豚インフルエンザの人への感染がメキシコや米国などで広がっている。世界保健機関(WHO)は専門家による緊急委員会を開き「国際的に懸念される公衆保健上の緊急事態」に当たると認定した。
世界的に緊迫感が高まっている。日本でも十分な警戒が必要だが、すぐに国内で感染が広がる状況ではないとみられ、冷静な対応が求められる。
豚インフルエンザと聞いて、首をかしげた人も多いはずだ。これまで世界的な大流行の恐れがあると指摘されてきたのは、鳥インフルエンザが人に感染しやすい新型に変異するという筋書きだった。
別のパターンの脅威が表面化したことになる。想定外の事態といわれ、専門家も「虚」を突かれた形になった。
豚インフルエンザは通常、人には感染しない。ただ、豚を直接触った人の感染が散発的に発生しており、人から人への感染例もある。
メキシコでは豚インフルエンザに感染した疑いのある患者が千人を超え、多数の死者も出ている。米国の感染者には豚との接触がないことから、人から人へ感染したとされる。
WHOによると、メキシコと米国の感染事例に同型の遺伝子構造が確認されている。両国の国境を越えて感染が広がった可能性がある。
注目されるのは、豚インフルエンザが変異して新型インフルエンザになったのかどうかである。WHOの委員会は新型の認定につながる警戒水準の引き上げの是非について、情報不足として決定を先送りした。
影響が大きいだけに、慎重な対応をとったようだ。近く委員会をあらためて開く。警戒水準の引き上げを検討するとみられるが、メキシコや米国の関係機関は、判断材料として情報提供を徹底してもらいたい。
事態を悪化させないためには、各国・国際機関の連携と協力が不可欠だ。情報の共有化を図り、水際対策を強めるなど迅速な対応で感染拡大を防がねばならない。
日本は新型インフルエンザの発生に備え、「大流行前ワクチン」を国家備蓄するなど対策を進めてきた。しかし、これは鳥インフルエンザの発生を基にした対応である。
豚インフルエンザから新型インフルエンザが発生することを前提にした具体策は、ないに等しいとされる。過去の取り組みを根本的に点検し、早急に対策を練り直す必要があろう。
公的資金を活用した一般企業への資本強化策を盛り込んだ改正産業活力再生特別措置法(産活法)が成立し、三十日に施行されることになった。
世界的な景気悪化を受け、主要国では金融、自動車など特定業種への公的支援が広がっている。改正産活法は特定の業種を対象にしていない。
極めて異例の措置といえる。市場経済をゆがめたり、モラルハザード(経営倫理の欠如)を招く危険性をはらむ。安易に活用しないよう、政府には細心の注意が求められる。
仕組みはこうなっている。改正産活法の認定を受けた企業に日本政策投資銀行が出資する。その会社が経営破綻(はたん)して損失が出た場合、国は政府系金融機関の日本政策金融公庫を通じ損失の五―八割を補てんする。
支援するかどうかの基準は(1)金融危機の影響で売上高が一時的に急減(2)三年後の生産性向上が見込める(3)国内の従業員数が連結ベースで五千人以上の企業―などだ。既にパイオニアや日立製作所などが新制度による資本増強を検討している。
最も問題視されているのは、支援する企業に対し業績悪化の経営責任を問わない点である。企業の決断をスムーズにする狙いだろう。経営陣からすれば使いやすいが、釈然としない人も多いのではないか。
モラルハザードに加え、経営改革への取り組みに厳しさが欠ける可能性がある。制度を活用する企業は、業績改善に向け明確なビジョンを国民や株主にきちんと示す必要がある。
民間への過度の肩入れは、海外から保護主義の台頭と批判されよう。国は対象企業の選定に当たって透明性を確保し、公的資金投入後は経営改善の度合いを厳格に検証しなければ、内外の理解は得られまい。
(2009年4月27日掲載)