麻生太郎首相は二十九日から中国を訪問する。両国の間には難題が山積しているが首脳会談が意見の応酬に終わっては生産的でない。金融や環境の協力を進め、相互理解を深めるテコにしてほしい。
日中関係は表向き平穏に見えるが、立場や意見の食い違いが目立ってきた。北朝鮮のミサイル発射には非難する国連安保理の議長声明を出すことで最後は一致したが、制裁強化を主張する日本に中国は終始、冷静な対応を求めた。
中国製ギョーザの中毒事件は中国にも被害者がいたことがわかった後も捜査は進展していない。昨年六月、両国は東シナ海ガス田の共同開発で合意したが、日本が白樺(しらかば)(中国名・春暁)の出資比率をめぐる交渉を求めても中国は応じていない。
最近では中国が情報技術(IT)関連製品を国内で販売する企業に技術情報の開示を求める方針を決め、新たな火ダネになりそうだ。二日間の訪中では、こなしきれないほど懸案が重なった。
これは胡錦濤国家主席と信頼を築いていた福田康夫前首相が昨秋、突然辞任し、政権基盤が不安定な麻生政権に中国が様子見の態度を取ってきたのも一因だ。
もっと大きな背景には両国関係の変化がある。中国は三十年続く高度成長で来年にも経済規模が日本を追い越しそうだ。国防費は二十一年連続で二けたの伸びを遂げ日本を上回る。国力逆転を迎えた隣国同士が相互に反発や不信を強めるのは避けられない。
しかし、日中貿易は既に日米貿易の規模を上回った。人権や民主主義など価値観の違いを言い立て、周辺国と語らって中国封じ込めを図るのは、現実的でない。
実際には日中両国とも膨大なドル資産を抱え米国に対する債権者の立場は共通している。金融危機で日本は国際通貨基金(IMF)などに拠出を表明しているが、中国と金融面で協力する話し合いには、なぜか及び腰だ。
中国の大気汚染は日本にも黄砂や酸性雨をもたらし環境面で両国は運命共同体だ。しかし、福田政権時代に検討を約束した、環境対策を支援する日中環境協力基金設立構想は、資金のメドが立たないと一向に進んでいない。
両国関係が難しいからこそ、金融や環境などで協力を重ね、日本が中国にとって敵視など考えられない、なくてはならない国になる方が賢明ではないか。それは対中外交の有力な武器にもなり、両国関係の緊張を防ぐことになる。
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