中曽根弘文外相が東京都内で演説し、核軍縮・不拡散に関する国際会議を日本で開催する考えを表明した。来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議前の開催を目指し各国に参加を呼びかけるという。
この種の国際会議を日本が主催するのは極めて異例である。唯一の被爆国であり非核三原則を国是とする日本が核軍縮分野でリード役を買って出ることは意義がある。米オバマ政権の誕生で動き出した世界的な核軍縮の流れに弾みをつけてほしい。
外相は「ゼロへの条件-世界的核軍縮のための『11の指標』」と題した演説で、核軍縮への日本政府の包括的な方針を示した。世界の核兵器の9割以上を保有する米露に一層の核弾頭削減を求める一方、中国やインド、パキスタンなど米露以外の核保有国には軍備の透明性向上やミサイルを含む核兵器開発の凍結を要求した。
核実験全面禁止条約(CTBT)に関してはオバマ政権による早期批准に期待を表明し、中国やインド、パキスタンなどに対しても批准促進を働きかけていくとした。また、インド、パキスタン、イスラエルのNPT加入の必要性を強調し、北朝鮮に対しては国連安保理決議と6カ国協議合意の完全実施を求めた。
プラハ演説で「核なき世界」実現への決意を表明したオバマ大統領に呼応した日本の前向き姿勢を評価したい。
ただ、核廃絶のかけ声の一方、現実の世界は「平和利用のため」とウラン濃縮を続けるイランや核燃料棒再処理の再開を表明した北朝鮮など、核の不拡散体制を揺るがす事態が深刻化している。
国際的な核管理システムの基本であるNPT体制は、非核国が不拡散義務を守る一方で核保有国が核軍縮を進めることを求めている。ところが、非核国側には「核保有国の軍縮努力が十分でない」との不満が広がっている。05年に開かれた前回のNPT再検討会議が成果なく終わったのは、最大の核保有国である米国のブッシュ前政権が核軍縮に消極的だったのが原因の一つだった。
オバマ政権はこの反省から核廃絶へ向けた包括的戦略の柱の一つにNPT強化を掲げる。日本がオーストラリアと連携して創設した核軍縮のための国際委員会も、川口順子元外相とエバンズ元豪外相の共同議長のもとで今秋広島市で最終会合を開き、NPT再検討会議に向けた提言をまとめる予定だ。
核保有国と非核国の間の不信感を除去しNPT体制への信頼を回復させるための橋渡し役は、非核国であり原子力の平和利用大国でもある日本こそふさわしい。
毎日新聞 2009年4月28日 東京朝刊