2002年9月号/幸村誠 先生

幸村誠先生は日本橋ヨヲコ先生からのご紹介です

 99年講談社「モーニング」で『プラネテス』を発表し、デビュー。同作品は、西暦2074年の宇宙を舞台に繰り広げられるストーリーで、現在「モーニング」でシリーズ連載中。『プラネテス』を1話から読みたい方は、インターネットで「e-manga」(http://kodansha.cplaza.ne.jp/e-manga/)にアクセス!(第1話は無料、以降有料)

     

誕生日
5月8日
血液型
B型
最近ハマっていること
ないです。   
最近気になる作家やマンガ
    大橋ツヨシ先生の4コマが好きです。
愛用画材
ステッドラー社の三角定規セット。これがないと直線が引けないんです、僕。

ご出身はどちらですか?

 出身は横浜で、小学6年のときに東京に引っ越してきました。

子供の時から漫画好きだったんですか?

 そうですね。ペンを持ったのは小学校の時なんですけど、周りにちゃんと教えてくれる人がいなかったんで独学でやってました。そのうちに漫画好きな仲間同士で誰かの家に集まって絵を描いたりしていたんですけど、ストーリーものは描けなくて、いつも模写ばっかりでした。

好きな作家は?

 よく模写していたのは、鳥山明さんとか、ゆうきまさみさん、高橋留美子さんの漫画でした。アフタヌーンで描いてた岩明均さんの『寄生獣』は惹きつけられましたね。あと、坂口尚さんの『あっかんべェ一休』を見て、「漫画はここまでいろんなことが描けるんだ」って思って勉強になりました。

漫画家を意識しはじめたのは?

 高校の進路を決めるときに漫画家になることも真剣に考えるようになって、一応美術は漫画に生かせるだろうと考えて、多摩美術大学に行ったんです。でも、私は我が強かったので、自分の描きたいものや主張や世界観とかで、自分の絵に対して侵食してくるような教授たちの発言とか指導が許せなくてよく口論してました。それで、2年くらいで退学してしまったんですけど、何年かして漫画を描くようになってから、フッと教授の言ってることを思い出すと、「随分と的を得た良いことをおっしゃってたんだな」って考えることができて、ちゃんと聞いておけばもっと漫画制作に役立ったのにと後悔してます。

漫画家を目指すことに両親は?

 反対してましたよ。特に自分の場合は途中で大学をやめて漫画の道に進むつもりでいたんで……でも、父が「やりたいものが見つかったのなら、そこに行けばいい」という考えの人だったんで、最終的には許してくれました。嬉しい事に、家を出て漫画家としてやっていくという日の時に、ポンと封筒を渡してくれたんです。中に50万円入ってたんです。驚きましたね。……父が「入用だから持っていけ」ってくれたんです。それがすごくありがたかったですね。だから、このお金を無駄にしないためにもがんばろうと思いました。

アシスタントの経験は……?

 20歳の時に、「モーニング」で描いてた守村大先生のところでアシスタントをさせてもらいました。何も知らなかったので、一から教わりました。漫画家を目指す人は覚えがあると思うんですが、自分も初めは安易にできるだろうと思っていたんですが、全然話になりませんでしたね。レベルが違うんです。初めの一ヶ月で身にしみて、自分が何も描けないことがわかりました。しかしそれが、それまで持っていたプライドとかを粉々に砕いて一から叩き込んでいただく結果になったので、先生には感謝しています。

良い先生につけてよかったですね。

 先生の作品はすごく素晴らしくて勉強になるんですけど、それよりも先生自身の人柄がすごく自分にとって良い影響を受けました。自分は子供の頃すごく怒りっぽくて、自分の内にある言いたいこととかが、うまく外に出すことができなかったんですよ。今の若者たちでもキレたり刃物で切りつけるというのがニュースになりますけど、彼らは多分内にある気持ちを上手く伝えられなくて皆と気持ちが分かち合えないからだと思うんですね。誰だって内にこもってるものをずっと押し込めていたらいつかパンクしてしまうと思うんです。先生はそれを判っていらして、私に「ここで全力を尽くして描かなかったらきっといつかパンクする」って教えてくれたんです。他の人に比べ、自分は漫画という表現の場があったので、紙とペンで気持ちを思い切ってぶつけることができるから幸せですね。

デビューはどのように……?

 守村先生のアシスタントをしていたときに、先生の担当編集者の方が作品を描いてみないかと言ってくれたので、描いて出したのが今連載している『プラネテス』の第一話なんです。だから、投稿して……と言うデビューじゃなかったんですよ。後で聞いた話だと先生が自分の作品を随分評価してくれていたそうで、それが編集者の方の耳に入ったみたいなんです。だから、先生の口ぞえがあったからできたのかもしれませんね。

作品のテーマを「宇宙」にしたのには何か理由が…?

  もともとSFは好きで、星野之宣さんの作品はよく読んでたんですが、その時は漠然と「星野作品みたいなものを描いてみたい」って考えるようになってしまって……でも、最初の自分のテーマが「宇宙」だったのはとても幸運だったと思います。「宇宙」のことを考えているととても楽しいですからね。そのうち他の芸術家や何かしら創作に携わっている人たちも、被写体として宇宙にカメラを向けることはなくても、人間とか別のものをとらえるときにその中に「宇宙(宇宙空間という意味ではなく、世界として)」を意識していることが解ってきて、以前なら「これはあまりにも難しすぎて解らない」ということでも楽しめるようになりました。気持ちが伝わると楽しめるようになるんですよね。自分が「宇宙」として捉えていることは、限りなく大きくて広い空間で、光もとどかない闇で上下の感覚もなくて、空気もないところなんですが、本当のこの世の姿はこれだと思うんです。答えのない、言葉では表現できないものや、実証不可能なことは「宇宙」という世界に似ています。作品を描くときには、常に「宇宙」についてどう思っているのかっていうことを伝えられたらいいと思っているんです。

作品を描く上で気をつけていることは?

  とりたてて何かを意識してるわけではないんですが、キャラクターを描くときにはその時にあった表情をつけたいですね。そのキャラクターの気持ちになって、この時こういう表情でこう行動してこういう風に喋ったということを確信を持って描かないといけないと思います。描いているといろいろな考え方が出てくるんで、自分のアイデンティティーをしっかり持つようによく言われるんですが、これがなかなか難しいんですよね。

今後描いていきたいものは?

  今の風潮として、そんなにがんばらなくてもいいというようなモノがありますが、自分はあえて「がんばる人」を描いて行きたいですね。みんながそれを読んで元気になってくれたらいいと思います。

最後に漫画家を目指す読者へ一言アドバイスをお願いします!

 がんばって!!もう、ホント、がんばって!!

ありがとうございました。お友達の漫画家さんをご紹介下さい。

 友達なんて恐れ多い。大先生中の大先生、村上もとか先生を紹介します。


  プラネテス  

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