早い話が

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早い話が:名は態度をあらわす=金子秀敏

 野球の日韓戦で奉重根(ボンジュングン)投手が登板すると、韓国人は伊藤博文暗殺の安重根(アンジュングン)を連想し気合が入る。ソウル支局発の夕刊コラム(3月23日付)で堀山明子記者が名前の効果を書いていた。

 さきごろ、米第7艦隊の音響測定艦「インペカブル」が南シナ海の海南島沖で中国の抗議船に取り囲まれた。その護衛のためにハワイからイージス艦「チャンフーン」が現場に急派された。

 インペカブルとは「完ぺき」のこと。ではチャンフーンとはなにか? 中国系でハワイ生まれの米海軍少将、鍾雲(しょううん)氏の英語読みである。少将は駆逐艦シグズビーの艦長時代、日本本土攻撃に参加した。終戦直前の8月14日、九州南方沖で日本軍機の動きをレーダー監視する任務についた。特攻機の標的となりエンジンやかじが大破したが、最後まで持ち場を守り、自力で帰還した。退役後はハワイで行政官をつとめた。

 海南島といえば2001年、米軍の電子偵察機と中国軍の戦闘機が接触する事件が起きた。戦闘機は墜落し、偵察機は海南島に不時着した。乗員を取り戻すためにパウエル米国務長官は「ソーリー」と謝罪した。

 今回、インペカブルは海南島を基地とする晋(チン)級原潜のスクリュー音を録音していたらしい。中国は、海洋調査船や漁船など計5隻で数日間、妨害した。そのあげく漁船2隻が異常接近し、火消しのトビ口のような長いさおでインペカブルのえい航する聴音装置付きワイヤを切ろうとした。小型船が大型船に接近すると流れに吸い込まれ衝突しかねない。ついに米国が中国に公式抗議し、事件が明るみに出た。中国の外相が訪米し、米国務長官と会談する直前だった。

 中国は、中国の排他的経済水域(EEZ)内で許可なしに調査活動をすることは国際法違反だと非難した。米国は、EEZ内での軍事調査は国際法上問題がないと反論した。そして米中外相会談で「再発防止」で一致した。

 一時は海南島事件の再現かと注目されたが、初めからちょっと変だった。中国は漁船を前面に立てた。米軍は中国人名の軍艦を派遣した。双方が本気のけんかにならないよう気配りをしていた。案の定、チャンフーンはすぐに帰ってきた。どちらが譲歩したのか、うやむやにして幕引きした。チャンフーン効果も一役かっているのではないか。

 そして、ロンドンでオバマ大統領と会った胡錦濤国家主席は、米海軍作戦部長を今月の中国海軍観艦式に招待した。めでたしめでたし。(専門編集委員)

毎日新聞 2009年4月9日 東京夕刊

 

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