いのは声帯の大きさの問題が関係しています。少年期「声変わり」も、体の発育に伴って声帯も成長するためだと考えられます。

 

「声帯靭帯」がたるんでいるときれいな（安定した）振動は生まれません。したがってきれいな発声のためには「声帯靭帯」にある程度の張りを持たせる必要があります。いわゆる「発声練習」とはそのために「声帯靭帯」の周りの筋肉を刺激しているのだと考えればよいわけです。

 

まとめると、人間の声は肺からの呼気が気管支の先端の声帯を通るときに「声唇」と呼ばれる2枚の弁を開け閉めすることで声の高低をきめ、「声唇」の表面の「声帯靭帯」が振動することで微妙なニュアンスが生まれ、それがのどの奥で共鳴し、さらに口の形によって音色を変化させる（語音）ことで歌声となるのです。

 

全体で2センチにも足りない2枚のヒダのそのまたふちの部分が振動することで、どんな楽器も真似できない音色が2オクターブ以上もの幅で表現できてしまうのです。まさに驚異的な器官ですね。

 

今回はここまで。次回は「発声練習について」です。

  

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【中西保志のヴォーカル塾・第四弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.6.19

 

中西保志です。

ワールドカップ、いよいよ始まりました、と思ったら日本はいきなり大ピーンチ！この原稿を書いているのは「日本ｖｓクロアチア戦」の数時間前ですが、いかなる結果になろうとも、最後の最後までジーコ・ジャパンを応援しましょう！！！

 

さて、ヴォーカルについて前回まではソフト面（注・給食のメニューではない）から見てきましたが、今回からはいよいよ「実践編」ということで、ハード面（注・硬い焼きそばではない）から具体的に見ていきます。今回はまず、「呼吸」について。

 

生物（動植物）はすべて何らかの形で「呼吸」しています。

人間の場合、鼻や口などから吸い込んだ空気を肺に送りこみ、肺の毛細血管上で血液中の赤血球に空気中の酸素を取り込んで二酸化炭素を放す、いわゆる「ガス交換」をしています。

「声」とは吸い込んだ息をある特定の意図のもとに吐き出す、つまり「呼吸」の一種なのです。

 

ここで少し想像して見ましょう。人間の体を直立した大きな注射器だと思ってください。注射器のピストンが下に動いてシリンダー内が広くなるとノズルから空気が入ってきます。これが「息を吸った」状態、反対にピストンを押し上げてシリンダー内を狭くするとノズルから空気が出ますね。これが「息を吐いた」状態です。このシリンダーに当たるのが「肺」、ノズルに当たるのが「気管」です。

では、ピストンにあたるのは何でしょう。答えは「横隔膜」です。肺と他の内臓（胃・腸・肝臓など）との境目にある筋肉で、これが上下することで肺の大きさが変わり、スムーズに呼吸することができるのです。（焼肉の好きな人だったら「ハラミ」って言えばわかりやすいかな？）

 

よく「腹式呼吸」って言いますよね。それはこの横隔膜を下げて肺を大きく膨らますことによって「大きな声」や「響きのきれいな声」「長く続く声」を出すことができる、という呼吸法のことです。

俗に「肩で息をする」といいますが、肩には「ガス交換」の作用はありませんから、これはピストンがあまり下がらず、シリンダー内が非常に狭いために早い呼吸を繰り返す状態を言います。反対に「おなかから声を出す」といいますが、これはピストンが十分に下がってシリンダー内にたっぷり空気が入っているために大きく、長く、自由自在に声が出ている状態を言います。

つまり「横隔膜」をコントロールできれば自由自在に歌うことができるはず・・・なんですが、そうは問屋がおろさない、この「横隔膜」、実は「不随意筋」と呼ばれる種類の筋肉なんです。

 

「不随意筋」とは読んで字のごとく「自分の意思ではコントロールできない筋肉」のことです。反対に手足の筋肉などは「随意筋」、自由に動かせますね。なぜこんな違いがあるかというと、「呼吸」や「血液の循環」はわれわれが眠っている（意識を失っている）時も休むことはできないからです。つまり肺や心臓はわれわれが生まれたときから一日も一時間も一分も休まず働きっぱなし、ほんとにほんとにご苦労さん！なわけです。自律神経系の筋肉ともいいます。

 

でも、世の中には「腹式呼吸」という言葉があるし、声のよい人、よくない人がいるのはどうして？はい、答えは横隔膜自体は不随意筋でも、その横にある筋肉は動かすことができるからなんです。これを「横腹筋」といいます。腹式呼吸においてはこの横腹筋を動かすことによって横隔膜を下に押し下げることができるのです。また、股の付け根から骨盤の左右の出っ張りに向かってついている「斜腹筋」という筋肉も横隔膜を動かすときに有効です。これらを鍛えることによってより深く呼吸ができるようになるわけです。それだけじゃなくて、この横腹筋や斜腹筋を動かすと内臓脂肪を燃焼させることができるということで、最近話題のメタボリック・シンドロームの解消にも有効なんだそうです。ダイエットによくて声にもいいなんて一石二鳥ですね。いろいろなトレーニング法がありますので興味のある方は調べてみてください。

 

ところで、われわれ人間は毎日必ず腹式呼吸をしているんですが、それはどんなときだと思いますか？答えは「寝ているとき」です。ためしに仰向けに寝転がってみましょう。みぞおちの辺りに両手を置いてみてください。息を吸うときはおなかが膨らみ、吐くときはへこんでいるはずです。今度はすばやく立ち上がってその辺を軽く走ってみてください。止まって同じように呼吸してみると、今度は吸うと胸が膨らみ、吐くとおなかが膨らむでしょう。つまり眠っているとき、人間はもっともリラックスした状態にあり、深くゆっくりとした「腹式呼吸」状態になっているが、激しく活動しているときはできるだけ早く酸素を取り込むために細かく浅く呼吸するので「胸式呼吸」、つまり「肩で息」する状態になるわけです。

 

ヴォーカルに使う「腹式呼吸」は理想を言えば歌を歌うときに、寝ているときのような深い呼吸を自由自在にできないか、ということで考えられたものなのです。その方法は①横腹筋、斜腹筋を鍛えてある程度呼吸の深さをコントロールする。それともうひとつ、②寝ている時に近い、「リラックス」した状態で歌う、ということです。①はトレーニングによってできるようになりますが、②はいわば「気持ちの問題」ということになります。

よく、「あがり症」という人がいますね。大事なときに心臓がドキドキして、顔が真っ赤になったりして（そういうときの呼吸はもちろん「胸式呼吸」です）。これを克服するために、腹式呼吸はとても有効です。考えてみてください。どんなあがり症の人でも寝ているときは「腹式呼吸」なんです。つまり身体の機能としてはみんな持っているわけです。それを思い出しながらやや広めに足を開き体の重心を下腹辺りに意識してまず息をゆっくり吐ききってみましょう。そのときおなかの筋肉を絞るようにしてみてください。そして吸うときに横腹筋が左右に開き横隔膜が下がるのをイメージしながらゆっくりと吸い込んでください。これを１セットとして一回１５秒くらいかけて３～５セットくらいやってみてください。きっとよい効果が現れるはずです。

 

よいヴォーカリストとは歌を歌うとき最高にリラックスした状態を心身ともに作ることができる人のことだと思います。今回はここまで。

 

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このたびの「インドネシア・ジャワ島中部地震」におきまして犠牲となられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、被災されましたすべての方々の一日も早いご回復と復興をお祈りいたします。

平成十八年　六月　五日　　　　　　　　中西保志

 

【中西保志のヴォーカル塾・第三弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.6.5

 

中西保志です。

いよいよワールドカップ・ドイツ大会がはじまりますねー。今回は地球の裏側なのでリアルタイムでＴＶ観戦するのはけっこうキツそうですが、無事に成功することを祈りつつジーコジャパンを応援していきましょう。

 

さて、第三弾は【概論３・まとめ】です。

これまで見てきたように、日本人にとって「歌」とはまず「和歌」すなわち「詩」であり、単に意味や気持ちを伝える手段であるばかりではなく、一種の「呪文、おまじない」的なものであると信じられてきた（今現在も信じられている？）ということ。それが現代のヴォーカリストにも微妙に影響しているということを述べてきました。

 

では、どのように関係するか、というと前述のように日本の歌詞の表現は一般的に複雑な「比喩（たとえ）」や大胆な「省略」、また多様な修飾語を用いて「間接話法」的に作られているものが多い、すなわちアメリカンポップスならば「アイ　ラブ　ユー」とひとこと言えばすむところを、手を変え品を変えて表現するという文化があるのです（前回の夏目漱石の例・参照）。

その根本的な理由は「言霊（ことだま）」つまり言葉には目に見えない「パワー」があって、うかつに口にすると現実に影響をおよぼす、という考え方にあるのですが、もう一つ、日本の文化は単一の言語で千数百年もの間同じ民族が受け継いできたために、「言語の熟成」が進みどんどん枝葉がのびていき、その過程で外来語や流行語などを取り入れてますます複雑化していく、つまり日々新たな日本語が生まれてきているということも見逃せません。言葉自体が「なまもの」な感じですね。

 

アメリカ合衆国の場合は国自体の歴史がせいぜい２～３百年しかなく、また人種の坩堝（るつぼ）といわれるほど多種多様な民族、文化が入り乱れている国なので言語はいわばもともとバラバラに存在する人の心をひとつにまとめる「ロープ」のような存在であるといえます。ロープは道具ですからなるべくシンプルに力強く実用的で誰でもが使えるものでなければなりません。また常に自己主張をしていないと「坩堝」に飲み込まれてしまうので、いかに自分らしく個性を出すかが、やや大げさに言えば「死活問題」でしょう。したがってもっとも典型的に「人と人を結ぶ」ラブソングでは、できるだけシンプルに作られた「アイ　ラブ　ユー」の歌詞の中の、「いま、自分はどのようにアイ　ラブ　ユーなのか」という「思い」をいかに個性的に歌い上げるか、がヴォーカリストの真骨頂となるわけです。言いかえれば「どのように」の部分はヴォーカリストの個性にゆだねられているわけです。したがって曲自体は「スタンダード」化しやすい、つまりいろいろな「個性」によってひとつの曲がさまざまに表現される機会が多く、曲自体が長持ちするわけです。

 

ひるがえって日本では、あまり自己主張しなくても存在を認められる（むしろ出る杭は打たれる）「ムラ社会」的な雰囲気の中で、「言わずもがな」の暗黙の共通認識が多く、文章の主語さえ省略されることが多いうえに、「言語の枝葉」によって言葉自体が刻々と変化していきます。言語にはもともとそういうところがあるのですが日本語の場合はかなり極端で、数週間海外に出張して戻ってきたらもう仲間の会話についていけない、なんてことがよくあります。また、ほんの数年前に大流行した言葉を今聞くと「懐かしい」とは思うけれど、日常使うことはもうない、つまり「言葉の使い捨て」が起こるのです。「タマちゃん」（2002年）、「なんでだろう～」（2003年）、「～っていうじゃなぁーい。残念！」（2004年）、「想定内」（2005年）とか・・・ね。

こういう国では、「懐メロ」はいっぱい出来ますが「スタンダード」は生まれにくいのです。

 

アメリカ語（英語、スペイン語など）が「ロープ」なら、日本語は「あやとりの糸」みたいなものだと思います。力強さよりも変幻自在な優美さ、実用品というより嗜好品のような感じですね。つまり日本語の歌詞は「どのようにアイ　ラブ　ユーなのか」の、「どのように」をあるていど言葉で表現できてしまう、というかしないと気がすまないように出来ているのです。それで日本の歌詞をアメリカンポップス的に歌うと、トゥーマッチ、つまり「おなかいっぱい」になってしまうことが多いのです。「糸が切れる」わけです。そこで「切れない」ような微妙なコントロールが必要とされます。

したがって日本のヴォーカリストは知らず知らずのうちに「歌詞がいいたいこと・思い」を受身的に伝える存在にならざるを得ない部分があるのです。いわゆる「カタ」の文化ですね。こうした特徴は、例えば民謡や浪曲、あるいは長唄などの純日本的なジャンルにおいては顕著に見られますが、Ｊ－ＰＯＰもその例外ではありません。言い換えると歌詞にぴったりとはまる（聞き手と共有できる）「カタ」を探し出すことがＪ－ＰＯＰにおいては重要になってくるのです。

 

Ｊ－ＰＯＰというジャンルは、現実的にはグローバルスタンダード、つまり西洋音階（十二平均律）であり、またクラシック・ロック・ジャズなどの西洋音楽の強い影響下にありますが、日本のヴォーカリストがその本家本元のクラシックの名曲やロック・ジャズのスタンダードなどを歌った場合、発音の問題をのぞいてもやや迫力不足、個性不足という評価になりがちなのはそういう理由だと思います。このほかに肉体的問題（肺活量など）、言語としての母音・子音（日本語は子音が非常に少ない）も関係しますが、体格的にほぼ差のない韓国や中国のヴォーカリストと比べても国際的評価が高いとは言えないのはやはりこの「文化的問題」が原因でしょう。つまりスポーツでいう「フィジカル」面ではなく「メンタル」面の問題なのです。

 

ところが面白いことに、例えばものすごく歌のうまい外国人ヴォーカリストが流暢な日本語でＪ－ＰＯＰを歌うとどうなるかというと、ものめずらしさを除けばあまりよい評価にはなりません。先ほどの「トゥーマッチ」の状態になるばかりではなくいわゆる「わび・さび」のない平板な印象になってしまうのです。この場合の「わび・さび」とはつまり、「言霊」や「言語の枝葉」を意識した「カタ」のことであり、このあたりがまさに「日本語（の歌）の正体」なのだと思います。

 

まとめると「Ｊ－ＰＯＰ」とは、音楽的には一般にアメリカンポップス・ロックを母体としながら、歌詞においては日本文化の遺伝子を色濃く受け継いでいる「和洋折衷」のジャンル、ということが出来ると思います。

 

では以上のような現状をふまえて、次回からはいよいよ「実践編」にはいります。

 

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【中西保志のヴォーカル塾・第二弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.5.15

 

中西保志です。

今回は前回の続き、「概論その２」です。

 

ひきつづき「日本人と歌」について考えてみましょう。

 

日本人は古代から「和歌」と言う形で折々の自然や人の営み、また自らの心情などを「五・七・五・七・七」の三十一文字（みそひともじ）というきわめて厳しい制約の中で表現し続けてきました。

「万葉集」はそれらを歌集としてまとめた最初のものですが、初期の歌は６世紀末ごろから存在し、全体が完成したのはおそらく奈良時代後期、8世紀末といわれています。

もちろん、「古い」というだけならメソポタミアやギリシャ、エジプト、インドなどには数千年前から偉大な叙事詩がたくさんあります。けれどもそれらの多くは前回見たように、まずはじめに神々に捧げられたものであり、人が人に対して詠んだものではありませんでした。

また、中国においても古くから漢詩が発達し、儒教の経典「詩経」は約３千年前の成立とされていますが、古代中国においては詩とは士大夫（高級官僚）のたしなみであり、一般の識字率は高くなく、要するに庶民とはあまりかかわりのないものでした。

ところが「万葉集」には、天皇や皇族、貴族、僧侶などの歌に混じって、どう考えても支配階級とは思えない下級役人や防人（さきもり、地方の兵士、多くは駆り出された農民）、あるいは当時は野蛮人とされていた東人（あずまびと・関東以北の原住民）らしき人の歌まで収められています。また多くの古代世界では常識だった、女性に対する差別（女性が作った詩が極めて少ない）も見当たりません。

これには漢字の音（おん）だけを利用した「万葉仮名」からさらに「カタカナ・ひらがな」へと変化する「かな」の発明が大きく関係していると思います。むずかしい漢字を知らなくても「かな」さえ読み書きできれば誰でもそのときの気持ちやまわりの出来事を歌にすることができたのです。

王様（天皇）と下っ端役人の歌が同じ歌集に収められている、ということは古代では空前の出来事だったでしょう。

つまり、日本では「法の下の平等」というのは近代までなかったけれど、「歌の下の平等」というのはかなり進んでいたといえるのです。

 

平安時代に入ると、次々と和歌集（詞華集）が編まれるようになりました。

その最初の「古今和歌集」の序文は漢文と和文の2種類で書かれています。その「仮名序（和文）」の冒頭にこのような文があります。

 

「やまとうたは、人の心を種として、万（よろづ）言の葉とぞなれりける。【中略】力をもいれずして天地（あめつち）をも動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ男女（おとこおんな）の中をも和らげ、猛き武士（もののふ）の心をも慰むるるは歌なり」

 

つまり歌さえ詠んでいたら自然現象も神も鬼も自由に操れるし、人間関係や社会情勢さえもコントロールできる、と高らかに宣言しているのです。このような考え方を「言霊（ことだま）」と呼びます。

現在でもよく、結婚式の披露宴のスピーチでは「別れる」とか「切れる」とかの言葉は使わないとか、受験生のいる家では「落ちる」「すべる」は禁句とか、いろいろありますよね、「縁起でもない」とか言って。「縁起」とはもとは仏教用語で、「物事の起こるきっかけ」という意味です。

つまり「別れる」「落ちる」という言葉そのものが、他人の結婚生活や受験の合否に対して影響力をもつという、科学的にはありえない「信仰」がいまだにわれわれのまわりに残っているわけです。

旅行に行く人に「事故に会いませんように」といった後、本当に「事故」が起こってしまったら、何か責任を感じてしまう、そんな感覚です。「あのとき、私があんなことを言ったから・・・」口に出せばそれが現実に影響する、となればその表現には細心の注意が必要になります。

愛の歌でも「君が好きだ」などとは直接言わず、他のものに置き換えて表現したり、やわらかく、美しい表現が尊ばれます。

このようにわれわれ日本人は言葉（そして歌）に対して古代から現在まで、独特な美意識を持ち続けているのです。

かの夏目漱石が英語の教師をしていたころ、「I　ＬＯＶＥ　ＹＯＵ」を訳させて、「私はあなたが好きです」と答えた学生に、「それは単語を置き換えただけだ。この場合はたとえば『今夜は月がきれいですね』と訳すべきだ」と教えたという話が残っています。

 

アメリカンポップスの歌詞が多くの場合、非常にシンプルに「I　ＬＯＶＥ　ＹＯＵ」と歌っているのに対して、Ｊ－ＰＯＰの歌詞が非常に複雑な「間接話法」になることが多いのはこうしたことが影響しているのだと思います。つまり、詩としてより高度な技法が使われることが多いわけです。

ところが、まさにそのために日本のヴォーカリストは世界のヴォーカリストに比べて力不足といわれることが多いのです。

次回はそのあたりについて考えていきたいと思います。

 

※本稿の作成にあたり、井沢元彦・著「逆説の日本史」を参考にさせていただきました。

 

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【中西保志のヴォーカル塾・第一弾！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.4.28

 

中西保志です。


唐突ですが、今回から私、中西保志が今まで歩いてきたヴォーカリストという「人生」について赤裸々に語ってまいります。
歌うことが好きな人、プロを目指す人、宴会やカラオケでうまく歌いたい人、そして歌を愛するすべての人にお送りいたします。

 

まずは「概論」から。

 

さて、「歌う」という行為は、おそらく人間が「言葉」を獲得したよりも前からあったのではないかと思います。たとえば鳥たちは言葉ではなく鳴き声でさまざまなやり取りをしますよね。家の近所のカラスなんか実にさまざまな「歌」で交信しています。「こっちにいい餌場があるよ」とか、「ここは人間がいてヤバイからあっちへ行こう」とか言ってるとしか思えない正確さです。犬もその鳴き声で喜び、悲しみ、怒りなどを実に上手に「歌い」あげています。人間が原始時代、初めて交わしたのもこのような「歌」だったのではないでしょうか。

 

やがて、「言葉」というものが生まれてくると、そうした感情や感覚ではなく、「情報そのもの」を伝えることができるようになりました。その結果、情報伝達のための「歌」は必要なくなったでしょう。ところが、自然界には人間にとってさまざまな困難が存在します。地震、台風、旱魃、あるいは病気、また猛獣に襲われて命を落とすことだってあったでしょう。そもそも、生まれたらいつかは死を迎えねばならないことを彼らは経験的に知っていたでしょうし、そうした「どうにもならないもの」に対して、何とか良いほうにコントロールできないものかと願い求めたでしょう。

 

いわゆる「歌詞」のある「歌」というのはこのようないきさつから生まれてきたのではないでしょうか。つまり、「どうか獲物がたくさん取れますように」とか、「病気になりませんように」とかそういう願いごとを、超自然的なもの、後に「神様」と呼ばれることになる存在に向かって唱えたのでしょう。ところが、言葉のままだと、大勢で唱えるとわけがわからなくなってしまう。やはり何らかの「節（メロディ）」をつけて唱えればいい、しかもメロディがつくことによっていろいろな感情や気持ちの強さを表現することができるということに気づいたのではないでしょうか。

 

現在でもキリスト教の教会では日曜礼拝などで必ず賛美歌を歌いますよね。そうした中から今日に通じる西洋音楽、またゴスペル、ブルースなどの黒人音楽などが生まれてきています。つまり、今日の音楽はその多くが最初は「人→神」という形で始まり、だんだんと「人→人」という形に代わって行ったものだと思われます。そのときに、歌うことでほかの多くの人たちの気持ちを代表して歌う人、すなわち「ヴォーカリスト」が生まれてきたのだと思います。

 

そしてまたメロディに乗せて憶えれば、多くのことが憶えられる。「文字」ができるまでは、人々は大事なことは「歌」にして憶えたのでしょう。現にアイヌ族の「ユーカラ」という大叙事詩は文字ではなく歌として現代まで伝えられています。

またこれはまったく僕の勝手な説ですが、たとえば「万葉集」とか「古今和歌集」などの和歌も、実は「歌」だったのではないかと思っています。和歌を書いた人が思い思いのメロディで歌い上げたのではないか。現在の東大寺の大仏様はしぶくくすんだような鋳物の地肌むき出しですが、創建当時は金銀や朱によって極彩色に飾られていたように、奈良・平安の昔は和歌も今とはちがう存在だったのではないか。

たとえば、

瀬を早み　岩にせかるる　滝川の　割れても末に　会わむとぞ思ふ　　（崇徳上皇）
　　

（急流が岩にぶつかり左右に分かれてしまうように、あなたと私も別れていくけれど、後々〈来世？〉には川がひとつになるようにまた出会いたいと今思っている。）

 

こんなロマンチックな別れの詩に、どんなメロディがつけられていたんだろうと想像してしまいます。

このように「歌」は時代を下るにつれて「実用品」から「宗教」へ、そして「文化」や「芸術」へ、またエンターテイメントへと変化していったのでしょう。

今回はここまでです。

 

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【クラシカルな一日】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.4.18

 

中西保志です。

 

東京ではもう桜の花も散ってしまいましたが、北陸、東北、北海道あたりはまだこれからじょじょに開花していくんでしょうね。これから若葉萌える季節になっていくはずなんですが、東京は何かこのところずーっと寒くって、僕なんか朝、震え上がって起きてしまうこともあるくらいです。この時期は風邪に気をつけましょうね（って年中言ってますね）。

 

先日、昨年の秋「マンダラ」でのライブでご一緒していただいた元宝塚の真園ありすさんご出演の「天国と地獄」というオペレッタを見に行ってきました。僕は不勉強にもオペラとかオペレッタというものは見たことがなく、というかほとんど関心もなかったのですが、いやぁ～すごかったです。

 

ここで、僕同様このジャンルに「うとい」という方々のためにご説明しますと、オペラもオペレッタもともに「歌劇」なわけですが、オペラが主に「悲劇」をテーマにしているのに対して、オペレッタは「喜劇」であるといえます。「能」に対する「狂言」みたいな存在といえるかもしれません。（って、余計わかんないかな？）とにかくオペレッタが後にアメリカに渡り、ミュージカルの源流となっていくのだそうです。

「天国と地獄」はドイツ人ジャック・オッフェンバック（１８１９−１８８０）がフランスで発表したもので、その序曲は運動会や「文○堂のカステラ」のＣＭで有名な「♪タンターンタカタカタンタンタカタカタンタンタカタカタカタカタカタカ・・・」というヤツです。
ギリシャ神話の「オルフェとエウリディケ」というのをモチーフにしているのですが、元の話は毒蛇にかまれて死んでしまった妻エウリディケを、夫オルフェが黄泉の国まで命がけで取り返しに行くが、最後の最後でオルフェは「家に着くまで絶対に後ろを振り向いて妻を見てはいけない」という約束を破ってしまい、妻とは永遠にあうことができない、という悲劇であるのに対して、「天国～」では倦怠期でうんざりしていた妻が死んでしまって、「こらえてもこらえても笑みが浮かんでしまうオルフェ・・・」という調子です。地獄の王プルートや天国の主人ジュピター（ゼウス）など、神と悪魔が縦横無尽に登場し、そこに浮気相手が絡んできて・・・といったハチャメチャな展開になっていくのですが、主演の方々の鍛え上げた声に圧倒されます。もちろんマイク無しでホールの奥にまで響かせる声量はさすが、というものでした。しいて言うならば僕のような「初心者」の観客を意識してか、歌詞はすべて日本語に訳されていましたが、やはり日本語だと曲の持つリズムというかイメージに対して微妙にズレがあるのかもしれないと感じる部分もありました。特に高音部で歌う場合、日本語のように子音が少ない言語だと聞き取りにくくなる部分があるのです。


僕がかつて取り組んだ「ぶんざ」は、和の旋律に乗せて日本語を歌うというコンセプトでの「歌劇」を目指したものでしたが、メロディというのはそこで話されている「言葉」から生まれてくるものではないかと思います。そういう意味でもし機会があれば今度はフランス語で聞いてみたいなと思いました（意味ぜんぜんわからんけど）。

とにかく大変勉強になりました。そのあと、知り合いのチェリスト、高橋麻里子さんのライブへ。


彼女とは「ぶんざ２００４総集編」でご一緒しました。これもすばらしかった！チェロとピアノによる名曲の数々。ショパンのノクターンやエルガー「愛の挨拶」、フォーレ「夢のあとに」など、これまた「超初心者」の僕でもなんとな～く知ってる、と思える選曲。クラシックの曲ってＣＭなんかでけっこう使われているので意外と身近なんだなーと思いました。

というわけで、とても「クラシカルな一日」でした。たまにはいいもんです、ハイ。


【お勧めの一本】

 

「アマデウス」　（ミロス・フォアマン監督）

 

クラシックをテーマにした名作といえばこれ。

ある夜、発狂して自殺未遂を起こした老人。彼は神父に対し、自分はかつてオーストリア皇帝に仕えた宮廷作曲家アントニオ・サリエリ(Ｆ・マーリー・エイブラハム)であることを明かすとともに、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(トム・ハルス)を暗殺したことを告白する。その真相についてのサリエリの回想とともにストーリーは展開していく。

天賦の才を持ってはいるが、それ以外はどうしようもないダメ人間。天賦の才はないものの、周りを見渡してそつなく事をこなし、何より天賦の才を理解することのできる人間。いわば「天才と秀才のすれ違い」を描いた作品といえる。音楽に限らずすべての芸術、あるいは文化に共通するテーマ、「天才だけじゃメッチャクチャ、秀才だけじゃつまんなーい」つまり両方がかみ合わないとうまくいきません。でも殺したり殺されちゃったりするよりはバカボンのほうがいいな、俺。

 

【いよいよ桜本番！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.3.29

 

中西保志です。

 

このところの暖かさで東京ではつぼみだった桜が一気に開いて、もうそろそろ満開に近くなってきています。
「桜開花は三月下旬」という予報、お見事ドンピシャリ。

やればできるじゃないの気象庁さん！
というわけで例によって近所の公園へお花見に行ってきました。平日なのにけっこうな人出で、やっぱりみんな桜を待ってたんだなぁ、としみじみ思いました。

 

じつは先週、気の早い「夜桜飲み会」に誘われて出かけていったものの、まだあんまり咲いてなくて、「ただの枯れ木」の下でいい年こいて地べたに座り込んでる図はどこから見てもホー○○ス。おしりのほうからしんしんと冷えてきて、何度もトイレに走ったものでした。それが、わずか4，5日違いでこうも景色が変わるとは・・・やはり桜はえらい！これからしばらく楽しませてもらいます。皆さんのところはどうでしょうか。

 

散る桜　のこる桜も　散る桜

 

「儚さ」こそが日本の美しさの原点だと思います。「永遠に美しい花」は造花でしかありません。花と咲いて、散って地を肥やし、また次の春を待つ。その潔さ、清々しさを古来日本人は愛してきたのだと思います。

 

年ごとに　咲くや吉野の　山桜　木を割りて見よ　花のありかを

 

「花」という「現象」はやがて消えてゆくけれど、花を花たらしめた「自然」「世界」のうつりかわりがつぎの「花」を生み出してゆく。「花」という「固定的実体」にとらわれることなく、うつりゆくすべてを愛し慈しむ心こそが「自然」「世界」をうごかす機縁となる。あるようでなく、ないようである。色即是空空即是色。


ガラにもなく仏教哲学してしまいましたが、桜はやはりそんな日本の心に深くかかわっているようです。よかったなぁ、日本に生まれて。

 

で、がらっと変わるんですが、ＷＢＣは「日本の優勝」という、誰もが予想しなかった結末になったわけですが、もちろんおめでたいはおめでたいとして、やっぱりなんか「ヘン」な大会でしたよねぇ。

 

ヘンその１　「なんでシーズンイン直前のこんな時期にやるの？」

案の定、大会後帰国した選手たちの中に調子を落としたり、自動車事故

（！）を起こしたりしている人がいます。日程的に無茶苦茶ですよね。ハワイ

でやりましょうよハワイで。近いし暖かいから怪我少ないよ。

 

ヘンその２　「なんで三回も日韓戦をやるの？」

　　　　　　　少なくとも準決勝は韓国ＶＳキューバ、日本ＶＳドミニカとかでやるべきでした

よね。「三度目の正直」で勝ったから日本はうれしいけど、あれじゃあ韓国ち

ょっとかわいそう。

 

ヘンその３　「なんで各試合の前にアメリカ国歌を演奏するの？」

　　　　　　　「野球発祥の地に敬意を表して・・・」ってワールドカップでイギリス国歌やる

か？柔道世界選手権で「君が代」やるか？
　
ヘンその４　「なんであんなヘタクソな審判なの？」

ギャラの折り合いがつかなくてメジャーの審判はＮＧに。２Ａ，３Ａ，中には大

学リーグの審判まで混じってたってハナシも。しかも例の「ウワサの審判」、今

期からメジャー昇格が決まってたらしいですぜ。ははぁ、だからアイサツがわり

にアメリカ寄りのジャッジを・・・？まさかバーターで・・・？だいたいアメリカの試合をアメリカの審判がさばいてどうすんじゃい！

 

ヘンその５　「なんで三大ネットワーク（ＡＢＣ，ＮＢＣ，ＣＢＳ）は中継しないの？」

　　　　　　　中継してたのはＥＳＰＮってスポーツチャンネル。日本で言うとＷＯＷＷＯＷ

とかスカパーみたいなもん？ちなみにこの時期、スポーツファンは「全米大学バスケットボール選手権」のテレビ中継に夢中だったとか・・・。

 

つまり、今回はっきりしたことは、

１、春先の、混成チームの、一発勝負だったらベスト8以上はほとんどどこの国も差がない。

２、アメリカは（１、の条件では）ずば抜けて強いわけではない。というかたいしたことない。

３、ベースボールは世界的にはとてもローカルでマイナーなスポーツである（オリンピック種目になるのは2008北京まで）。そればかりかアメリカ国内でもナンバーワンスポーツと言えなくなってきている？

という、何ともなさけない事実なのでありました。


もちろん、慣れないグラウンド、ボール、ストライクゾーン、審判（！）、そして気候の変化、時差、食事その他にもめげず、「これぞプロ！」というすばらしいプレーを連発し、みごと第一回優勝に輝いた王監督以下日本チームの皆さんには最高の賛辞がおくられるべきだと思います。
しかし、「次回は三年後」なんていってるけど、ホントにやるのかな～？このままなくなっちゃったら日本がずーっと世界一！ってそれもいいなぁ。

 

とにかく、パリーグはもう開幕、セリーグは今週末でしたよね。僕は今年は「野村楽天」に注目しています。1年でどのくらい強くなるか、ノムさんお願いします！


【お勧めの一本】

 

「八つ墓村（1977年版）」（野村芳太郎監督）

 

横溝正史原作「金田一耕助シリーズ」。金田一を渥美清が演じた異色作。 山崎努の「30人殺し」シーンは壮絶極まりなく、実際の事件をモチーフとしているということもあって、「たたりじゃ～」のフレーズと併せ、むしろ本編よりも有名になりました。

身寄りのない飛行場整備員・辰弥（萩原健一）は、ある日、尋ね人として新聞広告が出ているのを見つけ祖父と名乗る人物と出会い、自分がある山奥の村の名家の血筋であると知らされる。が、その直後祖父は血反吐を吐いて悶死。後日、親戚に当たるという美貌の未亡人（小川真由美）の案内で故郷を訪れる辰弥。そこで彼はこの村の隠された名を知らされる。その名は、「八つ墓村」。村に入ると、突然老婆が辰弥につめ寄る！「たたりじゃ！八つ墓村の、たたりじゃ！」それはこの血塗られた過去を持つ村の恐怖の序曲であった・・・

何でこの作品か、というと冒頭の大量殺人シーンで殺人者・多治見要蔵（山崎努）が村人たちを殺して回るシーンで桜吹雪がとても効果的に使われていて、話の筋とはまったく関係なく「きれいだなぁ」と思ったことを思い出したからです。高校一年のころだったかな。あのころはよく学校サボって映画見てたなぁ～。おっと、時効時効。

 

 

 6月16日(金)「南青山マンダラ」でのライブで歌う曲のリクエストを募集しています。

中西保志に歌ってほしい

1.「オリジナルナンバー」（過去のアルバムの曲）
2.「日本の曲」
3.「外国の曲」

を書いてお送りください。どれか一曲でもかまいません。

「残念！当日行けない」という方でも結構です。今後の参考にさせていただきますのでどんどんお送りください。

メール、郵便、フアックスで受け付けております。（詳しくはインフォメーションを参照）

よろしければメッセージ、質問なども添えてください。ライブ会場でご紹介するかもしれません。皆様のリクエスト、お待ちしております。

　　　　　　　　　　　　　　

　平成十八年　三月　十七日　　　　　　中西保志

 

【桜はまだかいな？】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.3.17

 

中西保志です。

 

「春一番」も吹いて、ぼちぼち南のほうから、「桜開花」の便りが聞こえてきています。
例年にくらべ今年は梅の開花が遅れ、この分だと桜も・・・と思ったら桜は早いんだそうです。わからないもんですね。


何度も言ってるように僕は「春」は嫌いだけど「桜」は好き、という珍しくもややこしい人間なので、今年もお花見を楽しみにしているのですが、東京の見ごろは３月下旬というところらしいです。

スギ花粉のほうは今年は「少なめ」ということで、気のせいかマスク姿のひとが去年より減っているような気がします。僕は幸い今のところ大丈夫なのですが、罹ってる人によるとひどい時は「顔をパカッとはずして、水道で裏っ側をジャーっと洗い流したい」というほどの状態になるんだそうです。（どんな状態なのかまったく想像できませんが・・・。）
そういえばこの間、コンビニに行ったら、顔にぴったりフィットする大きなマスクとゴーグルで完全武装してレジを打っている店員さんがいましたが、ほとんど「コンビニ強盗」そのものって感じでした。

 

プロ野球もオープン戦がはじまっていますが、ＷＢＣ（ワールドベースボール・クラシック）のせいであんまり大きく報道されてないみたいですね。


それにしても、春先のこんな時期に、アメリカ西海岸まで出かけて行って（ハワイぐらいで良いんじゃあないの真ん中だし）、コンディションを無視して真剣勝負をしないといけないなんて、ＷＢＣはちょっとどうなんでしょう。ボールもグラウンドもぜんぜん違うし、審判もいいかげんみたいだし（！）、あまりフェアとは言えない感じがするんですが・・・。僕としては日本の選手たちがケガなくシーズンに入れることを祈るばかりです。

 

Ｊリーグはもう開幕していますね。実は先日、さそわれて国立競技場へ「東京ベルディ１９６９」の開幕戦を観戦してきました。なんと！しばらく見ないうちにＪ２に落ちてたのね。そういえば監督のラモスさん以外、まったくメンバーを知りませんでした。対戦相手も「徳島ヴォルティス」というチームで、失礼ながらやっぱり全員存じ上げませんでした。ワールドカップイヤーだというのに、不勉強で申し訳ない。
試合は序盤、徳島が先制点を挙げ、「ま、まずい」という展開（一応、東京都民なもんで・・・）になりかけましたが、地力で勝るベルディが逆転し、４−１で快勝。選手の誰よりも盛り上がったラモスさんの表情が電光掲示板にどアップになってました。お天気もよく暖かな一日でした。

感心したのはスタンドの応援団。試合中、ほとんど休むことなくおおぜいで飛び跳ねながら「オーオー！ベルディー！俺たちのちからー、みせてやれよー！」とかなんとか叫び、というか歌いっぱなしで、僕にはわかるけどあんなに歌い続けたらぜったいノドつぶすと思うんだけど、ものともせずに声援を送っていました。ファンはありがたいよねーラモスさん。この勢いでぜひＪ１に復帰してほしいものです。

 

皆さんもまだまだ寒い日もあるので、カゼなどひかれませぬよう、もうひいちゃった方ははやくなおりますよう、お祈りいたします。

（な、なんと、オレまだこの冬、カゼひいてないんだよねー。）

 

【お勧めの一冊】

 

「花神」　（司馬遼太郎）　　

 

「花神（かしん）」とは中国の伝説で、国から国、山から山へと花を咲かせて飛びまわる神様、日本で言えば「花咲か爺さん」みたいな存在だそうです。この季節にぴったりでしょ？

むかし、ＮＨＫの大河ドラマになってました。中村梅之助が主演だったと思います。

長州の田舎医者だった村田蔵六（のちの大村益次郎）が、日本を変える「明治維新」の原動力になってゆく姿を、長崎出島のドイツ人医師シーボルトの忘れ形見で日本初の女医、楠本イネとの恋愛を通して描く作品。
司馬氏によれば蔵六とは、手足と顔としっぽ（６個）を甲羅にひっこめる「亀」のことだそうです。
今いろいろと話題の多い「靖国神社」に彼の銅像が置かれています。あ、そういえばあそこも桜の名所だったなあ。

 

 

 

【トリノのトリは金メダル！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.2.27

 

中西保志です。

 

トリノオリンピック、無事閉会しましたね。

 

心配されたテロ事件等、大きなトラブルもなく、その点でも成功だったと思います。

今回は参加国数も80カ国を数え、近年は日本を含めアジア地域の参加国からもメダリストをはじめとする好成績が出るようになってきていますし、その意味でも初めのころ「北ヨーロッパオリンピック」との批判があった冬季大会もじょじょに世界大の規模になってきているようです。近い将来、雪の降らない地域からの参加選手が、表彰台に上がることもありうるようになるのではないでしょうか。

 

ただひとつ残念なことは、開催期間中にイラン・イラクで宗教上の問題が原因とされる爆弾テロ事件が起こったことです。やはりアラブ地域からの参加が少ないこともあり、そうした問題を抑止する効果が他地域に比べて少なかったということなのでしょうか（僕が見落としているそのほかの紛争・事件もあるかもしれません）。

もちろんオリンピックが終わったから、はい、じゃあ戦争再開ね！ということではなく、少なくとも期間中は武器を置いて、世界のアスリートたちのパフォーマンスを観戦し、戦いの無意味さと平和の素晴らしさを考える、一つのきっかけにしてほしいということだと思います。

その意味で次回のカナダ・バンクーバー大会（2010年）こそよりいっそう「平和の祭典」の理想に近づくものにしてほしいと思います。

 

で、ハナシはコロッと変わるんだけどさ、いやぁーよかったね！フィギアの「金」。

なんか今回「悪～い予感」があってさ、ジャンプの原田選手が体重不足で失格になっちゃったあたりから、「ひょっとしてもしかして、今回はメダル・・・ゼロ？」となかばあきらめモードになっていたから、いっそう「よ、よかったなぁ～っ！」感が強かったです。

この気持ちをものすごーーーく下世話なたとえで言うと、パチンコでちっとも「大当たり」が来なくて（時々「リーチ」は来るんだけど）、散々マイナスになってやめるにやめられなくなってたときに、閉店間際になって最後の最後に「確変フィーバー」が来たー、みたいな歓び！・・・ってわかります？（ちなみに筆者は最近パチンコはやってませんが・・・）

ま、やはりなんといっても表彰台の真ん中に日本の選手が立って、メインポールに国旗、会場に国家が流される情景というのは、本当にいいもんですねー。

「参加することの意義」はもちろん大切だけれど、こういうのがあるのと無いのとでは大違いですもんね。

荒川選手、おめでとうございます。

 

そのほかの選手、種目に関しても、たとえば50年ぶりに4位入賞を果たしたアルペン競技や大健闘のカーリング女子など、日本選手に限っても見ごたえのある競技が多かったと思います。勝負は時の運、結果としてメダルは逃がしたとしても「狙える位置」にいる日本選手が増えてきているのは今後に大いに期待できる結果だったともいえると思います。

とにかく選手、関係者の皆さん。お疲れ様でした。

 

次はドイツ・ワールドカップだぁーっ！（あ、ＷＢＣもあるか）

 

【おすすめの一冊】

 

「天才の栄光と挫折」（藤原正彦）

 

最近ベストセラーになっている「国家の品格」という本の作者です。ユニークで力強い教育論で有名。ご自身は海外留学の長い数学者なのにもかかわらず、「小学校時代には英語や（高等な）数学なんか教えるな！まずきっちりとした日本語の読み書きができるようにしなさい」という「国語重視」論者です。大賛成。英語だって数学だって問題は日本語で書いてあるんだもんね。

 

父君は「八甲田山死の彷徨」の小説家・新田次郎。

ニュートン、関孝和、エヴァリスト・ガロワ、ラマヌジャン（インドの数学者）など「天才」呼ばれた人々の栄光と挫折の物語。天才は作ることも育てることもできない。時代も場所もおかまいなく勝手に生まれ育つものである。ただ、その時のまわりの環境が彼を幸福にしたり不幸にしたり、「神」にしたり、ときには「悪魔」にしたりするだけのことである、というのがテーマ。天才だから幸せってわけじゃないみたいですね。バカボンでいいか。レレレのレー。

【トリノで羽ばたけ！鳥のように・・・さ、寒い、フェックション！】　      2006.2.13update

 

中西保志です。

 

始まりましたねー、トリノオリンピック。

ま、今回も「メダル何個！」とか言わずに、世界のウィンター・アスリートたちのすばらしいパフォーマンスを楽しみましょう。

 

それにしても「開会式」、スゴかったですねー。さすがファッションの都、トリノ！（あ、ミラノだっけ？）まあ、細かいことはともかく、ルネッサンスのコスプレから仮面劇（ペルソナ）、フエラーリはカッとぶわ、オノ・ヨーコは叫ぶわ、ジェネシスは歌うわで、もうおなかいっぱいのお献立。

聖火の点火式もちょーかっちょいい！

単なる「物量大作戦」にとどまらない「センスのよさ」を感じさせるあたり、さすが「ローマ帝国」二千数百年の歴史と伝統を感じさせましたねー。

 

チラッと出てきた往年の大女優、ソフィア・ローレンがまたかっちょええー（そういえばイタリア映画、最近見てねーな）。もう大変、満腹中枢がイカれそうになってるところへとどめの一撃、パバロッテイ大先生のウルトラハイカロリー・アリア・テノール攻撃！（「マグマ大使」に出てた「ゴア」みたいだった。知らないヒトごめんね、古くて）

それと、あれ？というようなアフリカや中南米の、雪が降りそうもないような国が結構参加しているのには驚きました。やっぱり「クール・ランニング」（とそのモデルのジャマイカの活躍）の影響かな？

 

さて、競技のほうもすでに始まっていますね。日本期待のいくつかの種目で苦戦が続いているようです。でも良く考えると、屋外競技はやはり、気候や雪質の違いなどもあり、日本人選手にはもともと不利なようです。（アジア勢は夏の大会に比べて参加も少ないですしね。）やはり期待は屋内、スケート種目ということになるでしょう。これからこれから。

 

毎回言ってることですが、ギリシャの古事にならい、大会開催中はとにかく紛争、戦争は休戦にしてこの素晴らしき「雪と氷の平和の祭典」を楽しみたいものです。

組織委員会からも毎回そのようなアピールがされているそうですが、空文化しているとの批判もあるようです（冬のオリンピックは地域的に偏りがあるため特に）。

 

そこで提案ですが、たとえば夏のオリンピックの種目のいくつかを、冬大会に移して、参加国数を夏大会並みに増やすとかしたらどうでしょう。バスケット、バレーボール、ハンドボール、体操などの屋内競技なら、温度調節できますから可能なような気がするのですが。）

ホントはサッカーなんかが冬に移れば世界中が参加するからいいんだけどなぁ。でもワールドカップとの差別化ができないし、芝生がないから無理だよなぁー。と、いろいろなことを考えてしまいました。

 

ともあれ、これからしばらくは、寝不足気味になっちゃいますね。カゼには気をつけましょう。

やっぱり最後に「がんばれニッポン！」


【お勧めの一本】

 

「ニューシネマパラダイス」（ジョゼッペ・トルナトーレ監督）

 

オリンピックとは関係ないけど、イタリア映画ということで。

第二次大戦後のシチリアの小さな村。。少年トトは母親の目を盗み村の唯一の娯楽である「パラダイス座」で上映される映画に通いつめ、その魅力のとりこになっていく。映写技師のアルフレードをはじめ映画館を愛する村の人たちに見守られトトは成長していく。思春期、資産家の娘エレナとの初恋と別れを経て故郷を後にするトト。数十年後、大人になったトトの心には今もあの映画館での日々が息づいていたのだった。エンドタイトルのすばらしさ。全編に映画と人間に対する愛情がほとばしっている。カンヌ・グランプリ、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した不朽の名作。

 

【ちょっと待て！そんなに悪いかホリエモン】　　　　　　　　　　　　　　　2006.1.31update

 

中西保志です。

 

いやはや、大変なことになってますねー。

「ホリエモン事件」の顛末は新聞・ワイドショー等でご案内の通りですが、僕にはどうもよくわからないことがあるんです。

 

今回の件で逮捕された「ホリエモン」こと堀江貴文氏のことを、１月１６日の夕方まで、みんなで「ＩＴ長者」とか「勝ち組」とか言ってヨイショしまくってましたよね。でも、たとえば株式や企業経営に詳しい専門家ならば、「あの会社の経営はおかしい」ということはもっと前にわかっていたと思うんです。

 

たとえば僕の乏しい知識でも、株式会社というのは半期（半年）ごとに決算があって、その財務内容を株主総会で公表しなければならないわけで、そのために公認会計士その他の専門家が「監査法人」という形で客観的に監査をすることになっていたんじゃあなかったっけ？それをパスしてたんだから、少なくとも監査した「専門家」はそのことに気がついていたはずなんですが・・・。

 

あのさ、これってアネハさんのときに建築確認出しちゃった「確認審査会社」とおんなじパターンじゃないの？そうしたことのツケが、知らないで株を買ってしまった人たちに回ってしまったとしたらもちろんホリエモン（ライブドア）の責任は重大だとは思うんですけど、じゃあその「人気」に乗っかってた人たちの責任は？？？

 

それに、いくら有名人の事件だからって出身地から親兄弟、はては通っていた学習塾の先生まで引っ張り出して、「子供のころはこうだった」とか「小学生のころこんな作文を書いていた」とか、まるで全人格を否定するような勢いで次々と公表してしまうってのはマスコミも「やりすぎ」なんじゃないかと思うのですが・・・。

今（１月３０日）現在、堀江氏はあくまでも「容疑者」であって、罪が確定したわけでもないのに、ワイドショーではもはや「天下の大罪人」扱いですよね（もちろん「有罪」と確定すれば、その罪を償うことは当たり前ですが）。

 

もうこの段階で、すでに「断罪」されちゃってるというか、ついこのあいだまでの「礼賛」から一転、「ほーらみろ！前からおかしいと思ってたんだ、オレは」といわんばかりの「手のひら返し」、醜い、いや恐ろしい。なんか全体的に「ざまぁみろ！この成り上がりもんが」みたいなトーンのような気がするんですが、「弟です！息子です！」なんて絶叫していたヒトも含めて、みんな「持ちつ持たれつ」でやってきた仲間なんじゃないの？といいたくなるのは僕だけなんでしょうか。

 

僕の理解では彼（あるいはライブドア）のやったことは、いわば実力以上の成績（＝株価総額）に見せようとしてカンニング（＝粉飾決済）したのがバレちゃった学生みたいな話ではないかと思うんですよね。悪いことは悪いけど、どちらかといえば「なさけない」「かっこ悪い」「恥ずかしい」という感じ。というか、「ほかにカンニングしてたヤツ」はいなかったのかなぁ？

 

これがテストならその学生は試験官によって試験場から退場（＝株式上場廃止）させられて終わり、ということになると思うんです。その上で損害賠償その他は個々に法廷で争えばいい話だと思います。
それに「悪い」って言うんなら公共事業で「談合」やってた連中のほうがずっと悪いと思います。これつまり「試験官がテスト問題を金で売ってた」のとおんなじですから・・・。

まるで凶悪殺人事件ででもあるように連日報道され、そのこと自体がまた株価に大きく影響しているようです。（自殺した元幹部の方もいるので軽々にはいいきれませんがそれとこれとは別の問題です）いずれにしても捜査が進展して事実関係がはっきりしてから、批判なり責任追及なりをすればいいんじゃないでしょうか。

 

それと、先に述べたように「知らないで」株を買った方々は本当にお気の毒だとは思うんですが、「株」ってもともとリスクがあるものですから、事前にそれなりの勉強や情報収集をするべきものですよね。だから失礼ながらこの件は、「何も知らないで」通勤電車に乗っていて事故で亡くなられた方々や、「何も知らないで」ローンを組んで買った家が欠陥マンションだった方々とは一緒には考えられないんじゃないかと思うんです。

 

それよりも僕は、彼を「改革の英雄」みたいに偶像化していた若者たちが、今回のことで「やっぱり起業家（ベンチャー）は『ヤバイ』から、『カタイ』公務員で行こう」みたいに悪い意味で保守的な気持ちになってしまうのではないかと心配してしまいます。
いろいろ問題はあるにしても、自分の力で道を切り開いてゆく人が増えることはとても大切なことだと思うのです。

彼の「欠点」や「罪」はすでにあらゆるところに出ているので、敢えて「ホリエモンの功績」を僕なりにまとめてみました。

 

１．お金や経験がなくても、知恵と行動力で成功を勝ち取れる、ということを実証した（すくなくとも途中までは）。

２．株式（または法律）にはいろいろな「穴」があることを世間に知らしめた。

３．プロ野球界のチーム数の減少を「結果的に」食い止めてくれた。

（目的は何であれ、もし彼が「近鉄バファローズ」買収に名乗りを上げなかったら、2005年度には１～２球団が削減され、最終的に「1リーグ」になって、野球人気はさらに下がっていたかもしれません）

 

僕は３．の点だけでも彼の名を忘れないでしょう（もちろん罪は罪として）。

 

【お勧めの一本＆一冊】

 

「白昼の死角」（村川透　監督）

 

戦後の混乱期、東大法学部始まって以来の秀才と謳われた隅田光一（岸田森）は同級生達と金融会社「太陽クラブ」を設立。巧みな商法で会社は急成長する。しかし翌年、闇金融疑惑で隅田は検挙され焼身自殺。炎の中の壮烈な最後を見とどけた同志・鶴岡七郎（夏木勲）は社会に対する復讐を誓う。そして鶴岡は手形金融業・六甲商事を設立、法の目を巧みにかいくぐり白昼の死角を堂々と突く完全なる経済犯罪者として蘇ったのだった。
原作は戦後実際にあった事件をモデルにした高木彬光の同名小説。
映画はいわゆる「角川映画」の中でも屈指の良作。でも原作はそれをも上回る大傑作です。人間にとってお金とは何か？守るべき正義とは？今日なお強く語りかけてくる作品だと思います。

 

 

このたびの大降雪により、尊い命を落とされました方々に心からお悔やみを申し上げますとともに、今なお雪害による困難と闘っていらっしゃるすべての方の安全と一刻も早い事態の好転をお祈りいたします。　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平成十八年１月１３日　中西保志

 

【年末年始はコタツでみかん】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.1.13update

 

中西保志です。

寒さに震えております。皆さんのところはいかがでしょう。もっとも、全国的な大雪の中、どういうわけか東京近辺だけはまったく雪が降らないんですねー。今年は鹿児島まで雪が積もったというのにねぇ。雪にも嫌われたか！って感じですね。

 

例によって、こんなときはコタツでみかん、の私でございます。年末年始のテレビ番組もいろいろあったけど、どうもみんな似たり寄ったりの内容で、あっちこっちチャンネル変えてるうちに面倒くさくなって見るのをやめちゃいました。そんな中で面白かったのは三夜連続で放送された「古畑任三郎」。　

今まであんまり興味なかったんだけど、マリナーズのイチロー選手が「本人役の犯人」で出るというので興味を引かれ、初日から３話全部見ました（そういうヒト、きっと多かったんだろな～）。ま、はっきりいってトリックは他愛ないし、「倒叙もの」（犯人がはじめからわかっていて、犯行の動機や探偵役との知恵比べを描くスタイル。刑事コロンボなど）だから「どのように捕まるか」というストーリー性がポイントなわけですが、やっぱり脚本ですな。三谷幸喜。いい作品にはいい脚本。役者さんも普段のドラマや映画より「うまく」見えたりするから面白いよね。

 

容疑者（と勝手に目星をつけた人物）の会話のなかのホンのちょっとした「隙」を容赦なくグリグリとこじ開けていく任三郎。謎解きの核心に近づくほどにに甲高くサディスティックにシャウトする任三郎。ワァーッこんな人がそばにいたらいややろな～。自分の奥さん、または旦那さんだったらどうでしょう。ものすごく息苦しい「家庭」だと思うよ、きっと。

そういう「アブノーマルな人格」を、番組を見ている側に納得させるにはやはりそれに見合うだけのキャラクターの「強さ・魅力」ってものが必要なわけですが、田村正和、やっぱばっちりハマってますわ。（別に田村氏がアブノーマルってわけじゃあありません。念のため）

実は私、田村氏のお父上、往年の大スター坂東妻三郎（バンツマ）の大大大ファンなんであります。

「雄呂血」、「血闘・高田馬場」、「無法松の一生」、「王将」どれをとっても男の中の男！ぜーんぶビデオもってるもんね。（って子供か！）とにかくそんなわけで、「強いオヤジ」バンツマのイメージが強くて、なんかニヒルで繊細でトレンディ（おもいっきり死語じゃい！）なご子息、正和氏はいまいち興味がわかなかったんです。しかし、あの「任三郎」をほかの誰がやれるでしょうか。やはりすごい俳優さんだと納得した次第。今回が「ファイナル」らしいですが、もっと続篇がみたいですね。とりあえずビデオ屋へいって旧作をチェックしよっと。

 

ところで、十数年前、私が上京して初めて住んだアパートの裏手に池尻稲荷という小さな神社があって、そのとなりに「古畑病院」ていう病院があった（今もある）んだけど、一説によると脚本の三谷幸喜氏がそこの名前から「古畑任三郎」ってつけたんだそうな・・・
う～ん、かすかな縁（えにし）を感じる（ってほどのもんでもないか）。おわり。

 

【おすすめの一冊】

 

「シタフォードの秘密」（アガサ・クリスティ）

今回は本です。１９３０年代のクリスティ初期の傑作。


雪に覆われ下界と遮断されたシタフォード村の山荘。そこに集まった隣人たちが退屈しのぎに降霊会を試みる。現われた霊魂は、はるかふもとの村に住む老大佐の殺害を予言した！　駆けつけると、大佐は撲殺されており、しかも殺害時刻は、まさに降霊会の最中だった……絶妙のトリックが冴える会心作。(クリスティー文庫より)

小説家・坂口安吾が絶賛した作品。その「あまりにも当たり前すぎて誰も気づかない」トリックはたしかに秀逸。ちなみにポアロ氏もマープル女史も出てきません。ちょっと「アブノーマル（？）」な若い美女が謎を解きます。

 

【２００６年】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006.1.5update

 

新年あけましておめでとうございます。

年頭にのぞみ、皆様のご健康とご多幸をお祈りいたします。

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平成十八年　元旦　　　中西保志

 

【え、もう一年たったの？２００５年十大ニュース】　　　　　　　　　　　2005.12.15update

 

中西保志です。だんだんと暮れも押し詰まって来ましたね～。

 

これからはお歳暮、クリスマス、年賀状書き、年越しそば、元旦、初詣、お年玉、おせち料理、七草粥、成人の日、鏡割り、、節分、バレンタインデー、ひなまつり、ホワイトデー、卒業式、お花見、入学式と、考えてみたらわずかの間にスケジュールがぎゅうぎゅうと詰まっています。ガハハハハ（鬼が笑う声）。

 

しかもこの間、地域によっては雪かきや雪下ろしをしなければならず、インフルエンザなんかで寝込まねばならず、さらにスギ花粉症に苦しまねばならず、受験生はセンター、二次試験、私大受験などにがんばらねばならず、引越しや転勤や転校の手続きなんかをせねばならず、自営業者は確定申告なんかに悩まねばならない。もう、本当にお疲れ様です。はい。

僕たちの役割はそうした皆様のお忙しい日々の生活に少しでも潤いと安らぎを提供することなんでありまして、これからもそれを目標にがんばっていこうと思います。

 

さて、いろいろあった２００５年を「十大ニュース」で振り返ると・・・

 

１０．【マイケルジャクソン裁判】

う～ん。これは微妙な問題でしたよね。アメリカの場合、「陪審員」という人がいて、まったく無作為に選ばれた１２人の市民によって有罪か無罪かが話し合われる制度になってるんだそうですが、こういう問題をねぇ～。素人がねぇ～。わからんわアメリカ。
なんか日本でも近々これに似た制度になるそうですが・・・みんな知ってた？
マイケル・・・ジャクソンファイブのころが一番好きだったなぁ。

 

９．【ライブドアＶＳフジテレビ】

で結局、誰が一番得したの？

 

８．【愛・地球博】

黒字だったそうで、何より何より。やっぱり「月の石」は見れんかった・・・。

 

７．【ＪＲ福知山線事故】

こういうのって連鎖するんだよねー。そういえば運転席から窓の外をビデオ撮影して、自分のＨＰにアップしてたバカタレもいたそうな・・・はっきりと事故原因がわかったわけじゃないとはいえ、「プロ意識」ってもんが薄くなってきてる気がします。

直接関係ないけど、自転車こぎながらケータイでメールするのはやめましょう。

 

６．【ハリケーン・カトリーナ他自然災害相次ぐ】

もうさ、はっきりおかしいよね、地球。

オレ昔、ニューオリンズのあのあたりを歩いたことがあったんだけど、言っちゃあ悪いが泥んこ道で、小さくて古い家がだーっとある辺りなんだよね。圧倒的に有色人種が多くて、今回もそういう人たちがたくさん被害にあってるそうです。アメリカって、気の遠くなるくらいの金持ちがいるかと思えば、ホームレスな人もたーくさんいて、犯罪も多いみたいだし、日本がだんだん似てきているのが、なんだかなー。

 

５．【クールビズ】

「ウォームビズ」ってのもあるそうです。６．とも関係するんだけど、ほんと「省エネ、省資源」って２１世紀の合言葉になると思います。でも前の「省エネルック」のときはぜーんぜんダメダメだったのに、英語（？）にするとウケるってのはやっぱファッションだから？

 

４．【郵政民営化→総選挙→与党圧勝】

有権者の皆さん！投票にはいかれましたか？

でもまぁ、これだけ国内と国外で評判の違う首相ってのも珍しいよね。（あ、ブッシュさんもそうだっけ？最近はそうでもないか。）あの人、リチャード・ギアに似てるかなぁ・・・？？？

 

３．【阪神優勝↑→日本シリーズで４連敗↓】

こういうオチだったとは・・・。でもサイボーグ軍団のように強いタイガースより、こんな風に「人間的」な阪神が好き！というヒト、結構いるような気がします。来年こそは目指せ日本一！

 

２．【構造設計疑惑】

暮れも押し詰まって、住んでいるマンションを出て行かなきゃいけない方々のことを思ったら、気の毒でなりません。これは「人災」ですが、自然災害以上に重大な問題だと思います（防ぎ得た、という意味で）。ＴＶ局は悠長に報道してないで今すぐ「ドラえもん募金」でも何でも呼びかけるべきではないでしょうか。個別の欠陥住宅ならば「裁判」という手もありますが、このケースではおそらく実質的には損害賠償などあまりできないでしょう。すでに「自己破産」してる業者もいるし・・・。

提案ですが、関係企業の皆さんに問題のマンションを今の家と交換してもらって、そこに住んでもらう、ってのはどうでしょう。無理か。

 

１．【株券誤発注で４００億円の損？】

「構造設計疑惑」でおしまいか、と思ったらすべり込むように大変な問題が起こりましたね。コンピューターって便利だけど、「あ、間違えた！今の無し！なし！」て言ってもダメなんですよね。（レコーディングでもよくあります。）７．でも言ったけど、そして２．もそうだけど、やっぱり最後は「人間」がしっかりしてなきゃいけないんですよね。

 

とまぁ、こんな感じで選んでみました。

 

来年は、来年こそは皆さんにとって、より良い年になりますよう（クリスマス前ですが）お祈りいたします。

 

【お勧めの一本】

「クール・ランニング」（ジョン・タートルトーブ監督）

 

来年はトリノ・オリンピックですねー。

オリンピック（夏）出場の夢を運悪く絶たれたジャマイカの陸上選手が主人公。

夏がだめなら冬があるさと冬季五輪をめざす。元金メダリストの酔いどれコーチに出会い、雪なんか見たこともない男たちを集めてジャマイカ初の ボブスレーチーム（！）を結成、常夏の地でボブスレーに挑戦する。ホントにこれで大丈夫？？？

 

1988年カルガリー五輪での 実話をベースにしたスポーツコメディ。

 

人間に一番必要なのは結局「やる」か「やらない」かの決断なんだ。「やる」と決めたら、雪がなくっても、ソリがなくってもお金がなくっても気にしない気にしない。陽気なジャマイカンスピリッツで数々の難関を乗り越える男たちを見て、勇気をもらいましょう。 

 

この稿執筆後に、前オリックス・バファローズ監督　仰木　彬（おおぎ　あきら）氏の訃報に接しました。

1954年西鉄ライオンズ入団より一筋にパ・リーグを歩まれ、近鉄バファローズ監督時代には野茂秀雄投手、オリックス・ブルーウェーブ時代にはイチロー外野手など、数々の名選手を育てられ、今シーズンは史上初の合併球団オリックス・バファローズの初代監督としてその人生の最後までを野球とともにされました。偉大にして不滅の足跡に心から敬意を表するとともに、謹んでご冥福をお祈りいたします。

 

【冬が来た！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.12.1update

 

中西保志です。


さっ寒ぅ～～～～うい！
いよいよ冬ですねぇ。
北海道とか東北のほうはもう雪が降っているんでしょうか。
毎年思うんですが、「今年は冬なし！秋から春ってことで」とか、たまにはそういう年があってもいいんじゃないか、何も馬鹿正直に「春・夏・秋・冬」と繰り返さなくてもいいんじゃーないか！え？どうなんだ？そのへんの構造計算はどうなってるんだ！？とＪＲ新橋駅前の酔っぱらいオヤジの逆切れのようなことを叫びつつ（ココロのなかで、ね）、リハーサルに励む今日この頃でございます。

 

まぁ、スキー場やスケートリンク経営の方々や、さっぽろ雪祭り関係者の方々、および鍋物系料理店経営者、あるいは石油・ガス・電気ストーブ製造販売関係、また長靴・手袋・冬物衣料およびホカロン製造販売関係の方々などには「なんちゅーことを言うんだ！？商売上がったりじゃーないか！」とお叱りを受けそうなんでこのへんでやめときますが、つまりそれだけ私は寒いのが苦手なんであります。

 

実際、この時期は気温だけではなく、空気が乾燥してノドを痛めやすく、おまけにこの冬はインフルエンザの大流行が予想されているそうで、「タミフル」とかいう抗ウイルス薬の確保に政府が躍起になっているそうですね。あーいやだいやだ。「歌うたい」なんて商売はホントこの時期憂鬱なんです。カゼひいちゃったらアウト！だもんねぇ。

 

そういえば昔、ＴＶの音楽番組のインタビューを受けたとき、インタビュアーの女性（すごいＳＥＸＹな美人だった。関係ないけど）にも同じようなことをいったら、「え？歌手のヒトでもカゼひくんですかぁ？わたし、歌手ってひかないと思ってたぁー。ビックリぃ！」とかいわれてしまいました。それって、「バ○はカゼひかない」でしょーが。まぁ「歌バ○」ってタイトルの人もいるんで、同類だと思われてたのかも知れんが・・・・。

 

もちろんひきますよ！以前にも書きましたよね。でも、みんな必死になってボロが出ないようにガンバってるんですよ。何の因果かこの時期、クリスマスコンサートとか年末年始のカウントダウンとか、人によっては「賞」関係とかあるいは「紅白」とか、普段にも増して歌う機会が多かったりするんですが、できればそれ、5月の15日くらいにやってくれません？ってみんな言いたいと思ってるとワシは思う。こんな時期にレコーディングとか重なったらそれはもう、はっきり「災難」といえるでしょう。

 

僕の場合、季節にかかわらず、カバンの中には常に数種類ののど飴とうがい薬が入っています。「うがいと手洗い」、単純なようで最も効果的なカゼの予防法なんです。ちょっとでも「おかしいな？」と思ったらすぐカゼ薬。お風呂でじっくりあったまってすぐ寝る。不覚にもひいちゃった場合、これはもうどうしようもありません。おとなしく過ぎ去るのを待つのが一番なんですが、そうもいかない場合は、耳鼻科で出してもらったステロイド系の点鼻薬とか、重さ１０キロのコンプレッサー式の吸入器（噴出する霧が非常に細かく、薬品がのどの粘膜につきやすい）とかで、だましだましやっていくしかありません。

 

それでもいよいよだめな場合、「ノド注」つまり、ノドに直接薬物を注射して一時的に炎症を止める、という究極の方法があるにはあるのですが、これは非常に危険かつ何度もやってると効かなくなるばかりか、体の他の部分に影響したりする場合があるので、ホントの「最後の最後」という感じです。ちなみに僕は幸運にも今までこれのお世話になったことはありません。

 

とまぁこんな感じで、わたしもがんばってますので皆さんも、この冬はお大事に。
はぁ、はぁ、ハーックショイ！・・・（え？）

 


【おすすめの一本】

「復活の日」（深作欣二・監督）　カゼにちなんだ作品です。

 

東西冷戦時代。イギリスの細菌研究所で極秘に開発された細菌兵器「ＭＭ−８８」を積んだ輸送機がアルプスの雪山に墜落。春になり、増殖し始めた菌は「新型インフルエンザ」を隠れ蓑にして世界中を汚染し始めた。はじめは「たかがカゼ」と思われていたが死者が続出。学者たちが事態に気付いた頃には人類は滅亡寸前に追いこまれていた！南極にわずかな人々を残して・・・。

 

特撮は今見ると「？？？」切ない部分があるが、日本映画としては当時空前の制作費を投入。ハリウッドスターを多数起用したり、実際に南極ロケを敢行するなどかなり「がんばった」作品。完成度はともかく、強烈なメッセージを感じます。
原作は小松左京。こちらは日本ＳＦ史上最高傑作の呼び声が高く、今読んでも面白さは色あせない。一読を。

 

　

【忙中閑あり】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.11.15update

 

新アルバム「ＰＲＯＣＥＥＤ」聞いていただけた方、是非ご感想をメールでお知らせください。今後のアルバム作りの参考とさせていただきます。よろしくお願いいたします。

 

中西保志です。

先日、友達と三浦半島へ遊びに行ってきました。
前日は稲光りが走ったり、小雨が降ったりと悪天候で、どうなることかと心配していたのですが、翌日早朝から雲ひとつない日本晴れ、これも日ごろの行いのおかげ（？）と勝手に納得して晩秋の海岸を散歩したり、温泉に入ったり、マグロ漁港を見学したりと秋の海を満喫しました。オフシーズンの三浦は人もまばらで、実にのんびりとした休日でありました（世間のヒトは働いてたけど）。

 

そう、僕のような職業の数少ない利点の一つは、「その気になれば平日でも遊びにいける」ということなんです（もっとも世間が休みでもスケジュールが入ってれば働かなくちゃならないから同じことなんですが・・・）。
僕は関西出身なので知らなかったのですが、高速がすいていれば車で1時間ほどできれいな海があるなんて、こりゃ東京も悪くないなーって、オマエは何年東京に住んでるんだ！とツッ込まれそうですが、そう思いました。

 

横須賀の「戦艦三笠」（内部は日露戦争当時の展示室になっています）にも行ってきました。
僕は司馬遼太郎氏の「坂の上の雲」という小説が好きで、何度も読み返しているので、「おお、これが『三笠』か！」と感無量でした。意外に小さい船なんですよこれが（約15，000トン）。
記念に「東郷ビール」（日露戦争当時の日本海軍の連合艦隊司令長官・東郷平八郎の肖像をラベルにしたもの。はじめフィンランドで作られたが、現在はオランダ産）を買いました。

 

戦争を賛美する気は毛頭ないけれど、明治の日本人の堂々たる存在感には身が引き締まる思いがしました。「三笠」は今、陸に揚げられ、静かな余生を過ごしています。皆さんも一度見に行ってはいかがでしょう。

というわけで、ばっちりリフレッシュできましたので、12月のライブはご期待ください！

 

　　　

 

【お勧めの一本】

「日本海大海戦」（丸山誠治・監督/円谷英二・特技監督）

 

1969年作品。小学一年のとき親父と近所の映画館で見た覚えがある。

 

日露戦争のクライマックス、ロシア・バルチック艦隊と日本・連合艦隊との一大決戦を描く。東郷長官には実物そっくりの三船敏郎。陸軍大将・乃木希典（まれすけ）には笠智衆。これもそっくり。
特撮の神様、円谷英二（「ゴジラ」・ウルトラシリーズetc)の晩年の傑作といわれる、精巧なミニチュア・ワーク。

この作品ではラストで、予想外の大勝に我を見失った日本が「次はアメリカか？」とつぶやく場面で終わっていた（と記憶している）。その後の無謀にして悲惨な太平洋戦争の結末は、実はここから始まる、という歴史の皮肉。

当時の軍艦って、石油じゃなくて石炭で動いてたんですねー。さぞケムかったろうなぁ。

 

【２００５年日本シリーズを総括する】　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.10.31update


中西保志です。


新アルバム「ＰＲＯＣＥＥＤ」もう聞いていただけましたか？まだの人はインフォメーションのコーナーをよく見て今すぐゲットだぜ！


いやぁー、めっきり寒くなってきましたねー。
朝は起きるのがツラい。
この時期は昼と夜との気温の差が激しく、風邪を引きやすいので、皆さんどうぞ十分気をつけてくださいね。


この間、マスク姿の人がいたので、風邪かな？と思って聞いたらセイタカアワダチソウとかいう植物の花粉症（！）だそうで、喘息みたいになってとてもつらいんだそうです。
今頃から花粉症じゃあ、二月ごろはさぞや、と思ったらこの人、その時期はなーんともないんだそうです。おかしなもんですね。


さて、プロ野球日本シリーズは誰もが予想もしなかった千葉ロッテマリーンズの四連勝で早々と終わってしまいましたね。阪神タイガースは二年前に続きまたまた「日本一」の宿題を残してしまいました。本当のことを言えば僕は今年は阪神が勝つんじゃないかと思っていたので、「お見逸れしましたバレンタインさん」というところです。


僕なりにロッテの強さを分析すると、
１．ピッチャーがいい
２．打線がつながる
３．守備がいい
って、あれれ？こんなの当たり前じゃないの、というくらいの横綱相撲でした。特別なことをするよりも、いいピッチャーをそろえ、守備練習を徹底的にやり、コツコツ当てるバッティングに徹することで相手のミスを誘い、隙あらばすかさず集中攻撃！四試合とも５回くらいまではほぼ互角の展開なのに、ほんのちょっとしたミスを見逃さず、相手の弱いところを徹底的についていく。リードしたら中継ぎにチェンジ、最後は守護神が押さえる。今年の阪神も似たようなコンセプトのチームだったのですが、結果的にロッテのほうが一枚上だったようです。去年から導入された「プレーオフ制度」で２位ながらリーグ優勝を勝ち取り、間を空けず日本シリーズに突入できたのも緊張感が維持されてよい結果に結びついたようですね。


よく、阪神は公式戦から二週間もブランクがあって試合勘が戻らず不利だった、という声も聞こえますが、見方を変えればその間に体調を整え、相手チームの戦力分析を十分行うことができるというメリットもあったはずで、プラスマイナスすればそんなに差はないのではないでしょうか。事実、ロッテのほうはプレ−オフでのソフトバンクとの死闘の結果、シリーズ第一戦・第二戦と主力選手をケガで欠き、決して完璧なオーダーではなかったのですから。ここはやはり、あのすばらしいチームを作り上げたロッテを素直に評価するべきだと思います。


その意味で印象的だったのは、甲子園球場で日本一になり、胴上げされるバレンタイン監督の姿に、阪神サイドの応援席からも惜しみない拍手が送られていたことです。
今や、かつてのようなフーリガンまがいの「過激な」ファンは少なくなり、よいプレーには敵味方関係なく拍手するという、今の阪神の実力にふさわしい一回り「器の大きな」ファンになってきているなーと感心しました。（その後、街で暴れるファンもほとんどいなかったようですし。）それでこそ「セ・リーグの覇者」として来期も優勝を、そして今度こそ日本一を狙えるチームになっていると思いました。


今年のプロ野球は、「セ・パ交流戦」という新しい試みや楽天イーグルスという新球団の誕生など話題も多く、今後のさらなる充実を期待させるシーズンだったと思います。
来期からはセ・リーグでもプレーオフ制導入が検討されているそうですし、かつてのような「在京の一球団」の人気におんぶに抱っこするような「いびつな構造」から脱却して、将来は各フランチャイズで盛り上がっていく「メジャーリーグ方式」に徐々に変わっていってほしいと願っています。


今回のロッテ日本一から学ぶことは、
「当たり前のことを当たり前にきっちりとやる、これが一番強い」ということでしょうか。
よーし！俺もがんばるぞ！発声練習　あ・え・い・お・う！

【お勧めの一本】

「ノッティングヒルの恋人」　　（ロジャー・ミッチェル監督）


「PROCEED」に収録の「ＳＨＥ」がテーマ曲の作品です。

「お口の恋人」ロッテにちなんで（苦しい）。

ハリウッドの大物女優アナ（ジュリア・ロバーツ）はロケ先のロンドンでふと立ち寄ったノッティングヒルの小さな本屋の主人ウイリアム（ヒュー・グラント）と出会う。
偶然の連続と彼を取り巻く個性的で暖かい友人たちのおかげでお互いの立場の違いを乗り越えた感情を抱き始めたアナは、駆け出しの頃撮ったヌード写真が報道されスキャンダルに発展するや、落ち込んでウイリアムの自宅に駆け込むが・・・。
『ローマの休日』を彷彿とさせる王道ラブロマンス。 う～ん、いまやハリウッド女優って王族よりタイヘンなんだなぁ～。

 

このたびのパキスタン・カシミール地方及びインド北部における地震による災害によって、尊い命を失われた方々のご冥福をお祈りし、被災された方々の一日も早いご回復、復興をお祈り申し上げます。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平成十七年１０月１２日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中西保志

 

【中西的秋の味覚ランキング！】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.10.12update


中西保志です。

 

東京は「秋の長雨」も降り止んで、いよいよ秋本番を迎えようとしています。
皆さんのところはいかがでしょう。
なんといってもこの季節は「収穫の秋」、「味覚の秋」です。スポーツの・・・、とか芸術の・・・とかいってるヒト、がんばってね！べつに一年中がんばっててもいいんだよ！というわけで、今回は「秋のうまいものランキング」ということでお送りしマース。

まず、ベスト５は・・・ダラダラダラダラダラダラ（ドラムロールの音）・・・「梨」！

これはいまや年がら年中スーパーなんかに温室ものとかが出て、季節感なくなっちゃいましたけど秋の代表的な果物ですね。僕はどちらかというとりんごより梨のほうが好きなんです。あの、みずみずしい感じが良いですね。もっとも、びわやイチジク、桃、ザクロなんてのもあるけど、食べてるとなんか手がベトベトになっちゃうんだよねー。つまり、過剰にベトベトしなくて、だけど適度にあま～くてみずみずしい、という幼なじみのガールフレンドのような（ま、エッチ！）味わい、いいですねー。

続いてベスト４は・・・ダラダラダラダラダラダラ・・・「牡蠣（かき）」！

いいですねぇ。土手なべ、牡蠣フライ、生牡蠣なんてのもオツな味！実は三十くらいまで牡蠣ダメ人間だったのですが、この仕事で海の近くなんかに行くことがあったりして、いわゆる「とれとれ」を食べたら、「う～ん、これが牡蠣なら俺がいままで食べてきたのは何だったんだ？」といううまさ。やっぱり本場ものに限りますねー。昔から牡蠣は「Ｒ」のつく月（9～12月）が旬といわれています。これからがたべごろですね。チンゲン菜と一緒に中華炒めも良いな～。ジュル（よだれをすする音）

そしてベスト３は・・・ダラダラダラダラダラダラ・・・「秋刀魚（さんま）」！
なんといっても秋はこれでしょ。大根おろしを「これでもか！」とのせて、しょうゆ（味ぽんでも可）でいただきましょう。僕はどちらかというとウエルダンに真っ黒になるまで焼いたやつが好きです。胃がんの原因なんて言われてますが、な～に毎日食べるわけじゃなし、好きにさせてよ焼き方ぐらい。七輪で炭火焼きでカボスかスダチがあったら最高ですね。

さてさてベスト２は・・・ダラダラダラダラダラダラ・・・「マツタケ」！
こればかりは毎年食べられるとは限りません。特に梅雨時の雨量と夏の日照時間が重要なポイントなんだそうですが・・・21世紀の今日ですら人工栽培は不可能。時々「栽培成功！」のニュースが駆け巡りますが、ほとんど続報なく立ち消え・・・。国産品はいまや秋の味覚界のツチノコと化しております。安価なカナダ産や朝鮮半島産、モロッコ産なんてのも出てますが、何も輸入してまで食べなきゃいかんものでもないだろ、と思ってしまいます。料理としてはやっぱり七輪で焼き、もしくは土瓶蒸し、でしょうか。マツタケ入りすき焼きなんてのもイイなぁ～。あ、マツタケの炊き込みご飯も・・・う～んｕｎｆｏｒｇｅｔｔａｂｌｅ

いよいよベストワンの発表！でもその前にランク外だけど気になるエントリーをご紹介。

「葡萄（ぶどう）」・・・実はうちにぶどう棚があって、毎年食べきれないくらいできちゃうんです。今年も先日収穫したけど、上々の出来でした。ジュースにして炭酸で割って飲んだりしています。

「鮭」・・・秋鯵（あきあじ）なんていいますよね。チャンチャン焼き（きのこなんかと一緒にホイル焼きしたやつ）なんかうんまいよねー。加島屋の鮭茶漬けがあれば生きていける俺。

「栗」・・・栗ご飯、最高っす！

「焼き芋」・・・自分で焼くのが最高なんだけど東京では焚き火ができる場所があんまりないからねぇ。焼いも屋のおっちゃんから買うのもいいねー。（結構高い）

ナース、じゃなくて「茄子（なす）」！・・・「秋茄子は嫁に食わすな」といいまして、トーゼンうまい！意地悪姑のカオを思い浮かべて食べましょう。焼き茄子に鰹節振りかけてしょうが醤油で。

さてさてぐーんと引っ張りましたが、いよいよ感動のフィナーレ、栄光のベストワンは？

ダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラ
ダラ（長い）・・・じゃーん！

「新米で炊いたご飯」！
結局、これに勝るもんはないでしょう。ここに挙げたほとんどがご飯がなきゃどうしようもない、というくらいの存在感。ふっくらと、つやつやと、口の中でプチっとつぶれるときのあの噛み応え、オカズが豪華だろうと、貧弱だろうと、わけ隔てなく付き合ってくれる慈愛に満ちたたたずまい。おにぎりに好し、雑炊に好し、お茶漬けに好し、変幻自在に形を変えて僕らを楽しませてくれる、秋の味覚界不動の横綱、新米ご飯よ永遠なれ！

【おすすめの一本】

「タンポポ」　（伊丹十三監督作品）

これは全編食べ物のお話です。通りすがりの男たちがつぶれかけたラーメン屋をプロジェクトチームを組んでみごとに再生する、というもの。このパターンは古くは黒澤明の「七人の侍」などに見られ、最近ではＴＶドラマにもなった「ドラゴン桜」にも受け継がれています。

長距離トラックの運転手ゴロー（山崎努）は、不意に立ち寄った子持ちの未亡人（宮本信子）が切り盛りする不景気なラーメン屋を個性的な仲間たちの力を借りて「行列のできる店」に変身させてゆく。おはなしの合間に、オムニバス的にいくつかのショートストーリーが展開しますが、これがすべて「おいしい」お話ばかり。おなかがすいてる人、ダイエット中の人は見ないほうが良いかも。個人的ベストはホームレスのおじさんが夜中にレストランの厨房に忍び込んで作ってくれたオムライス
！う～ん食いてぇー。

【　祝・阪神タイガース　優勝！・・・が、しかし　】　　　　　　　　　　　　2005.9.30update

 

中西保志です。


このところめっきり秋らしくなってきましたねー。
気のせいか今年は例年より季節の進行が早いような感じがします。
もうそろそろ長袖にしないと、肌寒い気候になってきていますね。

プロ野球はいよいよ大詰め、セ・リーグは二年ぶりに阪神優勝となりました。ファンの皆さん、おめでとうございます！

今年の阪神はいわゆる「穴がない」チーム構成で、安定した先発、「ＪＦＫ」といわれた鉄壁の中継ぎ、さらには絶対的な守護神という理想的な投手陣と、クリーンナップを中心にベテラン、若手ががっちりとかみ合う「攻・走・守」三拍子そろった、まさに教科書のような仕上がり。またその状態がシーズンを通してほぼ完璧に維持されたことは賞賛に値するでしょう。

・・・と、ここまで書いてきて、どうもピンとこないんです。

これはホンマにあの「阪神」なのか？と。

阪神といえば、良くも悪くも「超」個性派の選手ぞろいで、いきなり１５−０くらいで大勝ちするかと思えば、そのあと平気で８連敗くらいしてしまう。ドラフトのルーキーは「ひいきの引き倒し」ですぐだめになる。例年だいたい５月の連休くらいで優勝戦線からはいち早く外れ、とってきた助っ人はことごとくダメ外人で、乱闘騒ぎばっかり起こして途中帰国。シーズンオフともなればシブチン・フロントと選手との果てしなき銭ゲバ闘争が繰り広げられ、スポーツ新聞のかっこうの餌食に。それでもファンは見捨てずに、健気に力いっぱい応援する。「でもでも巨人には勝ってね！」みたいな、どこか憎めない、駄々っ子のようなチームを母親のようなファンが大事に大事に守ってるイメージがあったのですが、かつての「ドラ息子」は今や完全に立派な「大人」に成長し、今やまるでメジャーリーグのチームを見ているような錯覚すらおぼえます。

ほんの２，３年前までのことがウソのようなこの変身ぶり、そうだ！これからは「変身タイガース」と呼ぼう！とでも叫びたいほどです。僕のような「1985年優勝」を記憶しているものとしてはあの時の、「打って、打って、打ちまくる」型のイメージとも大きく違う今年のチームは、なんか子供のころ一緒に遊んだ悪ガキが、二十年たってスーツ姿のエリート・ビジネスマンになって目の前に現れたようなある種の近寄りがたさすら感じてしまいます。本音をいうと、なんかあの「弱かった阪神」って好きだったんですよね、わりと俺。

しかし、「すべては変わってゆく」のですから、これはもちろんすばらしいことだとおもいます。この勢いで日本シリーズをも制覇して、新しい「球界の盟主」をめざしてください。
あの「阪神」ですら（失礼！）ここまで変われる！このことを胸に刻んで生きていこう！！

うん。

あのー、話は変わるんだけどさ～、やっぱ巨人の次の監督は江川が良いと思うんだけどな～。どうよ？

【おすすめの一本】

「メジャーリーグ」（デイビッド・ワード監督）

野球といえばこれでしょ。

クリーブランド・インディアンズはここ34年間地区優勝から遠ざかり、Aクラスすら叶わないダメチーム。急死した夫に代わり新オーナーとなったダンサー上がりの後妻レイチェル・フェルプス(マーガレット・ウィットン)は、本拠地をマイアミに身売りするため、市との契約に従い、1年間の観客動員数60万人を下回らせようと企み、監督のルー・ブラウン(ジェームズ・ギャモン)を始めとする一癖も二癖もある連中を集めた。メジャーを追われたメキシカンリーグのキャッチャー、ジェイク・テーラー(トム・ベレンジャー)や仮出所中のピッチャーのリッキー・ボーン(チャーリー・シーン)たちは、憧れのメジャー入りに張り切るが、もとより実力のない彼らの戦いぶりは惨めで、連戦連敗。ある日ジェイクは、町で別れた妻リン(レネ・ルッソ)と出会った。彼女には新しい婚約者がいたが、彼はリンへの断ち切れない愛を感じ、よりを戻そうとプレーにさらに熱が入っていく。やがてノーコンに悩むリッキーの、その原因が彼の近眼にあることが判明、メガネをかけて登板するや、見違えるようなピッチングを披露、チームに勝利をもたらした。以後一転してチームは連戦連勝の快進撃、ついにインディアンズは首位のヤンキースに並び、優勝の行方は本拠地での最終戦に持ち込まれることに・・・

これだ！これなんだよ、俺たちが野球に求めているのは。「1985年のタイガース」にはこれがあったんだなぁ～と郷愁オヤジの繰り言はつづくのであった。

 

このたびのアメリカ合衆国におけるハリケーン「カトリーナ」、およびわが国の「台風十四号」他による、すべての災害によって、尊い命を失われた方々のご冥福をお祈りし、被災された方々の一日も早いご回復、復興をお祈り申し上げます。

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平成十七年９月７日

中西保志

 

【ＲＥＭＥＭＢＥＲ　９・１１】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.9.7update

 

中西保志です。

 

今年もまた「あの日」がやってきます。

２００１年９月１１日。

あの日、あなたは何をしていましたか？

 

僕の場合は、タップダンスグループ「ＴＨＥ　ＳＴＲＩＰＥＳ」のメンバーとのライブのためのリハーサルを終えて帰宅、やれやれと風呂から上がり、「ニュースステーション」にチャンネルを合わせたのでした。

 

第一報はごく簡単な、「ニューヨークの貿易センタービルに飛行機が衝突しました」程度のもの。その後続々と悲惨な状況報告が届き、あれよあれよといううちに「報道特別番組」になっていきました。何かとてつもないことが起きている、その不気味さを今も憶えています。

 

昭和初期を生きた人なら、「あの日」といえば八月十五日、あるいは八月六日・九日であるかもしれません。しかし、残念ながら（？）僕はその時代を知りません。僕が実感できる、時代を変えた「あの日」といえば、やはり「９・１１」だと思います。

 

あの日から世界は、明らかにそれまでとは違うコースを歩き始めたのでした。二十二世紀に歴史教科書があったとしたら、間違いなくこの日は大きく記載されることでしょう。

 

単に被災者の数ならば、戦争や事故でもっと多くの犠牲を出したものがいくらでもあります。問題は「昨日までの世界」が明日からも続いていくことを、自分の命をすてても、他人の命を奪ってでも変えたい、と考える人々が、この地球上にいる、という事実だと思います。

それほどまでの強い「憎悪」が存在することを僕ははじめて知りました。

 

先日、「ぶんざ」でご一緒した大至さん出演の、「ＩＭＡＧＩＮＥ　９．１１」という舞台を見ました。

 

あの日、アメリカの空は航空管制がしかれ、軍用機以外のあらゆる飛行機の使用が制限されました。しかし、そうしたなかでも、骨髄移植の順番を待つ患者たちは世界中に存在し、そのうちの日本の患者たちにアメリカのドナー（骨髄提供者）からの骨髄をいかにして運んだか、を描いたものでした。

 

調べてみてはじめて知ったのですが、「骨髄」というものは、血液などと違って適合するものが極めて少なく、世界中探しても奇跡的な確率でしか見つからないそうです。

 

もし今ここであきらめたら、確実に失われる命がある。

そのことを胸に深く刻んでアメリカ・ドナー・バンクのスタッフたちは走り回り、航空管制局、航空会社、パイロット・整備士にいたるまで、直接説得し、見事タイムリミットまでに骨髄を日本の患者に届けることに成功したのだそうです。

 

彼らの行動を支えたものはなんでしょう。「愛」？「正義感」？「宗教」？・・・本当のところは僕にはわかりません。ただいえることは、貿易センタービルに突っ込んだテロリストも、それによって地獄と化した現場から多くの命を救おうとした人々も、どうしようもなく「人間」だ、ということです。人間しかこんなことはしませんし、できません。

 

人間の「自我」というものが、これほどまでに引き裂かれている時代を僕たちは生きているのですね。そのことを四年たった今、強く感じます。

 

あの日、あなたは何をしていましたか？

そして今、何をしていますか？

 

 

【お勧めの一本】

 

「半落ち」（佐々部清 　監督）

 

骨髄移植テーマの作品を。

優秀な刑事（寺尾聰）はある日、「三日前に妻を殺した・・・」と自首する。

妻（原田美枝子）は重度のアルツハイマー病に犯されて、数年前に白血病で亡くした一人息子の記憶がなくなる前にいっそ殺してほしいと懇願したというのだ。

取調べが進むうち、殺してからの二日間、どこで何をしていたか？という問いにだけ彼は頑として答えない。「空白の二日間」の謎をめぐり、事態は警察と検察、裁判官、マスコミをも巻き込んだ一大スキャンダルへと膨れ上がっていく。

彼の言葉・・・「あなたには、守りたい人がいませんか？」・・・その意味はあまりに深く、重層的である。

シリアスな内容ではあるが、見終わった後にかすかな希望を感じさせる作品。

 

【夏枯れ？】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.8.25update

 

中西保志です。

 

イヤー、あっついですねー。
それに地震、台風、水不足と、この夏はあんまりいいことありませんねー。（ま、個人的にハッピーな方はいらっしゃるでしょうが・・・）僕も、このところ体調を崩しがちです。いけないいけないと思いながら、ついつい冷たいものばっかり口にしてしまうんですねー。

ザルそば、冷麺、冷ソーメン、冷やし中華に冷やっこ。ビール、チューハイ、缶コーヒーなどなど・・・。

 

これじゃカラダにいいわきゃなよいよ。

 

暑いときは「暑気払い」といって、熱いお茶を飲むといいのです、なーんていってる人。あなただけ飲んでなさいね、って気持ちになりますねー。

でも、「逆療法」というか、ドテラ姿でストーブがんがんたいて、コタツのなかでキムチチゲで熱燗いっぱい、なんてのもいいかも・・・ってやれるもんならやってみ！（逆ギレ）

 

う～ん暑さのせいで、あんまり内容のある文章が書けない！（暑さのせいか？）

 

ところで、今年から地球温暖化に配慮して、各省庁や国会なんかで「クールビズ」とかいって冷房の設定温度をあげてネクタイやスーツを脱いでワイシャツのボタンを外すようになってるみたいですね。あれって確か十ウン年前に「省エネルック」とかいって、政治家の人がアフリカの探検隊みたいなカッコしてたイメージがのこってるんですが（ありゃ超ダサだった）、今回は定着するんでしょうか。

 

なんか政治家の人がワイシャツの襟ボタン外して質疑応答してるの見ると、「宴会の真っ最中」、ってかんじで、ほんまにマジメな議題をはなしあってるんかい？と疑ってしまいますが、まあほとんどの政策が料亭の宴会で決められてきたような国なんで、コレでいいノダ！レレレのレーということなんでしょうか。「クールビズ」というなら、国会議員は全員浴衣（ゆかた）姿にすればいいんじゃーないでしょうか。（よく銀行なんかでやってますよね。）各党色分けしてさ。無所属の議員は白い浴衣、とか。で、思いきって空調止めて、ウチワか扇子ってことにして。議決投票もウチワで「はいッ賛成の人、赤あげてっ！」とかやれば分かりやすいんだけどなー。（国会中継見てても、どの人が与党で、誰が郵政民営化反対なのかよく分からないんですよね。）日本人なんだから着物着ましょうよ。あ、でもそれはそれで「永田町盆踊り大会」みたいになって、やっぱりフマジメにみえるのかな。

 

郵政民営化問題からはじまって、ついに衆議院解散、総選挙になっちゃいましたね。「刺客」とか「くのいち」とか「落下傘」とか「ホリエモン」とか、いろいろにぎやかな選挙戦になっていますが、なんにしてもこのクソ暑いなか、選挙活動ご苦労様です。けっこうご高齢の候補者のかたもいらっしゃるし、もはや命がけですね。

 

各候補者の皆さん、くれぐれもお体にはお気お付けください。

 

有権者のみなさんは、必ず投票しましょうね。９月１１日ですよ。

 

（僕は自慢じゃないけど、今まで選挙という選挙はすべて投票してきました。投票日が地方公演などとかさなったときは不在者投票しています。べつに、あたりまえか。）

 

それはそうと、毎年必ずユーレイのように提出されては、すぐ消えて行く、「サマータイム制導入」案ってどうなんでしょうね？

 

 【オススメの一本（じゃなくて二本か）】

 

「ボーリング・フォー・コロンバイン」・「華氏９１１」（マイケル・ムーア監督）

 

「９１１」つながり、ということで・・・どちらも、アメリカ合衆国がかかえる矛盾を容赦なく暴き出したドキュメンタリー作品。

前者はアメリカの田舎町の高校で起きた銃乱射大量虐殺事件を、後者は２００１年９月１１日に起きた同時多発テロを題材に、銃から大砲、そして核兵器へとエスカレートする、アメリカの武器依存体質にするどく切りこんでいる。
この二作品は、いわば「前編」「後編」として見ることが出来る。

ご存知、アメリカのオタク代表、マイケル・ムーア氏が一人でベーカムかついで、日本の芸能レポーター百人分くらいのネチコさでコロンバイン高校関係者、武器製造会社社長、街のチンピラ、民兵組織の兵士、全米ライフル協会会長（名優チャールトン・ヘストン）、ブッシュ大統領（！）etcにアポ無し突撃取材を敢行する。
ウワーッこんなヤツにつきまとわれたらイヤやろな～。
この映画のいいところは、とっても深刻な題材にもかかわらず、「笑えて」しまうことにあると思う。多くの人に何かを伝えたい時、深刻な事態であればあるほど「ユーモア精神」を持つべきだ、というムーア氏の手法が炸裂！
日本人には分かりにくい部分、あきらかに突っ込み足りない部分、思想的なかたよりなど、不満はいっぱいあるものの、この種の作品としては【アメリカ以外では】空前の大ヒット、カンヌ映画祭でも表彰されましたね。
今の日本人にいちばん足りない「何か」をこの二作品は「ゲップがでるほど」見せてくれます。

マイケル・ムーア氏著「アホでマヌケなアメリカ白人」も面白いです。（かたよってるけど）

  

【暑中お見舞い申し上げます】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.8.4update

　

暑中お見舞い申し上げます。

皆様のおかげをもちまして、当サイトもここに一周年を迎えることとなりました。

これからも多くの方々に愛されるより良いサイト運営を目指して、努力していきたいと思います。

今後とも変わらぬご支援・ご声援をよろしくお願いいたします。

末筆ではございますが、時節がら体調など崩されませぬようくれぐれもご自愛くださいますよう。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平成十七年　　盛夏
 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中西保志

【新聞ななめ読み】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.7.15update

 

中西保志です。

 

前回、「カラ梅雨か？」なーんていってたら、どうしてどうして、全国的に土砂降りの日が続いてますねー。九州・四国地方の水不足はこれで何とかなったんでしょうか。それどころか場所によっては、土砂崩れや河川の氾濫など、深刻な被害が出ているところもあるようですね。「ほどのよさ」というものはないんかい！とツッコミたくなりますね。

皆さんのところは大丈夫でしょうか。

 

最近４４０ライブの準備なんかでロクに新聞も読んでなかったんですが、国会は今、「郵政民営化」でもめているみたいですね。

 

あれ、どうも僕にはピンと来ないんだけど、ついこのあいだ、銀行に公的資金を入れるの入れないのってもめてたんじゃなかったかしら。銀行に税金を入れるってことはつまり「国営化」するってことだよね。あっそうか！だからバランスとって郵貯を民営化するのか・・・ってホンマカイナ。どうもよくわからん。

ま、役人を減らしてスリムな財政にしたいというのはわかるけど、地方で、近所に郵便局しかないところの人は、民営化されたらきっと困るでしょうね。もちろんすぐには無くならないだろうけど、民間企業になったら「市場原理」ってやつで割増料金になったりして不便になるイメージがあるもんなぁ。考えてみれば国内の隅々まで安い料金で郵便が行き届いているというのはすごいことですよね。あ、でもメールとかケイタイがここまで発達すると、手紙を書く人はどんどん減っていくでしょうね。直筆の手紙が届くと、書いたその人に会っているような気持ちになるものですが、今やそれはちょっとした贅沢になろうとしているのでしょうか。

 

ロンドンの爆破テロ。

被害にあわれた方々には心からお悔やみ申し上げます。

どんな理由があるにせよ、無関係な他人を巻き込む爆弾テロは絶対に許せるものではありません。しかし、そこまで追い詰められる（あるいは追い詰める）前に、何とか話し合うことはできないんでしょうか。日本人の感覚ではやはり理解不可能。もしも噂されている「集団」のしわざならば、日本もイラクの関係で狙われる可能性が・・・怖い。

先日、「月刊ピアノうた」でお世話になった光田健一さんがメンバーの、プログレ・バンド「ＫＥＮＳＯ」が、ニューヨーク公演のために事件のあった日の朝、成田を出発したんです。無事演奏できたのかな？こういうとき、入管とかでミュージシャンってすっごく厳しくチェックされることがあるんだよねー。こりゃサベツだ！ベンゴシを呼べ！（でもオレが役人だったらやっぱりアヤシイと思うんだろなー。楽器とかいろいろ持ってるし・・・）

 

故・橋本真也氏。

 

突然の訃報。

 

アントニオ猪木の付け人として入門。武藤、蝶野とともに新日本プロレスの「闘魂三銃士」とよばれる。「破壊王」として大活躍。柔道メダリストの小川との死闘が心に残る。プロレス新団体の旗揚げにも尽力。

享年を聞いてビックリ。オレより若いなんて・・・合掌。

 

阪神タイガース首位。

 

でも、どうも2003年のときみたいな「がーっ」とした勢いが感じられないんだよねー。なんとなーく勝ってる感じ（もちろん選手は必死にがんばってるんだけどね）。ところでなんで浜中選手だけひらがなで「おさむ」なのでしょうか。誰か教えて。

 

それに引き換え、「球界の盟主」軍は・・・

 

とまぁ、ネタ枯れをごまかす駄文を書き連ねながら、四十四回目の夏を迎える今日この頃でございます。

あ、知ってた？オレって広末涼子とおんなじ誕生日なんだよね～（ってそれがどうした！）いや、なんとなく。

 

【おすすめの一本】

 

「椿三十郎」　　（黒澤明監督）

 

前回からの三船敏郎つながりで。これ、昭和三十六年の作品だから僕と同い年なんです。

江戸時代。とある藩の汚職事件にからみ、悪玉の大目付とその一味が、善玉の城代家老（伊藤雄之助）を監禁、自分たちの罪をなすり付けて切腹を迫る。事情を知り助け出そうとはやる若武者たちに、ひょんなことからかかわったスゴ腕の素浪人・三十郎（三船）はいう。「てめぇたちを見てると危なっかしくてしょうがねぇ！」

 

娯楽時代劇の最高傑作だと思います。キャストの豪華さ（悪役の仲代達也なんかもう最高！）ストーリーの面白さ（けっこうギャグ多し）、そしてチャンバラの凄さ（ラスト！）、どれをとっても言うことなし！黒澤映画って面白いんですよー。ぜひ！原作は山本周五郎の「日々平安」

 

加山雄三、田中邦衛、小林桂樹、団令子、平田昭彦・・・みんな、わ、若い。

 

【梅雨時はX X X】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.6.23update

 

中西保志です。

 

梅雨がやってきましたね～。

今年はどうも「カラ梅雨」気味で、地域によってははやばやと「取水制限」を始めたりしているところもあるようですが、僕の住んでいる東京はまぁ、例年並みかすこーし雨が少ないかな、というところです。

 

日本という国が高温多湿で夏場の不快指数が著しく高いのは有名で、ドライな気候に慣れたヨーロッパのある国などは、日本へ赴任する外交官に「不快適地域への勤務特別手当て」なんていうモノスゴイものを支給してるとか。（未開のジャングルじゃあるまいし、エラい言われようですよねぇ。）

 

もっとも、そんな気候のおかげで多種多様な植物がはぐくまれ、それらに依存してさまざまな動物（人間も）が生息できるわけですし、日本人特有のウエットな感情、例えば「義理人情」なんていうのもこの特色ある気候がなんらかの影響を及ぼしているのかもしれません。だとしたら「最後の雨」なんてのは日本人にぴったりのタイトルなんだね～。（っていまごろ気づいたりして）

 

西ヨーロッパなどでは（行ったことないけど）、森林というのはその気候や土壌に最も適合したほぼ単一種類の木が生えており、いわゆる「雑木林」のような状態になりにくいところが多いのだそうです。見た目は整然としてキレイだけど、それだけ自然条件がチープであるともいえるのです。

日本の場合、ちょっとコンクリートの隙間に土でもあろうもんならいろんな雑草がわれさきに伸びてきますよね。「いろんなものがぎゅうぎゅうとゴチャ混ぜに詰め込まれている」、というのは何も朝の満員電車だけではなく、自然をも含めたこの国の「原風景」なのかもしれません。「水田」なんていうのも水が豊かなればこその農業形態なわけですものね。やっぱり梅雨は必要ですよね。うんうん。

 

とまぁ、どーでもいいウンチクを並べてますけど、実はこの季節、苦手なんだな～オレ。部屋はじめじめするし、なんか体中がべたべたするし、それといろんな虫やらトカゲ、イモリ、ヤモリ、ヘビ、カエル、ナメクジ、カタツムリなんかがいっぱいでてくるんだよね～。どうもこの手の「ねばねばヌルヌル系」はダメなんです、オレ（納豆、山芋は好きなんだけどね）。

このあいだも、ジョギングをしていたら道に石があったのでよけて通り過ぎようとしたら石に見えたのはおっきなガマガエルで、突然こっちに飛び掛ってきたんです。いい年したオッサン（オレのことね）が悲鳴を上げちゃいましたよ。まぁ彼（カエルね）も土の少ない東京で行き場をなくしているんだろうから、別に毛嫌いすることはないんだけども、頼む！オレのいないとこで生きててくれ！って感じでしたよ。

 

そうそう、この季節の数少ない楽しみとしては「梅酒づくり」がありますね。清潔な広口のガラス瓶に氷砂糖と、水気をよくふき取った梅の実を入れ、そこにホワイトリカー（ブランデーなど度数の高い蒸留酒でもよい）適量をしずかーに注ぎます。後は涼しくて暗いところ（床下とか）においておくだけ。３ヶ月くらいで飲めるようになりますが、一年以上寝かせるのがモアベターといわれています。去年仕込んだのが飲み頃なので、ちびちびとやっています。ソーダ水で割ったやつが好きですね。

 

何か面白い飲み方があったら教えてください。

 

【おすすめの一本】

 

「男はつらいよ　知床慕情」（山田洋二　監督）

 

ウエットな日本人、といえば「寅さん」でしょう、やはり。（梅雨のない北海道の夏が舞台ですが。）

 

例によってささいなケンカで柴又のだんご屋「とらや」を飛び出し、気ままな旅を続ける寅次郎（渥美清）は、やってきた北海道・知床で一人暮らしの老獣医（三船敏郎）と知り合う。頑固な変人と噂されている男だが、そのわけは、一人娘・りん子（竹下景子）が結婚を機に上京、音信不通になっているからだった。何故か気に入られ、獣医の家に居候することになった寅は、結婚にやぶれて突然帰郷してきたりん子に、いつものように岡惚れて・・・

知床の美しい自然をバックに、寅次郎が、おなじみの「寅さん一家」や、知床の人々と繰り広げる人情話。テーマ曲として森繁久弥作詞・作曲の「知床旅情」が印象的に使われている。なんといっても三船敏郎が絶品！彼にしか出せない風格と威厳、そしてそんな自分をギャグにできるしゃれっ気が実に効果的。晩年の三船のベスト作品かも。見るべし。

 

【祝！ワールドカップ　ドイツ大会進出】                                      2005.6.9update

 

中西保志です。

やりましたねー！三大会連続の本選出場。

考えてみれば、１９９８年のフランス大会まで一度も行けなかったわけですから、イヤー日本のサッカーって確実に強くなってるんですね。

２００２年大会は自国開催で予選免除だったから、今回の勝利は「９８年フランス」がマグレじゃなかったってことを８年ぶりに証明してくれたわけです。しかも２−０で、実にすっきり決めてくれたのがすばらしい！
「第三国での無観客試合」というのがちょっと異様だったけど、まあとにかくめでたい！日ごろＪリーグの試合なんてほとんど見ないのに、なぜかワールドカップとなると心ときめいてしまう日和見（ひよりみ）なオレです。

ジーコ監督って、ちょっと長島サン的な雰囲気があるから、予選レベルでチマチマ選手を指導したり、セコく戦術練ったりなんてことはコーチ、スタッフにまかせといて、イザ本選のときにドドーンとカリスマ性を発揮してもらって決勝トーナメントでガガーンと大暴れしてくれそうな気がズズーンとしてた（擬音が多くなっております）ので、いよいよこれからが面白くなりそうですね。

考えてみればアテネ五輪の野球も、長島監督が直前に脳梗塞でたおれちゃって、カリスマ性を発揮できなかったのが全日本チームの不振（銅メダルだけどね）につながってたかな、とちょっと思います。その長島サンもいよいよ復帰されるそうで、なによりなにより。（また代表監督やらないかなー。）

プロ野球のセ・パ交流戦も連日すばらしい試合を繰り広げていますね。特にテレビであまり見られなかったパリーグの選手たちが、いきいきとプレーしているのが新鮮です。やっぱりスポーツであれ何であれ、自分の殻にこもるのではなく、広い世界に挑んでこそ新しい魅力も生まれてくるのだなあと思いました。

よくサッカーのことを「小さな戦争」といいますが、こういう「戦争」ならどんどんやってもらいたいですね（まぁフーリガンとかありますけど）。領土や資源を奪い合うのではなく、国や民族の誇りとプライドをかけて戦う。本当の「交流」とか「友好」というのはそういうところから生まれるのかもしれません。

まあとにかくよかった。ソーセージとドイツビールで乾杯！

【お勧めの一本】

「ロンゲストヤード」（ロバート・オルドリッチ監督）

これはまさに男、男、男の世界。
つまらない罪で服役するハメになった元アメリカンフットボールの花形ＱＢ（クォーター・バック）、ポール・クルー（バート・レイノルズ）は、刑務所内を暴力と恐怖で支配する所長（エディ・アルバート☆先日死去・合掌☆）の強要で、看守たちのセミプロチームの「稽古台」として即席の囚人チームを作らされることに。日ごろ虐げられている囚人たちは「合法的に看守を殴れる」というクルーの言葉に、次々と参加する。ひとクセもふたクセもある「選手」たちはクルーの指導でメキメキ上達。いよいよ来賓を招いた練習試合（エキジビション・マッチ）。看守チームの旗色が悪いと見るや所長は・・・
バート・レイノルズって日本ではあんまり人気ないんですが、これを見ればその魅力がわかります。この映画、実は現在リメイク版が製作中とか（？）アメリカ人はこういうのが好きなんだね～。う～んマンダム（あ、ブロンソンか。）

 

【ワイドショーに思う】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.523update

 

中西保志です。

 

皆様からあたたかいお見舞いメッセージを多数いただき、ありがとうございました。

風邪のほうはすっかりよくなりました。

 

僕は毎年だいたい１～２回のペースで順調に（？）風邪のローテーションをこなしています。今年は「花粉症デビュー」を警戒して、早いうちからマスクをしていたためか、５月まで風邪をひくことなくやってこれたのですが、ここに来て大きいのにつかまってしまいました。

 

風邪をひいていた間、テレビのワイドショーをよく見ていたのですが、最近は野生動物が出没する話題が多いようです。連休中に東京湾に現れたコククジラは、魚網にひっかかって、かわいそうに死んでしまいましたが、今東京では小学校に現れたニホンザルが話題になっています。そのほかにも全国各地でクマやシカ、タヌキ、イノシシなどが人間の生活の場で目撃されたりもしていますね。(そういえば、「アザラシのタマちゃん」ってその後どうなったんでしょうか？）

 

こうした「珍客」をテレビ局が一日じゅう追っかけているのを見ていると、「ああ、日本は平和だなぁ～。（皮肉な意味じゃなく）」と思わせてくれます。彼らはわれわれが普段、いかに自然に触れる機会が少ないかということを教えてくれているのかもしれません。けれど、彼らにしてみれば、何らかの理由で「正常でない状況」に迷いこんでいる、いわば「緊急事態
」なわけで、悠長に観衆にこたえるような気持ちではないでしょう。また山林の開発が進み、エサ場をうばわれてやむなく里へ出てきている場合も多いようです。あるいはまた無責任な人の「餌付け」によって、アンバランスに個体数が増えたり、在来種以外の生物の放置・放流によって、生態系が大きく変化してしまうこともあるようです。

 

結局、人間と自然は共存できないものなのかもしれません。人間の営み（文明）が小さければ小さく、大きければ大きく自然は壊されます。それはわれわれが「ヒト科ヒトという動物」から「人間」へと歩みだした時からの宿命なのかも・・・・・いくら「自然を大切に」したいからといって、いまさら電気もガスも石油も金属もコンクリートも使わない、テレビもケータイも水洗トイレもない生活に戻れるとは思えませんよね。これが、人間の「業（ごう）」とか「原罪（ｔｈｅ　ｏｒｉｇｉｎａｌ　ｓｉｎ）」といわれるものなのでしょうか。これは｢存在自体が犯す罪」ですから、簡単に解決できるはずがありません。しかしやはりそうしたことを自覚するのとしないのとでは行動に違いが出てくるのではないでしょうか。「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」などの宮崎アニメが訴えているのはこの点だと思います。

 

人間とは、自然という「親」が産み育てた、「出来の悪いドラ息子」なのでしょう。でも、どんなドラ息子でも「親」が病気で弱っている（しかも自分のせいで）ときには少しは生き方を見つめなおすべきではないでしょうか。

 

ああ、どうやら僕、まだ熱が下がってないみたいですね。

 

【お勧めの一本】

 

「平成狸合戦ぽんぽこ」　（高畑勲監督作品）

 

スタジオジブリのアニメですが、宮崎作品とはまた違った味わいがあります。東京の「多摩ニュータウン」開発をめぐる人間とタヌキたちの、面白うてやがて哀しき化かしあいを超豪華（！）な声優陣でつづる一大スペクタクル！まだご覧になっていない方はぜひどうぞ。

よく日テレでやってますよ。

 

【連休や　季節はずれの　風邪をひき】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.5.9update

 

だかじじ　じゃずじでず。いや、失礼。中西保志です。

実は５月２日のライブの翌日からひどい風邪をひいてしまい、鼻水じゅるじゅる、咳コンコン、のどは痛いわ、タンはからむわ、頭はぼやけるわ、熱はあがるわ、関節は痛いわ、下痢はするわで、風邪の諸症状が団体さんでご逗留中でございまして、こうしてる間にも、目の前には使用済みティッシュの山が・・・（もちろん、ハナかんだんですよ、念のため）というわけで、いわゆる「最悪状態」じだっでおでぃばず。いや、なっております。

こういうときは、ムダな抵抗はせずとにかくご一行様がお発ちになるまで、おとなしくしているのが得策というものでありまして、フトンの中から失礼をいたします。

ファ、ファ、ファーックショーイ！

今年は春の天候が不安定で、暑くなったり寒くなったりの繰り返しだったので、実は４月下旬からちょっと「変ダゾ？」という気配はあったのですが・・・本番を控え、そこが芸人のあさましさ、何とかだましだまし乗り切ったところで、ドッと出てしまいました。

こういうときの楽しみは「鍋焼きうどん」ですねえ。
なぜか風邪というと「鍋焼きうどん」なんですよ、私。それもフトンに入ったままお盆にのせてもらった熱っついやつをハフハフいいながら鼻水と一緒にズズーっとかっこみ、「ハァー」と短いタメ息をついて再びフトンにもぐりこみ、ウトウトと眠る。時々体温を測ってはまた「ハァー」とタメ息。なんて感じでね。
むかし、郷土の英雄（？）明石家さんま師匠がラジオで、「子供のころ（貧乏で）風邪のときしかメロンを食べさせてもらえなかったから、今でも風邪ひくとメロン食べたら治ってしまうのが悲しい」とおしゃっておられましたが、私の場合、「鍋焼きうどん」なわけです。あれ、健康なときはあんまり食べたいとは思いませんねえ。皆さんの「病気食」は何でしょうか。面白いのがあったらお知らせください。

最後になりましたが、ライブに来てくれた皆様、本当にありがとうございました。

またがんばりまっす！

【お勧めの一本】

今回はお休みです。すんません。

 

このたびの、ＪＲ福知山線の列車事故ならびにフランス・パリ郊外でのバス転倒事故におきまして、犠牲となられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、被災されました方々の一刻も早い救出と一日も早いご回復をお祈り申し上げます。

4月26日　中西保志

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

【一年で一番好きな季節】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.4.26update

 

中西保志です。

 

東京ではボタン桜も散り、つつじの花がそこここに顔を覗かせるようになりました。

「二十四節気」で言うところの「穀雨」つまり、田んぼや畑の準備が整い、それに合わせるように、柔らかな春の雨が降る頃。この頃から変りやすい春の天気も安定し日差しも強まってくるといわれています。

 

この、ほんの半月ばかりの暑くもなく寒くもない春と夏の境目の「ちょうどいい」時期が、僕は一年で一番好きです。

（ちなみに「春」そのものは好きじゃあありません。ワガママですが・・・）

 

５月５日は「立夏」、夏の始まりですね。けれどすぐに梅雨になり、光は閉ざされてしまいます。そしてその後にほんとうの「夏」がやってきます。どうも僕は「春」とか「夏」とかのはっきりクッキリした季節より、その間のあいまいな、ハーフトーンな時期が好きなようです。あえて言えば、その「あいまいさ」「ハーフトーン」こそが、日本人が昔から愛した「風情」とか「もののあはれ」というものとつながっているのではないでしょうか。

 

雨季と乾季しかない地域は地球上にたくさんありますし、季節がない（年中「夏」あるいは「冬」）みたいなところだって少なくはありません。比べては失礼なのかもしれませんが、そういった地域では「万葉集」「枕草子」「徒然草」「奥の細道」は生まれ得なかったのではないかと思います。

 

この国に生まれ生きる歓びを感じる、そんな季節がやってきています。

 

【お勧めの一本】

 

「パイラン」

 

韓国映画です。原作は日本の浅田次郎で、日本でも「ラブレター」というタイトルで中井貴一主演で映画化され、西田敏行でテレビドラマにもなっています。しかし本作はストーリーをアレンジし、見事な韓国映画になっています。

 

主人公のカンジェ（チェ・ミンシク）は中年の、さえないチンピラ。同い年の兄貴分にコキ使われ、ドブネズミのように暮らしている。ある日、「妻」の死亡報告をうけることに・・・妻？誰だ？結婚した覚えはねぇぞ？そして思い出す、いつだったか、中国からの出稼ぎ女の「書類上の夫」になってやった（もちろん有料で）ことを・・・泣けます。というか号泣。でもこれ、女性にはわかってもらえるんだろうか。「せつない」でもなく、「悲しい」でもない、しいて言うなら「しがない」涙。誰からも愛されてこなかったもの同士の、触れ合うことすらない「恋」。

 

チェ・ミンシクは「シュリ」で、北の特殊工作員を演じ、近作「オールド・ボーイ」ではカンヌグランプリに輝いています。ヒロインのパイランを演じるセシリア・チャンは「少林サッカー」で超人気ですね。

 

私、偶然深夜テレビで見たんですが、ぐんぐん引き込まれてついにおしまい(午前四時)まで見ちゃいました。「冬ソナ」は、どこがいいのかよくわからんかったが、これはいい！おすすめします。四十男には特に！

 

【桜はいい・・・】                                                                2005.4.11update


中西保志です。

一昨日、近所の桜並木にお花見に行ってきました。
東京の桜は今が満開。楽しめるのはせいぜい今週半ばまで、というところでしょうか。ここ一週間ほどの気温の急上昇で、一気に花が開いてしまいました。

　　　人の世は　三日見ぬ間の　桜かな

とはよく言ったものです。
強い風に吹かれると、桜吹雪がぶぁーっと舞い踊る、お芝居のような風景があちらこちらで見られます。桜の木、というのは花が咲いていないときはなんとも地味で、何の存在感もないのですが、このときばかりはやや過剰なくらいに自己を主張しまくっております。まるで、桜自身が酒を飲んで酔っ払っているように・・・

われわれ日本人は、桜の花のそうした風情に自分の姿を見出してきたのかもしれません。普段はめだたず、地味に実直に生きる人々が、ハレの日には着飾り、踊り、飲み、食らい、歌う。そしてまた日常に帰ってゆく。

人生とは、つまるところケ（日常）とハレ（非日常）の繰り返しなのでしょう。ハレが楽しいからこそケもまた充実し、ケの充実こそがハレの支えとなる。桜の木々たちはそんな人の営みをやさしく見つめ続けているようです。


今の世は全国に無数にある居酒屋・パブ・スナック・カラオケ等々で、その気になれば毎晩でも「ハレ」状態になれてしまうため、こうした感覚は薄れつつあるのかもしれません。
でも、「この領収書をどうやって落とそうか・・・？」とか、「この席で一気に商談をまとめよう」とか、「ったくしょうがねぇんだよ。うちの上司（orカミサンor旦那）は！」とかの、「浮世の事情」をしばし忘れて、今を盛りに咲き誇る花を愛（め）でるのはいいものですよね。

これからお花見に行かれるみなさん、どうぞ楽しんできてください。

（飲みすぎには気をつけて）

【お勧めの一本】


前回に続き、「クレヨンしんちゃん」ものです。
「オトナ帝国」の翌年に封切られた、「クレヨンしんちゃん・嵐を呼ぶアッパレ！戦国大合戦」（原　恵一監督）。
「しんちゃん」映画（十数本あります）としてはこの二本はやや反則気味です。すなわち、「子供向け」の内容に収まりきらない深みを持っているのです。（と いっても「しんちゃん」ってもともと「漫画アクション」連載のれっきとした「成人向け」の漫画だったんですけどね。）
そのせいかどうか、本作は徹底した時代考証（実写映画さえしのぐほどの！）のもとに戦国時代の合戦の様子を描き、そこにしんちゃんがタイムスリップする、 というお話です。そこで繰り広げられる、ある若武者と美しい姫のせつなすぎる恋の物語が見るものの胸を打ちます。不覚にも私は「しんちゃん」で二度泣いてしまいました。（一度は「オトナ帝国」で）
「も○のけ」や「千と○尋」や「○ウル」もよかったけど、泣きはしませんでしたよ。

中西にダマされたと思ってぜひ見てみてください。

 

 

中西保志です。

 

このたびの福岡沖玄界地震におきまして、犠牲となられた方のご冥福をおいのりいたしますとともに、被災されました方々の一日も早い復興をお祈り申し上げます。

 

【万博の想い出】                                                            2005.3.24update

 

愛知万博　「愛・地球博」がはじまります。

 

今回は環境との共生がテーマらしいのですが、「だったらハコものなんか建てないで、環境にやさしい仮設テント　（『パビリオン』という言葉にはもともとそういう意味があります）　にでもすりゃいいじゃないか！」なーんてヤボは言わずに一度見に行ってみたいものですね。

 

「万博」いうことばは僕たち（すなわち昭和30年代に日本、中でも関西地方に生まれ育った人）にとって、特別な響きをもっています。言うまでもなくそれは、1970年に大阪・千里で開催された「EXPO‘７０」すなわち「日本万国博覧会」であります。

 

大阪万博は僕らの少年時代の最大の出来事であったばかりではなく、現在に至る世界の博覧会史上、空前のスケールで行われたイベントでありました。約半年間の開催期間に会場を訪れた人の数は約6500万人。当時の日本の人口が約1億1千万人弱くらいだったそうなので、（延べではありますが）日本人の約三分の二近くが万博を訪れたことになります。

 

これを現在と比較すると、東京ディズニー・リゾートを一年間に訪れる人が、1500万人いるかどうか、というところですから、もう実になんと申しましょうか、「想定済み」じゃないモノスゴサだったんですよ、ホリエさん！

山陽新幹線もまだ開通しておらず、飛行機の国内線だってあんまり飛んでいなかったにもかかわらず、です。例えて言えば、あのころ日本人全部が甲子園の開幕戦に並ぶ阪神タイガースファンのような気持ちだったと思います。

 

当時、東西冷戦の真っ只中であったにもかかわらず、ソビエト館、東ドイツ館などのいわゆる東側社会主義諸国も参加し、東京ドームそっくりのアメリカ館にはアポロが持ち帰った「月の石」が飾られ、メイン会場の「お祭り広場」には故・岡本太郎氏制作の「太陽の塔」が、そびえ立ち、その内部では小松左京氏プロデュースの、「人類の進歩と調和」という格調高きメインテーマにそった展示がなされ、その前では故・三波春夫氏が「こんにちは～こんにちは～握手をしよう～♪」と歌い踊るという、もうわけのわからんパワーに満ち満ちた空間でありました。

 

その会場の広さ、展示物の多さで、とてもとても一日では回りきれず、僕なんか遠足も入れて、十回くらい見に行った覚えがあります。当時の小学生にとってまさに未来は万博のように輝かしい希望に彩られたものに見えたのでした。

 

その後、公害問題、連合赤軍事件、石油ショック、ロッキード事件、貿易摩擦問題、バブルとその崩壊・・・と、日本の世相は暗転していくのですが、「万博のころ」はとにかくそんなことは考えず生産！生産！経済成長！経済成長！とまさに「上を向いて歩」いていたころの無邪気なパワーと明るさがあふれていたようです。（ちょうど今の中国みたいな感じですかね）

 

今、同じことはできないでしょうし、する意味もないでしょうが、やはり人間には「ユメを見る」という能力があり、そのユメをカタチにすることによって人類はここまで文化・文明を発達させてきたのですから、今度の万博も、資源の節約や環境の保護ももちろん大事だけれど、それだけじゃない「人類の英知」というやつを働かせて「未来を切り開いてゆく力」を与えられるような万博にしてもらいたいと思います。

 

それにしても「月の石」見たかったなぁ。（結局見れなかったオレ）

 

【お勧めの一本】

 

「万博」をテーマにした映画の中で僕がお勧めするのは、「クレヨンしんちゃん・嵐を呼ぶモーレツ！オトナ帝国の逆襲」です。「しんちゃん」は世のお母様方からとかく非難ごうごうですが、本作は違います。僕と同年代の原　恵一監督が「しんちゃん」を通して描いた、「万博のころの未来」と現実の「21世紀」に対する痛烈な批判と、それだけに止まらない「切り開く力」への希望を余すところなく描いた大名作です。

「え？アニメぇ～？」とか、「え？しんちゃ～ん？」とかいう色眼鏡をはずして一度ご覧なさい。ビデオレンタルされています。

 

感想、お待ちしています。

 

【春はまだまだ】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2005.3.7update

 

中西保志です。

 

今年に入って三度目の雪が東京に降っています。

三月にはいってのまとまった雪、というのは上京十六年めの僕にとっても初めてのことで、「ホンマに地球は温暖化してるのだろか？」と疑いたくなりますね。

もちろん北陸・東北・北海道などの方々は「何を甘ちょろいことを」とお笑いになるでしょうが、関西出身者にはこの寒さ、けっこうこたえています。「雪が多い＝寒い冬」と、単純に言い切れないとしても、去年の今頃と比べても今年の寒さは身にしみます。ハーックショイ！ズズーッ（洟をすする音）いや、失礼しました。結局、冬が寒いか寒くないかは、その年にシベリアからの寒気団がどのくらい南下するかにかかっているわけで、つまりはまったくの「風まかせ」なんだそうで、ゆえにテレビでやってる「長期予報」なんてのはあんまり当てにならないんだそうです。（夏の暑さのほうはエルニーニョ現象の影響で、皮肉にも近年ある程度予測できるようになってきたそうですが・・・）

三月五日は二十四節気の「啓蟄（けいちつ）」で、春になって虫が地面から出てくる日、ということになっていますが、これでは虫だって出てきたとたんに冷凍保存されてしまいそうですねぇ。「歓送の歌」なんてのを歌っていながら、もともと僕は「春」というのがあまり好きではありません。なんとなくホコリっぽい感じがして、街じゅうがざわざわして、おまけに花粉なんかも飛び交って、なんかこう、イライラするんですね。学生の方は入試、卒業、入学、就職とめまぐるしくスケジュールに追われるのも春の風景だし、サラリーマンの人は人事異動、転勤なんかがあったり、自営業者の方は所得税の確定申告なんかで頭を悩ませるのもこの季節ですよね。日本人みんながせわしなく動き出す季節、それが「春」なんですね。みんなが忙しくしてる時、天邪鬼(あまのじゃく)な僕はどうも活動がにぶりがちです。

春といえばそろそろセンバツ甲子園が始まる時期ですが、いつも思うんだけど、あれハンディキャップありすぎですよね。まだ雪が積もってる地方なんかじゃロクに練習できないだろうに、まったく同じ条件で試合するんだから。雪国は最初から二点ぐらいもらう、とか考えたらいいんじゃないかな。プロ野球のオープン戦も始まっていますが、日本ハムの札幌はドームだからいいけど、仙台の楽天イーグルスの球場は、シーズン開幕してもまだまだ寒そうな感じですね。野球やってるほうはいいとしても、見てるほうはさむーーーいだろうなぁ。三木谷さんに早いとこ屋根をつけてもらったほうがいいかも。

桜の開花予想（これもあんまり当てになんないけど）では今年は例年並みと聞きましたが、お花見はこの季節の楽しみですね。僕もこれは大好きです。大のおとなが地面にゴザを敷いて靴を脱いで座る、というのがオママゴトみたいでいい感じですね。すでに沖縄あたりでは開花して、これから徐々に桜前線が北上していくわけですが、北海道の北端では、遅い年は五月末から六月にもなるそうで、そうすると最南端の石垣島あたりからはじまって、二月から六月にかけて、実に半年間も桜がみられるんですね。こういうところ日本ってすごいなぁと思います。

お金と暇があったら、半年間「桜を追っかける旅」なんてのをやってみたいですねぇ。ゴザ持って。（でもこれ、人が見たらただのホー○レスにみえるだろうなぁ。）

 

以上、取りとめもなくコタツからお送りいたしました。

 

【NEWぶんざの仲間たち　7　】

さて大トリは、元禄バブル時代の「悪の象徴」といわれ、文左衛門ら御用商人と結んでワイロ政治の限りを尽くした勘定奉行、荻原重秀（おぎわら　しげひで　・　歴史的事実ではむしろ優れた経済官僚だったという説も・・・）を演じられました、浪曲師の玉川福太郎（たまがわ　ふくたろう）さんをご紹介いたします。

 

プロフィールは、

 

昭和20年山形県生まれ。

43年三代目玉川勝太郎に入門。

49年ＮＨＫ浪曲新人コンクール優勝。

50年二代目玉川福太郎襲名。

同年フジサンケイグループ放送演芸大賞・ホープ賞を受賞。

平成2年新作浪曲「浪花節じいさん」で文化庁芸術祭賞受賞。

 

読み物は「天保水滸伝」の他「清水の次郎長」「忠治山形屋」など多数。浪曲ファンにも初めて浪曲に接するお客様にも楽しんでもらえる浪曲を追求し、古典・新作と幅広く手がけている。また後進の育成、曲師の養成にも力を注いでいる。

となっています。（追記　・　2004年より、日本浪曲協会副会長）

 

この舞台では荻原はまさに「悪の権化」として描かれています。

文左衛門はこうした「悪」とも深くかかわりながらしゃにむに「男の夢」を追いかけたのです。完全な「善」も「悪」もこの世には存在しない、両者入り混じりながら「時代」という一枚の布を織り成しゆく。今も昔も変わりません。

 

玉川さんは浪曲で鍛えられた豪快にして華麗な歌いまわしで、「悪の魅力」「悪の迫力」に満ちた堂々たる荻原像を作られました。

実は楽屋では人気ナンバーワンで、裃（かみしも）姿の玉川さんとみんな記念写真をとりたがって、順番待ちが大変でした。

 

ご本人はいたっておだやかで、ほのぼのとした良き時代の「浅草」の雰囲気が漂う、「男の中の男」という感じの方です。

 

浅草って1960年（昭和35年）くらいまでは日本一の歓楽街、興行街だったんですね。「ぶんざ」公演の前に浅草公会堂で行われた「日本浪曲協会」のイベントでお得意の「任侠もの」を演じておられたのを拝見いたしましたが、まさに福太郎節・炸裂！といった感じで、一緒に見に行った伊東恵里さんが（まだ玉川さんの人となりを知らなかったので）本物（のヤ○ザ？）と間違えてビビったという思い出があります（笑）。

 

伝統芸能は後継者の問題が深刻で、浪曲界も例外ではないようです。このようなすばらしい芸を次の世代の日本人に残せるように、まずはぜひ一度生でご覧になることをおすすめします。浅草寺（浅草観音・雷門で有名）のほど近くに「木馬亭」という劇場があり、浪曲・講談などの寄席が開かれています。ディズニーランドもいいけど、東京にこられた際には（もちろん東京の人も）立ち寄ってみてはいかがでしょう。

 

 

 

【パソコンが・・・パソコンがぁぁぁ！】　　　                    　         　　　2005.2.24update

中西保志です。

 

「今年は暖冬になるでしょう」とかいってた者、一歩前に出て歯を食いしばれ！って感じの寒さですねー。

でもまぁ、関東地方ははやくも「春一番」らしき風が吹き、少しずつではありますが、春は近づいてきているようです。

 

そんなある朝のこと、いつものように、コーヒーを飲みながらパソコンの電源を入れたら・・・起動しない・・・起動しないんだよこれが！

わけのわからん英文字がバーっと出て、そのまま動かなくなるんです。

困ったなぁー。これじゃあメールチェックもできないじゃないの。

ＶＯＩＣＥの原稿が・・・等などと頭の中を駆け巡り、あわてて何か修復するものはないかと「windows-xp」のディスクを入れてみたけどウンともスンとも言わない（後で聞いたら、そんなことしても無駄だそうです。）

何度もくりかえしているうちに、とうとうディスクトレーもが動かなくなちゃった。これは困った！どうしよう？

コンピュータに詳しい友達に聞いたら、「BIOSの設定がどうのこうの」「マザーボードの接続がどうのこうの」とちんぷんかんぷんな専門用語が返ってきて、「あ、こりゃダメだ」というわけで、その人のところに宅急便でパソコンを（ディスクが入ったまま）送って見てもらうことに。

そして数日後・・・「あ、あれね。電源いれたら普通に動いたよ。一応あらかたの接続とか設定を見たけど、どこも悪いとこなかったけどなぁ」と返事が・・・。

じゃ一体なんだったんだ！？わからん。まったくわからん？？？？

とにかく、今は我が部屋に無事帰還し、元気に動いております。

何事もなかったように・・・

 

「ブラックボックス」、という言葉があります。別名フライトレコーダー。旅客機などの大型飛行機には必ず搭載されていて、墜落事故などでたとえ乗員が全員死亡してもそのときの速度、加速度、高度、スピード、方向、風向き、気圧、温度、湿度、通信から操縦者の会話などあらゆる飛行記録をモニターしている機械だそうです。中の仕掛けは恐ろしく複雑で、専門家以外には理解不可能なものだそうです。

考えてみればわれわれの生活の中には、ずいぶん「ブラックボックス」がありますね。

 

携帯電話の中身がどうなってるか、コピー機でなぜ文字や絵が写せるのか、ＣＤやＤＶＤからなぜ音や絵が出るのか、銀行のＡＴＭからどうしてお金が出てくるのか（口座に残がある場合）、原子力発電所でどうやって電気を作っているのか、株価はどうやってきまるのか、裁判所の中は、いったいどうなっているのか、本当のところ私はまったく知りません。いまや世の中全体がひとつの巨大な「ＢＬＡＣＫ　ＢＯＸ」なのかもしれません。

 

「そんなの知ってどーなる」「知らなくたって生きてるもーん」と開き直るのもひとつの考えですが、これらひとつとして動かない、使えないとなると困るものばかりなだけに、いやはや危なっかしい世の中だなぁとため息をついてしまいます。

 

最後にパソコンに詳しい知り合いからの、トラブルのときのアドバイスを。

 

一、　あわてない。

（電源スイッチを入れなおしてみる、基本的な接続を確認する、など）

二、　ひとり合点をしない

（普段やったことのない操作をしたりしない。叩いたり蹴ったりしない）

三、　詳しい友人を作る。（パソコン好きは親切な人が多いそうです)

四、　メーカーの相談窓口に電話する。

（聞くは一時の恥！小学一年生になったつもりで聞きましょう）

五、     データはつねにバックアップを取っておく。

 

それから、

六、　貯金する（完全に壊れたときの買い換え用）

 

これで安心だそうです。

 

それにしても・・・・なんだったんだろう？

 

【NEWぶんざの仲間たち　6　】　

 

さて今回は、三大材木商の一人、冬木屋五郎衛門（弥平次とも）を演じられました、ジャズボーカリストの宮下弘二（みやした　こうじ）さんをご紹介いたします。

 

プロフィールは、

慶応義塾大学　経済学部卒業

シャンソンを芦野宏氏に師事

ジャズをマーサ三宅氏に師事

 

ジャズボーカリストとしてライブハウス、ホテルのラウンジ等で活動。

また、役者としてもシアターＸ（カイ）の「名作劇場」等で活動。

主な出演作　イプセン「人民の敵」、シェークスピア「真夏の夜の夢」、久保田万太郎「釣堀にて」等がある。となっています。

 

ある人に聞いたのですが、お芝居の言葉で「止め役」というのがあるそうです。

「ぶんざ」の三大材木商でいえば、園岡新太郎さん演じる河村屋は、三人の長老格、「悪」にも深みが求められます。大至さんの奈良屋は若造の勢い・文左衛門との対立などで、いわば「先鋒」的なインパクトが持ち味です。では冬木屋は？河村屋の老獪さとも、奈良屋のパワフルさともちがう、「中堅」的なワル。普段は二人に迎合して「おこぼれ」をもらいながら、イザというときは風向きを素早く読んで得な方につく小悪党。ホラ、いるでしょう、そんなヒト。ワルに限らず、人が三人いたら必ずそういう役回りが出来るんですよね。

三人が三人とも強烈個性では、バラバラに見えてしまうんです。

（わかりやすい例を言うと、「踊る大捜査線」の管理職三人組{「スリー・アミーゴス」というそうです}の、小柄で眼鏡のヒトなんかそうですよね。）

宮下さんが抑えた演技で「止め役」にまわることで、みごとな「悪のトライアングル（笑）」が出来上がりました。これ、ホントに難しいんです。

初期のミーティングから欠かさず参加され、ご自身の出られる場でなくてもずっと稽古に立ち会われ、全体の雰囲気からご自分のキャラクターを作り出していく、宮下さんの舞台に取り組む姿勢には頭が下がります。

 

本業のジャズのほうでは最近「Ｙ’ｓ　ａｎｄ　Ｄｅａｒｓ」というグループの一員としても活動しておられるそうですが、そうしたチームワークを大切にする姿勢が生きているのだと思います。

 

お師匠さんのマーサ三宅さんには、僕も以前大変お世話になったことがあり、宮下さんの縁で「ぶんざ」をご覧になってくださったと聞いて、とても懐かしくうれしく思いました。続けていると、そういううれしい出会い・再会があるものですね。

 

宮下さんのライブを是非一度拝見したいと思っています。

 

寒い！ハーックション！？

2005.2.16 update


中西保志です。


あたりまえだけど、寒いですねー。朝、布団から出るのがツラい時期です。
東京なんかまだマシだけど、北海道・東北・北陸地方なんかは今すんごい寒いんでしょうねー。
今冬は九州・四国でも結構雪が降ってるのをテレビで見ました。

なんか季節が、春夏秋冬の「夏」と「冬」だけって感じになってきてるような気がします。
こういう時はやっぱりコタツでみかんですかね。僕はコタツで寝てしまうことがよくあるのですが、寒くて夜中に起きてしまうんです。これじゃカラダに良いわきゃないよ。わかっちゃいるけど、やめられねェ。って感じですね。でも、もうすぐ暖かい春が花粉とともに（笑）やってまいります。そういえば街でマスクした人が多くなってきてますね。そういう僕もなるべく外ではマスクをするようにしています。別に花粉症じゃないけど（コンビニ強盗〈銀行強盗といわれないのが微妙に悲しい〉みたい、とよくいわれますが・・・）。
何でも今回は観測以来最大級の花粉の当たり年（！）らしく、今まで症状の出てなかった人も要注意らしいです。でも不思議なのは何十年も山で杉の伐採やっている林業関係のひとは別になんともない人が多いというし、う～～むよくわからん。

2月10日のゲートシティ大崎に来てくださった方々、どうもありがとうございました。

幸せ薄い私に「義理と人情」の雨あられ、感謝しております。
ああいうフリーライブは聴くほうも気楽に聴けるようなので、とてもやりやすい感じがしました。
また企画したいと思っています。今年はたくさんライブをやろうと思っています。

今のところ、東京ばっかりなので申し訳ない方も出てきてしまうのですが、そのうちいろいろな土地で歌えたらいいなと思っています。

【ＮＥＷぶんざの仲間たち5】

さて今回は、文左衛門のライバル、奈良屋の先代からの番頭・十佐を演じられました、

村松直則（むらまつ　なおのり）さんをご紹介いたします。

プロフィールは

幼少の頃より民謡に親しみ、昭和３６年故小林照玉師に師事。昭和４３年原田直之師に入門、本格的に民謡修行を始める。剣友会に籍を置き、時代劇等の経験と国立演芸場や寄席若竹等の出演の経験を生かし、「唄って、踊って、芝居も出来るマルチタレント」として活躍中。

昭和５９年 「おけさ恋唄」「冬ぼたん」で歌謡曲デビュー
平成６年 日本コロムビア（株）専属となる
平成８年 本格演歌「影絵川」「おどう」発売
平成１４年 京極加津恵とのデュエットで「祝い駒音頭」を3月に発売。

テレビ、ラジオ等の民謡番組に数多く出演。
現在「東京の民謡を歌い継ぐ会」会長として、東京民謡の復曲に心血を注ぎ、２１０曲余りを採譜・編曲する。最近では、テレビコマーシャル「ミツカンシャブシャブのたれ」「エプソン・カラーリオ」「アースノーマット」等でも活躍中。
となっています。

実に芸達者な方だな～と思っていたら、舞台経験も豊富で、テレビコマーシャルでも数多く活躍されて
いるんですねぇ。なーるほど。
「ぶんざ」では身の軽さ、表情の豊かさで、巨漢の大至さん演じる奈良茂と迷コンビ（？）を披露されて、大いに客席を笑わせてくださいました。「笑い」って、ホントに難しいんですよ。

それも、笑えればなんでも良い、といった下品なもので無く、ちゃんとお話の中で「役」として笑わせることはとても高度な演技力を必要とします。今回の「ぶんざ」は、「笑い」という要素が加わった分、成長できたと思っています。その中心におられるのが村松さんでした。

ふだんの村松さんはいつも独自に開発した「腕ふり体操（僕たちは『ペンギン体操』と呼んでました

(笑)）」をされて、常に体をリラックスさせておられました。

元力士の大至さんによると、全出演者中、もっとも健康な体をしておられるということで、見習ってしまいにはみんな楽屋でペンギンになってました（爆笑）。

最近のお仕事の中では、キャベジン「液キャベ」のＣＭが去年の年末に流れていたそうです。

それから、２月２３日、日本コロムビアより
「神津よさこいヤンデー/哀愁の富山」という曲をリリースされるそうです。

ライフワークとして、東京に残る民謡を発掘再生しようという運動をされています。人が歌い、踊ってこその「民謡」ですもんね。

これからもいっそうのご活躍、期待してます！

中西保志

 

 

４４０ライブを終えて

2005.1.26 update

 

中西保志です。
何はともあれ今年の一発目が無事終了いたしました。お越しくださった皆様には厚く御礼申し上げます。

 

新年はじめということもあり、完成度はともかく、今やれること、やりたいことを全部つっこんだ、という感じの内容になりました。

 

新しい曲は「ｏｕｒ　ｓｏｎｇ」というタイトルで、僕が曲を作り、いま小説家として活躍中の後藤保幸さんに詞をつけてもらいました。
後藤さんは「ごとうやすゆき」「竹本聖」その他のペンネームでさまざまな本を出版しています。
その代表作というか出世作がステージでもご紹介しました「ダメ犬グー　－　１１年+１０８日の物語」なのですが、これはベストセラーとして有名です。ぜひご一読を！
僕とはもう十五年くらいのつきあいですが、今回はじめて一緒に曲を作ることになりました。彼の本同様、あたたかな内容の歌になったと思います。後藤さんとはまた何か作ろうと話しています。

 

民謡・津軽三味線の高橋孝君は「ＶＯＩＣＥ」でもご紹介のとおり、「ぶんざ」仲間のひとりですが、まだ二十代の若さにもかかわらず、落ち着いた演奏と心に染みる一曲を残していってくれました。これからの邦楽・伝統芸能は彼のような才能あふれる若者たちによって、更なる進化をとげて行くことでしょう。ワシもがんばらにゃ！（伝統芸能じゃないけど・・・）
高橋君のユニット「ＫＯＫＯＮＯＥ」のライブが２月２１日（月）、渋谷の「音楽室」であるそうです。

 

最後に自己宣伝を・・・

 

東京都内ばかりで恐縮なんですが、次は２月１０日（木）大崎ゲートシティでピアノとのライブです。無料なのでお気軽にどうぞ。

 

【ＮＥＷぶんざの仲間たち　4】

 

さて今回は、文左衛門と寛永寺根本中堂入札を争う三大材木商の筆頭、河村屋平太夫こと河村瑞賢を演じられました、ミュージカル俳優の
園岡新太郎 (そのおか　しんたろう)さんをご紹介いたします。

 

プロフィールは

 

1974年　　劇団四季附属研究所１０期生として入所
1977年　　劇団四季入団
　　　　　　 退団後も各方面で活躍中。

 

　　　ご活躍のほんの一部を・・・
（舞台）
「ジーザス・クライスト　スーパースター」、「ウエストサイド・ストーリー」、「コーラス・ライン」、「エビ－タ」日本初演メンバー、
「CATS」日本初演東京公演メンバー、「仮名手本忠臣蔵」、
「王女メディア」、「ミス・サイゴン」、「スクルージ」、「アンネの日記」、
「太平洋序曲」（アメリカ公演ほか）
（TV）
「振り返れば奴がいる」（フジテレビ）、
金曜時代劇「御宿かわせみ　第二章」（ＮＨＫ総合）他
《以下アフレコ》
「天使にラブソングを２」、「クリスマスキャロル」、「ムーラン」、「ポカホンタス」、ほか

 

特技　：　スキューバダイビング、ジャズダンス、タップダンス、歌唱、ボクシング、武道、乗馬

 

となっています。

 

う～ん、まさに日本のミュージカルとともに歩んでおられる方ですねぇー。
先日も「サクラ大戦歌謡ショー」という舞台に出演しておられたのを見せていただききましたが、相変わらずビンビンよく響くすばらしい歌声を聞かせていただきました。
伊東恵里さんの回でも書きましたが、「バランス良くハイレヴェル」というのがミュージカルの方の特徴のようですね。
「ぶんざ」ではそれほど出番が多くはなかったのですが、バツグンの存在感で舞台を引き締めてくださいました。いわゆる「渋い脇役」「クールな敵役」がとってもお似合いです。
素顔の園岡さんも、役にたがわず物静かで無駄口をしないタイプです。
最初ちょっとコワい人かなと思ったくらいですが、舞台本番に臨んで、できるだけ「いい声」をためておきたい、というようなプロ意識のなせる技だったのでしょう。自己管理が徹底しているんですね。
その他、いろいろな意味で歌う者として、学ぶところが多い方です。

 

（その後、ご本人から、「別な舞台と重なって、遅れて『ぶんざ』に合流したから、はじめ何話していいか分からなかっただけだよっ」とのコメントをいただきました。へぇーそうだったんだ！）

中西　保志　

 

 

最近の自然災害について思う

2005.1.17 update

 

中西保志です。

昨年末からスマトラ島沖地震による津波の被害が続々とつたわり、異様な雰囲気の新年となりました。

犠牲になられた方々に心からのご冥福を祈り、いまだ安否不明な方々の一日も早い生還をお祈りいたします。

プーケット、モルディブなどといえばなんとなくリゾート地というくらいの認識しかありませんでしたが、皮肉にも強く記憶にきざまれることになったようです。
現在で推定十五万人という、信じられないような犠牲者がカウントされ、伝染病などの二次災害も心配されています。
残念なことですが、この地球上ではいつ何時このような大災害に見舞われるかわかりません。先の新潟県中越地震なども「地震国日本」といわれながら多くの犠牲者をだしており、また阪神淡路大震災からもうすぐ十年がめぐってきます。

さすがに最近は言われなくなりましたが、かつてはテレビなどで海外の大事故や大災害に対して「さいわい、日本人の犠牲者はいませんでした」的な報道がされたこともあったと記憶しています。
今回は年末の休暇中であったこともあり、日本人の犠牲者も多く、対岸の火事では済まされない状況になっています。
しかし、「行方不明数百人」という数字がもし国内の事故であったならもっと加熱した報道であったことでしょう。
その意味でわれわれはまだ「国際化」しているとはいえないのではないでしょうか。

今回の災害が、増えつづける二酸化炭素その他廃棄物による地球の温暖化と関係があるのかないのか私にはわかりませんが、二十一世紀はどうやら「この星に住むもの」としての覚悟と連帯と責任を意識せざるを得ない時代になりそうです。

ある先住アメリカ人の部族のことば
「われわれはこの大地を未来の子孫から借りている」

そんな時代にまだ戦争なんかやってる人たちよ、「ええかげんにせい！」・・・・これが今年一発目の「ＶＯＩＣＥ」です。

【ＮＥＷぶんざの仲間たち３】

今回は、江戸へ出た文左衛門が出入りした吉原の揚屋（あげや）、三浦屋の女主人、お孝を演じられました酒井俊さんをご紹介いたします。

プロフィールは

1976年、デビュー。
その後、渡米、そのままニューヨーク・マンハッタンに移り住む。

帰国後、日本の歌に興味を持ち始め、ジャンルは問わず、ただただ歌いたい歌を歌うというスタイルを現在までつらぬいている。
レパートリーにはJAZZのスタンダード・ナンバーは勿論、日本の童謡、 また海外の様々なロック・アーティストのカバー曲に本人自ら訳詞をした作品など多岐にわたる。

●「満月の夕」が、2003年、第４５回レコード大賞**企画賞**受賞
●2004年1月NHK「公園通りで会いましょう」でWEEKLY　GUESTとなり
　 大きな反響を呼ぶ
●2004年現在、インディーズ含めて10枚のアルバムと2枚のシングルをリリース

となっています。

実は「ぶんざ」以前に彼女のライブを見る機会があったのですが、なにものにも捕らわれないフリーハンドなしなやかさを持った素晴らしいパフォーマンスでした。

「ぶんざ」は酒井さんにとってそうした「好奇心」と「感覚」のチャレンジだったと思いますが、ご苦労も一番だったと思います。
なんせ着物のさばき、立ち姿からしてまったくご自分の「手のうち」ではないのですから。そうした難問を「野生のカン」みたいなものと人知れぬ努力でつぎつぎとクリアしていく姿はさすが、でした。
お芝居もほとんど未経験だったとは思えない堂々とした「お孝」だったと思います。

全国をライブで旅したり、外国で歌ったり、自由奔放なスタイルをこれからもつづけていかれると思います。

酒井さんの生き方そのものがＪＡＺＺだと思います。

中西　保志　

 

 

新年明けましておめでとうございます

2005.1.1 update

 

新しい年をともに、力いっぱい歩いていきましょう。

　　　　　　　　　　　
　　　　　平成十七年　元旦　　　　　　　中西保志　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　


【ＮＥＷぶんざの仲間たち　2】

さて今回は、
「ぶんざ2004」のヒロイン、紀伊の国の大店（おおだな）・熊野屋の一人娘にして文平　《僕の役ね》　と恋に落ち、身分違いから親に仲を引き裂かれ、哀れ衰弱死してしまう薄幸の美少女・綾乃（第一幕）と、江戸・吉原の遊郭にその人ありと詠われた評判の花魁（おいらん）にして、後に文左衛門　《ぼくでーす》　に落籍（みうけ）されてめでたく妻となる稀代の美女・几帳太夫（第二幕）という、まったく違う二役を見事に演じられましたスーパーアクトレス、伊東恵里さんをご紹介いたします。

プロフィールは、

　劇団四季に一年間在籍し「夢から醒めた夢」マコ役、「新・裸の王様」王女役、「35ステップス」「オンデイ-ヌ」などのミュージカルに出演。その後「魅せられてヴェラ」「ステイング」「カラミティジェーン」他に出演。 NHK「夢コレクション」準レギュラー、CMソング等の録音も行う。92年4月から93年9月　東宝ミュ－ジカル「ミス・サイゴン」のヒロイン．キム役を演じた。ウォルト・ディズニー作品日本語版では、「美女と野獣」（93年、02年公開）のヒロイン”ベル”、「メリー・ポピンズ」（94年ビデオ版）の”メリー・ポピンズ”（歌）、「ムーラン」（98年公開）のヒロイン”ムーラン”（歌の吹き替え）を担当している。
2001年2月　「ルルドの奇跡」ベルナデット役で、東京芸術劇場ミュ－ジカル月間優秀賞を受賞。

う～む、こうしてプロフィールを書いてみて、あらためてすごい人やな～って感じですな。
「ぶんざ」は、基本的には「歌のプロが芝居もちょこっとやる」くらいのノリなのですが、このひとは「モノホンじゃ～ん！」て感じでしたね。
おかげで絡む場面はとてもやりやすかったです。
上手な役者は、自分だけでなく相手もうまく見せてしまうといいますが、彼女は何というか「安心感」があるんです。
何度同じ場面をやっても、立ち位置、所作（しぐさ）、目線、セリフのニュアンスから表情にいたるまでゆるぎがない。しかもそこにえもいわれぬ魅力があって、見る人を引き込む力を感じました。
例えて言えば、僕ら歌い手が100メートルの短距離走専門だとすると、彼女は近代五種競技のアスリートみたいな感じで歌・セリフ・所作・ダンス（今回は無かったが）などさまざまな部分がハイレベルにそろっているんです。コレハスゴイコトナノダ。

ご本人の素顔はどちらかと言うと「几帳太夫」に近いかな。つまり「かっこいい」感じの人ですね。
僕はよく、「いよっ、男前！」と声をかけてオコられてましたわ。
いわゆる「男役」的ということではなく、「凛々しい風情のある人」と言う意味です、もちろん。（伊東さ～ん、そういう意味だからねー）
今年は「ルルドの奇跡」というミュージカルを再演されるそうで、近くアルバムも出されるそうです。いろんな所でご活躍が見られそうですね。

中西　保志　

 

 

２００４年をふりかえる

2004.12.23 update

 

中西保志です。もう暮れも押し詰まってきましたねぇ。
今年はアテネオリンピックという大イベントがあって、一年の前半はなかなかに盛り上がっていたように思われましたが、
終わるや否や台風、地震と天災が相次ぎ、米大統領選挙、イラク情勢、原油価格の高騰等などと、一連の国際情勢が
そのまま私達の日常に影響した印象がありました。プロ野球をめぐる騒動もありましたね。

中でも特に強烈だったのは「拉致被害者」の曽我さんがタラップを降りてくるご主人に飛び掛るように抱き着いて傍目も省みず
熱烈なキスを交わしたあのシーン。「家族の絆」と言う、見えにくくなってきているものをはっきり見せてくれたような気がしました。
政治がどうなろうと、国がどこであろうと、「私達は家族なんだ！」というあのメッセージ。どのような映画・芝居・歌があのような感動を伝えられるだろうかと強く思いました。

来る年は、叶うならおだやかに、「一人の幸せ」が多くの不幸をもたらさず、逆に多くの幸せとつながりあって「大きな幸福」を作るような一年となるように祈らずにはいられません。

皆様に良いことが多くある年であることを心から願いつつ、２００４年の「VOICE」を終わります。


【ＮＥＷぶんざの仲間たち　1　】

さて今回からは２００４年「ぶんざ」ではじめて共演させていただいた方々をご紹介させていただきます。

まず始めは、文左衛門のライバル、四代目奈良屋茂左衛門を演じられました元力士、相撲甚句の大至伸行さんから。
プロフィールは

大至 伸行(だいし のぶゆき)

最高位 ：大相撲　前頭3枚目
通算 23場所 145勝191敗9休
得意手 ：突き、押し、右四つ、寄り 　身長 体重 ：182cm 174kg (現在はすこーしダイエットしてるそうです）

本名 ：高野 伸行
出身地 ：茨城県日立市
初土俵 ：昭和59年 3月
所属 ：押尾川部屋
出生時から大きく、幼稚園の時から小学生に混じって相撲大会に出場した。小学校 3年生のとき同郷の元・松光から指導を受けて本格的に相撲を始めた。
「大至」の名は負傷が多かったのを機に改め、地酒の「至宝」に因んで父が命名した。
相撲好きの母が良く口ずさむ相撲甚句を聞いて自然に覚え、幕下で低迷した時に、何とか巡業に附いて行く手段を考えた結論が、附け人と違って常に附いて行けて稽古にも打ち込める上に手当も貰える「甚句力士」だった。
何種類もの甚句のCDを聞き込み、自分に合う節を研究しながら「大至節」を完成させた。唄い方も呼吸方法から猛練習し、大勢の観客の前で唄う内に度胸が附いて相撲でも精神的に落ち着きが出始め、稽古にも励んで強味を増した。
引退後も特例として協会に認められ、「大至の甚句革命」「貴乃花相撲求道録」のCDを出したが、歌手転向の夢を捨てられずに「ジンクジャパン有限会社」を設立して退職した。
趣味はカラオケ　特技は料理。

となっています。

お相撲さんには歌の上手な方が多いのですが、大ちゃん（僕らはそう呼んでいます）は特別です。あの大きな体を楽器にたとえればチェロかコントラバスというところでしょうか。日本人には珍しい、深みの有るハイバリトンあたりの響きはとても素晴らしいです。
「歌」ってある程度持って生まれちゃったものが影響するのですが、彼は飛び切りの「もの」を持っています。力士生活がながかったから、それほど声を酷使して使い減りさせていないので訓練次第でこれから永く歌いつづけられるでしょう。

加えてとても芸達者な人で、「ぶんざ」でも奈良屋が出てくるだけで客席が沸くような人気者でした。
今後は歌だけにとどまらず、いろんな形のエンターテイメントの分野で活躍してくれることでしょう。

性格も本当に穏やかで、誠実な人です。こんなやさしい人が一旦土俵に上がったら、鬼のような形相で相手めがけて突進するんだから大相撲恐るべし、って感じですね。

趣味も多彩で、実は先日とあるホテルで「ぶんざ」の打ち上げをやったんですが、そのときは手ずから得意の「ちゃんこ鍋」を料理して振舞ってくださいました。いや～ぁうまかった。

そればかりか、僕が公演中体調が悪く、声が出にくいときも、懸命にマッサージをしてくれたり、とにかく体に似合わず（失礼）こまやかな心配りの人です。

将来を嘱望されていた相撲界からあえて未知の音楽の世界へ漕ぎ出した勇気といい、「もう一人の文左衛門」がここにいる、
と言えるでしょう。年は僕より若いですが、教えられることが多い人です。ごっつあんです！

中西　保志　

 

 

「ぶんざ」を終えて

2004.12.10 update

 

中西保志です。
１２月３日の和歌山県民会館ををもって、２００４年の「ぶんざ」が無事終了しました。
まずはご覧くださった皆様に厚く御礼申し上げます。

今回は２００１年（僕は未参加）、２００３年の内容を合体させた、いわば
「総集編」であったので、上演時間３時間（途中休憩有り）という、昨今の演劇としてはずいぶん長大なものとなってしまいました。
（実は最初の段階では更に３０分以上長いものになる予定だったのですが、いくらなんでもそりゃあ無茶ダ！ということで、削りに削ってあのような内容になったのです。）
僕自身としてはけっこうよくまとまっていると思っていますが、ご覧になった皆さんはどのように感じられたでしょうか。ご感想など頂けましたら幸いです。

今回始めてご一緒させていただきました、伊東恵里さん・酒井俊さん・大至さん・村松直則さん・宮下弘二さん・園岡新太郎さん・玉川福太郎さん（順不同）については、おっつけボチボチとご紹介させていただきますが、皆さん大変に素晴らしい「歌」をお持ちの方々で、とても勉強になりました。

個人的には・・・とにかく「疲れ果てました」。
一回３時間の舞台を一日二回で６時間、ほとんど出ずっぱりでそれが毎日でしたから、１１月２８日の東京千秋楽は一回公演だったのでとても楽に感じたことを覚えています。
「オレはジャニーズかい！」と思いました。

とにかく「ぶんざ」の出演者の皆さんは全員がそれぞれの世界のトップクラスの方ばかりなので、それに負けないように歌おうとするとつい力が入って、非常につかれるのです。
本当に楽日まで持つのか？と心配がよぎりました。
結果的には何とか穴をあけることなく無事にやりおおせることができましたが、実はアブナい日もあったんです。
そんな時、キャストの、バンドメンバーの、スタッフの暖かいサポートが僕を助けてくれました。
とにかく皆さん、ご自分のエゴを捨てて、この作品を良くしようとするお気持ちで取り組んでおられることが痛いほどわかり、「こんなとこでくじけてられない」と自分を奮い立たせることができました。

そしてもちろん、いつも暖かい視線で見守ってくださる客席の皆さんの見えない「力」が僕をささえてくれました。
体調が悪く、ご挨拶できない日もありましたが、この場をお借りしてお越しくださった皆様に「ありがとう」と言いたい。
芝居でも歌でも同じだとおもいますが、懸命に発するものと懸命に受け止めるものがあって始めて良いステージになるのではないでしょうか。
これからも、さまざまな形で皆様と良いステージを作っていきたい、そのようなことを今思います。

次は２００５年１月２２日にお会いいたしましょう。

中西　保志　

 

 

「ぶんざ」の世界～その7～

2004.11.07 update

 

中西保志です。さていよいよ最終回、文左衛門の晩年と元禄時代の終焉について見ていきましょう。

1で見た清澄白河の「千山亭」からほど近くに、霊厳寺(れいがんじ）という大きな寺があります。その塔頭（たっちゅう・付属する小寺）のひとつ、成等院（じょうとういん）に「紀伊国屋文左衛門のお墓」と伝えられるものがあります。
これが本当に小さい。とてもあれだけの大事業を成した人のものとは思えないほどです。墓石の表面はボロボロで、銘は読めません。これはいったいどういうことでしょうか。

綱吉が亡くなり、六代家宣の時代になると、幕府の政策はガラリと変わってしまいます。家宣の政治顧問となった儒学者・新井白石（1657～1725）は、それまで権勢をほしいままにしてきた老中格・柳沢吉保や、勘定奉行・荻原重秀を追い落とし、ぜいたくを取り締まる緊縮財政に切り替えました。

特に荻原重秀は以前から白石とは犬猿の仲といわれ、財政に対する考え方も正反対でした。白石はその書「折たく柴の記」で、荻原をボロクソにけなしています。儒学では、金にかかわる仕事をする人は「銅臭がにおう」と言って差別されたそうです。だから勘定奉行と言うのは普通の武士がやりたがらないポストだったんです。「ミスターワイロ」の荻原なんか、白石からは汚物のカタマリに見えたんでしょうね。

荻原は今で言う「積極財政派」で、「元禄バブル時代」にあって「貨幣の改鋳」という裏技で財源不足を乗り切ろうとしました。
彼は、「本来、貨幣は何であってもよい、石や瓦でもよいのだ。それを流通させる幕府に信用さえあればよい。」と言っていたそうです。
これはきわめて近代的な経済思想です。
今日、わたしたちは日本銀行発行の「福沢諭吉の絵のついた紙切れ」に「一万円」と言う価値をみとめていますが、それが通用するのは、日本国政府に対する「信用」があるからなのです。

荻原はこの考え方から、金の含有量の低い、「元禄小判」「宝永小判」を鋳造しました。従来の小判一枚分の金で二枚の小判が出来れば、幕府の財政は二倍になる、と考えたのです。そして次々と質の悪い貨幣を作っていったのでした。
しかし結果は、急激な物価の高騰（インフレ）を招いただけでした。
幕府にはもはや「二分の一小判」を流通させるだけの「信用」がなくなっていたのです。こうした失敗の責任を一身に背負わされ、荻原は自殺したといわれています。
（元はと言えば、綱吉の浪費のせいなのに・・・）
彼は幕臣としては低い身分の出で、その手腕を柳沢に見こまれて勘定奉行にまで上り詰めたのですが、いざとなるとトカゲの尻尾のように切り捨てられた哀れなノンキャリア組でした。

ガチガチの堅物だった白石は荻原とはまったく逆に、貨幣の改鋳をやめ、ぜいたくを厳しく禁じました。その結果、景気は冷え込み、街からは活気がなくなってしまいました。しかもインフレはそのまま居残り、結局スタグフレーション（物価高で不景気）という、最悪の状態になってしまったのです。
それでも白石を悪く言う声が少なかったのは、先代・綱吉の政治があまりにもヒドいものだったからでしょう。

文左衛門はどうやら、荻原の貨幣改鋳の片棒をかつがされて、その財産のほとんどを失ったらしいのです。それまで荻原と一蓮托生でやってきたため、誘われて断りきれなかったのでしょうか。
以後、文左衛門は店をたたみ、「千山」として俳句を作る隠居生活に入ったといいます。
一時は浅草寺の境内に寄宿していたとも言い、最後は深川の富岡八幡宮の一の鳥居近くで寂しく生涯を終えたと伝えられています。

先日、「ぶんざ」の公演の無事を祈って、文左衛門のお墓にお焼香に行ってきました。
彼のお墓のたたずまいからは、落ちぶれた寂しさが伝わってくるような気がします。
しかし、こうも思われました。
「紀州の山育ちのわたしが、運に恵まれ江戸へ出て、大商いで大もうけ。天下にその名を知られる活躍が出来た。やるべきことはすべてやったから、お墓なんか小さくたってかまやしないさ。悔いはないよ」と、そのお墓は語りかけてくるようでした。

この世に生まれて、おのれの力を精一杯発揮できた人は、そんなに多くはないのかもしれません。
今を生きる我々は、文左衛門のようにここぞ、と言うときに自分の持っているすべてを賭けて勝負することが出来るでしょうか。
それが他人から見て、いかに価値の無いつまらないことであったとしても、あるいは一般的に見て「悪」と言われることであったとしても、「自分はこれをやるために生まれてきて、今生きているんだ」と心から思えるものに出会えたかどうか、それこそが、その人の人生が幸福だったか否かを分けるものなのではないでしょうか。そんなことを考えさせられました。

これで「ぶんざ」の世界は終わります。最後まで読んでくださってありがとうございました。紀伊国屋サザンシアターでお会いしましょう。


ぶんざの仲間たち

さて今回は、前回の岩崎玄龍さんとともに、「歌語り・一休」よりすべての舞台に出ておられる、浪曲師の二代目・東家浦太郎(あずまやうらたろう）さんをご紹介いたします。

東家さん、おっと、この方を我々は「師匠」と呼んでおります。「ぶんざ」の場合、まわりの方々はみんな「師匠」・「先生」ばっかりなのですが、ふつうに「師匠」というとこのかたになります。

師匠の役どころは、湯浅の海で漁師として、船乗りとして生きぬいて来た海の男。少年時代の文平を鍛え、また六衛門、長兵衛ら若者たちのよき理解者。文左衛門のたのみを聞いて無謀とも思える嵐の海へみかん船を繰り出す船頭（ふながしら）・角太夫というものです。

プロフィールは、

●中学校一年生の時から浪曲の道へ入る。
●東家楽浦門下で東家浦清の芸名で初舞台。
●昭和62年には文化庁芸術祭参加にて浪花節変遷史芸術祭受賞。
●平成2年には芸術選奨文化大臣新人賞を受賞。
●平成7年浅草公会堂にて二代目東家浦太郎となり、益々芸道に前進したいと闘志一杯。

となっております。

また、昨年は日本浪曲協会の会長を務められています。

七年前、そのお声を小椋佳・作の「一休」で始めて耳にしたとき、「日本にはこんなにすごい『歌』があったんだ！」と感動したのを思い出します。私がいま「ぶんざ」の舞台に立っているのも、思えば師匠のお声がきっかけでした。
けっして大柄な方ではないのですが、舞台で歌われるときの師匠はとても大きく見えます。まったくの私見ですが、「日本のジェームス・ブラウン」と呼ばせていただきたい。

素顔の師匠は・・・いつもニコニコしておられます。その表情のどこかにいたずらっ子のような面をお持ちの、とてもチャーミングなかたです。
ほんとうに浪曲（「なにわぶし」とご自身はおっしゃいます）がお好きで、楽屋でもひまさえあればテープをきいておられます。ひとつのことをこれほど好きになる、というのは見ていても気持ちが良いです。
「ぶんざ」ではほとんどのセリフが歌なのですが、譜面上の音符の連なりが、師匠のお口から出ると見事な「浦太郎節」になってしまいます。「同じ歌は２度歌わない」有る意味でジャズのアプローチにも通じる独特のアドリブが次々と出てきます。

演技の面でもアドリブがポンポン飛び出します。受ける側はたじたじとなってしまうことも・・・でもそれがひとつの「芸」になってしまう。見ているほうも幸せな気分になるのです。

稽古が煮詰まってくると、みんな表情が硬くなってきます。そんな時、「まァまァ、リラックス、リラックス」と師匠が言われると、不思議と柔らかくなってくるんです。本当に「ぶんざ」には無くてはならない方です。

あっ、そうそう。実はもうひと役、師匠が演じておられます。
それが何かは実際に舞台で確認してください。

中西　保志　

 

 

「ぶんざ」の世界～その6～

2004.11.01 update

 

中西保志です。

このたびの新潟県中越地震、ならびに台風による風水害でお亡くなりになられました方々に対し、心からの哀悼の意をささげますとともに、
被災されましたすべての皆様の一日も早い復興をお祈り申し上げます。

さて、今回はいよいよ「ぶんざ」のクライマックス、根本中堂の木材調達について見て行きたいと思います。

これまで見てきたとおり、根本中堂その他の建設のためには、膨大な量の材木、わけても檜（ひのき）の調達が必要不可欠だったのです。しかも、入札制（オークション）ですから、他の業者より安い値を出さなければ意味がありません。

奈良屋などは、何代も前から山林業者とつながりがあり、こうした場合もあ・うんの呼吸で調達ができますが、文左衛門にはそんなコネはありません。彼はいったいどんな手を使ってこの仕事をかちとったのでしょうか。

「手品の種」のひとつは、最良のパートナーを得たことでした。

松木新左衛門は駿府（静岡）の豪商で、呉服・海産物・材木など、さまざまな物品の取り引きを扱う、今で言う「総合商社」のような仕事をしていました。文左衛門がどのような経緯で彼と知り合ったかは定かではありませんが、根本中堂の木材調達に関して、文左衛門の強力なブレーンとして活躍しました。
その先祖は遠く藤原鎌足にまでさかのぼるとされ、甲州武田家の家臣であったものが江戸時代になって商人となったといわれています。

彼は文左衛門にこう告げたのではないでしょうか。
「文左衛門殿、駿河の山奥に、千頭山（せんずさん）という山がある。そこには立派な檜が数え切れないほど生えておるぞ」
山から切り出した檜を筏（いかだ）に組んで、川に流せば、やがて流れに乗り、港につく。そこから船で運べば駿河から江戸まではわずかの距離。うまくいきそうな話です。

「ただし・・・」
問題はその「川」にありました。千頭山から流れ出る寸又川（すまたがわ）は川根村で大井川と出会い、島田の宿付近で大きくカーブした後、スピードを増して激流となり、そのまま一気に太平洋に流れ出てしまうのです。筏に組んだ材木はバラバラになり、売り物にはなりません。江戸の近くにありながら今まで誰も手を出せなかったのはそういうわけだったのです。

どのようにしてこの問題を解決するか。
文左衛門はまず、千頭山に行き、木材の買い付けをします。その足で、島田の宿へ下り、大井川からその支流の栃山川へと短い運河をわたします。さらに栃山川の途中から水路を掘り、最短距離で港まで材木を運ぼうとしたのです。

労働力は、付近の百姓衆に呼びかけて、それまで水の便が悪くて作物が実らなかった大井川河口付近のやせた土地を、新田として開発しようと訴え、協力をとりつけました。
百姓たちも結果的に収穫が増えるのですから、少ない手間賃で喜んで働きました。おおぜいで作業したため、わずかのあいだに水路は完成。こうして木材は水路に乗って無理なく和田湊（現・小川港）に運ばれたのでした。

これが成功した理由は、文左衛門が徹底した「現場主義」の人だったことにあると思います。
紀州の山で育ち、山の民の気持ちがわかる。若くして江戸へ出て苦労しているから百姓衆とも心が通じる。更には湯浅の港で漁師をしたこともあり、海の民とも話が出来たのです。
「天才は99の汗と1のひらめきでできている」
エジソンの言葉は文左衛門にも通じます。

奈良屋の場合、山林業者と直接取り引きするわけではなく、間に何段階も業者が入って中間マージンがかかり、最終的にはとんでもない高値になりますが、文左衛門方式だと「製造直売」ですから安く調達できます。いわば「流通革命」をやったんですね。
千頭山のそばには「文左衛門山」・「新左衛門山」と長い間呼ばれた二つの山があったそうです。

こうして安い値段で檜を手に入れた文左衛門は、みごと受注に成功し、五十万両という利益をあげたと伝えられています。

今回はここまで。
ぶんざの仲間たち

さて今回は、薩摩琵琶の岩崎玄龍さんをご紹介いたします。

岩崎さんの役どころは、湯浅の大店、熊野屋の主人、権之介です。
ふだんは温厚・篤実で、店のものからも慕われる好人物なのですが、一人娘・綾乃を溺愛するあまり、わずか三歳にして紀州一の豪商、栖原角兵衛（すはらかくべえ）の息子の許婚（いいなずけ）としてしまい、その綾乃が、文平と一緒になりたいと告白すると、激怒して文平をクビにしてしまう。
五年後、気に病んだ綾乃が衰弱して死んでしまうと、江戸から駆けつけた文左衛門にそれまでの仕打ちを詫び、つぐないとしてみかん船の手配に協力する、というものです。
この舞台の中でもっとも難しい、人間の性（さが）というか心の内面をも表現することが求められる役だと思います。岩崎さんは「歌語り・一休」から続けてすべての公演に参加されています。

プロフィールは、

●故・浅野晴風師に錦心流を、故・望月唖江師に伊集院流の弾法を伝授される。
●リサイタル、国立劇場等の舞台で古典演奏の傍ら、作曲活動にも力をいれており、招待された「世界湖沼会議環境フェア」においては伝承民話を題材に作曲演奏し好評を得る。
●小椋佳氏企画の「歌語り・一休恋慕」「歌綴り・ぶんざ」等に出演し全国を巡演する。
●第三十五回琵琶楽コンクール一位受賞
●文部大臣奨励賞、ＮＨＫ会長賞
日本琵琶楽協会賞等受賞

●薩摩琵琶・龍子会を主宰。

となっています。

前回ご紹介した山下晴楓さんとは同門のご出身で、そのおかげで「ぶんざ」では、「一人の演奏」が基本の琵琶歌を「連弾」と言う形で披露していただけます。その見事さを是非見ていただきたいと思います。

素顔の岩崎さんは・・・この舞台では悪役系のキャラを演じられる機会が多いのですが、実際にはむしろ物静かで優しい方です。「僕は不器用で・・・」とおっしゃることがあるのですが、その「器用だけど不器用」というところがとても素敵だと思います。おそらく琵琶に対してもそのようなお気持ちでまっすぐに取り組んでいらっしゃるのでしょう。
芸熱心というか、役に入り込んだらその人物に同化するほどの集中力で演じられるため、思わずこちらも力いっぱいになってしまう、と言う感じですね。
岩崎さんの存在が「ぶんざ」の背骨をささえている、とおもいます。

中西　保志　

 

 

「ぶんざ」の世界～その5～

2004.10.27 update

 

中西保志です。

さて今回は、目先を変えて、文左衛門と同時代を生きた有名人を見ていきましょう。

元禄時代にはさまざまな分野で活躍した人が出ています。やっぱり、バブルだろうが何だろうが、景気が良くないと人物は出てこないんですねー。

文左衛門とのかかわりで言うと、河村瑞賢（かわむらずいけん　1619－1699）が浮かびます。
彼はもと車力十衛門という肉体労働者だったらしいのですが、明暦の大火のとき、いち早く木曾の木材を買い集め、一夜にして巨万の富を築いたといわれています。その後、幕府のもとで、全国の治水・鉱山開発などを手がけ、さらには奥州からの米の回送のために西回り・東回りの航路をひらくなど八面六臂の活躍を見せます。晩年は旗本に取りたてられ、河村平太夫と名乗ったとか。
「ぶんざ」では、ライバルの三大豪商のひとり、河村屋として登場しますが、実際はむしろ文左衛門のお手本のような存在だったのではないかと思います。

もうひとりの三大豪商・冬木屋弥平次も実在の人物です。彼の邸宅内にあったといわれる、冬木弁天堂は「深川七福神」のひとつとして現存し、そのあたりはいまも「冬木町」と呼ばれています。また、尾形光琳 （画家・1658－1716）作といわれる、「冬木小袖」という豪華な着物が残っています。

俳句の松尾芭蕉（1644ー1694）もこの時代の人です。彼には多くの弟子がいたのですが、そのひとり、榎本其角（えのもときかく）に文左衛門は俳句を習い、千山（せんざん）という名前をもらっています。文左衛門は芭蕉の孫弟子だったんですね。

其角は忠臣蔵の四十七士のひとり、大高源五とも親交があったので、もしかして文左衛門は其角から討ち入り（1702年12月・旧暦）の情報を聞いていたのではないかと思うのです。

というのは、討ち入りの後、大石内蔵助ら一行は、本所の吉良邸から高輪の泉岳寺へ行くのに、まっすぐ両国橋を渡ればいいものを、不自然に左にカーブして、わざわざ出来たての永代橋を渡っているんです。
ひょっとして文左衛門が、「討ち入りの際には是非私が架けた永代橋をお使いください」とかいって、宣伝効果を狙ってこっそり大石に資金援助してたりして？と空想は広がるばかりです。
なにしろ四十七士は当時江戸では今の「プロ野球選手会」のように人気がありましたからね。文左衛門お得意の「先物買い」をしたんじゃないかな？

画家の英一蝶（はなぶさいっちょう　1652－1724）も文左衛門と親交がありました。彼は狩野派の絵師で、綱吉の政策を風刺した絵を描いたため、三宅島へ島流しになったりしたことも。結構トンガった人だったんですね。
文左衛門のまわりにはこうした個性的な人物が多数出入りしていたようです。
関東総検校（盲目の鍼医師のトップ）の杉山和一（すぎやまわいち　1610－1694）は、綱吉の病を治し、「ほうびは何がよいか」と問われ、「では、両目を賜りたい」と答え、綱吉を困らせた、というエピソードが残っています。

その他、文左衛門とは直接かかわりはないものの、
菱川師宣 （浮世絵師・1618？ー1694 ）、
市川団十郎 【初代】（役者・1660ー1704 ）、
関孝和（数学者・1640？ー1708 ）、
渋川春海（天文学者・1639ー1715 ）、
近松門左衛門（劇作家・1653－1724）、
井原西鶴（小説家・1642－1693）、
竹本義太夫（浄瑠璃作者・1651－1714）
などなど、いーっぱいいます。

それから「天下の副将軍」、水戸黄門・徳川光圀（みつくに・1628－1700）もこの時代の人です。
彼の最大の業績は、わが国最初の通史（古代から近世までを通した歴史書）といわれる「大日本史」の編纂を始めたことでしょう（完成したのは幕末）。かれの後半生はこの大事業に費やされ、とても助さん、角さんや八兵衛たちとのんきに諸国漫遊などしてられなかったようです。

最後に文左衛門の永遠のライバル、奈良屋茂左衛門（四代目・1655？ー1714 ）について。
奈良屋は珍しく江戸初期から明治の初めまで続いた材木商でしたが、「奈良茂（ならも）」とよばれた四代目がもっとも栄え、この時代がちょうど文左衛門と重なるわけです。
あるとき、お世話になった人に奈良茂が贈り物としてそばを二箱、送ってきました。送られた人は「奈良茂といえばお大尽と評判だが、何だ、たいしたことないな」と思っていると、その日、江戸じゅうのそばを奈良茂が買占め、どこにも売っていないことが後からわかった、ということです。
なんか、イヤミな感じもしますが、金の力をみせつける、という意味ではやはりこれも宣伝だったんでしょうね。

それでは今回はここまで。


ぶんざの仲間たち

今回は薩摩琵琶の山下晴楓（やましたせいふう）さんをご紹介いたします。

山下さんの役どころは、湯浅にある、藤並神社の神官・藤並河内守(かわちのかみ）です。
幼い頃から文平の非凡な才能を認めて父親のように彼を見守り、みかん船を出すときは「資金はワシにつけるがよい！」と文平を後押しする。実は彼を一人娘・珠江（たまえ）の婿に、と期待している、という設定です。文左衛門には幼少よりこうした支援者がいたのですね。

プロフィールは、

●昭和12年9月7日北海道旭川市生まれ。
●昭和34年日本大学芸術学部在学中に薩摩琵琶晴風会会長・浅野晴風に師事する。
●昭和44年「日本琵琶楽コンクール」で一位入賞、文部大臣奨励賞、NHK会長賞などを受賞。
●現在、定期的に演奏会を開催するほか、NHK教育テレビ「芸能花舞台」、NHKラジオFM放送「邦楽百番」に出演するなど、各方面で活躍中。
●薩摩琵琶晴風会会長・日本琵琶楽協会副会長。

琵琶という楽器は、遠く西アジア（イラク？イラン？）を起源とし、シルクロードを経て中国に伝えられ、七世紀ごろ遣唐使などによって日本に渡ったものと思われます。私の故郷、奈良の正倉院には「螺鈿紫檀五絃琵琶（らでんしたんごげんびわ）」と言う国宝が残っています。（ホラ、よく教科書に出てくるやつ、ね）
当時は雅楽など宮廷音楽の楽器だったのでしょう。
平安時代後期から語り物の伴奏として用いられるようになり、鎌倉時代以降は「平曲」、いわゆる「平家物語」を語る琵琶法師たちによって広められていきました。近世には軍記もの、「太平記」や「大阪城落城」などをテーマにした曲が盛んに作られたようです。
全体に「滅びゆくものに対するレクイエム」というテーマが貫かれており、日本独特の「幽玄」「わび」「さび」を感じさせる音楽と言えるでしょう。

素顔の山下さんは・・・「会長」とか「副会長」とかのイカメシイ感じはまったくなく、いつもひょうひょうとした雰囲気で若い人にもフランクに話しかけられる、ダンディな方です。
学生時代、演劇部に籍を置いておられたそうで、セリフ回しなどにその片鱗がうかがわれるような。（ご本人談「照明係だったんだよ・・・」）
口ぐせで「資金はワシにつけないで！」と言いながら、さりげなーく伝票をお取りになることが多く、そのときは我ら一同、「ははぁーっ、河内守様ァ！」と平伏するシキタリになっています。ホントいつもお世話になっております、ハイ。

中西　保志　

 

 

「ぶんざ」の世界～その4～

2004.10.21 update

 

中西保志です。さて今回からはいよいよ「ぶんざ」の主人公、紀伊国屋文左衛門について見ていきたいと思います。

紀伊国屋文左衛門は寛文ごろ（四代・家綱時代）から享保ごろ（八代・吉宗時代）、１７世紀中頃から１８世紀始めを生きた人と思われますが、はっきりした記録はないようです。

ともかく江戸へ出て材木商として頭角をあらわし、寛永寺・根本中堂の造営を引き受けて巨大な財をなし、吉原での派手な大尽ぶりで唄にうたわれた一代の豪商であったことは事実と思われます。根本中堂造営がちょうど1700年ごろと思われるので、そのころ四十代はじめとして、六十何歳かまで生きたようです。

その出身地についても、紀伊の国（和歌山県）の有田という説、湯浅別所という説、下津という説から、当時紀州藩の飛び領地だった伊勢松坂付近の出身というものまであり、定説は有りません。【紀伊国屋】という屋号から漠然と紀州の人と推定されるだけ、という感じですね。
毎度出てきますが、江戸はそのころ出来て間もないニュータウンだったので、人の出入りが激しく、武士ならばともかく、町人・商人の出身地などあまり問題にされなかったのでしょう。

また、「ぶんざ」に出てくるような、嵐の海をみかん船で紀州から江戸まで渡ったという話も、かなりあやしいようです。
みかんは紀州藩の専売品であり、無許可で販売することはできなかったのですが、藩の記録には文左衛門の名前は出てきません。

ただ、当時の造船技術・航海術では、嵐の強いときには船を出せばたちまち難破してしまうため、太平洋回りのルートは閉鎖されることが多かったのですが、江戸では毎年１１月８日（旧暦）には「鞴（ふいご）祭り」というのがあって、鍛冶屋が来る年の家内安全、無病息災、商売繁盛を祈って、近隣の子供に今が旬のみかんをばら撒く、という習わしになっていたそうです。（ハロウィンみたいなもんですね。）
みかんは他の土地でもつくられていましたが、なんといっても紀州みかんは大きさ、味、香りともに最上級とされていました。
この時期に悪天候がかさなり、他に誰も船を出さないとしたら、みかんを江戸へ運べば、高い値段で売れたでしょうし、事前に紀州藩に何らかの「工作」を行っておけば、お目こぼしがあったかもしれません。
（そうしたことは文左衛門の得意技ですからネ。）

ともかく江戸で商いを始めた文左衛門は、「あらそい勝手」の材木商の道を爆走します。
当時、「木場に三代の家なし」ということわざがあったそうです。
多くの材木の入用をみこして、大量の買い付けを行っても、大火事が起こらなければ材木は値崩れしてしまいます。
調達資金のほうも、すでに発達していた金融業者から多額の借金をしたり、手付けのわずかな金だけをわたし、売れてから残金をはらう、といったデリバティブ取引みたいなことまでやっていたため、儲かればデカく、しくじれば首をくくるしかない、といったハイリスク・ハイリターンな商売だったんですね。
それで、「三代続く材木商はない」、と言われたわけなんです。

そのかわり、他の商いのように氏素性を問われたり、組仲間・株仲間の独占状態になることはなく、飛び入りＯＫ、実力次第でアメリカンドリームをつかめる唯一の業種だったんですね。
現在でも、土木建設業で一代で財を成した人は少なくありませんよね。しかもなんと！特別な事業のための［冥加金（みょうがきん）」以外はどんなに稼いでもまったくの無税！ＮＯ　ＴＡＸ！

何の後ろ盾もない文左衛門が材木商になったのは、必然的な道だったといえるかもしれません。
そんな文左衛門が考え出したのが、「宣伝作戦」でした。

「吉原」、とはもともと江戸の真ん中にあった湿地帯のことで、
そこは葦（あし）が生い茂った場所だったようです。
葦（悪し）では縁起がよくないから、よし（良し）原と呼び、そこに遊郭を作ったのですが、で見た「明暦の大火」で全焼して、再建するときに、あまりにも街の真ん中すぎて風紀上よろしくないということで日本堤に所換えとなりました。これを「新吉原」といいまして、文左衛門が繰り出したのはこちらのほうです。

当時、江戸に集まっていた人は圧倒的に男性が多く、女性はとても貴重な存在だったんだそうです。
（西部開拓時代のカリフォルニアみたいなもんですね。）

文左衛門はここでくる日もくる日も太夫（たゆう・高級遊女）たちと廓（くるわ）遊びに明け暮れます。
節分の豆の代わりに小判を蒔いた、とか、山盛の大根おろしに金をまぜて酒の肴にした、とか、吉原全体を千両で一晩借り切った、とか無茶苦茶な大散財をします。
（いやはや、あんまり良い趣味とは言えませんね。）

でも彼がただの「バブルおやじ」とちがったのは、そんな遊びによって、「紀伊国屋」の名前を世間に知らせるという効果をねらっていたからなんです。当時はテレビもラジオも、ホームページなんてのもありませんから「吉原の噂」、というのは一番の情報源だったんですね。
これによって、「紀伊国屋は金払いがよい、気が大きい、話がしやすい」というイメージが広がり、そうした遊びの中に徐々に幕府の役人を引き込んでいったんですね。

今回はここまでです。


ぶんざの仲間たち

さて今回は、
文平（文左衛門の幼名）が、紀伊の国・湯浅で丁稚奉公していた大店（おおだな）、熊野屋の主人・権之介の妻にしてヒロイン綾乃の母、お清を演じておられる、浪曲師の澤孝子さんをご紹介いたします。

プロフィールは、

●昭和29年3月30日、二代目広澤菊春入門。
●昭和29年6月6日初舞台、広澤菊奴と名乗る。
●昭和36年9月、澤孝子と改名。
三笠節子をマネージャーに一座結成、全国巡回。

●昭和48年NHK第一回浪曲新人コンクール　最優秀賞受賞
●昭和57年芸術祭参加　優秀賞受賞

となっています。

何と言っても、浪曲一筋五十年、その円熟した芸の力は、どれだけの形容詞を持ってしても表現しきれない奥深さ、大きさをお持ちです。（デビュー１２年の私など、ホントまーだまだです、ハイ。）
日本浪曲協会の副会長をつとめられ、後進の指導にもあたられながら、現在もますます精力的に活動されています。

素顔の澤さんは・・・いつも微笑みを絶やさず、二十代、三十代のメンバーとなんら代わらない稽古、リハーサル、公演をこなされるパワーには本当に頭が下がります。
しかも、言うべきことはハッキリと言う、その歯切れのよさには江戸の女性の粋（いき）を感じますね。
ご趣味は、園芸だそうで、野菜や花などを育てておられるそうです。それと、ご旅行がお好きで、ヨーロッパなどにもよく行かれるとか。それから書道もお上手で、昨年の「ぶんざ・青春編」で、お清の長い手紙を文左衛門が読む場面がありましたが、このとき使った手紙は澤さんの直筆で、丁寧で読みやすく、とても助かりました。
これからも素晴らしい芸を見せていただきたいです。

中西　保志　

 

 

「ぶんざ」の世界～その3～

2004.10.12 update

 

中西保志です。
今回は「寛永寺・根本中堂」について見ていきましょう。

その1で見たとおり、江戸の町は十七世紀になって急に発達したため、その都市計画は京都の街を参考に作られています。今はやりの「風水」ってやつですね。
風水は古代中国で発達した方位学をもとにした考え方で、おおまかにいって都には北に玄武（カメですね）、南に朱雀（トリです）、東に青龍、西に白虎といった神獣に見たてた地形のある土地がふさわしい、というものなんです。これを「四神相応の地」といいます。
玄武は山を、朱雀は海または湖をあらわし、青龍は川、白虎は大きな道をあらわすといいます。
京都で言うと、北には北山、南には今はありませんがかつては巨椋池（おぐらいけ）というおおきな湖があり、東には鴨川、西には出雲街道が走っています。
これを江戸にあてはめると、北は秩父山系、南は江戸湾、東は大川（隅田川）、西は東海道、となるわけです。
（ま、一種のコジツケですけど。）

このほかに、これは日本独特の考え方らしいんですが、丑寅（東北）の方向を「鬼門」とよび、「魔物がくる方角」として忌み嫌ったそうで、ここに都を守護するための寺を建てたのが、「比叡山・延暦寺」の起こりといわれています。
江戸幕府はこれをまねて、江戸城の東北にあたる上野に「東叡山・寛永寺」を建立したわけです。

ついでに言うと、都の西北には大学があるとよいと言うので、幕府は高田馬場に早稲田大学を作ったのです。（って信じるなよ。うそぴょ～ん！）

五代将軍・徳川綱吉は寛永寺を大幅に改修して、延暦寺をも上回る大伽藍の建築を命じ、その費用実に百万両を超えたと言われています。当時(江戸時代初期）の一両を今の20万円だとすると、2000億円！
これはもうたんなるお寺というよりは、ディズニーランド一個分とかそういうふうに考えたほうがよさそうですね。

中でも普通のお寺の本堂にあたる「根本中堂」は、縦二十三間五尺（約４３メートル）、横十八間（約３２メートル）、その回廊は五十間（約１００メートル）四方というバカでかいもので、奈良の大仏殿をもしのぐ大きさだったといわれています。
しかもこれはいわばディズニーランドの「シンデレラ城」に過ぎないわけで、この他にワンサと巨大な建築物があったとされています。

これを建設するためにはおっそろしいほどの数の木材が必要です。文左衛門が幕府閣僚たちにせっせと「袖の下」をばら撒いたのは、結局この「公共事業」を一手に引き受ける、入札に食い込むためだったんですね。

このときの用材の余ったので架けられたのが永代橋で、建設者は「紀伊国屋吉兵衛」となっているそうですが、文左衛門の身内の人か、ひょとしたら変名だったんでしょうか。

上野公園にいったことがある人は西郷さんの銅像のほうから国立博物館へ行く途中に大噴水があるのをご存知でしょう。あの位置に根本中堂はあった、といわれています。

ところが何ともったいないことに、この根本中堂、完成した直後に数寄屋橋方面から出た火事が燃え移って、あえなく全焼してしまったんです。
これで2000億円がパァです。あーもったいない。これを「中堂火事」というそうです。
その後、小規模ながら再建されたのですが、これも明治維新のときの上野戦争で焼けてしまい、まったく残っていません。
火事の多い江戸ならではの話ですねえ。

今にして思えば、パッと現れてパッと消えた文左衛門がかかわった事業にふさわしい末路なのかもしれません。

それでは今回はここまで。

【ぶんざの仲間たち】

今回は、文左衛門の幼なじみトメ吉、長じては紀伊国屋を支える番頭・長兵衛を演じます、民謡歌手の星野勇人（ほしの　はやと）さんをご紹介いたします。

主なプロフィールは、

●三歳より民謡をはじめる。角田潮虎師、後に斎藤はじめ師（東芝レコード）に師事。
●平成九年ＮＨＫ邦楽オーディション合格。
●平成十一年より「星勇会」を結成し、後進の指導にもつとめる。
●平成十二年、『篠山木挽唄』全国大会で優勝。
●平成十三年十二月、小椋佳『ぶんざ』に出演。
●平成十四年『星野勇人民謡集』ＣＤ発売。
●平成十五年五月、『ぶんざ・青春編』に出演。

となっています。

素顔の星野さんは・・・素朴で誠実な人柄が唄にも感じられる人ですね。若いけれど落ち着いた性格の彼は番頭・長兵衛のキャラクターにぴったりはまってると思います。決して派手なほうではないけれど、大地のようにしっかりとした歌い口は「これが民謡だ」という感じです。ラグビー（バックス）の経験があり、クラシック鑑賞と山登りが趣味、と言うのもうなずけます。もうひとつ、実はご実家が材木屋さんだそうで、まさに「ぶんざ」にうってつけの人です。
前にご紹介した、高橋孝さんとともに、二十一世紀の民謡を背負って立つ貴重な存在です。
トメちゃんガンバレ！

中西　保志　

 

 

「ぶんざ」の世界～その2～

2004.10.05 update

 

中西保志です。前回に引き続き、「元禄時代」について見ていきたいと思います。
えっ？日本史はニガ手？まァそうおっしゃらずにお付き合いくださいな。おもしろいんだから。

ここでは、五代将軍・徳川綱吉の治世（延宝・天和・貞享・元禄・宝永）を総称して大まかに「元禄時代」と呼んでいます。
この時代は、幕府を中心とする安定が実現した時代でした。

綱吉は、大変な学問好きで、幼少のころから「四書五経」といわれる儒学の書物に通じ、家来をあつめてはしばしば講義をしていたそうです。本来ならば遊びたい盛りの十代、二十代からそういう生活を送ってきた将軍は、おそらく彼が始めてだったでしょう。（ちょっとヘンな人ですよね。）

儒学というのは「聖人の道」を説くものなんですが、そのもっとも重要な価値観は「孝」、すなわち「親に対する絶対の忠誠」にある、とされていました。綱吉はこの「孝」を実践しようとして、母である桂昌院（けいしょういん）に対して、親孝行の限りを尽くすんですね。

実はこの桂昌院という人、一説には京都の八百屋さんの娘で、御所に行儀見習いに上がっていたところを上洛中の三代将軍・家光にみそめられて側室（第2夫人、第3夫人・・・第n夫人、当時は一夫多妻ＯＫだったんですね）になっちゃったというシンデレラ・ストーリーなヒトだったそうな・・・

現代でもそうだろうけど、こういうヒトには周りの女性からのねたみ、嫉みがすごくて彼女、大奥の中でひどいイジメにあったらしいんです。（ホントの「お局様」がいっぱいいますからネ。）
「あっ！私のトーシューズの中に剣山がぁぁぁっ！」みたいな少女マンガ的展開が浮かびますよね。でも彼女はそれにもめげず家光の寵愛を勝ち取り、見事綱吉を産み落とすわけです。

こういう女性がひとり息子に何を期待するか、といえば今も昔も変わり無く、「勉強しなさい！勉強！勉強してエラくなりなさい！」っていうのがパターンですよね。でもまァ子供のほうはたいてい成長すると「うっせーな、かーちゃん。小遣いくれよー」みたいになちゃってママの期待ママならず、となることが多いものなのですが、綱吉は違いました。
なんと彼は死ぬまで母親の期待通りに生きようとし、それを家来たちにも求めたのでした。（要するに「マザコン」だったんですね。）

彼はまず、桂昌院の信仰する護国寺に莫大な寄付をしてその伽藍の大改修を命じ、つづいて儒学の祖、孔子をまつった湯島聖堂を建立し、また曽祖父・家康の眠る日光東照宮を改修します。
また、たびたび「お触れ」をだして、むやみにケンカをするな、親を大切にせよ、といった道徳的な生き方を説いたのでした。
と、まぁここまでなら学問好きの親孝行将軍、くらいで収まってたのかもしれないのですが、そうは問屋がおろしません。

かれは母・桂昌院を高い位につかせようと、朝廷に対しても莫大な献金をして、「従一位」という、女性としては皇族以外はほとんど例が無いほどの高位に彼女を上らせます。
これらの費用はすべて国の財政から流用したものだったため、家康のころ300万両はあるといわれた幕府の財政はあっという間に赤字に転落。でも、綱吉はそんなのどこ吹く風で、ますます無謀な浪費を続けるばかり。（イイ気なもんだ）

そしてついには母が信奉する隆光という僧の、「世継ぎ（男の子）ができないのは、犬年生まれなのに犬を大事にしないからだ」、という無茶苦茶な理屈を信じて、犬を人よりも大事に扱う、という「生類憐れみの令」となったといわれています。

これも始めは「動物愛護法」的なものだったらしいのですが、どんどんエスカレートして、しまいには犬だけでなくあらゆる動物、魚、鳥、虫に至るまで、殺したり、いじめたりした者は罰せられるようになったんです。中には死罪になった人さえいます。
綱吉は、実に生涯で130回以上も「お触れ」をだして、ことこまかに罰則規定を決めていったんだそうです。（なんかコワイ。）

狩猟は厳禁。魚屋、鶏肉屋は営業停止。動物に芸をしこむ見世物は禁止。犬猫の皮で作る三味線や太鼓も製造禁止となったそうです。そして現在のＪＲ中野駅周辺の、東京ドーム２０個分ほどの土地に「御犬小屋」を建設し、二十万匹ちかい犬を収容したといいます。（ほとんどビョーキですよね。）

今もペットブームといわれていますが、さすがにスケールがちがいますねえ。ここまでやったのに、結局お世継ぎはできませんでした。（当然と言えばトーゼンだけど。）

彼はこの政策を死ぬまで続け、死後も続けよと遺言します。
でも、そんなの誰も聞いちゃーいないよってことで、没後十日目、葬儀もすまないうちに甥の、六代将軍・家宣（いえのぶ）によって廃止されています。（そらそうだよな。）

まあ彼から学ぶことは、「過ぎたるは及ばざるが如し」、勉強好き、マジメ、親孝行もほどほどがよろしいようでってなところでしょうか。

というわけで今回はここまで。
【ぶんざの仲間たち】

今回は五代目・松木屋新左衛門を演じる、長唄の東音・野口悦至さんをご紹介いたします。

野口さんが演じる役どころは、駿河の大豪商の若旦那で、大井川の渡しで若き日の文左衛門と出会い、江戸へ出た後も彼を支えつづけ、文左衛門一世一代の大勝負、寛永寺・根本中堂の用材入札では、駿河の千頭山へ檜を求めた彼のよパートナーとなる、というものです。

プロフィールは、

佐世保市出身
長唄東音会唄方
人間国宝の東音宮田哲男師に師事
新作の脚本、作詞、作曲も手掛ける。
とても優しい、感激屋です。
これでも学生時代は演劇青年で、役者を志した時期もあったのです。（「長唄工房」ホームページより）

となっています。

ご自身で小中学校を回られ、長唄の普及に尽力されたり、アメリカ、フランスその他の外国でも演奏会をされたり、沖縄サミットで各国首脳に演奏を披露されたりと、幅広く活躍されています。

長唄って、なじみがあまりないかもしれませんが、簡単に言うと、歌舞伎のバックで演奏したり、唄ったりされているのが長唄です。（野口さーん。そうでしたよね、ネ。）
江戸時代から続く伝統芸能ですが、いわば当時のＪ－ＰＯＰですね。その頃の流行り言葉がそのまま使われている曲があったりして、「歌う民俗資料館」みたいな面もあって奥が深いものです。機会があったら一度聞いてみてはいかがでしょう。

素顔の野口さんは・・・とにかくお忙しそうです。ご出身の長崎・佐世保と福岡、それに東京にも稽古場をお持ちなので、一ヶ月のうち何度も九州と東京を往復されたりしています。
お仕事柄、着物がよくお似合いで、商家の若旦那にぴったりのイメージの方ですが、特にご実家が長唄をされていたわけではなく、成人されてから「よし！長唄だ」とこの世界に飛び込まれたそうです。努力の人、なんですね。
「ぶんざ」の稽古でも、ご自分のセリフを半紙に毛筆で書かれて、常に持ち歩かれていました。なんか、かっこいいですよね。

お酒がお好きなんですが、そっちでもまたご一緒したいと思っています。

中西　保志　

 

 

「ぶんざ」の世界～その１～

2004.9.20 update

 

中西保志です。
前回は，思わずながーい文章になってしまいました。
「オマエはスポーツ評論家か！」
「長くて読みにくい！」
「文章がカタイ！」
「オモロないゾー！」　　　　などなど、有り難くも憎たらしい身内のご意見にもめげず、あくまでも今・現在の「中西の思い」をお届けするのがこの「ＶＯＩＣＥ」のコーナーであります。
従って時には前回以上にながーーーくなることもあるでしょうし、しばらーーく更新しないときもあるでしょう。とにかく気力、体力続くかぎり、がんばって行こう！との決意の元、これからも「オレ流」に書いて行きますのでどうぞよろしくお願いいたします。

さて今回からしばらくは、ご案内の通り、１１月１８日から紀伊国屋サザンシアターにて上演いたします、「歌綴り『ぶんざ』・紀伊国屋文左衛門物語～元禄散華～」にちなんで、元禄時代とは？紀伊国屋文左衛門とは？どのようなものかなどなど、を舞台に先立ってご説明いたしますとともに、去年、今年とこの素晴らしい舞台にご出演された「ぶんざ」の仲間たちをご紹介させていただきます。
これを見れば「ぶんざ」が１００倍楽しめる！はずです。

第一回目は、この舞台の背景、「元禄時代」について見ていきたいと思います。

地下鉄都営大江戸線の、「清澄白河(きよすみしらかわ）」という駅を出てすぐに「清澄庭園」があります。もっとも早く都立庭園として指定されたもので、回遊式の日本庭園として有名です。広さはちょうど東京ドームと同じくらいかと思います。またその隣りに、ほぼ同じくらいの大きさの「清澄公園」という、こちらはふつうの公園があり、この季節だとジョギングをする人、写生をする人、昼寝をする人なんかで賑わっているでしょう。
この二つをあわせた敷地が、「紀文大尽」といわれた一代の豪商、紀伊国屋文左衛門の別邸のひとつ「千山亭（せんざんてい）」であったと伝えられる場所なのです。
文左衛門は江戸市中を少し離れたこの場所で、幕府出入りの御用商人として、五代将軍・徳川綱吉（つなよし）の右腕、側用人（そばようにん）・柳沢吉保（やなぎさわよしやす）や勘定奉行・荻原重秀（おぎわらしげひで）ら幕府閣僚を接待して仕事を有利に展開しようとしたと伝えられています。伝説によればこの屋敷では、来客があるたびに全部の畳の表替えをしたそうで、屋敷内にそのための職人が多数住み込んでいたとか。

今の世で言えば、郊外にでっかいレジャーランドを自分で持っていて、そこで官房長官やら財務大臣やらをせっせと接待する新興ゼネコンの社長ってなところでしょうか。
もちろん当時は「政治資金規正法」なんてのはありませんから、ワイロもばら撒き放題もらい放題。
うーん、なんだかオレ元禄時代の幕府で働きたーい、と思ったアナタ！ワシもそう思う。じゃなかった、元禄時代って言うのは「わが国最初のバブル期」だったんですね。

江戸は徳川家康の入府(1590)以前は地図もろくにないような草深い田舎、というより原生林の生い茂る湿地帯だったのです。そこに突然「日本の中心地」がやってきたのですから、さァ大変。江戸城を始め、さまざまな建物が要る。いや、それより先に湿地を灌漑して地盤をかため、河川の氾濫を治めなければならない。道路だって港だって整備しなければならない。というわけで、土木建設の仕事は有りすぎて困るほど有ったんですねー。
当時はすべて「木造」ですから、結局建築材料である木材を、いかに大量に手際よく手配できるかが重要な政治課題だったんです。そこで幕府はそれまで御用商人というものはすべて株仲間、組仲間の談合制だったものを、材木商に限り「あらそい勝手」すなわち自由競争に近い指名入札制（オークション）に変えたんです。こうなるとその入札に参加できる「御用商人」の指名を受けることが必須条件となるため、鑑札を求めて醜いワイロ合戦、となったわけです。

徳川綱吉（1646－1709）の治世は江戸の町の整備も一段落し、いくさの無い、安定した時代ではあったのですが、何しろ町全体が木と紙で出来ている上に、照明といえばローソクとか行灯（あんどん）のような火を使うわけで、ちょっと風でも吹こうものならパタリと倒れてたちまち火事になり、もちろん消防車なんて有りませんからいわゆる「火消し」が出て、焼けてる家はほっといて、そのぐるりの家をぶっ壊してこれ以上燃え広がらないようにする、という破壊消火しかありませんでした。記録によれば、江戸時代を通した平均で、ほぼ２年半ごとに大火事があったそうです。

綱吉の前の四代家綱（いえつな　1641－1680）の時代には有名な「明暦の大火（振袖火事）」がおきています。このときは江戸の町全体の約3分の2が焼け、死者だけで十万人（！）を超えたと伝えられています。江戸城も天守閣が焼け落ちて、以後再建されることはありませんでした。
「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざは、つまり風で火が倒れて火事になり、燃え広がって死者がたくさん出て、死体を入れる棺桶を売る桶屋が儲かる、という意味だそうです。
このときの身元がわからない死体（無縁仏）を供養（くよう）したのが本所の回向院（えこういん）というお寺です。

「火事と喧嘩は江戸の華」なーんて強がっても、何度も家を焼かれたり、財産を失ったりしたらたまりませんよねー。どうせ貯めこんでも焼けたらなんにもならない、それならいっそ使ってしまえ！というわけで、「江戸っ子は宵越しの金は持たない」という享楽的な消費文化（元禄文化）が生まれてくるわけです。

火事の後、江戸を復興するためには人がいる、材木がいる、というわけで、江戸には全国から仕事を求めて人がどんどん流込み、ついには人口百万人を超える、世界一の大都市へとふくれあがっていったんですねー。
若き日の文左衛門もこんな時代の雰囲気の中で「一旗あげたるっ！」と意気込んで江戸へ出てきたのでしょう。

今回はここまで。

【ぶんざの仲間たち】

第１回目は文左衛門の弟、紀伊国屋六衛門（きのくにやろくえもん）役の、民謡歌手・高橋孝さんをご紹介します。

彼の役どころは、紀州の少年時代から兄、文左を慕い、ともに江戸へ出て材木商として紀伊国屋を支え、晩年はみかん問屋に転身する、というものです。史実には存在せず、この舞台の創作人物かと思われますが、文左が成功をつかむのには、六衛門のような右腕が必要不可欠であり、その意味でたいへん重要な存在です。

高橋孝さんのプロフィールは、

1975年3月　千葉県千葉市に生まれる。２歳半で初舞台を踏む
●1986年　　　福士豊秋氏に師事し津軽三味線を始める
●1992年　　　高校卒業後、藤田淳一氏に師事し本格的に津軽三味線を始める
●2003年　　　二代目藤田淳一襲名
●200１年　　　小椋　佳プロデュース　歌綴り「ぶんざ」出演
●2002年～　　小椋　佳　「歌談の会」　参加
●2003年　　　小椋　佳プロデュース　歌綴り「ぶんざ～青春篇～」出演

＜主なタイトル＞
● 日本郷土民謡協会中央地区大会　優勝
● 北海道民謡人会大会　優勝（北海道知事賞受賞）
● 1998年　日本民謡ヤングフェスティバル９８　優勝（文部大臣賞受賞）
● 2001年　（財）日本民謡協会主催　第4回津軽三味線全国大会　優勝

と、いうわけで、「ぶんざ」唯一の二十才代なのですが、そのキャリア実に二十六年という大ベテランでもあるんです。民謡だけでなく、津軽三味線の世界でも若手のホープとして活躍されています。

素顔の彼は・・・まァどこにでもいるオモシロイ兄ちゃんなんだけど、舞台に立つときの緊張感あふれる表情はさすが、といった感じですね。

僕は彼に時々民謡を教えてもらっているんですが、イヤー、奥が深い。一応彼のことは「師匠」と呼んでいます（稽古のときだけネ）。彼のあやつる「こぶし歌」の世界は一度聞いたらもうトリコになること請け合いです。

彼自身、民謡の歌声とポップスとの融合を目指してオリジナル曲に取り組んだり、ギターと津軽三味線のセッションライブを行ったりと、これからの邦楽の可能性を模索する活動を精力的に展開しています。

民謡以外で好きな音楽は玉置浩二さんの曲、それから「最後の雨」だそうで・・・

一度、私のライブにゲストで出てもらいたいと思っとリます、ハイ。

中西　保志　

 

 

近鉄バファローズに捧ぐ。

2004.9.20 update

 

関西に、近鉄沿線に住んでいるからといって、
必ずバファローズのファンなわけじゃない。
いや、むしろ地元でもどこか垢抜けない、有名選手の少ない、
パ・リーグだから巨人戦もなくてテレビに出てこない、マイナーな存在。

球団創立は１９５０年。
伊勢志摩に通じる路線を持つ親会社にちなんで、特産品の真珠から「近鉄パールズ」。
それが「猛牛」と言われた元巨人軍の千葉茂の入団を機に「近鉄バッファロー」になり、後に「近鉄バファローズ」となった。

当時のことはもちろん知る由もないが、恐らく関西の、同じ鉄道会社の、阪神や阪急、南海が球団を持ったのに刺激を受けて、「日本一の総延長を持つ私鉄であるわが社もいっちょう・・・」という感じじゃなかったろうか。

創立以来、ほとんどＢクラスが指定席。
ファンが増えるはずもなく、何度となく身売り話がもちあがったらしい。

そもそもバファローズが優勝したからって、近鉄電車に乗る人が増えるわけでもない。
それでも親会社は毎年赤字のこのチームを、出来の悪い道楽息子のように、たいした補強もせず意地とメンツで持ちつづけた。

それが転機を迎えるのは、１９６９年、「魔術師」と言われた三原脩監督を迎え、
その年いきなり優勝争いを演じ、シーズン最終戦、同率で西本幸雄監督率いる阪急ブレーブスと激突。
惜しくも優勝を逃したが、このときの三原の、「弱いといわれた近鉄でもここまでやれた。全国のサラリーマン諸君。近鉄は社会的使命を果たしました。」とのコメントが人々の胸を打った。

当時８歳だった俺は、偶然この放送を見ていた。
普段見慣れないユニフォームを着た野球選手たちが、泣いている、泣いている。
意味もわからないながら何か伝わってくるものがあった。
その日から俺は近鉄のファンになった。

近鉄には不思議なことに十年に一度、奇跡がおとずれた。

１９７９年、十年前の敵将、西本幸雄を監督として、鈴木啓示、マニエルらの力で球団創立以来始めてリーグ優勝を果たす。
続く１９８０年も優勝、二年連続で広島カープとの日本シリーズに臨む。七戦までもつれこむ死闘の果てに、二年連続で広島の守護神、江夏豊の前に苦杯をなめた。
このときの激闘は、山際淳司　「江夏の２１球」に詳しい。
西本は大毎オリオンズ、阪急ブレーブス、近鉄と３チームを率いて７回にわたり日本シリーズを戦ったがついに一度も日本一になることはなく、ユニフォームを脱いだ。人は彼を「悲運の闘将」と呼んだ。

俺は高校生だった。
地元の公立校受験に失敗し、やむなく大阪の、上本町（通称・上六）にある、「予備校と自衛隊と刑務所がいっしょになったような」私立高校に近鉄電車で通っていた。
上六の駅前には近鉄百貨店があって、７９年は秋口からもうお祭り騒ぎ状態になっていた。受験を控えていたにもかかわらず、優勝の日は学校そっちのけで特設のスクリーンの前にかぶりつき、ゲームセットの瞬間には誰彼となく抱き合って歓ぶ中に俺はいた。
暗い、出口の見えない受験生活の中で、あの時光がさしたような気がした。

西鉄時代、「魔術師」三原の下で内野手、また近鉄で「闘将」西本の下で、コーチを務めた仰木彬が監督に就任したのが１９８８年。そのとき三度目の奇跡が起こる。
またもやシーズン最終戦にもつれこむ大接戦を西武ライオンズと演じ、１０月１９日、川崎球場において、ロッテオリオンズとのダブルヘッダーに連勝することが優勝の絶対条件となった。
第一試合に勝ち、第二試合、同点のまま規定により時間切れ引き分け・・・
ホームでの胴上げを回避したかったのか、試合終盤の数十分に渡る敵将ロッテ・有藤監督の審判への抗議が痛かった。

この試合の模様は特別番組で全国に放送され、それでも収まりきらず、十時からのテレビ朝日「ニュースステーション」で生中継され、実に４５パーセント（！）近くの視聴率をたたき出した。
人はそれを「10・19　川崎劇場」と呼んだ。

俺は二十七歳だった。遅れ馳せながら音楽の世界に飛び込もうとしていた。
世の中には、どうしようもないことが有る、それでも人は死に物狂いでがんばらなきゃいけないときがある、そう感じた。

翌年、エース阿波野、主砲ブライアントらを擁して見事リーグ優勝。
このころから「仰木マジック」、「ミラクル・バファローズ」と呼ばれ始めた。
日本シリーズの相手は「球界の盟主」、読売ジャイアンツ。
シーズン中の勢いそのままに、巨人に三連勝。初の日本一は目前となった。ところがここで、運命は暗転するのである。

三戦目のヒーローインタビューに立った加藤哲郎投手の口から、相手チームを侮辱した、と受け取られかねない一言が漏れてしまった。
晴れやかな舞台に不慣れな男の、平常心を失った失言としかいいようがない。
一塁側ベンチでこれを聞いた巨人ナインは第四戦から生まれ変わったように打ちまくり、流れを完全に変えてしまった。終わってみれば三勝四敗。またしても日本一はならなかった。

俺は上京一年目、先の見えない生活が始まっていた。
このときは東京ドームに応援に行ったが、負けたことよりも東京の近鉄フアンの少なさがショックだった。

翌１９９０年、社会人新日鉄堺から野茂秀雄投手が入団。一年目から奪三振記録を更新するなど、大車輪の活躍を見せるも優勝には届かず、
フロントと意見の合わない仰木彬は近鉄を去り、後にオリックス（元阪急）監督となって、イチローを育てることになる。
９５年、野茂は自由な環境を求めて大リーグ入りを希望し、球団ともめて自由契約（クビ）となり、ロサンゼルス・ドジャース入団。メジャーの大投手の道を歩み始める。
そしてまたもや近鉄はＢクラスに貼り付いてしまうのである。

このころのゴタゴタで、俺はすっかり近鉄バファローズのファンでいることがイヤになった。
近鉄が球団を持つのは単なる税金対策なのではないかとさえ疑うようになってしまった。
もう毎朝スポーツ新聞を読むこともなくなった。
プロ野球自体に関心がなくなってしまった。
Ｊリーグが出来て、世間の注目も徐々にサッカーに向かっていったように思えた。

だから２００１年、四度目の奇跡でリーグ優勝したときも、
またしても日本シリーズでヤクルト・スワローズに手も足も出ないで負けたときもほとんどテレビを見なかった。

その近鉄バファローズは来シーズンからなくなる。
２００４年９月８日、オーナー会議でそのことが正式に決まった。
（その後のオーナーたちと選手会との不毛なやりとりは略す。）
形は合併だが実質は「消滅」である。ついに一度も日本一になることなく・・・
気がついてみれば、かつてのライバル阪急、南海はとうの昔に身売り（現・オリックス、ダイエー）して、影も形もない・・・

ずーっと応援してきたファンの人たちから見れば、俺など途中下車の裏切り者にしか過ぎないだろう。
それでも、それでも言わせてほしい。
あなたたちの応援したチームは、素晴らしい男たちの集団だった。
十年に一度、花を咲かせる俺たちの夢だった。
せめて最後は拍手で送ってやろうじゃないか。

ありがとう近鉄、ありがとうバファローズ！

君を忘れないよ。

中西　保志　

 

 

アテネの夏が、終わりました。

2004.9.1 update

 

前に、「メダルの数のみ追い求めるのではなく・・・云々」と、悟ったようなことを書いてしまいましたが、こうもメダルラッシュ状態が続くと、さすがにより多くの好成績を期待してしまいましたねぇ。
日本の歴代の最高金メダル数は、ご存知の通り、1964年の東京大会の時の１６個で、今回は最終的にこれに並んだことが大きな話題になっているようです。
また、総獲得メダル数においては既に東京を上回り、歴代一位だそうで、つまりこれをもって今大会は日本にとって大成功との見方が有力です。

ただ、暴論を承知で言わせていただくと、柔道と体操、水泳、マラソン、レスリングなどの成績を並べて「金何個」とか数えるのは、国語算数理科社会音楽家庭体育図工の点数を全部足して総得点何点、とか、四科目平均何点とか言ってるようなヘンテコさを少し感じてしまいます。あくまで個々の選手、コーチ、スタッフの努力と研究心の賜物として評価されるべきでしょう。
メダルには届かなくても、世界の舞台でそれぞれの国を代表して自己のベストを出し尽くした人々に心から拍手を送りたいと思います。また、彼らのような優れたアスリートたちをオリンピックに送り込むことができる豊かで安定した世の中を保っていることこそ、おのおのの国にとって金メダルものの幸福といえるかもしれません。

しかし、やはり気にかかるのは、今大会中もイラクでは爆弾テロはやむことはなく、またロシアではテロの疑いの強い旅客機墜落事故が二件相次いで起こり、またわが国でも沖縄の大学構内（！）にアメリカ軍の軍用ヘリが墜落するという大事故が、あいかわらず起こっているということです。この三件に共通しているのは、やはり相互不信という問題だと思います。

かつて紀元前のギリシャ世界において、オリンピックの期間には武器を置いたと伝えられる通り、オリンピックとは第一義的に戦争に対する強力なアンチテーゼであったということです。
その精神を二十一世紀に受け継ぐ以上、もっと強いアピールがあってもよかったのではないかとも思いました。

しかしながらまた、この大会で強く気づかされたことは、少なくともアスリートの世界においては、日本人は大きく変わってきている、という点です。かつてのような、国の威信と期待を一身に背負って、負けたら切腹モノ、というような悲壮感はあまり感じられず、むしろ自己の能力の可能性を楽しんでいるかのようなリラックスした感じがアップの表情に映し出されていたように思います。国のためにがんばる、というより、自分のためにベストを尽くすことが【結果として】国の名誉となる、ある意味で二十一世紀型の日本人のモデルといえるのかもしれません。過去において、こうしたスタイルの選手は「生意気」とか「自己中」とか言われてきたようですが、今大会ではそうしたスタイルに徹した人が結果、日の丸を揚げて涙する場面を多く見たような気がします。それは、自己を愛する心が日本、また世界とつながることへの素直な感動だったと思いました。

スポーツにしろ、音楽にしろ、僕は究極的にはこの「自己愛」が大切だと思っています。自分を愛すればこそ、自分に深く強く求め、自分の愛するものを大切にする。自分を捨てることは結局愛するものをも捨て去ることになるのだと思います。そこにオリンピックの素晴らしさと戦争の愚かさが、合わせ鏡のように現れてくるように思いました。

またお便りいたします。

平成十六年　夏の終わり

中西　保志　

 

 

残暑お見舞い申し上げます

2004.8.10 update

 

中西保志です。

ホームページ開設から１０日ほどが経過しました。
開設初日から本当にたくさんの、メッセージがとどいています。
お送りくださった方、一人ひとりの表情が見えるような
すばらしいお便りをありがとう。
ここでそのすべてをお見せすることはできませんが、
予想していた通り、最近ご無沙汰しているエリアからの
お便りが多いようでした。
僕が考えていたことはそう的外れでもなかったな、と少し
満足し、けれどもそれだけの方々の期待にこたえられずに
いるという現状を考えると、少し苛立つ、そんな感じを持ちました。

今年の東京は外に出るのもイヤになるような猛暑が続いています。
エリアによっては台風の影響で記録的な集中豪雨や津波に襲われた
ところもあるようですが、あなたのところは大丈夫でしたか？
ふるさとへの帰省ラッシュで、車の事故や水の事故が相次いでいますが、
行かれる方はどうぞ十分気をつけてくださいね。

そういう僕はもう何年も故郷には帰っておりません。
数年前に母を亡くし、兄弟もいないのでこの時期はなんとなく東京
にいる、というすごし方をしてしまいます。
けれどもやはり自分のふるさとを意識することはあります。
たとえば夏の甲子園。
「今年はどこがでてるかな？あ、天理か。」
どこにいても故郷とつながるものに出会うと心がほどける瞬間がある。

「ふるさとは遠きにありて思うもの
　　　　　　　　　　　　　　そして悲しく歌うもの・・・」　　　　　　室生犀星

こういう「悲しさ」はキライじゃないですね。

アテネ・オリンピックが始まりますね。
二十一世紀最初のオリンピックは、発祥の地に還ってリ・スタートです。

世界は狭くなり、複雑に絡み合い、わけがわからなくなってきています。

二十世紀型の、メダルの数のみ追い求めるオリンピックから脱して、
それぞれの故郷を、祖国を応援し愛するその心で、立場の異なる人に対する
理解と寛容を育てていけたらいいな、そのきっかけのオリンピックになったら
いいなと思います。

また、お便りいたします。

平成十六年　　夏

中西　保志　

 

 

ホームページ開設によせて

2004.8.1 update

 

「ホームページをはじめます」と、下北沢440のステージで発表してから
早くも5ヶ月近くも経ってしまいました。
ずいぶんお待たせして申し訳ありませんでした。

これをはじめたい、始めよう、と思った動機は、
ご存知の通り、不定期にしか活動ができていない現状で、
少しでも、僕を応援してくれている方たちに対して、
自分が今何を考え、何に興味を持ち、何をしようとしているのかを
直截（ちょくせつ）にお伝えしたいと思ったことと、ここからまた新しい皆さんとの出会いが始まるかもしれないと考えたからです。

少し前ですが、偶然友達の家でパソコンのインターネット上に「中西保志」
に関する情報がどれくらいあるか検索してもらったことがありました。
なんとその時点で二千数百もの「中西保志」が検索され、そのうちのいくつかのサイトでは「中西保志」にかんしていろいろな言葉のやり取りが交わされていました。もうオリジナルＣＤを発表できなくなってから3～4年も経つのに、いまだに「中西保志」を忘れずにいてくれる人がこんなにいる、ということは驚きであると同時に、メディアやプレスを通してではなく、
ダイレクトな「声」がここにあると感じられました。

それならば、こちらからも何かを投げ返したいーもちろん僕は歌い手ですから、本来であれば作品でもって、歌でもって投げ返すのがもっともまともなあり方と思います。けれども、残念ながらそれには時間がかかります。
コンサートも今のところ東京で行うのがほとんどで、わざわざ遠方からチケットの何倍ものお金を使って参加してくれている方々がおられるのを知っています。
しかしインターネット上ならば、どこにいても、ネットとつながる環境さえあればそうした方々にいち早くいろいろなことをお伝えできる、そう思いました。

ここにはいわゆる「掲示板」がありません。これは過去のさまざまな事例から、「掲示板」にはどうしても管理者が必要であり、多くの皆さんが気持ちよく利用してくださるための交通整理をしなければならない、ということがいわれていますが、今現在そのような条件がそろわなかったためです。それが整うのを待っているよりも、とにかく開設することを重視した結果、このような形になったこととお考えください。

今後、コンサートや「ぶんざ」などの情報をお知らせするのはもちろん、僕の考えること、感じたことなどをできる限り載せていきたいと思っております。
ご意見、ご感想、ライブ評など、どしどしメール頂ければ幸いです。

それでは、これからもよろしくお願いいたします。

平成十六年 盛夏

中西　保志　

 

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