片手で持ち上げるのが困難なほど重量感のある本だ。内容も真実の重みがぎっしりと詰まっている。
岡山県ハンセン病問題関連史料調査委員会がまとめた「長島は語る 岡山県ハンセン病関係資料集」である。B5判、八百ページで、瀬戸内市にある国立ハンセン病療養所「長島愛生園」と「邑久光明園」に関する未公開文書を中心に収録してある。
二年前に刊行した戦前に焦点を当てた前編に続く戦後編だ。ハンセン病に対する偏見、差別の筆舌に尽くしがたい実態が記録されている。公文書が多く、堅苦しい文章からはかえって隔離政策の冷酷さが浮かび上がる。
「この学校には修学旅行がない」。長島にあった小中学校分校に勤めた入所者補助教師の思い出の記も載る。「昭和二十三年ごろ、長島を一周したのが最初だった。一時間ばかりですむが、島を離れて海上から眺めることは、大きな喜びであった」。
強制隔離の島で学ぶ子どもたちにとって、自由な旅行は夢だった。「電車やバスで一泊旅行が許されたら、彼らはどんなに喜ぶだろうと、思ったことは一度や二度ではなかった」と教師の苦悩を記す。
長島から学校は消え、現在は入所者の高齢化が進む。記憶の風化がいわれるが、過ちを繰り返さないためには過去を知り、伝えていかなければ。