戦国演戯 #2

2009年04月28日(火) 8時33分
「夜襲」
――不思議とよく眠れるものだ、と白夜は思った。
紅葉の笛の音がこれほど耳に心地よく感じられる夜は、初めてだった。
夕餉のあと、ふたりは湯に入り、このまま休むことにしていた。
明日になれば、また占いの行商などをして、旅に必要な金を稼がねばならなくなる。
今宵だけはふたりとも、ゆっくりと過ごすつもりなのだ。
「白夜?」
笛の音を聴くうちに眠りこけている白夜を見て、紅葉は笛を吹くのを止めて声をかけた。
…いつも私を守って、あなたは大変ですからね。
紅葉は宿の者が用意した上着を白夜の肩へとそっと掛けたのであった。
灯を消す。
湯に浸っている間、宿の者が部屋の支度をしていてくれたお陰で、何時でも直ぐに休むことができるのだ。
紅葉は、白夜が眠りこける姿をしばらく見つめていたが、明日も早いのだからと悟ったのか、自ら床(とこ)についた。
社に居た頃は、こうやってふたり、外の世界で夜を明かすなんて思っても居なかった。
白夜の言うとおり、亡き母と比べると自分自身の方が明らかに幸せなのだろう…。
――「どうして私にはお父様が居ないの?」
幼いころは、何故自分に父親が居ないのかを何度も白夜と朧月夜に訊いた。
ふたりとも、教えてはくれなかった。
旅に出て、物の怪と道中で出くわし、そして戦い、やっとわかった。
私の父親は、お母様に私を授けた鬼神(おにがみ)なのだと。
鬼神、いいえお父様。
私をお母様に与えてくださって、本当にありがとうございました。
私が生まれてきたからこそ、白夜とも出会え、外に連れ出され、多くの人々と巡(めぐ)り合う事が出来たのですね。
私は多くの人々に愛されている。
私はお母様に「お前を愛している」としか言われた事がないけれど、すぐ近くにお母様が向けてくれた愛とは違い、もうひとつの意味での「愛」を感じているのです――
白夜の思いには、16の時に初めて気づかされた。
そして、知った。
人が人を愛する意味。
人が人のために何ができるか、その人と自分のために何をすべきかと考えることの大切さ。
理想を抱くことの大切さ。
すべて白夜が教えてくれたのだ。
「――私がずっと、これからも側にいるとお約束したではありませんか」
「白夜、あなた、眠っていたのでは?」
「貴女様が何を思っておいでかは、眠って居てもわかります」
白夜が微笑んだ。
その優しい声とともに。
月の光が淡く、優しく、聡明な白夜の顔を照らしていた。
白夜の優しい微笑みが、紅葉の心を捕らえて逃がさない。
このまま物の怪が現れないまま、朝を迎えればいいのに。
ふたりはしばらく見つめあっていた。
その時、何かの気配がしたのに気づき、紅葉と白夜は息を止めた。
物の怪が来た、というのはすぐにわかった。
しかし、人も寝泊まりしているような宿で武器を使うわけにはいかない。
「…どうします、白夜」
「こんな時に朧月夜が居てさえくれれば…」
朧月夜には、幻影で人を惑わし、眠らずとも人々に夢を見せるという力があったのである。
「しかし、このまま留まって居れば私も貴女様も危ない」
「戦いましょう、白夜」
ここはやるしかない、と紅葉は思った。
紅葉が薙刀を、そして白夜が弓を手に宿の縁側に出ると、そこにはもう既に、ふたりに狙いを定めた物の怪たちの姿があった。
「御主たち、天狗の一族の命でここに参ったか」
…天狗の一族?
紅葉は耳を疑った。
遠い昔、大柄の鬼が天狗に敗れ、その御霊を人々が供養したという話を、社にあった書物で読んだことがある…。
弓を構える白夜の目の前で、物の怪の一匹が言った。
「若い鬼よ、貴様には関係のないことだ」
「紅葉様に指一本でも触れてみよ。さもなくばこの矢が貴様等の首を跳ね飛ばすであろう」
白夜の挑発に怯むことなく、物の怪は、
「鬼神の姫をこちらに渡してもらおうか」
とだけ、言ったのである。
それが己のことであることは、紅葉にもすぐわかった。
「…私が欲しいのであれば私だけを狙いなさい!このような夜分遅きに、関係もなき人々を巻き込むなど、そなた達はなんと恥知らずな!」
白夜を援護するかたちで、紅葉は薙刀を構えた。
…お父様、宿に泊っている人々と白夜を助ける力、そして私自身を護るための力をどうかお与えください…
紅葉は父・鬼神の加護を願った。
その時であった。
「…感じなさい、白夜からあなたに差し向けられている愛を…」
今まで聞いた、あの優しい母の声とは違う言葉が聞こえてくる。
そして、自分の中で力が湧いてくるのがわかった。
突然、紅葉の持つ薙刀の刃先に光が集まり、物の怪目掛けて放たれた。
「なんだ、この光は?」
「眩しい、身体が焼け焦げちまいそうだ!」
物の怪たちは逃げる間もなく、光に包まれて次から次へと粉々になっていく。
そして、光が解き放たれるのが終わった瞬間、紅葉は急に疲労を感じ、その場へ崩れるかのように倒れてしまった。
「紅葉様!」
紅葉が倒れたのに気づき、白夜は意識を失った紅葉を抱えて部屋へと戻って行った。
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